6 / 123
【一章:状態異常耐性とアルラウネ】
朝チュン相手は――危険度SSアルラウネ!?
(この状況はなんだ!? どうして俺はこんなところに……!?)
目覚めたら深い森の中にいた。更に隣では上半身だけが驚くほど美しい、脅威のモンスターが寝転んでいる。
まったくもって理解が追い付いていない。どうして自分が今こんな状況になっているのか記憶さえない。
「きゃっ!」
遮二無二飛び起きると、隣に寝転んでいた彼女を突き飛ばしてしまった。僅かに左腕へじんわりと痺れを覚える。理由は定かではないが、どうやらクルスは彼女へ“腕枕”をしていたらしい。
「す、すまない!」
クルスはらりと芝生に倒れた彼女へ手を差し伸べる。
顔立ちはやや幼い印象を抱くが、綺麗に整っていて、これだけでも十分に可愛く愛らしい。更に胸も大きく、その癖華奢な肩の先にある腕は、すらりとしていて彫像のように美しい。当に美女、もとい、少し幼い顔立ちを加味するならば美少女。極上である。
「い、いえ……ありがとうございます」
彼女はおずおずとクルスの手を取り、起き上がった。胸のあたりまである長い髪が絶妙に左右に振れて、ちらりちらりと大きく形の良い胸が見え隠れしている。久方ぶりにみた、しかも極上の女性の柔肌にクルスは息を飲む――が、彼女の下半身を見て現実に引き戻される。
腰から下には五枚の赤い花弁のようなものが生えている。その先は茎なのだろうが、末広がりになっていて、フレアスカートに見えなくもない。しかし、その先にはまるで血管を想像させる生々しい根が生えていて、しっかりと地面へ根付いていた。
上半身は極上の美少女だが、下半身は人のものとは思えぬ悍ましさ。
この存在こそ、深い森の中に生息し、人を誘惑して喰らう危険な怪物(モンスター)【アルラウネ】
「人間さん?」
「ひっ!」
アルラウネが少し距離を詰め、クルスは思わず身を引く。
彼女は少し切なげな苦笑いを浮かべる。今のリアクションは失礼極まりないとは思うも、しかし相手は人を食べると噂される魔物。
(こいつの目的はなんだ!? 俺を喰おうとしているのか!? 第一、なんで魔物が人の言葉を話しているんだ!?)
あまりに数多くの疑問が浮かび、頭が混乱した。
幾ら冒険者歴十数年で、ベテランの域に達しているクルスでも何がなんだか全く分からない。
まずは何をすべきかと必死に頭の中をこねくりまわずが、妙案は浮かばず。
その時、彼の周囲で“グルル”と奇妙な唸りが上がった。風が吹いていないにも関わらず少し背の高い草が“カサカサ”と揺れている。爽やかな緑の香りの中に交じって感じた生臭い獣臭。
クルスの胸へ嫌な予感が去来する。
そんな彼の目の前で上半身だけは極上の美少女であるアルラウネは短くため息を着いた。
「人間さん、ちょっとそこから動かないでくださいね。危ないですから」
「えっ……?」
「じゃあ始めます……どっ、せーいっ!!」
ずっと柔らかい表情をしていたアルラウネが、頬を引き締めた。瞬間、周囲の地面へ幾つも亀裂が走る。僅かに砂塵を巻き上げながら、無数の細い緑色をした蔓(つる)が槍か矢のに飛び出してくる。それら全ては、今度は鞭か蛇のようにうねりながら周囲の草むらへ鋭く差しこまれる。
「きゃう!」
「ぎゃう!」
「きゃわわん!!」
悲壮な獣の悲鳴が静かな森に響き渡った。枝の上に止まっていた鳥類は我先にと飛び立ち、森がざわつく。アルラウネの放った蔓の鞭がずるずると草むらから何かを引きずり出す。
草むらから現れたのは首や胴に蔓が絡まった凶暴な肉食の魔物。鋭い爪と牙が刃に例えられる危険度Dの“ブレードファング”だった。ある個体は首がありえない方向に折れて絶命し、またある個体は胸部が腰よりも細く締め上げられなんとも無残な様子だった。一匹でも討伐が厄介なそれを、アルラウネは鞭のような蔓を放っただけで、あっという間に五匹も仕留めた――しかし、アルラウネの青い瞳は未だ鋭さを帯びている。
「そこっ!」
「ひっ!!」
少女のような悲鳴を上げたクルスの脇を、アルラウネの放った蔓の鞭が鋭く過る。再び悲痛な獣の悲鳴が上がった。
加えて”ゴキリっ”と表現できる、痛々しい破砕音も。
だがアルラウネは表情を緩めない。
「グルルッ……!」
草むらから引きづり出されたのは、一際大きいブレードファングだった。
アルラウネの蔓が絡まっているものの、四足を踏ん張って、反撃のチャンスを伺っている様子だった。
「あは! 元気元気! この子は期待できそうですねぇ」
アルラウネはちろりと赤い舌のぞかせて、蕾のような唇を舐めとった。
ブレードファングは異変に気づくが時すでに遅し。
先端が鏃(やじり)のように尖った蔓がブレードファング目がけて、鋭く振り落される。
「がうっ!」
ブレードファングは悲鳴を上げる。しかし短く、一瞬。まだ四足はきちんと地面を踏みしめ、眼光は鋭い。
そんな中、突き刺さった蔓がまるで“ドクリ”と脈打った。
「きゃうぅぅぅ~ん……」
それまで元気だった大型魔物が情けない鳴き声を上げた。へなへなと地面へ倒れ込み、口からだらんと舌を落とす。それっきり起き上がるどころか、ピクリとも反応を示さない。
「……よし。人間さん、安心してください! もうこの辺りに獣はいませんよ!」
アルラウネはクルスへニコニコと笑顔を浮かべながら、そう伝える。
――時には槍に、時には鞭となって、一本一本が別の生き物のように襲い掛かる“蔓”。獰猛な肉食獣でさえ、一瞬で絶命させる強力な“毒”。恐ろしいほどの戦闘力。これが危険度SSと目される【アルラウネ】の力。
驚愕ですっかりその場に縛り付けられたクルスの目の前で、アルラウネの蔓の鞭が大きく脈を打つ。
そして蔓に絡まれたブレードファングの死骸が、まるで風船のように萎んでゆく。
アルラウネは人や生き物を喰らう。しかし経口摂取ではなく、対象の身体を魔力に変換して吸収する――と、噂や講習会で聞いたことがあったが、こうしてその悍ましい行為を目の当たりにしたのは初めての経験だった。
六匹のブレードファングはあっという間に毛皮だけになり果てる。
しかしアルラウネの顔は微妙に不満足そうだった。
「これだけの数でこれっぽっち……この獣って案外、魔力が少ないんですね。覚えておかないと……」
どうやらアルラウネは未だ“お腹が空いている”らしい。
(つ、次は俺かっ!?)
確かにクルスは魔力を“状態異常耐性”に使ってしまいほぼ無いに等しい。だけども、それは言わなければ分からないことだった。アルラウネに魔力の残量を確認する術があるかも不明である。
「すみません、人間さん。お騒がせ……」
「う、うわぁぁぁ!! 俺に魔力なんてないぞぉぉぉ~~!!」
考える前に体が動き出し、クルスは脱兎の如く駈け出した。
「いや、あの……ち、ちがっ!」
妙に歯切れの悪いアルラウネの美しい声が、クルスの背中を付く。
何故か気になり後ろへ視線を僅かに傾ける。
なんとなくアルラウネがせつなげな顔をしていたように思うクルスなのだった。
あなたにおすすめの小説
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。