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『ああ、遥かなる夢の旅人達よ。今はまだその微睡みの中に』 その一文を見た時、私の心の中で何かが弾ける音がした。
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『ああ、遥かなる夢の旅人達よ。今はまだその微睡みの中に』
その一文を見た時、私の心の中で何かが弾ける音がした。
「また会おうッ! その時まで、俺のことをゆめ忘れるなッ!」
「はいはい、また明日ね」
彼は別れ際、いつもそういう言葉を残す。変に格好つけたような言葉を、それも毎日のように。その独特な世界観ゆえに馬鹿にされることが多かった彼を、私はいつも一歩退いた世界で眺めている。私はもちろん、彼の世界観に共鳴できるほどの豊かな想像力はなかったし、そこから生み出される言葉に理解を示せるほどの発想力もなかった。でもなんとなく、好きなことに全力でいられる彼の姿は見ていて素直に気持ちよかった。それはきっと、大学受験が近づくにつれだんだんと好きだった絵を書くことから離れていってしまう自分がいることが分かっているからだろう。
そんな彼が、大学受験を控えた冬の日の夜、自室で自殺したことを聞かされた時には、驚きを隠しきれなかった。馬鹿にされても自分の世界を貫き、毎日私に満足げな表情で話してくれた彼の姿は、もうこの世のどこにもないのだ。私は彼の面影を探して、彼の家を訪ねた。彼の母は私に、私に向けての遺言があると言って、一冊のノートを持ち出した。毎日の出来事が書かれた日記帳のようなそれは、普段の彼の強気な態度とは打って変わって質素で小さい文字で書かれていた。パラパラとページをめくっていくと、唐突に訪れた最後のページにはこう書かれていた。
『ああ、遥かなる夢の旅人達よ。今はまだその微睡みの中に』
それは彼の日記の最後に残された文章。不器用な彼なりの、自分を知るすべての人に向けた最期の言葉。私は彼のことを、やはり何一つ理解できていなかったが、気がつけば一緒にいた彼は私のことを理解していたようだった。心の中で弾けたものは、瞬く間に私の中の彼を遠くへと奪っていった。
私はノートを持ったまま家へと駆けた。汗と一緒に涙が溢れる。浅い息継ぎとともに漏れる嗚咽は私の中から溢れる形を持たない何かが溢れ出るようだった。家についた私はペンを手に取り、咽び泣くように声を上げながら彼のノートにペンを走らせた。そうして必死に一文を紡ぎ出した私は、机に伏して眠りについた。
『ああ、今は亡き世界の旅人よ。今もなおその瞬きと共に』
それは私の、彼に残す最後の言葉。人知れず泣いただろう彼への、後悔と懺悔をこめた称賛の言葉。
その一文を見た時、私の心の中で何かが弾ける音がした。
「また会おうッ! その時まで、俺のことをゆめ忘れるなッ!」
「はいはい、また明日ね」
彼は別れ際、いつもそういう言葉を残す。変に格好つけたような言葉を、それも毎日のように。その独特な世界観ゆえに馬鹿にされることが多かった彼を、私はいつも一歩退いた世界で眺めている。私はもちろん、彼の世界観に共鳴できるほどの豊かな想像力はなかったし、そこから生み出される言葉に理解を示せるほどの発想力もなかった。でもなんとなく、好きなことに全力でいられる彼の姿は見ていて素直に気持ちよかった。それはきっと、大学受験が近づくにつれだんだんと好きだった絵を書くことから離れていってしまう自分がいることが分かっているからだろう。
そんな彼が、大学受験を控えた冬の日の夜、自室で自殺したことを聞かされた時には、驚きを隠しきれなかった。馬鹿にされても自分の世界を貫き、毎日私に満足げな表情で話してくれた彼の姿は、もうこの世のどこにもないのだ。私は彼の面影を探して、彼の家を訪ねた。彼の母は私に、私に向けての遺言があると言って、一冊のノートを持ち出した。毎日の出来事が書かれた日記帳のようなそれは、普段の彼の強気な態度とは打って変わって質素で小さい文字で書かれていた。パラパラとページをめくっていくと、唐突に訪れた最後のページにはこう書かれていた。
『ああ、遥かなる夢の旅人達よ。今はまだその微睡みの中に』
それは彼の日記の最後に残された文章。不器用な彼なりの、自分を知るすべての人に向けた最期の言葉。私は彼のことを、やはり何一つ理解できていなかったが、気がつけば一緒にいた彼は私のことを理解していたようだった。心の中で弾けたものは、瞬く間に私の中の彼を遠くへと奪っていった。
私はノートを持ったまま家へと駆けた。汗と一緒に涙が溢れる。浅い息継ぎとともに漏れる嗚咽は私の中から溢れる形を持たない何かが溢れ出るようだった。家についた私はペンを手に取り、咽び泣くように声を上げながら彼のノートにペンを走らせた。そうして必死に一文を紡ぎ出した私は、机に伏して眠りについた。
『ああ、今は亡き世界の旅人よ。今もなおその瞬きと共に』
それは私の、彼に残す最後の言葉。人知れず泣いただろう彼への、後悔と懺悔をこめた称賛の言葉。
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