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第一部 1章 隠れ神様と、過保護な従者たち ―鬼界潜入編―
第8話 白日教会での滞在と、陰口を叩く者たち
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その日はそのまま、案内された部屋で一夜を過ごした。商会へは、枢機卿から手紙を出しておいてくれるらしい。
教会内では、朝夜の祈りの時間に顔を出す以外は、どこで何をしていても良いと言われた。
本来はそれぞれの仕事があるのだが、奏太の仕事は無理やり枢機卿からもぎ取ったもので、あってないようなものだからだ。
何なら祈りの時間すら「他の者達に紛れたいのならご自由にどうぞ」と言われただけだった。
翌朝、祈りの時間。言われたとおりに礼拝堂に顔を出す。奏太が神である事を知っている亘に、
「奏太様は、何に何を祈るのですか?」
と問われたが、奏太は別に何にも祈っていない。ぼうっと別のことを考えていただけだ。
取り繕うように、
「日の女神に、世界平和を、だよ」
と言ってみたが、胡散臭い顔をされただけだった。
「そういうお前はどうなんだよ?」
「日の女神に、主がもう少し危機感を持って行動してくださるように、でしょうか。秩序の神にいくら訴えても聞いてくださらぬようなので」
亘はニコリと笑って奏太をみる。当の主は微妙な顔をするしかない。
朝の祈りの後、多くの者達は食堂に向かって歩みを進めていく。白日教会の者たちは、一箇所に集まり一斉に食事を摂るらしい。
しかし、奏太も亘も椿も、普通の人妖とは異なるため、食事は不要だ。
皆がゾロゾロ移動する波に逆らって進んでいくと、無遠慮にチラチラとこちらを振り返る視線に晒された。
あんまり、感じの良い視線ではないし、コソコソと会話が交わされているのも見えている。……というか、バッチリ聞こえている。
「ほら、あれが」
「ああ、人の司祭ってやつだろ」
「従者を二人も連れて歩くなんて、何様のつもりだ?」
「人だからだろ。一人じゃ怖くて何もできないってことだろう。よくあんなので役目が務まるな」
「でも、直接、猊下との面会が許されたって話だぞ」
「それどころか、あの場所への立ち入りも許可されたらしい」
「は? なんであんなやつが? そんな力、ないだろ」
「素質も努力も地位もなくたって入れるんだよ。種族の違いってやつだけでさ」
「それにしたって、なんか、卑怯な手でも使ったんじゃないか?」
「ただのひ弱な食料風情に、何ができるって?」
「ハハ、確かに、喰えそうなトコ差し出すくらいしかできなさそうだ」
(……いや、人妖の保護が布告されてるのに、食料風情とか言うなよ)
別に本当に取って喰おうとしているわけではなく、ただの蔑視発言だろうが、口には気をつけた方が良いのではなかろうか。
隣で、ギリギリと拳を握り込む椿の雰囲気が怖い。
「……二度とあの様な口をきけぬようにしてきましょうか?」
「だめだよ、落ち着けって」
「そうだぞ、椿。やるなら、命を奪う寸前まで痛めつけて、二度と再起できないところまで追い込むべきだ」
「いや、違うって! 気にしてないから手出しすんなって言ってんのっ!」
慌てて声を上げてから、自分の声が大きすぎたことに気づいて、奏太はパッと口元を両手で覆う。
周囲の視線が一瞬集まり再びそれぞれが動き出すのを横目に、亘は眉を上げた。
「あのような連中に舐められても、良いことなどありませんよ」
「だからって、暴力で解決しても良いことなんてないんだよ」
「こちらの気持ちがスッキリしますが」
「罪悪感で俺の胃が死ぬからやめてくれ」
たかが陰口で、再起不能に追い込むのは幾らなんでもやり過ぎだ。
「その程度で胃を痛めるとは、ひ弱であることは間違いありませんね」
「ああ、そうだよ。ひ弱で悪かったな。神経図太すぎるお前と一緒にすんな」
半ば投げやり気味に言ったあと、奏太はハアと息を吐いた。
「俺はこの教会の者じゃないし、そんなに頻繁に来るわけじゃない。迎えがくればすぐに帰るわけだし、気にするだけ疲れるだけだ」
「しかし、仮にも聖教会ですよ?」
「人妖への差別意識を無くすよう枢機卿に頑張ってもらうくらいは言ってもいいけど、今のところ実害はないんだ。放っておけよ」
奏太が言うと、亘と椿は、何か言いたげに視線を交わしあう。でも、このまま不毛な言い合いをしても仕方がない。二人が何も言わないので、奏太は早々に会話を打ち切った。
教会内では、朝夜の祈りの時間に顔を出す以外は、どこで何をしていても良いと言われた。
本来はそれぞれの仕事があるのだが、奏太の仕事は無理やり枢機卿からもぎ取ったもので、あってないようなものだからだ。
何なら祈りの時間すら「他の者達に紛れたいのならご自由にどうぞ」と言われただけだった。
翌朝、祈りの時間。言われたとおりに礼拝堂に顔を出す。奏太が神である事を知っている亘に、
「奏太様は、何に何を祈るのですか?」
と問われたが、奏太は別に何にも祈っていない。ぼうっと別のことを考えていただけだ。
取り繕うように、
「日の女神に、世界平和を、だよ」
と言ってみたが、胡散臭い顔をされただけだった。
「そういうお前はどうなんだよ?」
「日の女神に、主がもう少し危機感を持って行動してくださるように、でしょうか。秩序の神にいくら訴えても聞いてくださらぬようなので」
亘はニコリと笑って奏太をみる。当の主は微妙な顔をするしかない。
朝の祈りの後、多くの者達は食堂に向かって歩みを進めていく。白日教会の者たちは、一箇所に集まり一斉に食事を摂るらしい。
しかし、奏太も亘も椿も、普通の人妖とは異なるため、食事は不要だ。
皆がゾロゾロ移動する波に逆らって進んでいくと、無遠慮にチラチラとこちらを振り返る視線に晒された。
あんまり、感じの良い視線ではないし、コソコソと会話が交わされているのも見えている。……というか、バッチリ聞こえている。
「ほら、あれが」
「ああ、人の司祭ってやつだろ」
「従者を二人も連れて歩くなんて、何様のつもりだ?」
「人だからだろ。一人じゃ怖くて何もできないってことだろう。よくあんなので役目が務まるな」
「でも、直接、猊下との面会が許されたって話だぞ」
「それどころか、あの場所への立ち入りも許可されたらしい」
「は? なんであんなやつが? そんな力、ないだろ」
「素質も努力も地位もなくたって入れるんだよ。種族の違いってやつだけでさ」
「それにしたって、なんか、卑怯な手でも使ったんじゃないか?」
「ただのひ弱な食料風情に、何ができるって?」
「ハハ、確かに、喰えそうなトコ差し出すくらいしかできなさそうだ」
(……いや、人妖の保護が布告されてるのに、食料風情とか言うなよ)
別に本当に取って喰おうとしているわけではなく、ただの蔑視発言だろうが、口には気をつけた方が良いのではなかろうか。
隣で、ギリギリと拳を握り込む椿の雰囲気が怖い。
「……二度とあの様な口をきけぬようにしてきましょうか?」
「だめだよ、落ち着けって」
「そうだぞ、椿。やるなら、命を奪う寸前まで痛めつけて、二度と再起できないところまで追い込むべきだ」
「いや、違うって! 気にしてないから手出しすんなって言ってんのっ!」
慌てて声を上げてから、自分の声が大きすぎたことに気づいて、奏太はパッと口元を両手で覆う。
周囲の視線が一瞬集まり再びそれぞれが動き出すのを横目に、亘は眉を上げた。
「あのような連中に舐められても、良いことなどありませんよ」
「だからって、暴力で解決しても良いことなんてないんだよ」
「こちらの気持ちがスッキリしますが」
「罪悪感で俺の胃が死ぬからやめてくれ」
たかが陰口で、再起不能に追い込むのは幾らなんでもやり過ぎだ。
「その程度で胃を痛めるとは、ひ弱であることは間違いありませんね」
「ああ、そうだよ。ひ弱で悪かったな。神経図太すぎるお前と一緒にすんな」
半ば投げやり気味に言ったあと、奏太はハアと息を吐いた。
「俺はこの教会の者じゃないし、そんなに頻繁に来るわけじゃない。迎えがくればすぐに帰るわけだし、気にするだけ疲れるだけだ」
「しかし、仮にも聖教会ですよ?」
「人妖への差別意識を無くすよう枢機卿に頑張ってもらうくらいは言ってもいいけど、今のところ実害はないんだ。放っておけよ」
奏太が言うと、亘と椿は、何か言いたげに視線を交わしあう。でも、このまま不毛な言い合いをしても仕方がない。二人が何も言わないので、奏太は早々に会話を打ち切った。
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