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2.王太子と洗濯女
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「…はぁ…」
その青年、ウィリアムは今までの疲れを表すかのような盛大な溜息を吐き出す。
フィリップがこの場に居れば、「だらしないですよ」と怒られているところだが、今はその彼さえもどこぞの令嬢から逃げている最中だ。
故に今のウィリアムの行動を戒める人物は居ない。
金髪碧眼のイケメンが草むらの茂みに三角座りしている光景というのは、見た人が思わず二度見するだろうと考えてしまう程、あまりにもシュールだった。
しかしウィリアムが居るのは、ほとんどの貴族達なら絶対に自ら進んで行こうとはしない、平民の集まり…言わば城の下っ端が働いている所なのだ。
そんな場所なら盲点だろうと逃げ込んだ訳だが、ウィリアムはここの空気を気に入り始めていた。
(良い所だな…落ち着く…)
心地良い日の光を浴びて、ウトウトと微睡みかけた時。
不意に突風を吹き抜け、どこからか飛んできた白い布がウィリアムの顔に被さった。
「!?何だ!」
驚いて布を取り払ったウィリアム。
丁度茂みをかき分けてこちらに入ってきた、無表情なメイド服の女性と目が合う。
光に照らされて輝く、高い位置に結わえられた銀髪とその大きな紫色の瞳に目を奪われ、ウィリアムは固まってしまう。
(……美しい……)
女性はこんな所に人が居るとは思わなかったのか、少し驚いたように目を見開き、すぐに真顔に戻ってお辞儀をしてきた。
「休息時に申し訳御座いません。こちらで白い布を一枚、見ませんでしたか?」
あの無駄に甘ったるい声と匂いを放つ毒々しい王女とは正反対な、凛とした声と媚びるつもりなどないといった態度の女性。
そのお辞儀は見る人が見れば洗練されている、とても美しいと分かる程綺麗なものだった。
ウィリアムはハッとして立ち上がり、手に持っていた布を差し出す。
「これではないですか?先程飛んできたのですが…」
女性は差し出された布を暫く凝視し、やがて軽く頷くとウィリアムの手からその布を受け取った。
「見つけて下さった事に感謝致します」
布に付いた砂や草をその白く細い手で丁寧に払い落として四つ折りに畳む。
ウィリアムはその間、彼女の一つ一つの動作から目を離せなかった。
この国に来てから、今まで出会った女性のほとんどは自分に媚びを売ったり取り入ろうと画作してくる者ばかりで、こんな事務的なやり取りだけをするのは久しぶりだった。
再びお辞儀をしてこの場から立ち去ろうとする女性を、気づけば呼び止めていた。
「あ、あの!貴女のお名前は?」
声に反応して振り返った女性は少し考える素振りをしてから、真っ直ぐにウィリアムに向き直り口を開いた。
「お初にお目にかかります。私はこの城の洗濯係を務めさせて頂きます、フローレンスと申します」
「…フローレンス、か…綺麗な、お名前ですね」
他の女性が見れば赤面必至の、はにかむような笑みをウィリアムから向けられたにも関わらず、フローレンスと名乗った女性は無表情のまま礼を言う。
「お褒めに預かり恐悦至極にございます」
「私は…」
自身も名乗りを上げようとしたが、フローレンスが更に言葉を続けた。
「サラマンドラ王国の王太子殿下であらせられる、ウィリアム・リィン・サラマンダー様でいらっしゃいますよね。存じ上げております」
「知、っていたのですか?」
「ええ。我が城のお客様ですから」
フローレンスは、自分が王太子と分かっていた上で事務的な態度を崩さなかったのだ。
ウィリアムは自分の心が高ぶるのが分かった。
「それでは、私は仕事がありますので」
失礼します、と今度こそ本当に立ち去ろうとするフローレンスに、ウィリアムは慌てて言葉を投げる。
「また明日!ここで会えませんか!?」
振り返ってくれることはなかったが、去り際にその首がコクリと縦に揺れるのを見たウィリアムは、久しぶりに本当の笑みを浮かべ、思わずガッツポーズをした。
その青年、ウィリアムは今までの疲れを表すかのような盛大な溜息を吐き出す。
フィリップがこの場に居れば、「だらしないですよ」と怒られているところだが、今はその彼さえもどこぞの令嬢から逃げている最中だ。
故に今のウィリアムの行動を戒める人物は居ない。
金髪碧眼のイケメンが草むらの茂みに三角座りしている光景というのは、見た人が思わず二度見するだろうと考えてしまう程、あまりにもシュールだった。
しかしウィリアムが居るのは、ほとんどの貴族達なら絶対に自ら進んで行こうとはしない、平民の集まり…言わば城の下っ端が働いている所なのだ。
そんな場所なら盲点だろうと逃げ込んだ訳だが、ウィリアムはここの空気を気に入り始めていた。
(良い所だな…落ち着く…)
心地良い日の光を浴びて、ウトウトと微睡みかけた時。
不意に突風を吹き抜け、どこからか飛んできた白い布がウィリアムの顔に被さった。
「!?何だ!」
驚いて布を取り払ったウィリアム。
丁度茂みをかき分けてこちらに入ってきた、無表情なメイド服の女性と目が合う。
光に照らされて輝く、高い位置に結わえられた銀髪とその大きな紫色の瞳に目を奪われ、ウィリアムは固まってしまう。
(……美しい……)
女性はこんな所に人が居るとは思わなかったのか、少し驚いたように目を見開き、すぐに真顔に戻ってお辞儀をしてきた。
「休息時に申し訳御座いません。こちらで白い布を一枚、見ませんでしたか?」
あの無駄に甘ったるい声と匂いを放つ毒々しい王女とは正反対な、凛とした声と媚びるつもりなどないといった態度の女性。
そのお辞儀は見る人が見れば洗練されている、とても美しいと分かる程綺麗なものだった。
ウィリアムはハッとして立ち上がり、手に持っていた布を差し出す。
「これではないですか?先程飛んできたのですが…」
女性は差し出された布を暫く凝視し、やがて軽く頷くとウィリアムの手からその布を受け取った。
「見つけて下さった事に感謝致します」
布に付いた砂や草をその白く細い手で丁寧に払い落として四つ折りに畳む。
ウィリアムはその間、彼女の一つ一つの動作から目を離せなかった。
この国に来てから、今まで出会った女性のほとんどは自分に媚びを売ったり取り入ろうと画作してくる者ばかりで、こんな事務的なやり取りだけをするのは久しぶりだった。
再びお辞儀をしてこの場から立ち去ろうとする女性を、気づけば呼び止めていた。
「あ、あの!貴女のお名前は?」
声に反応して振り返った女性は少し考える素振りをしてから、真っ直ぐにウィリアムに向き直り口を開いた。
「お初にお目にかかります。私はこの城の洗濯係を務めさせて頂きます、フローレンスと申します」
「…フローレンス、か…綺麗な、お名前ですね」
他の女性が見れば赤面必至の、はにかむような笑みをウィリアムから向けられたにも関わらず、フローレンスと名乗った女性は無表情のまま礼を言う。
「お褒めに預かり恐悦至極にございます」
「私は…」
自身も名乗りを上げようとしたが、フローレンスが更に言葉を続けた。
「サラマンドラ王国の王太子殿下であらせられる、ウィリアム・リィン・サラマンダー様でいらっしゃいますよね。存じ上げております」
「知、っていたのですか?」
「ええ。我が城のお客様ですから」
フローレンスは、自分が王太子と分かっていた上で事務的な態度を崩さなかったのだ。
ウィリアムは自分の心が高ぶるのが分かった。
「それでは、私は仕事がありますので」
失礼します、と今度こそ本当に立ち去ろうとするフローレンスに、ウィリアムは慌てて言葉を投げる。
「また明日!ここで会えませんか!?」
振り返ってくれることはなかったが、去り際にその首がコクリと縦に揺れるのを見たウィリアムは、久しぶりに本当の笑みを浮かべ、思わずガッツポーズをした。
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