【第一部完】蜻蛉商会のヒトガミ様 ~死にたがりな神様は、過保護なあやかし従者たちに溺愛され、今日も鳥籠の中から出ることを許されません〜

御崎菟翔

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​第一部 1章 隠れ神様と、過保護な従者たち ―鬼界潜入編―

​第13話 聖遺物の真実と、救出部隊突入

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 パタリと扉が閉まると、奏太の背後から亘の低く怒りを滲ませる声が響いた。

「一体、どういうおつもりですか?」

 奏太はハアと息を吐き出す。

「さっきあいつが言ってただろ。聖遺物だよ」
「それが?」

 亘の声音は変わらない。

「アレがどういうものか忘れたのか? 対妖鬼向けの無差別兵器だぞ。しかも、俺の力がこもったままの。誰かが悪用して、王都が焼け野原にでもなったらどうする?」

 奏太がそう言うと、汐がヒラリと袖の中から出てきた。
 
「随分と物騒な言い方をなさっていますが、鬼では触れることもできないのでしょう? 放置していても問題ないのでは?」

 汐の言葉に、奏太は眉根を寄せた。

「だとしても、不安なんだよ。どういう使い方されるかも分かんないし、鬼でも使えるように改造でもされたら困るだろ」
 
 ハガネとかいう大司教が言っていた聖遺物。

 あれはもともと、奏太が人だった頃に、亘と巽が奏太の身を守るために作らせたものだった。

 目的は周囲に陽の気の結界を張ること。けれど、亘の書いた設計図が『ヘッタクソな絵』と評されるほどに酷く、二人の口頭説明も足りなすぎた。更に、製作者が呪物しか目に入らないような変人(天才)だった。

 結果、陽の気を周囲に留めて結界にするのではなく、増幅させて無差別に放出する、想像の斜め上をいく妖鬼にとっては凶悪極まりない『とんでも呪物』が出来上がったのだ。

 人界で出来上がりをみた当初、巽は『そうじゃない』と必死に笑いを堪えていたが、一緒にいた従兄の護衛役は完全に引いていた。
 
 その後、鬼界に行く奏太を案じた従兄に、念の為の護身用にしろと持たされ、陰の御子を消し去る時に奏太が陽の気と神の力を込めて使ったのだ。

 あのまま回収していれば良かったが、大仕事を成し遂げた安堵と当時のどさくさに紛れて失くしてしまっていたものだった。

 汐の言う通り、陽の気を込められる者でなくては使えない。けれど、万が一、鬼にも使えるように改造でもされたら甚大な被害をもたらしかねない。

「しかし、神の遺物として保管されているものを改造する者なんて居るでしょうか?」

 椿はそう言うが、絶対ないとは言い切れない。
 
 実際、あの聖遺物を作った変人は、珍しい呪物欲しさに、当時から護衛で厳重に守られていた奏太の家に忍び込んでいるのだから。

 亘は依然、険しい顔のままだ。
 
「アレが何か、など関係ありません。貴方を誘き出す為のただの口実です」
「わかってるよ、それくらい。けど、放っておけないだろ」

 奏太自身が鬼界に持ち込んだ危険物だ。万が一にも悪用される前に処分する責任がある。

「ひとまず、本物かどうかだけでも確認して――……」

 奏太が言いかけた時だった。

 唐突に、扉がバン!! という大きな衝撃音と共に開いた。
 
 奏太がビクッと肩を跳ねさせると同時に、亘と椿が即座に武器を構え警戒体制に入る。

 しかし、すぐに、

「奏太様!」

という聞き慣れた声が響いた。

 扉の向こうから、巽や商会員に扮した護衛達が一斉に飛び込んでくる。その後ろには、白日教会の枢機卿であるセキと、その護衛の姿が見えた。

「あぁ……ご無事で……」

 巽は奏太の顔を見るやいなや、心底安堵したような声を出す。しかし、すぐに亘の厳しい声が飛んだ。

「遅い」
「……申し訳ございません」
「やめろ、亘。巽は悪くないだろ」

 眉を下げた巽を庇って奏太が言えば、巽を睨んでいた目が今度は奏太に向く。

「貴方が、自身の力を暴こうとする光耀教会の大司教の誘いに乗ろうとしていなければ、このような事は言っていません」

 亘が言えば、巽はギョッと目を見開いた。

「奏太様!?」
「ちゃんと理由があるんだよ。後で説明する」

 奏太はハアと息を吐き出す。

「ところで、巽はどこまで状況を把握してる?」

 奏太が聞くと、巽は口に出すのも嫌だとばかりに表情を歪めた。
 
「枢機卿の従者が、顔見知りだったハガネという光耀教会の大司教の甘言に乗せられ、奏太様を陥れようとしたことを自供しました。動機は、以前からセキに特別扱いされていた奏太様への嫉妬です」
「その従者は?」

 先を促したが、巽は表情を笑みの形にして、何も言わない。

「……え、ちょっと、巽?」
「いえ、枢機卿に教育的指導をしていただいただけですよ。少し口出しはさせてもらいましたけど」

 巽が後ろを振り返ると、セキが進み出てくる。
 
「このような事態を引き起こし、誠に申し訳ございません」

 その場にスッと膝をつき、深々と奏太に向かって頭を下げるセキを、巽はゾッとするような冷たい目で見下ろした。
 
 何となく、今の巽の雰囲気は、不穏な事を言う亘に重なるものがある。
  
「……えーっと……一応確認だけど、殺したりはしてないよな?」 
「奏太様がお厭いになると思ったので、そこまではさせていませんよ」

 奏太の問いに、巽はすぐにニコリとした元の表情に戻して言った。

「場所を移しましょう。何があったか、詳しくお聞かせいただかなくては。どうやら、話し合いが必要そうですから」

 巽はそう言うと、厳しい表情をしたままの亘と汐、困ったような顔の椿を順に見た。


 別室に移動し、双方のここまでの状況を共有し合うと、巽は頭が痛いと言わんばかりに手に額を預けた。

「……それで、光耀教会に行くって答えちゃったんですか?」

 ここに居るのは、奏太の眷属達に、巽が商会から連れて来た商会員兼護衛、セキとその護衛一名。ほぼ身内だ。
 
「ひとまず、その聖遺物が本物かどうかの確認と、在り処、状態を確かめてくるつもりだよ。本物なら隙を見て回収できればいいけど――……」
「危険です」

 奏太の言葉を遮って、亘が唸るような声を出す。
  
「あれが、よくわかんない連中のところにある方が危険だ。行き先は仮にも聖教会だし、あっちだって滅多なことはできないよ」

 そう言うと、汐が少女の姿で眉を顰めた。
 
「ついさっき、あのようなことがあったばかりです。未だ人妖への差別意識が強い鬼の巣窟だという前提を甘く見過ぎでは?」

 汐の言葉に、セキは身の置場も無さそうに身体を縮こませた。
 
「十分、気をつけるって。いざという時には、ちゃんと力を使うし」

 奏太はそう言ってみたものの、汐が納得した様子はない。

「制約に触れる可能性がある以上、闇や虚鬼以外への御力の行使は避けるべきです。奏太様は手加減がきかないことがあるでしょう?」
「…………うっ…………だから……それも気をつけるよ……」

 心当たりがあるせいで、モゴモゴと声が小さくなる。つい先日、貴族の館でやりすぎたばかりだ。

「どっちにしても、もう行くって答えちゃったんだし、今更取り消せないだろ」
「あの……でしたら、私からあちらに断りを入れましょうか?」

 セキが言いにくそうに申し出る。しかし、奏太は首を横に振った。
 
「そんな事したら、日の力を持つ者を白日教会で囲うつもりかって、別の角が立つだろ。せっかく譲歩させたのに。それに、あの様子じゃ今回避けたところで、また何か仕掛けてくるに決まってる」

 あれだけ露骨に脅しをかけてきたのだ。別の方法でしつこく探られる可能性が高い。妥当なところで要求を受けておいた方が良いこともある。
 
「……奏太様、本当に行くおつもりですか?」

 椿は心配そうな声音だ。
 けれど、奏太は意見を変えるつもりはない。
 
「そう言ってるだろ。俺が持ってきた危険物だ。悪用される前に、俺が処分しなきゃ」
 
 すると、巽はハァー、と深く息を吐き出した。

「……亘さんと椿に加えて、妖界の武官を護衛に数名。ついでに白日教会枢機卿の監視もつければ、さすがに手出しはできないですかねぇ……」
「巽!」

 亘が吠えるように名を呼ぶと、巽は眉尻を下げた。

「僕だってできるだけ避けるべきだとは思いますよ。けど、奏太様の言うことにも一理あると思います。聖遺物の事は置いておいても、こちらが拒否して予期せぬ手段をあちらに取られるより、万全の準備を整えたうえで様子を見たほうが良いかもしれません。奏太様も、聖遺物の状態を確認できれば納得されるでしょうし」
「あちらで何かがあればどうする?」

 苛立たしげな亘に、巽は視線をセキに移した。
 
「もちろん、護衛は完璧にしますが、万が一にもそうならないように、今回の事態を招いた責任者にキッチリ舞台を整えておいてもらいましょう」
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