陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

日向

文字の大きさ
22 / 53
プロローグ 勇者召喚

第二十二話 騎士と緊張と

しおりを挟む
 颯太達は、ジョンに指示された通り馬車に乗り込み、渡された荷物に入っていた装備を身に着けた。
 颯太の装備は、駆け出しの魔術師が身に着けるような簡単なローブと初心者用の短杖だ。
 荷物が入っていた袋…マジックバックはこれからも使わせるつもりだから壊すなよ、と騎士の人に念を押された。
 どうやらこれは貰えるらしい。
 こんな初っ端から、ファンタジー全開の物を貰えたことに興奮が収まらない奴らも他の馬車にチラホラ居るようだったが、そんな奴らよりも早く頭の中を切り替えた颯太は、すぐにそれを確認をした。

(【鑑定】)

*************************************

【マジックバック(小)】

 魔法によって量料が大幅に増えたカバン。かけられた空間魔法の魔力量と魔力強度によって増量は変わる。このカバンの増量は実際の大きさの三倍。

〈中身〉
 ・下級ポーション×5
 ・シル草×30
 ・干し肉×10
 ・水袋×5
 ・麻の布(大)×2
 ・麻の服×3
 ・麻のズボン×3
 ・魔物除けの煙玉×5
 ・鉄の短剣×1
 ・鉄の長剣×1
 ・鉄の盾×1

***********************************

 親切なことに、これから調べようと思っていた中身まで教えてくれた。
 颯太は中身を見ながら、気になったものを一つ取り出し更に鑑定した。

(【鑑定】)

**********************************

【下級ポーション】

 体力の回復や傷の治療に使う。傷口に振りかけるだけで軽い傷ならばすぐに治る。
〈材料〉
 ・シル草×3
 ・綺麗な水

【シル草】

 主にポーションの材料となる薬草。そのまま食べても体力の回復をすることが出来、料理でハーブとしても使える。

********************************

(シル草って、ポーションの材料になるのか。見つけたら集めておこう)

 颯太は自分に、【薬草調合】のスキルがあるので、回復薬の作り方はいずれイヴァンに聞くつもりだった。
 こんなに早く知れたのは予想外だが、ラッキーだ。
 颯太が、鑑定し終えたポーションとシル草をマジックバックに仕舞い直した時、青々と木々が生い茂る森の中で馬車が止まった。

「ここからは歩きだ!全員降りろ!」

 ジョンの大声が聞こえて、他の馬車からは次々と人が降りていく。

「いよいよだな」

 それまで押し黙ったままだった政人が口を開く。
 その横の猛も、同じ馬車に居た女子三人も、他のパーティーの人達も、更に緊張した面持ちで、誰かが生唾を飲み込む音がした。

「怪我なく終われるようにしたいな」
「ああ。その通りだ」

 二人はニッと笑い合い、颯太から先に馬車を降りた。
 風に乗ってきた草の匂いが颯太の鼻を擽る。
 政人や他の人達が降りてくる前に、颯太は馬車から少し離れて、人目につきにくく草や木が一際高く茂っている広い場所に出た。

(最近は綾乃とも大輝とも、まともに手合わせが出来なくて手加減ばかりだったからな。ここらで自分の調子見とかないと)

 マジックバックの中から鉄の長剣を取り出し構えた。
 それだけでも、近くに居た低級モンスター達が逃げ出す程の威圧感を放っている。
 自分から、半径三十メートルの範囲に居る魔物が一気に遠ざかっていくのを【気配感知】で感じながら、颯太は目を閉じ身体の神経一つ一つに意識を集中させた。
 そのまま少しずつ体内の魔力を放出していく。
 この世界に来てから初めて感じた魔力と、空気中にある魔素が混ざり合っている。
 閉じていても目の前に広がる森の情景、一緒に来た騎士団員達やクラスメイトの動きなどが手に取るように分かる。
 颯太は今、自然と一体になっている。
 そして、流れるようなごく自然な足運びからの、一閃。
 相手の左脇腹から右肩を切り上げるようにして剣を振るう。
 その振るわれた剣の速さで空気が震える。
 颯太はゆっくりと目を開け、自分の今の体勢を見た。

(……よし)

 世界が変わっても、一日たりとて鍛錬を怠らなかった。
 衰えるどころか、一段と鋭さが増している感覚さえある。

 『自分の事は、自分自身に聞け』

 まだ武術の基礎を学び初めて間もない頃、一度だけ颯太が鍛錬の厳しさに音を上げた時、祖父に言われた言葉だ。
 これ以上は無理だ、と倒れそうになりながら言った時祖父は、本当に駄目ならお前の身体がストップをかける筈だ、無駄口叩く元気があるなら大丈夫だ、と豪快に笑い飛ばしていた。
 今だからその意味を理解する事が出来るが、当時はそんな祖父を恨めしく思ったものだ。
 自分が万全の状態だと確信した颯太は、体勢を元に戻して長剣をマジックバックの中に詰め、怪しまれないように早々はやばやと皆の所へ戻っていった。


 ジョン達騎士団を前後に、パーティーごとに固まって歩いて行く。
 進んでいく内に皆口数が減っていき、ダンジョンが目前に見えてきた頃には誰も何も言わなかった。
 ダンジョンの入り口に着くと、ジョンが振り返って前に居たパーティーから順番に入っていくよう指示をしてきた。
 最初のパーティーはかなりビビっていたが、どうにか護衛役の騎士達が宥めて、やがてゆっくりとダンジョンの中へ入って行った。
 それからはまた一つ一つ、ゴネる人も嫌がる人も出ずスムーズに進んでいき、とうとう颯太達のパーティーの番がきた。
 皆緊張しているのか誰も口を開かないので、颯太は先に護衛役の騎士の人達と挨拶を交わす。

「はじめまして、颯太と言います。今日はよろしくお願いします」
「あ、ああ、よろしく。私はケイト。剣士で、主に前衛を務める」
「俺はナイルだ。俺は重戦士だから、ケイトと同じ前衛」
「フェアンという。私は付与魔術師。後衛だ」

 三人はにこやかに対応してくれた。
 颯太は三人の騎士達を見てホッとした。
 国王や大臣達から感じた嫌な感じはしなかった。
 安心して戦いに挑む事が出来そうだ。
 ふとケイトが訊ねてきた。

「君がこのパーティーのリーダーか?」
「いえ、俺は違いますよ。リーダーはこの、政人です」

 颯太は政人を指して、三人の前に引っ張り出した。
 政人は驚いて颯太に抗議しようとしたが、騎士達に注目されてしまったので緊張で口が開かず、勢いよく頭を下げるしか出来なかった。

「ごめんなさい。緊張が解けてないみたいで」
「いや、問題ない」
「それにしても、ソータ君は落ち着いているね。…新人の騎士達は、大体マサト君と同じような反応をして、自己紹介など出来ないのに…」

 最後の方の言葉は小さく、政人をからかって笑っている颯太の耳には届かなかった。
 そんな颯太に、フェアンは感心した視線を向ける。
 ダンジョンで行うのは実戦。
 下手をすれば命の危険さえあるのだ。
 それを前に緊張など微塵も感じずに、平然と挨拶をしてきた颯太に騎士達三人は内心驚いていた。

 『この子はできる』

 それが三人の颯太への第一印象だった。
 昔祖父に夜のジャングルの中、木刀一本で放り込まれた事がある颯太にとって、これぐらいどうってことはないが、まさかそれで三人に一目置かれるとは思っていなかった為、彼らの視線には気付かない。
 唯一の救いは、彼らが国王達の考えには反対していることだ。
 結果として颯太の実力が国に知られることはない。

「次のパーティー!」

 ジョンの声が飛んできた。
 即座に颯太は周囲に警戒を配り、パーティーの皆はビクッと肩を震わせ、騎士達も顔を引き締めた。

「さあ、行くぞ」
「しっかり着いて来いよ」
「離れたら大変だからね」
「はい」

 先頭のケイトに続いて、ナイル、フェアン、颯太、政人達の順にダンジョンに足を踏み入れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...