陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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第一章 冒険者

第五話 町と出来事と②

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 その後男は、駆け寄ってきた門兵達に縛り上げられ連行されて行った。
 初っ端から目立ってしまった為、早々に退散しようとしていた颯太だったが、男を捕まえてくれた当事者ということで門兵に呼び止められ、シエルと一緒に関所に案内された。
 とはいえ、大勢の民衆と門兵二人の目の前で起こった事なので、長々とした事情説明などは省かれ、簡単な報告書作りと少しの謝礼を受け取るだけで、すぐに解放されることとなった。
 一応監視として部屋に居るのは、あの時の二人の門兵だった。
 二人には、もう最初の門を通る時に感じたピリピリとした雰囲気はなく、不法侵入者を早々に捕まえてくれた少年への尊敬と感謝の念がひしひしと伝わってきた。
 しかし、はっきりとした会話が成されているわけではないので、暫く経つと徐々に気不味くなる。
 シエルは門兵と、というより、人とコミュニケーションを取ることに抵抗がある。
 いくら側に、現在唯一安心して接することが出来る相手である颯太が居るとしても、積極的に場を盛り上げるようなことは出来ない。
 そんな様子を見て、颯太はどうせなら、と彼らに質問した。

「あの、待っている間、この町のことをよく知っていると思われる貴方達に質問してもよろしいですか?」

 一兵士如き自分達は、こんなかしこまった言葉遣いをされた経験がなかった為、少々面を食らった。
 だが門兵達は気を取り直して対応する。

「えっ、と…そんな丁寧な言葉を使わなくても良いぞ?俺達は、一兵士にすぎないからな」
「そうだな。そんな貴族様方が使うような言葉で話されると、変な感じする」
「…そう、ですか?」

 言われて颯太は少し考える素振りをする。
 崩して良いと言われても、いきなりタメ口を使うのは印象を悪くしてしまうだろう。

「じゃあ、少し言葉を崩しますね。とは言っても、兵士さん達は僕より年上だし、どの程度崩して良いのやら…」

 颯太なりに加減をしたつもりだったが、まだ少し堅かったようで門兵達は微妙な顔をした。

「まあ、いずれ慣れてくれれば良いよ」
「そうだな。あ、俺はヤック。ここの門番を任されて5年ぐらいなんだ。よろしく」
「俺はミハイル。ヤックと同期で、門番を任された期間も同じくらいさ」

 門を通った時右に居て、主に入場料を受け取っていたのがミハイルで、左に居て善悪の水晶を持っていたのがヤックというらしい。
 颯太も会釈を返した。

「僕は颯太です。こっちは、妹のシエル。人見知り…というより、事情があって人と接することに抵抗があるんです」

 そう言うと、ヤックとミハイルの二人は眉をひそめた。
 一瞬意味が分からなかったのだ。
 颯太がシエルについて、単なる人見知りという訳ではない、とわざわざと訂正したのには理由がある。
 ワットにはああ言ったが、それはこの先、そう多く関わることのなさそうな相手だからこその返答だった。
 たった数分間の会話を交わしただけの相手に、こちらの事情の深いところまでは悟られないだろう。
 だがヤックやミハイルのような、町を出入りする度に顔を合わせる相手ならば、これから関わってくる中で“兄妹”という設定が使えなくなる可能性がある。
 なので、下手なことを訊かれる前に先手を打ったのだ。
 小さく幼気いたいけな少女が心に傷を負うような出来事。
 これを聞いても尚、ズケズケと相手の懐に土足で踏む入るような真似をしてくる輩は、人の気持ちを考えない馬鹿か、自分の興味や好奇心だけで行動を決めてしまう阿呆のどちらかだ。
 もし彼らがそんな連中なら、颯太はさっさと縁を切るつもりでもあった。
 しかし、二人の反応から見てそれはなさそうだ。
 シエルも颯太の発言に驚きはしたものの、特に気にした様子もない。
 門兵達はそれ以上二人に事情には触れず、すぐに本題に入ってくれた。

「それで、質問って何だ?」
「冒険者について、教えていただけませんか?」

 そう答えると、ミハイルが意外そうな表情で聞き返してきた。

「冒険者?ソータ君は冒険者になるのか?」
「はい。これでも一応戦えますからね」
「ソータはー……魔術師か?」
「…ええ、まあ。そんなところです」

 言葉に迷ったのか少々間があったが、ヤックは颯太のことを魔術師だと思ったらしい。
 颯太も否定はしない。
 間違ってはいないのだから。
 颯太は良く言えば男性にしては細身の方、悪く言えば女性のように華奢な体付きだ。
 一見すると颯太はとても細く、力などないように見えるが全くそういうことはない。
 腕力だけでも相当ある方だ。
 魔法などない元の世界では、颯太が武術の達人であることはほとんど誰にも気付かれなかった。
 それなりに魔法を行使でき、武器の使用又は素手での近接戦もできるオールラウンダー。
 そんな人物はほぼいない。
 だからヤック達は気付かないが颯太に隠す気はないので、いずれ話すことになるだろうな、と思いながら颯太は頷く。

「いいなぁ。俺は魔法使えねぇから羨ましいぜ。あ、ちなみに属性は?」
「火と風です」
二属性ダブルなのか。俺と同じだな」
「ミハイルさんは何属性なんですか?」
「水と土さ」

 そんな感じで話していると部屋の扉が開かれ、一人の兵士が謝礼の入った袋を持って来た。

「待たせたな。これが今回の謝礼だ」

 ヤック達とは違った、強者つわものの風格を持つ髭面のその兵士は、ややぶっきらぼうに颯太に袋を放って寄越した。

「ありがとうございます。しかし、別に謝礼なんて…」
「良いから受け取ってくれ。不意を付かれたとはいえ、仮にも国を守る兵士が捕まえられなかった侵入者を捕まえてくれたんだ。まあ、こちらからの口止め料と思ってくれ」

 身も蓋もない言い回しに、門兵二人は自分達の失態に思わず顔を顰め、シエルは目を丸くして驚いた。
 颯太も驚いたが、こういう人は嫌いじゃない。

「そういうものですか」
「そういうもんだ」
「分かりました。では、ありがたく頂戴します。そろそろ僕達はおいとまさせて頂きますね」

 颯太はニコッと笑って、袋をマジックバッグの中に詰め立ち上がった。
 シエルも置いて行かれないように慌てて立ち上がって、颯太に追随するように後を追いかけた。

「…兄ちゃん、あんた名前は?」

 ドアノブに手をかけて部屋を出ようとしたところで、髭面の兵士が颯太に問うた。
 颯太は半身だけ振り返って、髭面の兵士と視線が交差させる。
 たっぷりと間を置いて、颯太はゆっくりと答えた。

「…颯太です。こっちは…「聞いたのは兄ちゃんのだけだ」…そうですか」

 いつも通りシエルのことも紹介しようとしたが、髭面の兵士は手を振って先の言葉を遮る。
 颯太は確信した。
 この人はあの騎士団長以上の猛者だ、と。
 やがて髭面の兵士も名乗った。

「俺はオズワルド。ここの門番を務めて、もう20年ぐらいになる」
「20年?」
「それが何だ?」
「…いや、何でもありません」

 思わず聞き返してしまった颯太だったが、オズワルドと名乗った兵士が嘘をついているようにも見えず笑って誤魔化す。
 それ以上の会話はなく、颯太はオズワルドに頭を下げ、シエルの手を引いて部屋を出て行った。

「失礼しました」

 バタンッ!

~~

「……」
「?」

 関所を出るまでの道のりで、颯太は一言も喋らない。
 不思議に思ったシエルが颯太の顔を覗き込んだ時と、颯太は笑っていた。

(全く食えないおっさんだな。ありゃ、かなり面倒だけど面白そうだ)

 颯太はシエルの心配そうな視線に気が付き、すぐに不敵な笑みを引っ込めた。
 謝罪の意味を込めて優しい微笑みを浮かべ、シエルの頭を撫でやり、町の街道まで手を繋いで歩いて行った。

_____

 同時刻、関所では…

「オズワルドさん、どうしたんですか?」

 オズワルドは顔を手で覆い、天井を仰いでいた。
 ヤック達からはオズワルドの表情は見えなくて、二人は少し心配していたが、オズワルドは徐々に声を大きくして笑い始めた。
 今度は別の意味で心配になった二人に、オズワルドはのんびりとした声音で尋ねる。

「お前ら、あの兄ちゃんの事、どう見る?」

 質問の意図が分からず首を傾げるが、ミハイルから答えていく。

「あの兄ちゃんってソータ君のことですか?礼儀正しくて優しい子ですよね」
二属性ダブルの魔術師だって言ってました」
「本当にか?」
「「?」」
「本人の口から『自分は魔術師です』って言ってたか?」

 言われて二人はハッとした。

「「!」」
「お前らのどっちかが聞いたんじゃねぇのか?『魔術師なのか』って」

 二人はここに来て漸く気付いたのだ。
 見た目で颯太を魔術師だと思い込んでいた事に。
 彼は決して断言してはいなかった事に。
 オズワルドは、一見少女と見紛う程に華奢で綺麗な顔立ちをした、それでも油断ならない何かがあると感じさせられた少年の姿を思い浮かべ、少年ように無邪気に笑う。

(全く食えねぇ坊主だな。ありゃ、底が知れねぇぞ)

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