陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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プロローグ 勇者召喚

第五話 出会いと悪癖と

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 颯太が平仮名だらけの分厚い本を四苦八苦しながら読んでいると、後ろから近づいてくる気配がした。

(…殺気…警戒…なし?)

 即座に相手の気配から殺気や警戒がないか確認したが、そのどちらも後ろからは感じられなかった。
 気配が間合いに踏み込んできた所で、颯太はなんとも言えない寒気を感じ、思わず机を飛び越して反対側にて距離をとる。
 真正面から見たその気配の正体は、いかにも優男といった感じの風貌の男だった。
 しかしその格好は普通のものではなく、あの有名な魔法使いの映画で見たのと似たような姿だった。
 男はひどく驚いているようだ。

(…なんだ?今の少年の動きは…)

 調べものをしようと立ち寄った図書館で、異世界から来たという黒髪の少年少女のうちの一人を見かけ、声をかけようと近寄ると突然熟練の戦士のような動きで回避行動をとったのだ。
 こちらを一瞥した様子も、最初から警戒していた様子もなく、自分の気配を感じ飛び退いた少年の顔には焦りの色が浮かんでいた。

「…お、驚かせたのならすまない。私は君を傷つけるつもりはないよ」
「…あ、こ、こちらこそ…すみません。必要以上に驚いてしまって」

 ホッとした様子で警戒を解く颯太。
 飛び越してしまった机まで戻ってきて男の前に立つ。
 その手に握られているのは、男もよく使う図書館備え付けのペンだったが、男はそれを見て冷や汗を流した。
 颯太は無意識のうちに身近にあったものでになりそうなものを手に取り構えていた。
 「なんだこれ?」と言ってペンを机に置いた事で、男にもこれらが無意識下で行った行動であると知らしめていた。
 男は慎重に、目の前の少年にこれ以上警戒されないように言葉を選びながら尋ねた。

「君は…異世界の人間かい?」
「え、なんでそれを…」
「髪の色だよ。こっちの世界では黒は珍しい色なんだ」
「あ、やっぱりそうなんですね。こっちの人達は金やら銀やら多くて予想はしてたけど…」
「全くいないって事でもないがね」

 そこまで言って男は自分がまだ名乗っていなかった事に気が付いた。

「ああ、まだ名前を言っていなかったね。私はイヴァン・プライス。この国の宮廷魔術師長を任されている者だ」
「はじめまして、颯太・立花です。よろしくお願いします、イヴァンさん」

 礼儀正しく一礼した颯太を見てイヴァンは肩の力を抜いた。
 そこまで気を張る必要はないようだと、彼の態度を見て分かったからだ。
 そしてふと、先程から颯太が読んでいた本に目を留めた。

「?この本は…」
「ああ、それは、この世界の事を少しでも知ろうと思って、司書のオリビアさんに勧めてもらったんです」
「…確かに的確な蔵書だが…読めるのか?」
「え?」
「え?」

 なんでそんな分かりきった事を聞くんだ、と言うような感じの返しにイヴァンは戸惑った。
 颯太が読んでいた本は、確かに世界の事を知るには良い本だと言える。
 しかしこれは、こちらの世界のなのだ。
 イヴァンもこれをスラスラ読むには宮廷魔術師になってから一年がかかった。

「えっと…まあ、平仮名多くて読みづらい所もありますけど…普通に」
「!?」

 当たり前でしょう?と目で言ってくる。
 そこでイヴァンの鮮やかな翡翠色の瞳が怪しく光り彼の悪癖が顔を出した。

「では、あちらの世界では、蔵書、普通に読めて当たり前なのか?」
「え、は、はい…」
「今すぐ私の研究室に来てくれ!」
「ええ!?」

 残念な事にこう言われた時には、もうすでにイヴァンに腕を掴まれた状態だった颯太は抗う術もなく彼の研究室まで引きずられていくのだった。


閑話

 イヴァンに捕まり颯太が彼の研究室まで引きずられている頃、勇者達は部屋で待機しているようにアストレアに念押しされ、退屈な時間を無駄に豪華な部屋で過ごしていた。

「ああ~~暇だ~~!」
「ちょっと大輝煩い」
「だってここで待機しとけって言われてもう一時間は経過してんぞ!暇すぎる!」
「江川君の気m「気持ちは分かるけど静かにしてて」
「そういう綾乃だって苛ついてんな」
「一宮さん落t「仕方ないでしょー!私だって颯太に会いに行きたいのに行けなくてイライラしてるんだからー!あっ!」
「…本音?」
「~~!」
「……」

 椅子に凭れた状態で暇すぎて思わず叫んでいる大輝と、会いたい人に会いに行けなくて苛つき、つい本音を口走って赤面する綾乃と、ことごとく二人にスルーされている良輔。
 良輔はスルーされすぎて最早空気になっており、部屋の隅で三角座りしている。
 そんな良輔の様子に全く気が付いていない綾乃が赤面して火照った顔をどうにか鎮め、徐に立ち上がる。

「どした?」
「もう我慢ならない。私出てくるわ」
「え、マジで?」
「だってずっと待たされてるのに、何の音沙汰もなしよ?巫山戯てるとしか思えないじゃない」

 そう言いながらツカツカと部屋の扉へ近寄りドアノブに手をかけようとしたが、不意に大輝から投げかけられた問いに動きを止めた。

「良いのか?あんま目立つ事すると、颯太に怒られるぞ?」
「ゔっ!」

 幼い頃から、お巫山戯の先導は大輝、同調するのが綾乃、そんな二人を止める役割をしていたのが颯太だった。
 だから怒った時の颯太の恐ろしさは、ここに居る誰よりも分かっている。
 反射的に身体が強張る綾乃に大輝が追い打ちをかける。

「思い出しても見ろよ。高校の入学式の翌日、部活見学で俺とお前が空手部と剣道部の主将に喧嘩売って問題起こした時の、颯太の、顔…」
「ひぃ!やめてぇ!」

 綾乃は思わず耳を塞ぎ下さいその場に蹲る。
 大輝も声が震えている。
 心なしか顔も青くなっているようだ。
 良輔は颯太が怒った所を見たことがないどころか、クラスメイトなのに「ソウタって誰?」といった感じだ。
 知らぬが仏とはこの事なのだろう。

「とにかく!颯太に怒られたくなかったらこのまま大人しくしてようぜ!つーか俺まで一緒に怒られるからやめてくれ!」
「…ごめんなさい…私が間違ってたわ…」

 綾乃は大人しく椅子まで戻ってストンと腰をおろした。
 親友がちゃんと戻って来た事を確認した大輝は、天を仰ぎ今近くに居ないもう一人の親友へ思いを馳せる。

(取り敢えず綾乃の進撃は止めたけど、これで良かったよな?颯太)

 何を言うにも上からな態度を崩さない国王。
 不満を隠そうともしていない王女。
 利用しようと画作してくる周囲の人達。
 どれもこれも人を苛つかせる者ばかりで、もし颯太が今は我慢してくれ、と言っていなかったら今すぐにでも暴れたい所だった。
 颯太の深い考えを察して、隅々まで正確に把握する事はかなり難しい。
 颯太自身隠そうとしてくるし、何よりそこまで深い読みは今の自分には出来ない。
 だから大輝は、本当にこれで良かったのか分からないでいた。
 しかし大輝は、幼い頃空手で伸び悩んでいた時の颯太の言葉を信じたいと思った。

『わからなくなったときは、じぶんのこころのこえにしたがえばいいんだよ!』

 しかし今回従った自分の心は、ただ単純に「颯太に怒られたくない」というものだ。
 これで良いのか?微妙な所である。
 まあ颯太は笑って「良いじゃん別に」と言うだろうが。
 大輝はその様子を想像して思わず吹き出してしまった。


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