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まさか!? 勇者がパーティーを追放!?

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「ノワール、お前はもはや勇者ではない! よって速やかにこのパーティーから離脱したまえ!」

 仮眠から目覚めたばかりの俺へ、白銀の鎧を身に纏った""ブランシュ王太子殿下"がそう言い放つ。
 眠る前までに腰に差していた"聖剣ディスティニーセイバー"は、殿下の手中に。
七色に輝く聖霊石がはめられた"勇者の証"も、今は彼の首元に移動している。

「ブランシュ殿下? 何故御身がこのようなところにいらっしゃるのでしょうか?」

「書面で伝えるだけでは最後なので味気ないと思ったからな。故に貴様のために馳せ参じてやったぞ、ノワール!」

「……」

「特別に今一度、余の口自ら伝えてやる。ノワールよ、貴様は既に勇者の資格を失い、一民草へ戻った。命が惜しくば、さっさとこの場から立ち去るが良い!」

「……詳しい理由をお聞かせ願いたい」

 俺は動揺をグッと飲み込みつつ、殿下へそう問いただす。
しかし殿下は軽薄な笑みを浮かべたまま、動じた素振りを見せない。

「貴様が勇者に不適格と貴様の仲間が、国が、そして俺が判断した! これが理由だ!」

 ブランシュ殿下が手を叩いた。
その音が合図となって、これまで共に旅をしてきた仲間たちが姿を表す。

「アリシア! これはどういうことだ!」

「ブランシュ殿下の方が、貴方よりも勇者にふさわしいと思ったからよ。こんな私のような絶世の美女がそばにいながら、口説き落とさないなんてナンセンスだわ!」

 女神官のアリシアは、あっさりとそう言ってのけた。
そしてそっとブランシュへ身を寄せる。

「クラリス! 君もそう思っているのか!?」

「だってーせっかくの旅なのに、ノワールは真面目すぎて、ぜんぜん面白くないんだもん! 殿下と一緒の方が全然たのしいし! また舞踏会に呼んでねー、殿下!」

 魔法使いのクラリスは、ブランシュの肩に抱きついて愛想を振りまいていた。

「くっ……お前もそう思っているのか、ラインハルト!?」

「まぁ、お前よりブランシュの旦那に着いた方が、将来が明るいのは明白だからよ。平民の勇者か、王族の勇者、選ぶまでもねぇだろ?」

 悪びれた様子もなく、男性戦士のラインハルトがそう告げてきた。

 俺は、そんなに悪いことを、仲間達へしてきたのだろうか……

 俺はニルアガマ国の認定を受けた"勇者"の1人だ。
勇者は様々な脅威から国や人々を守ることが責務である。
だから、俺はそれにただ邁進していただけだった。

 俺自身は"勇者"であるため、人並みの楽しみを得ることは難しい。
だからできるだけ、仲間たちは俺のような思いはさせたくないと、色々と配慮をしてきたつもりだったのだが……

「ねぇ、殿下……いえ、白の勇者ブランシュ様! 今日は早く帰りましょ? 疲れちゃったから美味しいお酒が飲みたいわ! 85年のヴィンテージワインを早く開けましょうよ!」

 この通り、アリシアは大の酒好きで、やや金銭感覚に欠けている。
お嬢様育ちであるから、仕方ないところはある。
それでも勇者パーティーの一因として、節度ある態度を心がけて欲しく、多少の倹約をお願いしていたいたのだが……どうやらそれが不満だったようだ。

「アリシア抜け駆けずるい! 勇者様、今夜はこの間お城でみせてくれた最新式の馬車に乗せてよ! あとあと、新パーティー結成のお祝いにドカーンと大きな花火を打ち上げてほしいなぁ!」

 クラリスは遊び好きで、派手好き。
その欲が強すぎるがあまり、周りを困らせることがままあった。
彼女は魔法学生時代に酷い虐めにあっていたので、明るい生活を望みたい気持ちはわからなくはない。
だがこの子にも、遊びつつも、しっかりと勇者パーティーとしての自覚は持ってほしいと度々伝えていたが……どうやら俺の思いは彼女へあまり伝わっていなかったようだ。

「ははっ! アリシアもクラリスもおねだりは程々にしとけって! ブランシュの旦那、困ってるぜ?」

 ラインハルトも割と自分の損得を優先して動く男だった。
貧しい辺境の出で、幼い頃の彼とその家族はその日の食べ物さえ困っていたとか。
だから今のように度々"損得勘定"で動くきらいがあった。
 時に勇者とのその一向は、損得勘定を捨て、人々のために動く勇気が必要と説き、彼も感銘を受けていたように見えたが……どうやらそれさえも彼にとっては"損得勘定"に基づく、行動だったようだ

ーー皆、俺との旅の際は、それぞれの悪癖を見せなくなっていた。
しかし今になってそれが、全て"演技"だったのだと思い知る。

「良い、ラインハルト! 余は気前の良い"白の勇者ブランシュ・ニルアガマ"! これよりは魔物との戦いも、楽しみも全てこの余に任せるが良い! ぬはははは!」

「待てっ! 話は終わっていない!」

 俺は勝手に話を進めている、ブランシュ達へそう叫んだ。
すると昨日まで、共に戦ってきた仲間達が冷たい視線を送ってくる。

「殿下、御身が例え王位継承者であろうとも、このような蛮行が許されるものか! 王はなんと仰せなのだ!」

「吠えるな、雑草め。これは王の意志、ひいては国の意志でもある!」

 ブランシュは巻物を開いた。
そこにはニルアガマ王家の刻印と共に、俺の解任と、ブランシュの任命の旨がはっきりと記載されていた。

「なんだ、これは……」

「これで分かったであろう? 親父殿はお前はもう不要だとの仰せだ! これ以上の狼藉は国家反逆罪に相当する」

「ッ……」

「これまでアリシア、クラリス、ラインハルトの三人をここまでのレベルに育ててくれたことには礼を言うぞ、ご苦労であった!」

 俺は三人の中に天賦才能があると気づき、仲間にし、ここまで育てた。
結果として三人は優秀な勇者一行の一員と目される様になっていたが……どうやら、何か大きな勘違いをさせてしまったらしい。

「アリシア、クラリス、ラインハルト……改めて問いたい。これは本当に君たちの意志……」

「だからお前のそういう堅苦しいのに嫌気が差したんだって! バーカっ!」

「がっーー!?」

 クラリスの風魔法が俺の体を吹き飛ばす。
聖剣と勇者の証を失った俺は、この程度の魔法で怯んでしまう体に戻ってしまったらしい。
そして、アリシアの拘束神聖術が、俺を地面へ縛り付ける。

「つまらないのよ、アンタみたいな男と一緒にいても全然ね。あはは!」

「くっ……」

 それでも俺は、必死に三人のことを信じて、手を伸ばす。
すると、ラインハルトの大剣が、俺と彼らの間にはっきりとした溝を刻む。

「アンタが見出してくれたことには礼をいう。でもな、さっきとも言ったと思うけど、俺らは白の勇者様に着いた方がアンタと一緒に居るよりも、これからは得になると思ったんだ」

「雑草。これは礼だ。これまで良く我が国尽くし、三人をここまで育て上げた。存分に受け取るがいい」

 ブランシュ殿下こと、白の勇者ブランシュは、地面へ金銀財宝をまるでごみのようにばら撒いた。
こんな音を狭いダンジョンで響かせれば、魔物に居場所を教えていることになる。

 どうやらこれが彼らの真意なのか、それともただの世間知らずなのかはわからない。
だが命の危険が迫っているのは確かだった。

「さらばだ、ノワール! せいぜい生き残って見せよ!」

「頑張ってね。ゾンビになってたらちゃんと浄化してあげるから」

「ばいばーい!」

「あばよノワールの旦那。もしまた会うことがあったら、今度は俺からアンタに奢らせてもらうぜ」

……こうして俺はパーティーを乗っ取られたばかりか、勇者としての力さえも失った。

(このままここに止まっているのはマズイ……)

 すでに邪悪な魔物どもは直ぐそばにまで迫ってきている。

 今は迷っている場合ではない。

 亡き師匠の唯一の形見として頂いた宝石。
これを破壊することでダンジョンからの"強制脱出魔法"が発動される。
 一般的に、これはごくありふれた道具だ。辺境の村であっても、安価で購入できる。
しかし俺にとっては、修行時代に師匠である"リディア様"が、俺の身を案じて渡してくれた心温まる代物だ。

「リディア様……これがなくとも、貴方の志、そして魂は決して忘れません……!」

 俺は意を決して、宝石を砕く。

 こぼれ落ちた涙と共に、宝石のかけらがダンジョンへ舞い上がった。

 俺とリディア様の思い出が儚く砕け散った瞬間だった。


●●●

「……」

 光が吐け、俺は鬱蒼と生い茂る森の中へ転移した。
うまくダンジョンから脱出できたらしい。

そうして状況が落ち着いて沸き起こったのは……強い悲壮感だった。

 仲間たちに裏切られたのもある。
しかし一番の悲しみは、敬愛する今は亡き師匠との約束が潰えてしまったからだ。

「申し訳ございませんリディア様……俺は"己の力を多くの人々のために役立てる"ことが難しくなってしまいました……お許しください……リディア様……リディア……俺は……!」

 怒りを含んだ涙が乾いた地面へ染み込んでゆく。

 これからどうしたら良いのかは全く分からない。

……ふと、幼い日の修行時代……これと同じような感情に囚われていた時期があったと思い出す。
当時の俺は修行に伸び悩み、兄弟子や、妹分に遅れを取り、焦っていた。

そんな俺を見かねたリディア様が、そっと後ろから抱きしめてくれたのだ。

『分からないなら歩きながら探せば良い。止まっていてはそのままだ。君ならみつけだせるさ。君自身の新たな道を……』

ーーそうでしたリディア様……そうでした!

 このままここに止まっていても、何かが変わるわけでもない。
ただ朽ち果てるのみだ。

(今は少しでも前へと進もう。この命はリディア様に救ってもらったもの……どんな形になろうとも、俺は……!)

 気持ちは落ち着いた。
俺は今もの心の中では生き続けている師であり、姉であり、母であり、そして……守りたい人だったリディア様へ感謝を述べた。
そして歩き出す。新しい自分の生き方を探して!

(ふむ、やはり実際に歩き出すと思考が捗るな。ではこの先どうしたら……)

と、不意に親友の姿が思い浮かんだ。
なるほど、アイツへ相談か。
それは良いかもしれない。
ならば行先はアイツのいるーー西の果て、冒険者の街"ヨトンヘイム"!

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

 そんな中、女性の悲鳴が聞こえた。
考えるよりも先に体が動き出した。
俺は無我夢中で森の中へ分け入ってゆく。

 すると、目の前で何本もの太い木々が空へ打ち上がった。
大地は激しく揺れ、砂塵が巻き起こり、大小様々な動物や、隠れ潜んでいた魔物でさえ、この巨大な存在に恐れをなして逃げ出してゆく。

 砂煙の向こうで塔ほどの大きさの鎌首が持ち上がる。
そして黄金の瞳がぎょろりと俺を見下ろして来た。

「GURURU RURU……」

「幼地竜《レッサーアースドラゴン》。なぜこのようなところに……?」

 このような平地でみかけるのは珍しい魔物だ。
幼生だから迷い込んでしまったと判断するのが妥当か。
しかも俺の気配を危険視しているのか、明らかにこちらへ敵意を向けている。
今はこいつに構わず、さっさとヨトンヘイムへ行きたいのだが……

「GURURU……!」

「仕方あるまい……!」

 聖剣と勇者の証を失った今の俺が、どの程度の力なのか。
それを確かめるにはお誂え向きの危険度Aの敵生体だ。

「幼生といっても手加減はせんぞ!」
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