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最終章 西の果ての国と魔滅の巫女
魔王討伐
しおりを挟む俺は風の圧力に翻弄されつつも、進んでゆく。
時に転び、時に地面へ這いつくばってでも、確実に苦しみ続けているルウへ向けて進んでゆく。
辛うじて、ルウの後ろに立つことができた。
俺は迷うことなく、物真似の力を発動させた。
「くっ……ああああ嗚呼ーーっ!!」
ルウと同質の赤い輝きが全身から溢れ出て、邪悪な気配が中へ流れ込んでくる。
それは激しい怒りや憎しみ、悲しみの感情だった。
……
……
……
平穏は侵略者によって、突然崩された。
故郷が焼かれた。文化が破壊された。
友人が、家族が次々と殺された。
こんな理不尽を許してなるものか。
我々キリエル人は、自由と平和のために戦う。
侵略者を滅ぼし、我々がこの広い世界の覇者となるために……!
……
……
……
キリエル人の怨念が、俺の中で渦巻いていた。
自分としての意識があまり感じられない。
こんなものをルウに吸わせ続けるわけには行かない。
ここで彼女の人生を終わりにだなんてしたくはない。
だってルウはまだ知らないこと、知りたいことがたくさんあるのだから。
そうしたいと心の中では願っているのだから。
そんな願いを踏み躙った上に成り立つ平穏を、俺は多分謳歌することなんてできやしない!
「こ、来い……もっと俺へこぉぉぉいっ!!」
「ーーーーっ!?」
俺の獣のような声が、嵐のような風を巻き起こした。
それは横で浄化を行なっていたルウを思い切り吹き飛ばす。
そうなってようやく、ルウは隣にずっと俺が居たと気がついたらしい。
「アルビス、ダメっ! これルウの役目! だめぇぇぇぇーーっ!!」
ルウの声が聞こえたのが、ナニをイッテイルノカ、ワカラナクナッテイタ……
コレガ、ジョウカ……
ヤッパリ、コンナコトヲ、ルウニヤラセルワケニハ……
「しっかりしなさい! アル君っ!!」
ぼんやりとした意識の中へ、懐かしい声が響いてきた。
彼女は俺の胸元へ手を伸ばす。そして青い宝石がはまった銀のレリックを取り出した。
瞬間、レリックが白い荘厳な輝きを放ち始める。
「シルバル、サン……?」
「あんな手紙を勝手に送られて黙ってられるものですか!」
5年前と殆ど変わる事なく、シルバルさんは綺麗だった。
さすがは美人に育った、シグリッドのお姉さんだ……
「もうっ! お兄ちゃん、なんでそんな状態なのにお姉ちゃんに見惚れてるの!! 私は恋人なんだよっ!」
いつの間にかシグリッドも居て、レリックに手を重ねてくる。
「こんなことするつもりだったら、ちゃんと声をかけてよ! あたしだって協力できるんだよ!?」
今度はドレが現れて、同じく手を重ねてくる。
「おほほほ! ここにアルの妻が全員集合というわけね! こういう熱い展開嫌いじゃなくてよ!」
レオヴィルも現れ、レリックに手を合わせた。
そして最後に小さな手が重ねられた。
「ル、ウ……?」
「アルビスの気持ち嬉しい。だけど、これはルウの仕事! 勝手に取らないっ!」
ルウが手を重ねたことで、レリックの輝きがより一層増した。
巨大な聖なる壁が発生し、俺へ流れ込んでいたキリエル人の怨念を弾き、焼いてゆく。
「シグリッド、皆さん! このまま続けて! 私たちの力で、この怨念を聖なる光で焼き尽くすのよ!」
シルバルさんの一声で、みんなは一斉に力を解放した。
聖なる光が輝きを更に増して行く。
それでも全部を焼き切ることができず、俺たちの脇を過ってゆく。
それは形を成して、不気味な亡者の軍勢となった。
亡者の軍勢は、俺たちに行動を防ごうと進軍を始める。
すると軍勢の頭上から数多の矢が降り注ぎ、亡者を貫き倒す。
「待たせたな! レオヴィル、アルビス、ここは我ら北の大地の軍が引き受けるぞ!」
随分、らしくなったラスカーズの声が聞こえてきた。
「ダークブリンガァーッ!」
どうやらノワル達も駆けつけてくれたらしい。
ーーここ5年間で、大陸中を旅し、交流を持ったすべての人がこの場に集まってくれた。
集まってくれた上に、こうして無茶をする俺の協力さえもしてくれている。
感謝しかなかった。
そして、こんな気持ちが沸き起こるーーここまで協力してもらったんだったら、ちゃんと生還して、みんなにお礼を言いたいと!
俺は必死に意識をかき集め、そしてレリックへ力を込めた。
「魔王……いや、キリエル人……あなたた達の怒りや憎しみはわかる。俺たちはあなた達の気持ちを絶対に忘れず、必ず語り継ぐ。そしてもう二度と悲しい歴史が繰り返されないよう、その上で努力をする。約束する」
俺の声が通じたのか、一瞬魔王の力が弱まったような気がした。
「だから、安らかに眠ってれぇぇぇぇーー!!」
ずっと冷たかった周囲の空気が温まった。
曇天が薄まり、明るい光が差し込んでくる。
世界が穏やかな輝きに包まれて行き、そして……
●●●
キリエル人。
かつて広大なる大地に根付いていた民のことだ。
その当時では、あらゆる先進技術を有した世界の覇者たる民だった。
彼らは更なる領土拡大を目指して、他の大陸への進軍を計画していた。
他の大陸の人々は、キリエル人の行動を見過ごすことができなかった。
キリエル人対世界の戦いが、この広大なる大陸で始まった。
そして数で勝る世界の人々が、キリエル人を全滅させ、この戦いは終わった。
この戦いで活躍した英雄達は、この大陸を貰い受け、東の山、南の荒野、北の大地、西の果ての国の四か国を作った。
これが今から5000年も前の話。広大なる大陸の始祖の歴史だ。
だけど5000年も経っても尚、魔王のようなキリエル人の怨念がどこかに潜んでいる……
それだけ争いというものは、酷く悲惨なものなのだと、俺は改めて感じた。
だからこそ……これからも俺は、自分の力を、そうした悲惨な出来事を防ぐために使いたい。
頼りになる仲間達と共に。
いつか、憧れたあの人の背中に追いつけるよう。
胸を張って"あなたのように立派になれました!"と伝えられるように。
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