王太子様の最愛は、王女様でも聖女様でもなく洗濯女らしい

日向

文字の大きさ
1 / 11

1.隣国の王太子

しおりを挟む
 ここはノームサリア王国。
 魔法四大属性の内、土の精霊を信仰する世界第三位の国土を持つ国。

 そんな大国に、数ヵ月前から留学している青年がいた。
 名はウィリアム・リィン・サラマンダー。
 火の精霊を信仰する世界一の国土を持つ国、サラマンドラ王国の王太子だ。

 友好国であるノームサリア王国に、何年か滞在して色々な事を学んで来いと父に命じられたとはいえ、ウィリアムはものの数ヵ月で限界を迎えそうであった。

 理由はいくつかある。

 まず、学ぶ事がない。
 この国の重鎮達は、自分の利益や地位向上の事しか頭がないのか、隣国から留学してきたウィリアムをどうにか取り込もうとしてくる。
 朝起きてから朝食とるまでの間に、三件の見合い話を持ち込まれるのは、些かげんなりしてしまう。
 ここから国の統治の為に、何を学べば良いというのだ。

 それに、ノームサリア王国の王女エリノラや聖女レニアを筆頭とした女性達のアプローチがキツい。
 ある時は食事をしている間中ずっと腕にくっつかれ、またある時は夜中に複数人の女達が夜這いに来た。
 これはウィリアムの気力を根こそぎ削り取る最大の要因でもあるのだが、友好国の王族である為に強く拒絶は出来ず、やんわりと拒否しても気付いてくれない。

 更に彼らは、揃いも揃って人の話をまともに聞こうとしない。
 ウィリアムは頭が痛くなった。

 思い切って、自国に帰れないのかと側近のフィリップに尋ねても、フィリップからは決まって「留学期間は三年です」と青い顔で言われる。
 彼も大分無理をしているのだろう。
 日を重ねるごとに、彼の目の下の隈が濃くなっている。
 女の姿を視界に入れる度に彼の顔が引き攣っているところを見ると、女達の魔の手は従者にも及んでいるようだ。
 ウィリアムの苦悩は計り知れない。



~~


 ある日の事、昼食を取り終えてさっさと自室に戻ろうと早足で廊下を歩くウィリアムを、後ろから甘ったるい声でエリノラが呼び止めてくる。

「お待ち下さい、ウィリアム様!この後、よろしければわたくしと二人きりでお話しませんか?」

(真っ平御免だ。誰がこんな女と)

 内心悪態をつきながら、聞こえないフリを貫き通して歩みを進めるウィリアム。

 昼食会場を出る時、フィリップはまた別の女に捕まっており、二人は早々にバラバラにされた。
 フィリップが居てくれたら、お得意の作り笑顔でサラリと嘘の予定を立てて逃げ出せるものだが、今はその方法を封じられている。

(このままでは埒が明かないな)

 この調子では、多分自室に戻れたとしてもまた別の心配が出てくる上に、いつまで経ってもエリノラを振り切れない。
 安息の時を求めるウィリアムにとって、今のエリノラは魔王にも等しき厄災だった。
 顔を見るのも言葉を交わすのも虫唾が走る程嫌だったが、このままどこまでも付き纏われるのは迷惑だ。

 ウィリアムは歩みを止め、何とか溢しそうな溜息を飲み込み、人当たりの良さそうな笑顔を顔に貼り付けて振り返る。

「…どうかされましたか?エリノラ殿」
「エリノラ、とお呼びくださいと何度も申していますわよ?ウィリアム様、ですわ」

 いけず、を強調し、当たり前のように腕に絡みついてくるエリノラ。
 腕に当たる柔らかい感触とこれまた甘ったるい匂いに、思わず振り払いたくなる衝動を必死で抑えながらウィリアムは言葉を続ける。

「…用がないのならば、私はこれで」
「ああ、待ってくださいまし!この後、庭園の方でお茶でも如何ですか?勿論、私とで…」

 うっとりとした顔を向けてくるエリノラ。
 その瞳は自信に満ち溢れていた。
 まるで「自分のこの顔を見て、落ちない者はいない!」とでも豪語しているかのようだ。
 ウィリアムは更に強い吐き気に襲われた。

(…限界だっ!)
「すみません、忙しいので私はこれで」

 矢継ぎ早にそう言い残して、ウィリアムはエリノラの拘束を解き走って逃げる。
 エリノラは悔しそうに歯噛みして、走り去るウィリアムの背中を目で追っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...