王太子様の最愛は、王女様でも聖女様でもなく洗濯女らしい

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3.女性

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 その後、何とか令嬢の追尾を振り切ったフィリップと合流したウィリアムは、残りの執務を片付ける間中、ずっとフローレンスのことを考えていた。

「…はぁ…」

 つい数時間前とは違った意味合いの溜息を漏らすウィリアムの頭を、フィリップはピシャリと書類ではたいた。

「先程から溜息ばかりついて、全く手が動いていませんよ?くれぐれもお急ぎください」
「あ、ああ。すまない」
「…全く、あんなハイエナ共に毎日毎日追いかけ回されなければ、さっさと片付いているものを…」

 美形が決して見せてはいけないであろう邪悪な顔をするフィリップ。

 ハイエナ共、というのは勿論この城の女達の事だ。
 ウィリアムはそんなフィリップの様子に苦笑する。

「落ち着けフィリップ。苛ついていては仕事にならないんだろう?」
「分かっています。…しかしウィリアム様、随分と晴れ晴れしたお顔をしていらっしゃいますが、どうかされましたか?」
「顔に出ていたか?」

 気づかなかったのか、とフィリップは内心自分の主に呆れてしまった。

 今のウィリアムの顔は、誰が見ても上機嫌であることが分かる程のもので、しかも顔だけに留まらず、声音にも雰囲気にも出ている。
 ここ数ヵ月間滞在していて、主も自分も気力体力ともに疲弊させられるこの場所で、彼の心を癒やす要素があるとは到底思えなかったフィリップにとっては仰天ものだった。

「…一応何があったのか尋ねても?」
「……とても、美しい女性にあった」
「……………………………………はっ?」

 まさか今一番煩わしい、女性関係だとは思ってもみなかったフィリップ。
 本人もびっくりの間抜けな声が出る。

 フィリップは慌てて咳払いをし、気を取り直して再び尋ねた。

「女性、ですか?」
「ああ。とは言っても、あの王女や聖女なんかとは違うぞ。俺が王子と知っているのに媚びることなく、寧ろ微笑んでくれることもなかったが、とても礼儀正しい方だった」
「……」

 これもまた驚きだった。
 ウィリアムはかなり顔立ちの整った美青年の部類なのもあり、自国でも多くの女達から好意を寄せられている。
 ノームサリア王国の女達は露骨すぎるが、サラマンドラ王国でもささやかなアプローチは結構あるのだ。

 そんな彼に微笑みもしない女性など、フィリップの記憶にはない。
 彼はウィリアムが絶賛する女性に興味が湧いた。

 今のところウィリアムには婚約者がいない。
 理由は至極単純に、本人が気に入る女性がいなかったからだ。
 そんな彼が気に入った相手がもし良ければ、是非これから先も主の清涼剤となり、主を支えてほしい。
 あわよくば…

(いや、まだ気が早いか…)

 フィリップは軽く頭を振って、今しがた浮かんだ淡い願いを打ち消した。

「私も是非一度お会いしたいですね」

 フィリップがそう言うと、今度はウィリアムが驚いたように目を見開いた。
 だがそれはほんの一瞬で、すぐに自分の仕事に戻ったフィリップは気付かなかった。

「…そうだな」

 それだけ答えて執務に戻ったウィリアムの心は、胸の奥にモヤモヤとしたものが燻っていたが、彼にとっては初めての感情でそれが何かは分からなかった。



~~

 翌日、ウィリアムはいつものように、鬱陶しい女達やしつこい重鎮達に囲まれながらも早々はやばやと朝食を済ませると、ぐるぐると城内を回って彼らを撒き、昨日フローレンスに出会った茂みに赴いた。

 まだフローレンスは来ていなかったが、ぽかぽかと心地良い日差しに当てられてウィリアムは思わず欠伸あくびをする。

「こんな所で欠伸など、はしたないですよ」
「!?」

 突然後ろから聞き慣れた声が響き、ウィリアムは驚いて振り返る。

 案の定そこに居たのはフィリップだった。

「なんでここに!?お前を取り巻いていた令嬢達はどうした!?」
「貴方と、同じですよ」

 少し息が上がり所々服が乱れているので、恐らくウィリアムの行き先を突き止める為に、彼も全力で周りの人間を振り切ってきたのだろう。
 いつもなら称賛し労うところだが、今は何故か、この場にフィリップが居ることが気に食わなかった。

「…何故来た」

 声が若干不機嫌な主に、フィリップは乱れた服と息を整えながら答える。

「我が主の心を癒やしてくださった女性に、お礼とご挨拶をと思いまして」
「…そんなのいらない。帰れ」
「いけませんよ。礼儀がなっていないと思われます」
「……」

 言い包められてプイッとそっぽを向くウィリアム。

 まだまだ子どもっぽいところが多々ある主だが、フィリップにとっては大事な主君だ。
 もしウィリアムの言う女性が、腹に一物ある不貞の輩ならば即刻排除するつもりでもあるのだ。

 座り込むウィリアムの斜め後ろにフィリップは控えた。


 それから暫くもしない内に、ガサガサと草の揺れる音が聞こえ、高い位置で結わえられた銀髪のメイド服の女性が姿を現した。

(…彼女は…?)

 フィリップは内心首を傾げた。

 だがウィリアムはその場から勢いよく立ち上がり、心なしか緩んだ表情でその女性に話しかけた。

「フローレンス!」
「!」
(…では、あの方が…)

「おはようございます、ウィリアム王太子殿下」

 その女性…フローレンスは、昨日と同じ無表情のまま挨拶をして綺麗なお辞儀をした。

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