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【最終章:ベルナデットの記憶】
凍結状態異常攻撃
しおりを挟む「て、てめら何者――がふっ!」
「中は覗いちゃだめよん」
セシリーは回し蹴りを放ち、青いバンダナを巻いた"青鬼盗賊団"の団員を吹っ飛ばした。
「おりゃっすー!」
ゼラは重厚な肩部鎧を突き出してタックルを放ち、敵をなぎ倒す。
頼もしい彼女たちが道を切り開いてくれるので、弓使いのクルスの役目は皆無だった。
そんなクルスを放っておいて、セシリーとゼラはまるで競い合うかのようにどんどん青鬼盗賊団をなぎ倒してゆく。
「場所があってなかったら承知しないわよ、ビムガン!」
「はいはいっす。ウチの鼻と耳を信じるっす……クルス先輩、近いっす! このまままっすぐ、あの木の間を抜けた先!」
「わかった! 二人とも、予定通りに!」
「「了解ッ!!」」
クルスは一人立ち止まり、つま先で二回地面を蹴った。
そして跳躍をすると、周囲に木に絡まっていた"ロナの蔦"がクルスの靴底を打つ。
ロナの力を借りて、常人離れの跳躍で樹上へ登る。更に目の前の太い枝へ向けて跳ぶ。
頭上からロナの蔓が生え、それを掴み、枝から枝へ飛び移ってゆく。
やがて、樹木の間から、ビムガンの少女を踏みつけ、その子の首筋へ剣を添えている"蒼いビキニアーマーを装備した女騎士"を確認する。
クルスは迷わず蒼い女騎士へ向けて、樹上から矢を射った。
少し遅れてゼラとセシリーが木々の間から飛び出してゆく。
「ゼフィにロイヤルガードの姉さん方!、お助けに参りましたっすー!」
茂みの中から飛び出してきたのは、赤い大剣使い――ビムガン族のゼラ
しかしゼラの渾身の一撃は蒼い女騎士の剣によって受け止められる。
「ほう! これは大捕物っす! まさかここで青鬼盗賊団首領、お尋ね者の【トリア・ベルンカステル】とお会いできるとはラッキーっす!」
「くっ……! 貴様、冒険者だな!?」
「そーっす! ゼフィ様をお助けするついでにあんたをとっ捕まえてやるっす!」
「トリア!」
蒼い女騎士――トリア・ベルンカステルの隣にいた"ブロンドの髪を二本に結った、小柄で人形のように無表情な少女"は、爪先を蹴る。
「術式変更(モードチェンジ)――拳闘(ファイター)! ふんっ!」
しかし立ち止まり、傍から打ち込まれた何かを鋭い回し蹴りで粉砕する。
人形少女の足技によって、トゲのついた円盤状の種が辺りに散らばった。
「へぇ、私の種を蹴り一発で。貴方、まともな人間じゃないわね? 面白いわ!」
好戦的な笑みをたたえつつ、棘の鞭を引きずりながら、ラフレシアのセシリーが姿を現す。
「セシリー、気を付けつるっす! そいつは【フラン・ケン・ジルヴァーナ】! 青鬼盗賊団の副頭目で、トリアと同じお尋ね者っす!」
「へぇ? じゃあ強いんだ、あなた?」
ゼラの忠告などどこ吹く風。セシリーは好戦的な笑みを強めた。
対する人形少女――"フラン"は、表情を歪める。
(トリア……その名前どこかで聞いた覚えが?)
樹上で情勢を見守っていたクルスは、かつての樹海の戦いでのことを思い出していた。
凶悪な勇者フォーミュラ=シールエットに付き従っていた、Aランク冒険者で弓使いのマリー。
彼女は死の瞬間"トリア"と名前を叫んでいた。
(ただの盗賊なのか? それとも……)
永年の冒険者としての勘が"トリア"と"フラン"の存在へ警鐘を鳴らす。
少し様子を見るのが得策かも知れない。
「さぁ、遊びましょう? 命尽きるまでね!」
「青鬼盗賊団はお終いっす! もう悪さしないようにとっ捕まえてやるっす!」
セシリーとゼラは戦闘態勢を維持しつつ、トリアとフランへにじり寄って行く。
「フラン、できるか?」
「一回だけ。しかも飛行種(フライ)のみ。これ以上は、今の私では無理」
「……仕方ない。頼む。私たちがここで倒れるわけには行かないんだ!」
「同意!」
フランは一歩前に出る。フランの顔の中で、唇だけが素早く動き出す。
人の耳では聞き取れないほど早い詠唱が完了し、フランから灰色の凄まじい魔力が吹き出した。
「召喚傀儡(サモンゴーレム)!」
フランは灰色の輝きが満ちた拳を、地面へ突き立てた。
途端目の前の地面が沸騰した水のように泡立った。そしてそこから"鳥のような形をした土塊の化け物"が次々と飛び出してくる。
「な、なによこれ!?」
セシリーは棘の鞭で、土塊の鳥を打つ。しかし鳥は鞭で打たれたことなどものともせずに、鋭い嘴(くちばし)を彼女へ向けた。
ゼラも咄嗟に大剣を掲げて、嘴(くちばし)攻撃を防いでいた。
完全に足止めされた二人の前から"トリア"と"フラン"は逃げ出してゆく。
(逃すものか!)
すかさずクルスは矢を射る。
フランが立ち止まり、飛来した矢を手で掴んで見せた。
無表情のまま矢を握りつぶし、再び走り出して姿を消す。
やはりあの二人組はただものではない。クルスは改めてそう思った。
ならば最優先で対処すべきことは――
「とんだお土産を置いて行った――うひゃ!?」
鈍重なゼラの大剣では飛行する敵を捕らえきれず、
「ああもう! ちょこまかとうざったいわね!!」
セシリーが袖から放つ種はあくまで直線的な軌道を描くため、なかなか当たらない。
いらだつセシリーの背中へ土塊鳥の鋭い嘴が迫る。
(こちらが優先か!)
しかし寸前のところで、クルスの矢が土塊鳥に当たった。突き刺さることはなかった。それでも軌道を逸らすことには成功したようで、セシリーを過って、再び上昇してゆく。
(相当な硬さだな。おそらく石ででてきているのだろう。ならば!)
瞬時に対策を考えついたクルスは、
「セシリー! ゼラ! 盛大に暴れてくれ! 後は俺に任せろ!」
クルスの指示が飛び、セシリーとゼラは首肯した。
「やるわよ、ビムガン!」
「おうっす! クルス先輩を信じましょうかね!! 後ろは頼んだっすよ!」
「仕方ないから、背中を守ってあげるわ!」
「頼むっすよ、セシリー!」
ゼラは炎月斬を放つが、やはり空ぶる。
すると土塊鳥は急降下を開始する。
そいつへ目掛けてクルスは弓で射った。やはりこの瞬間は当てやすい。
土塊鳥の主な攻撃はどうやら“反撃(カウンター)”のようだった。
攻撃を受ければ、どんな軌道だろうと、無視をして反撃を仕掛けてくる。
その瞬間は、大きな隙が生じる。
空を自在に飛び回る敵への的中方法はわかった。
しかしもう一つ、検討材料があった。
血肉を持つ魔物なら急所を狙えば、それで済む。しかし相手は土塊の人形。
残念ながら矢で射殺すのは不可能に近い。
(またアレをやってみるか!)
クルスは腰の雑嚢からアルビオンで購入した“凍結状態異常”の込められた宝玉を取り出した。
手の中でそれを握りつぶせば、冷気が緩やかに吹き出し、クルスにまとわりついてゆく。
指先が一瞬、氷で覆われるが、すぐさま消えてゆく。
そして弓を引けば、矢の鏃へ青い輝きが宿った。
(上手くいってくれよ!)
そう願いつつ、矢をゼラへ反撃攻撃をしようとしていた土塊鳥へ放った。
鏃が当たると、土塊鳥の一部が凍結した。
すると土塊鳥ははらりと落下を始める。
「ゼラ、砕け!」
「ういっす!」
ゼラは落下する土塊鳥を大剣で叩く。
動かない敵を砕くなど造作もなかった。
「えっ? なにこれ……?」
突然のことにセシリーは目をぱちくりさせ、
「さすがクルス先輩っす! じゃんじゃん頼むっす!」
ゼラは興奮気味にそう叫んだ
やはり、”状態異常魔法”が込められた道具を使っても、攻撃に転じられるらしい。
これで活路は見えた。
鳥は見た目に反して体重が軽いので飛ぶことができる。ならば、体重を増加させ、飛べなくしてしまえば良いだけのこと。
ゼラとセシリーはひたすら動き回って、土塊鳥から反撃攻撃を引き出す。
クルスはその瞬間を狙って、凍結状態異常の込められた矢を放ち続ける。
多数発生していた土塊鳥はあっという間に数を減らして、元の土へ戻ってゆく。
「楽勝ね!」
「そうっすね!」
戦況が好転し、セシリーとゼラはすっかり油断をしている。
そんな二人へ目掛けて、砂塵の向こうから、鋭い嘴を突き出しつつ土塊鳥が急降下していた。
さすがにこれは矢で撃ち落とすのは難しい。
クルスは樹上から飛び降りた。落下の勢いと、硬い靴底が土塊鳥を粉々に砕く。砂が緩み切ったゼラとセシリーへ降り注ぐのだった。
「戦いは最後まで油断するな、二人とも」
「す、すまねぇっす……」
「ふん! あ、相変わらず、いいとこ持ってくわね!」
「ぬおっ!?」
と、そのとき、クルスは背中からドスンと衝撃を感じる。
「ひ、姫様、何してるですかぁ!?」
先程まで、トリアに踏みつけられていた"黒い猫耳ビムガン"の慌てた声が響き渡る。
「お前強いにゃ! 気に入ったにゃ! にゃにゃ!!」
何故かクルスの腰には、ドレス姿のビムガンの童女がまとわりついていて、あどけない身体をぐりぐり擦り付けてきている。
「ちょ、ちょっと、小娘! いますぐクルスから離れなさいよっ! 私だってまだそういうことしたことないんだから!!」
セシリーの金切声が響き渡る。
「にゃー! 冷たくて気持ちいいにゃー」
「ゼフィ! いきなりダメっすよ!!」
慌ててゼラはゼフィの肩を掴んだ。
最初こそビクンと背筋を伸ばしたゼフィだったが、
「にゃー……? にゃあー! ゼラ姉ちゃん久しぶりにゃ!」
「久しぶりっす。相変わらず元気そうっすね」
「もっちろにゃ! にゃあ、姉ちゃんが一緒にいるってことはもしかして人間の子種狙ってるのかにゃぁ?」
「なっ――!?」
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