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第二部 一章【愛すべき妖精剣士とぶどう農園】(ジェスタ編)
ジェスタとの新しい関係。喜びの収穫!
しおりを挟む「あ! なっ!? ちょ……!」
ジェスタは夜の闇の中でもはっきりとわかるくらいに顔を真っ赤に染めていた。
肩は掴んでいるものの、力はきちんと加減している。
だからこの狼狽は、肩が痛いとか、そういうことで無いはず。
「聞いてほしいことがある」
「え、あ、うん……」
「まずは改めて詫びをさせてほしい。お前たちの前からいきなり姿を消してしまい、本当に申し訳なかった……」
心からの謝罪を述べると、ジェスタは首を横へ振ってみせた。
「もうそのことは良いんだ。あれは仕方がなかったことなんだと理解はしている」
「ありがとう。次は礼だ」
「礼?」
「勇者の頃はサブリーダーとして俺を支えてくれて本当にありがとう。お前が側にいてくれたからこそ、俺は勇者として自由に戦うができていた」
「お礼を言いたいのはこっちさ。貴方が私を、あの城から連れ出してくれた。そこからなんだよ、私の本当の人生が始まったのは……」
確かにジェスタは城から出て変わった。変わったというよりも、外の世界へ出て彼女の戦士としての良さが開花したのかもしれない。
「そして今はヨーツンヘイムのために一生懸命活動をしてくれている。山林管理人として礼を言いたい。そしてこの働きは必ず結実し、ヨーツンヘイムをより豊にしてくれると信じて疑わない」
「すごいプレッシャーのかけ方だな?」
「そうか……?」
「そうだとも! 正直そういうのは嫌いじゃない! 貴方やみんなのご期待に添えられるよう頑張るよ、精一杯ね!」
ジェスタは彼女らしい、凛としているがどこか少女を思わせる笑みを浮かべた。
もはや彼女を想う気持ちは止めどもない。
「今の俺にできることは限られている。しかしできる限り、お前の力になりたい! 勇者のとき支えてもらったのだから、今度は俺はお前を支える! この決意を聞いた上で、今から出す言葉を受け止めてほしい」
彼女は表情を引き締めた。
宝石のような瞳が、真剣な様子でノルンの姿を映し出す。
「ジェスタ、俺は君を愛している」
緩い風が吹いた気がした。
花のような香りが、ノルンを鼻を掠めてゆく。
気がつくと、ジェスタはノルンの胸へ飛び込み、身を委ねている。
「本当に私で良いのか? これでも私は221歳なんだぞ?」
「歳など関係ない。俺はお前が良いんだ、ジェスタ!」
「そうか……ふふ……」
「できれば返答を願いたい……」
「ならば答えよう! 謹んでノルンの愛を受け止めさせて頂く。私も愛しているぞ……ずっと、ずっと、大好きだったぞノルン!」
2人は僅かに距離を置いた。
暫くの間みつめあい、変化した関係を確認し合う。
そして新しい契約の証として、そっと互いの唇を重ね合った。
ジェスタの甘い唇の感覚に、ノルンの理性が蕩けてゆく。
「んっ……はっ? んんんっ!」
気がつけばノルンは深く、ジェスタと口付けを交わしていた。
「まっらく……はぁ……いきなりこへ……ちゅ……んん!」
最初は戸惑い気味のジェスタだったが、やがて彼女からも求めるように舌を絡めだす。
もはやノルンの熱情は止めどもなかった。
唇を重ねたまま、ジェスタを岩の上へ押し倒す。
「ぷはっ!」
するとジェスタは自分から唇を離す。
そしてノルンの唇へ人差し指を添えてきた。
「もしかして今から、ここで、するつもりだったかな?」
「いや、それは、その……すまない……デリカシーがなかった……」
ノルンは獣な自分を恥じて謝罪する。
ジェスタは妖艶な笑みを浮かべた。
「そういうことを気にしてるんじゃない。ここだって良いさ。私だって今すぐにでも貴方と体も深く繋がりたいさ。だけど……」
「だけど?」
「もう少しだけ、こういうのは取っておきたいんだ。せめて、今年の仕込みが終わるまではね? これでも私は楽しみや好きな食べ物は最後までとっておく派でね」
確かにジェスタはこれから過酷と聞く醸造作業へ入ってゆく。
そんな彼女へ、素直に自分の欲をぶつけるのは欲ないことだと思った。
「承知した」
「ありがとう、わがままを聞いてくれて」
今度のキスはジェスタから。先程の激しく、濃厚なものではなく、小鳥が啄むような、軽くて優しいそれ。
「全部終わったらしよう。それを楽しみにお互い頑張ろう!」
「ああ。こうしてお預けを食らったんだ。覚悟しておいてもらおうか」
「それはこっちに台詞だ。私の体で絶対貴方のことを骨抜きにしてみせる! 倍返しさ!」
ノルンとジェスタは身を寄せ合いながら、互いに眠くなるまでワインを飲み続ける。
「おめでとうジェスタ……たくさん幸せになってね。お母さんが無理だった分、せめて貴方だけでも……」
ずっと木の上からノルンとジェスタの様子を観察していたシェザールは、嬉しそうな笑みをこぼしていた。
そして2人の様子を見ていた影がもう一つ。
「……」
リゼルはくるりとつま先を返し、足早にその場から立ち去るのだった。
⚫️⚫️⚫️
「よし! これなら……! シェザール、明日より収穫だ!」
夕暮れの農園で、葡萄を一粒食べたジェスタは、声を響かせる。
「かしこまりました! 護衛隊各員へ通達! これより今年の収穫準備とりかかる! まずは人員確保だ!」
シェザールの指示を受け、護衛隊の面々は走り出す。
村の隅々、家の一件一件を周り、手土産の菓子を配りつつ、明日からの収穫参加を丁寧にお願いしてゆく。
「ただいまノルン! 明日から収穫を始めるぞ!」
「ぬおっ!?」
山小屋へ帰ってくるなり、ジェスタは書類仕事をしていたノルンの背中へ盛大に抱きついてきた。
正式に交際を始めてから、彼女はこうしてたびたび、不意打ちのように抱きつきてくるようになっていた。
それ自体は嬉しくて堪らないのだが……
(またジェスタの胸が……くっ!)
やや控えめであるものの、ジェスタの胸はきちんと柔らかさ主張してくる。
こんなことでいちいち反応してしまうのだから、自分はどれだけ獣なのか。
やはり欲を失わせる聖剣の力は呪いではなく、ちゃんとした加護だったのだと改めて感じる。
「終わったらだぞ。終わったら幾らでも私のことを好きにしていいからな? だけど今は我慢だぞ? できるよな?」
「わ、わかっている……」
「なんだか今の貴方はとっても可愛いぞ! ふふ……!」
お預けを強いられている動物の気持ちがよくわかるノルンだった。
しかし不思議と嫌な気持ちにはならいのもまた事実。
ジェスタは自分から軽く唇を添えてきた。
「終わったらこの続きをしような?」
「お前……俺を揶揄っているな?」
「貴方へそんな顔をさせられるのはこの世で私1人なんだ。それに別に嫌な気持ちじゃないんだろ? 顔にそう書いてある」
「う、むぅ……」
すでに心まで丸裸にされている。
ジェスタは意外と、男性を手玉に取るタイプだと思うノルンだった。
……
……
……
「こんな朝早く集まってくれてどうもありがとう! これから皆が収穫してくれる葡萄を私は必ず良いワインに仕上げてみせる! そしてその利益をヨーツンヘイムへ、皆へ還元すると誓う! だからどうかよろしく頼む! それではそれぞれの班に分かれて週買うを開始してくれ!」
まだ薄暗い葡萄園へジェスタは号令を発する。
そして桶と鋏を持った多くの人々が次々と緑が生い茂る、農園へ踏み込んでゆく。
「少しでも良くないと感じた粒は落として構いません! 健全且つ綺麗な葡萄のみの収穫をお願いします! あっ! トーカさん! そんな鋏の使い方は危険です!」
「ご、ごめんなさい!!」
シェザールは周囲の収穫の様子も見つつ、トーカのことも見守っていて忙しい様子だった。
ノルンを始め、村人たちはどんどん、エメラルドのように輝く白葡萄の房を収穫してゆく。
「おっし! オッケーだ、オッゴ!」
「ガァァァ!!」
ガルスがそう叫び、雄飛龍のオッゴは葡萄の入った桶を背中に乗せて、醸造場へ飛んでゆく。
ちなみにボルは妊娠をしたため、暫くはおやすみらしく、ここはオッゴ1匹に頑張ってもらうしかなさそうである。
(これは……気持ちいいぞ!)
パチン、パチンと房を切り落とすたびに、ノルンは心地よい快感を得ていた。
手塩にかけて育てた樹から、その成果物を収穫する。
苦労の果てにこうした結果が得られる。まさに収穫は喜びであると思わざるを得ない。
「楽しいか?」
気づくと隣にははにかむジェスタの顔があった。
「ああ、凄く!」
「そうか。これは貴方とみんなの結果だ、存分に楽しんでくれ」
しかしこうしてジェスタの顔を間近でみていると、やはり胸が高鳴ってしまうのは男の性か。
我慢を強いられているのもあると思う。自然と自分の顔がジェスタの顔へ近づいてゆく。
「おっと、そこまでだ」
そうして人指す指を唇に添えられて、動きを封じられるのもまた日常になりつつある。
「さすがに大勢の人がいるところでは勘弁願いたいぞ?」
「そ、そうだな……」
「家に帰って2人きりになったら好きなだけキスをさせてやる。だから今は収穫を頑張ってくれよ?」
「承知した! うおぉぉぉ!! 葡萄よ、俺に取られろぉぉぉ!!」
「ふふ……ノルンがあんなに可愛い人だったなんて……貴方のそういうところ大好きだぞ」
もはや自分はジェスタの犬になっている……そうは思えど、やっぱり悪い気のしないノルンなのだった。
ノルンの頑張りがあってかは良くわからないが、本日の収穫作業は順調に進んでゆく。
そして必要分に達し、ノルンたちは醸造場へと移動してった。
……
……
……
「立派な建物だ……!」
大きな建物が大好きなノルンは、葡萄農園にほど近い場所に建てられた、煉瓦作りの真新しい醸造場をみて声を上げた。
「そりゃ、この俺が頑張って設計と建築をしたからな! だーっはっはっは!」
実は建築家が本職だったガルスは自慢げに笑い声をあげる。
「ノルンさん、ガルスさん! セレモニー始まりますよ!」
背後からトーカが呼んでくる。
ノルンたちは醸造場から振り返り、皆の輪へ向かってゆく。
どうやらこれからワイン造りを始める前の、儀式のようなことを始めるらしい。
「ノルーン! 早くこっちへきてくれ!」
可愛らしいドレスに着替えたジェスタも向こうから呼んでいる。
しかも素足で……そのあまりの美しさに、ノルンは思わず生唾を飲み込んだ。
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