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第一部 1章 隠れ神様と、過保護な従者たち ―鬼界潜入編―
第6話 怪しい大司教と、隠さねばならない正体
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突然響いた声に合わせるように、亘か椿、どちらかによって、パサッと祭服のフードが目深に被せされる。
亘が奏太を背に隠すように一歩前に出ると、それとともに、
「我らが相手をします。口を開かないようになさってください」
という椿の囁きが奏太の耳元で落ちた。
奏太が無言のままコクと頷くと、椿の顔がぱっと離れる。
先ほどの声の主の方に目をやると、白の祭服と光耀教会のブローチが見えた。男は一人ではなく、ゾロゾロと複数を連れ歩いている。奏太に亘と椿がついているように、この祭服の男にも護衛がついているのだろう。
相手の顔まで見ようとすれば自分の顔も見られそうで、奏太はグッと顎を下げる。
フードをかぶせられたのは、他の者に素顔を明かすなということだろう。
「何を仰います。司祭様は、日石をお使いになっただけですが」
亘が言うと、光耀教会の男の口元が、いやらしく歪む。
「ほう、日石を? 随分、力の強い日石があったものだな。廊下の闇を祓い、外の虚鬼と中の者達を全て焼き焦がし、闇の発生源すら祓ってしまえるなんて。白日教会独自でそのようなものを? それとも、私が無知なだけだろうか。ぜひ、見せてもらいたいものだが」
空の日石を見せろと言われると困る。奏太達にとっては不要なものだ。そもそも持ち合わせていない。
「枢機卿にお借りした貴重なものです。どうか、白日教会にお問い合わせください。ところで、光耀教会の大司教様が、いったい何の御用でしょう。白日教会が対処に当たっていると、お聞きにならなかったので?」
「軍の方々に頼まれたのだ。白日教会の司祭だけでは当てにならぬと」
大司教の言葉に、亘が小さく舌打ちをした。
あの軍の大男が奏太達を見て不満そうにしていたのは確かだが、まさか光耀教会の大司教を呼んでこさせるとは思わなかった。
「そうでしたか。しかし、無駄足だったようです。この場は、白日教会だけでおさめましたので」
苛立ちを抑えるように、亘が言う。
「そのようだな。しかし、おかげで良いものが見られた。ついでに、そちらの司祭の顔でも拝んで帰るよ」
「どうか、御勘弁を。司祭様は闇に当てられ、体調が優れぬご様子ですので」
亘の声が聞こえたかと思えば、不意に、奏太の体がぐいっと抱きかかえられた。
「別の教会に属しているとは言え、圧倒的に立場が上の大司教に挨拶もできぬほどに、か?」
「ええ。今にも倒れそうなのを、何とか耐えていらっしゃったのです。お詫びは改めて致しますので、この場は御前を失礼させていただきます。さあ、戻りましょう。司祭様」
すぐ真上から、亘の声が落ちてくる。この場は、具合の悪いフリをしたほうが良いのだろう。そのままぐったりと寄りかかると、亘は早足で歩き出した。
奏太は、フードと亘の体に隠れるようにして、自分の顔が光耀教会の者達に見られないように注意する。
亘も同様に、慎重になっていたはずだった。
しかし、白の祭服の横を通り抜けようとしたその瞬間、本当に突然、パサリとフードが背側に落ちた。更に、銀の前髪のかかった血に塗れたような赤い瞳が、奏太の目を真っ直ぐに覗き込む。
「ああ、顔色は問題なさそうだな」
若くキレイな顔つきだが、ゾッとするほど不気味な表情。その赤の瞳は、獲物を狙うもののようにも、今にも刺されそうな酷い嫌悪のようにも見えた。
奏太が驚きに目を見開いている間に、亘は奏太を抱える手にギュウと力を込めて、バッとその場を飛び退いた。
「椿!!」
「はい!」
亘の声に反応して、椿が奏太を守るように大司教との間に躍り出る。
その向こうで、大司教の護衛もまた、大司教を守るように椿の前に出た。
当の大司教本人は、パッとこちらに両手を挙げてニコリと笑う。それが見えたと思った瞬間、もう一度、亘によって、乱暴にフードをかぶせられた。
「人妖というのは、過敏すぎていけないね。同じ神々を仰ぐ者に手出しをしたりしないよ。それに、あの虚鬼達のように、日の力で焼かれても困る」
明るく弁明するような、大司教の声が聞こえた。
「とはいえ、これ以上、白日教会と摩擦を起こすのは得策ではないかな。私は用済みのようなので、こちらで失礼するよ。また会おう。白日教会の若き司祭」
大司教がそう言ったかと思えば、白の祭服がクルリと踵を返して扉のほうへ向かっていくのが見えた。その護衛たちの足もまた、ゾロゾロと扉の方へと戻っていく。
完全に足音が聞こえなくなると、奏太はハアと息を吐き出した。
「……あいつ、何だったんだ?」
「わかりません。十分警戒していたはずですが、奏太様に近づくのに気づけませんでした」
亘から、苦々しげな声が落ちてくる。
「一度、白日教会に行って相談したほうがいいかもしれませんね。光耀教会に奏太様の力を見られてしまったかもしれないと。万が一、奏太様の力について広く知られるような事があれば、余計な混乱を招きかねません」
椿が困ったような声音で言った。
日の力と、それがこもった日石は、何よりも貴重なものだ。
先ほど奏太がそうしたように、日の力はその量によっては強力な武器にもなり得るし、闇を祓うにも日の力が必要。聖教会から年に少量だけ出される小さな日石は貴重な宝玉として高値で取引されている。
更に言えば、日を生み出す場所への立ち入りと日の力の入手は、聖教会の者にも制限があり、自由に日の力を持ち出し扱って良いわけではない。
だから、日の力を使える、ということ自体が、金の卵を生む鶏のように見られてもおかしくはないのだ。
(でもあれは、本当にそれだけか……?)
もっと別の何かを見るような、不穏な目だったように思えてならない。
「ひとまず椿の言う通り、白日教会へ行きましょう。日の力を使う司祭と商会との関連性は隠しておいた方が良いでしょう」
「……わかった。そうしよう」
未だ亘に抱えられたまま、奏太はコクと頷いた。
亘が奏太を背に隠すように一歩前に出ると、それとともに、
「我らが相手をします。口を開かないようになさってください」
という椿の囁きが奏太の耳元で落ちた。
奏太が無言のままコクと頷くと、椿の顔がぱっと離れる。
先ほどの声の主の方に目をやると、白の祭服と光耀教会のブローチが見えた。男は一人ではなく、ゾロゾロと複数を連れ歩いている。奏太に亘と椿がついているように、この祭服の男にも護衛がついているのだろう。
相手の顔まで見ようとすれば自分の顔も見られそうで、奏太はグッと顎を下げる。
フードをかぶせられたのは、他の者に素顔を明かすなということだろう。
「何を仰います。司祭様は、日石をお使いになっただけですが」
亘が言うと、光耀教会の男の口元が、いやらしく歪む。
「ほう、日石を? 随分、力の強い日石があったものだな。廊下の闇を祓い、外の虚鬼と中の者達を全て焼き焦がし、闇の発生源すら祓ってしまえるなんて。白日教会独自でそのようなものを? それとも、私が無知なだけだろうか。ぜひ、見せてもらいたいものだが」
空の日石を見せろと言われると困る。奏太達にとっては不要なものだ。そもそも持ち合わせていない。
「枢機卿にお借りした貴重なものです。どうか、白日教会にお問い合わせください。ところで、光耀教会の大司教様が、いったい何の御用でしょう。白日教会が対処に当たっていると、お聞きにならなかったので?」
「軍の方々に頼まれたのだ。白日教会の司祭だけでは当てにならぬと」
大司教の言葉に、亘が小さく舌打ちをした。
あの軍の大男が奏太達を見て不満そうにしていたのは確かだが、まさか光耀教会の大司教を呼んでこさせるとは思わなかった。
「そうでしたか。しかし、無駄足だったようです。この場は、白日教会だけでおさめましたので」
苛立ちを抑えるように、亘が言う。
「そのようだな。しかし、おかげで良いものが見られた。ついでに、そちらの司祭の顔でも拝んで帰るよ」
「どうか、御勘弁を。司祭様は闇に当てられ、体調が優れぬご様子ですので」
亘の声が聞こえたかと思えば、不意に、奏太の体がぐいっと抱きかかえられた。
「別の教会に属しているとは言え、圧倒的に立場が上の大司教に挨拶もできぬほどに、か?」
「ええ。今にも倒れそうなのを、何とか耐えていらっしゃったのです。お詫びは改めて致しますので、この場は御前を失礼させていただきます。さあ、戻りましょう。司祭様」
すぐ真上から、亘の声が落ちてくる。この場は、具合の悪いフリをしたほうが良いのだろう。そのままぐったりと寄りかかると、亘は早足で歩き出した。
奏太は、フードと亘の体に隠れるようにして、自分の顔が光耀教会の者達に見られないように注意する。
亘も同様に、慎重になっていたはずだった。
しかし、白の祭服の横を通り抜けようとしたその瞬間、本当に突然、パサリとフードが背側に落ちた。更に、銀の前髪のかかった血に塗れたような赤い瞳が、奏太の目を真っ直ぐに覗き込む。
「ああ、顔色は問題なさそうだな」
若くキレイな顔つきだが、ゾッとするほど不気味な表情。その赤の瞳は、獲物を狙うもののようにも、今にも刺されそうな酷い嫌悪のようにも見えた。
奏太が驚きに目を見開いている間に、亘は奏太を抱える手にギュウと力を込めて、バッとその場を飛び退いた。
「椿!!」
「はい!」
亘の声に反応して、椿が奏太を守るように大司教との間に躍り出る。
その向こうで、大司教の護衛もまた、大司教を守るように椿の前に出た。
当の大司教本人は、パッとこちらに両手を挙げてニコリと笑う。それが見えたと思った瞬間、もう一度、亘によって、乱暴にフードをかぶせられた。
「人妖というのは、過敏すぎていけないね。同じ神々を仰ぐ者に手出しをしたりしないよ。それに、あの虚鬼達のように、日の力で焼かれても困る」
明るく弁明するような、大司教の声が聞こえた。
「とはいえ、これ以上、白日教会と摩擦を起こすのは得策ではないかな。私は用済みのようなので、こちらで失礼するよ。また会おう。白日教会の若き司祭」
大司教がそう言ったかと思えば、白の祭服がクルリと踵を返して扉のほうへ向かっていくのが見えた。その護衛たちの足もまた、ゾロゾロと扉の方へと戻っていく。
完全に足音が聞こえなくなると、奏太はハアと息を吐き出した。
「……あいつ、何だったんだ?」
「わかりません。十分警戒していたはずですが、奏太様に近づくのに気づけませんでした」
亘から、苦々しげな声が落ちてくる。
「一度、白日教会に行って相談したほうがいいかもしれませんね。光耀教会に奏太様の力を見られてしまったかもしれないと。万が一、奏太様の力について広く知られるような事があれば、余計な混乱を招きかねません」
椿が困ったような声音で言った。
日の力と、それがこもった日石は、何よりも貴重なものだ。
先ほど奏太がそうしたように、日の力はその量によっては強力な武器にもなり得るし、闇を祓うにも日の力が必要。聖教会から年に少量だけ出される小さな日石は貴重な宝玉として高値で取引されている。
更に言えば、日を生み出す場所への立ち入りと日の力の入手は、聖教会の者にも制限があり、自由に日の力を持ち出し扱って良いわけではない。
だから、日の力を使える、ということ自体が、金の卵を生む鶏のように見られてもおかしくはないのだ。
(でもあれは、本当にそれだけか……?)
もっと別の何かを見るような、不穏な目だったように思えてならない。
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