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1.隣国の王太子
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ここはノームサリア王国。
魔法四大属性の内、土の精霊を信仰する世界第三位の国土を持つ国。
そんな大国に、数ヵ月前から留学している青年がいた。
名はウィリアム・リィン・サラマンダー。
火の精霊を信仰する世界一の国土を持つ国、サラマンドラ王国の王太子だ。
友好国であるノームサリア王国に、何年か滞在して色々な事を学んで来いと父に命じられたとはいえ、ウィリアムはものの数ヵ月で限界を迎えそうであった。
理由はいくつかある。
まず、学ぶ事がない。
この国の重鎮達は、自分の利益や地位向上の事しか頭がないのか、隣国から留学してきたウィリアムをどうにか取り込もうとしてくる。
朝起きてから朝食とるまでの間に、三件の見合い話を持ち込まれるのは、些かげんなりしてしまう。
ここから国の統治の為に、何を学べば良いというのだ。
それに、ノームサリア王国の王女エリノラや聖女レニアを筆頭とした女性達のアプローチがキツい。
ある時は食事をしている間中ずっと腕にくっつかれ、またある時は夜中に複数人の女達が夜這いに来た。
これはウィリアムの気力を根こそぎ削り取る最大の要因でもあるのだが、友好国の王族である為に強く拒絶は出来ず、やんわりと拒否しても気付いてくれない。
更に彼らは、揃いも揃って人の話をまともに聞こうとしない。
ウィリアムは頭が痛くなった。
思い切って、自国に帰れないのかと側近のフィリップに尋ねても、フィリップからは決まって「留学期間は三年です」と青い顔で言われる。
彼も大分無理をしているのだろう。
日を重ねるごとに、彼の目の下の隈が濃くなっている。
女の姿を視界に入れる度に彼の顔が引き攣っているところを見ると、女達の魔の手は従者にも及んでいるようだ。
ウィリアムの苦悩は計り知れない。
~~
ある日の事、昼食を取り終えてさっさと自室に戻ろうと早足で廊下を歩くウィリアムを、後ろから甘ったるい声でエリノラが呼び止めてくる。
「お待ち下さい、ウィリアム様!この後、よろしければ私と二人きりでお話しませんか?」
(真っ平御免だ。誰がこんな女と)
内心悪態をつきながら、聞こえないフリを貫き通して歩みを進めるウィリアム。
昼食会場を出る時、フィリップはまた別の女に捕まっており、二人は早々にバラバラにされた。
フィリップが居てくれたら、お得意の作り笑顔でサラリと嘘の予定を立てて逃げ出せるものだが、今はその方法を封じられている。
(このままでは埒が明かないな)
この調子では、多分自室に戻れたとしてもまた別の心配が出てくる上に、いつまで経ってもエリノラを振り切れない。
安息の時を求めるウィリアムにとって、今のエリノラは魔王にも等しき厄災だった。
顔を見るのも言葉を交わすのも虫唾が走る程嫌だったが、このままどこまでも付き纏われるのは迷惑だ。
ウィリアムは歩みを止め、何とか溢しそうな溜息を飲み込み、人当たりの良さそうな笑顔を顔に貼り付けて振り返る。
「…どうかされましたか?エリノラ殿」
「エリノラ、とお呼びくださいと何度も申していますわよ?ウィリアム様、いけずですわ」
いけず、を強調し、当たり前のように腕に絡みついてくるエリノラ。
腕に当たる柔らかい感触とこれまた甘ったるい匂いに、思わず振り払いたくなる衝動を必死で抑えながらウィリアムは言葉を続ける。
「…用がないのならば、私はこれで」
「ああ、待ってくださいまし!この後、庭園の方でお茶でも如何ですか?勿論、私と二人きりで…」
うっとりとした顔を向けてくるエリノラ。
その瞳は自信に満ち溢れていた。
まるで「自分のこの顔を見て、落ちない者はいない!」とでも豪語しているかのようだ。
ウィリアムは更に強い吐き気に襲われた。
(…限界だっ!)
「すみません、忙しいので私はこれで」
矢継ぎ早にそう言い残して、ウィリアムはエリノラの拘束を解き走って逃げる。
エリノラは悔しそうに歯噛みして、走り去るウィリアムの背中を目で追っていた。
魔法四大属性の内、土の精霊を信仰する世界第三位の国土を持つ国。
そんな大国に、数ヵ月前から留学している青年がいた。
名はウィリアム・リィン・サラマンダー。
火の精霊を信仰する世界一の国土を持つ国、サラマンドラ王国の王太子だ。
友好国であるノームサリア王国に、何年か滞在して色々な事を学んで来いと父に命じられたとはいえ、ウィリアムはものの数ヵ月で限界を迎えそうであった。
理由はいくつかある。
まず、学ぶ事がない。
この国の重鎮達は、自分の利益や地位向上の事しか頭がないのか、隣国から留学してきたウィリアムをどうにか取り込もうとしてくる。
朝起きてから朝食とるまでの間に、三件の見合い話を持ち込まれるのは、些かげんなりしてしまう。
ここから国の統治の為に、何を学べば良いというのだ。
それに、ノームサリア王国の王女エリノラや聖女レニアを筆頭とした女性達のアプローチがキツい。
ある時は食事をしている間中ずっと腕にくっつかれ、またある時は夜中に複数人の女達が夜這いに来た。
これはウィリアムの気力を根こそぎ削り取る最大の要因でもあるのだが、友好国の王族である為に強く拒絶は出来ず、やんわりと拒否しても気付いてくれない。
更に彼らは、揃いも揃って人の話をまともに聞こうとしない。
ウィリアムは頭が痛くなった。
思い切って、自国に帰れないのかと側近のフィリップに尋ねても、フィリップからは決まって「留学期間は三年です」と青い顔で言われる。
彼も大分無理をしているのだろう。
日を重ねるごとに、彼の目の下の隈が濃くなっている。
女の姿を視界に入れる度に彼の顔が引き攣っているところを見ると、女達の魔の手は従者にも及んでいるようだ。
ウィリアムの苦悩は計り知れない。
~~
ある日の事、昼食を取り終えてさっさと自室に戻ろうと早足で廊下を歩くウィリアムを、後ろから甘ったるい声でエリノラが呼び止めてくる。
「お待ち下さい、ウィリアム様!この後、よろしければ私と二人きりでお話しませんか?」
(真っ平御免だ。誰がこんな女と)
内心悪態をつきながら、聞こえないフリを貫き通して歩みを進めるウィリアム。
昼食会場を出る時、フィリップはまた別の女に捕まっており、二人は早々にバラバラにされた。
フィリップが居てくれたら、お得意の作り笑顔でサラリと嘘の予定を立てて逃げ出せるものだが、今はその方法を封じられている。
(このままでは埒が明かないな)
この調子では、多分自室に戻れたとしてもまた別の心配が出てくる上に、いつまで経ってもエリノラを振り切れない。
安息の時を求めるウィリアムにとって、今のエリノラは魔王にも等しき厄災だった。
顔を見るのも言葉を交わすのも虫唾が走る程嫌だったが、このままどこまでも付き纏われるのは迷惑だ。
ウィリアムは歩みを止め、何とか溢しそうな溜息を飲み込み、人当たりの良さそうな笑顔を顔に貼り付けて振り返る。
「…どうかされましたか?エリノラ殿」
「エリノラ、とお呼びくださいと何度も申していますわよ?ウィリアム様、いけずですわ」
いけず、を強調し、当たり前のように腕に絡みついてくるエリノラ。
腕に当たる柔らかい感触とこれまた甘ったるい匂いに、思わず振り払いたくなる衝動を必死で抑えながらウィリアムは言葉を続ける。
「…用がないのならば、私はこれで」
「ああ、待ってくださいまし!この後、庭園の方でお茶でも如何ですか?勿論、私と二人きりで…」
うっとりとした顔を向けてくるエリノラ。
その瞳は自信に満ち溢れていた。
まるで「自分のこの顔を見て、落ちない者はいない!」とでも豪語しているかのようだ。
ウィリアムは更に強い吐き気に襲われた。
(…限界だっ!)
「すみません、忙しいので私はこれで」
矢継ぎ早にそう言い残して、ウィリアムはエリノラの拘束を解き走って逃げる。
エリノラは悔しそうに歯噛みして、走り去るウィリアムの背中を目で追っていた。
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******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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