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第26話~蒼魔族の掟~
しおりを挟む蒼魔族の戦士は体内の魔力を奪われた事によって意識を失っていた。その横で、アンジェは法衣をまとっていると、アンフィスバエナに《魂の転位》を成功させた魔王が姿を現した。その動きから、アンジェは転位の術が成功したことを理解した。双頭の蛇は、アンジェの太腿をつたい、胸元まで登ってきた。
「ちょっ、ちょっと。くすぐったいです」
絶頂を迎えて間もないアンジェの身体はまだ感覚が敏感になっていた。
魔王は、二つの頭を胸元から覗かせた。頭が二つあるので視界が広い、というより同時に二つの景色を見ることができた。
「肝が冷えたぞ。無茶しおって」
「いいじゃないですか。結果的に目的は達成できたんですから」
そう言うアンジェの表情は数日ぶりに絶頂を迎えた事もあって、艶々としていた。
「まぁ、良しとするか」
アンジェに大人の玩具扱いされた感が、魔王としての尊厳を傷つけてはいたが、我慢することにした。
「こいつには、聞きたい事がある。起こしてくれるか」
「この前みたいにすればいいんですね」
アンジェは蒼魔族の戦士に口付けすると、魔力を流し込んだ。
「んっ、くっ!」
戦士が目を覚ます。アンジェと、その首にかかる双頭の蛇の姿を見た戦士は息を飲んだ。慌てた様子で起き上がると、片膝をつき恭順の姿勢を取った。
「申し訳ありません!」
「どうしたの急に」
「双頭の蛇は我らが女神の使徒。なぜ、人の女が、いえ。それを従える貴女はいったい何者なのですか。いや、それより、私は何てことを!」
「あ、ああ。これ。まぁ、あんまり気にしないで」
言いながら、アンジェが魔王蛇の頭を掴んだ。
「こ、こら、粗末に扱うな。それより、その男に聞きたい事がある。通訳しろ」
「はぁい。私はピエタ村のシスターアンジェよ。あなた、名前は?」
「私は蒼魔族の戦士、ミスリア」
「ミスリア? ミスラの一族のものか?」
「ミスラって、誰ですか?」
ミスラは魔王が力を与えた《眷属》で、魔族四将の一人であり、長として蒼魔族を率いて先の戦を戦った。アンジェが魔王蛇に言った言葉に、ミスリアは背筋を正した。
「ミスラは我が一族の長であり、私の長姉です。魔王様が倒れられた後、自ら殿を務め傷を負い、今は回復に努めています」
「そうか……」
とりあえず、無事である事がわかり、魔王はほっとした。
「あの、どうして族の長の名前を知ってるんですか?」
当然の質問をアンジェが魔王蛇にする。
「わしは神の使いだ、当然であろう」
「でも、魔族はバレンシア神の復活を妨げているって……」
「詳しい話は後だ、今はこの男と話させるのだ」
今の魔王は、神の使徒だという嘘を見破られるわけにはいかなかった。ひとまずアンジェの疑問を棚上げさせた。
「どうして、あなた……ミスリアは一人でここにいたの」
「お恥ずかし話ですが、我が一族に裏切り者がいたのです」
「裏切りもの?」
「末の妹が人間の男と通じていたのです]
末の娘とは、タルスという鍛冶屋が言っていた、蒼魔族の女の事だと思われた。
「裏切り者は、ミスラの一族のものだったか」
「その、妹さんは今はどこに?」
「里を抜けたのです。もしかしたら、人間の男のもとに行ったのかもと思い、追ってきたのです」
「私達、誰にも会いませんでしたよね」
アンジェが魔王蛇に囁く。坑道は入り組んでいるうえ、いくつも分岐があるので、会っていなくても不思議ではなかった。
「ひとまず、当初の目的であるアンフィスバエナの器は手に入れた。村に戻るぞ」
「でも、彼は?」
「こう言うのだ。妹の事は任せて、ひとまず里に戻るように言うのだ」
アンジェがミスラにそう告げると、ミスラは残念そうな表情を浮かべた。
「アンジェ…様」
「様?」
「私は貴女に操を捧げました。貴女が人間であろうと、女神に連なるものである限り、私の身は貴女様のものです」
「えっ? あの、どういう事ですか?」
「蒼魔族は身持ちが堅くてな、一度肌を許した相手には添い抜く掟があるのだ」
アンジェを見上げるミスラの瞳は恋する男のものだった。
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