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9.反射
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ウィリアムは今、猛烈に苛立っていた。
原因は…現在進行形でウィリアムの右腕に絡み付いているエリノラだ。
彼女は執務があると言っても…
「ウィリアム様程の方なら、そのような書類、すぐに処理できますわ!」
とのことで、無理矢理執務室から引っ張り出されたのだ。
ウィリアムの本音としては、
(誰かさん達のおかげで、その時間すら奪われてんだよ)
である。
エリノラのこの行為はウィリアムにとって迷惑以上の何者でもない。
フィリップも斜め後ろをついて歩きながら、彼女に気づかれないように小さく溜息を漏らしている。
出来ることなら今すぐに腕を振りほどいてやりたいところだが、腐ってもエリノラはこの国の王女。
王太子である自分が無闇やたらに感情をぶつけて、国同士の関係悪化の火種を作りたくはない。
結局ウィリアムはエリノラの好きなようにさせ、いつもの人当たりの良い微笑みを顔に貼り付けて、何を言っているのかよく分からない彼女の言葉に相槌を打ち続けているのであった。
(…フィリップ、どうにかしてくれ…)
(…それは出来ない相談ですよ、ウィリアム様。今余計なことをすれば、この王女は機嫌を損ねます)
(っ、だが…)
ウィリアムとフィリップが、エリノラに気づかれないように目だけで会話をしていたところで、また彼女から声がかかる。
「ウィリアム様、聞いていらっしゃいます?」
「…ええ、勿論。どうかしましたか?」
顰めかけた顔をどうにか取り繕いながら振り向くと、上目遣いでこちらを見上げてくるエリノラは、彼に迷惑がられているなど露程にも思わぬ様子で言葉を続ける。
「どこか上の空のご様子でしたので…あら?ウィリアム様、御髪に埃が…」
「っ!?」
スッと突然伸ばされた彼女の腕に驚き、ウィリアムは思わずその手から逃れるように仰け反った。
そんな反応をされると思わなかったらしいエリノラが、行き場のない手を空には迷わせながら、厚化粧で不自然なまでに強調された目を大きく見開く。
ウィリアムは、今度こそ盛大に顔を顰めた。
(しまった…つい反射で…)
仰け反ったことで緩くなった腕の拘束を逃れ、ウィリアムはエリノラから距離をとって軽く頭を下げる。
「驚かせてしまって申し訳ありません。突然体に触れられるような事態は、私達にとっては、あってはならないことですので…」
ご理解下さい、ともっともらしい理由を述べるウィリアム。
しかし先程の反応は、見るものが見ればウィリアム自身のエリノラに触れられたくないという、気持ちの現れであるが分かるものだった。
(言い訳にしては苦しすぎるか?)
そう思い恐る恐るエリノラの様子を伺うが、彼女にそんなウィリアムの心情など分かるわけもなく、また自分が拒絶される筈がないという、どこから来ているのか分からない謎の自信がある為、彼の言葉を疑うことはしなかった。
「いえいえ!お気になさらずに!仕方のないことですもの!」
「それなら良かった」
(人の言葉を簡単に信用しすぎではないのか?)
脳内がお花畑らしいこの王女に、ウィリアムはこの国の未来が心配になった。
…そして、そんなウィリアムの心情を察して笑いを堪えきれずに、後ろを向いて密かに肩を震わせているフィリップを、彼は全力で見なかったことにした。
原因は…現在進行形でウィリアムの右腕に絡み付いているエリノラだ。
彼女は執務があると言っても…
「ウィリアム様程の方なら、そのような書類、すぐに処理できますわ!」
とのことで、無理矢理執務室から引っ張り出されたのだ。
ウィリアムの本音としては、
(誰かさん達のおかげで、その時間すら奪われてんだよ)
である。
エリノラのこの行為はウィリアムにとって迷惑以上の何者でもない。
フィリップも斜め後ろをついて歩きながら、彼女に気づかれないように小さく溜息を漏らしている。
出来ることなら今すぐに腕を振りほどいてやりたいところだが、腐ってもエリノラはこの国の王女。
王太子である自分が無闇やたらに感情をぶつけて、国同士の関係悪化の火種を作りたくはない。
結局ウィリアムはエリノラの好きなようにさせ、いつもの人当たりの良い微笑みを顔に貼り付けて、何を言っているのかよく分からない彼女の言葉に相槌を打ち続けているのであった。
(…フィリップ、どうにかしてくれ…)
(…それは出来ない相談ですよ、ウィリアム様。今余計なことをすれば、この王女は機嫌を損ねます)
(っ、だが…)
ウィリアムとフィリップが、エリノラに気づかれないように目だけで会話をしていたところで、また彼女から声がかかる。
「ウィリアム様、聞いていらっしゃいます?」
「…ええ、勿論。どうかしましたか?」
顰めかけた顔をどうにか取り繕いながら振り向くと、上目遣いでこちらを見上げてくるエリノラは、彼に迷惑がられているなど露程にも思わぬ様子で言葉を続ける。
「どこか上の空のご様子でしたので…あら?ウィリアム様、御髪に埃が…」
「っ!?」
スッと突然伸ばされた彼女の腕に驚き、ウィリアムは思わずその手から逃れるように仰け反った。
そんな反応をされると思わなかったらしいエリノラが、行き場のない手を空には迷わせながら、厚化粧で不自然なまでに強調された目を大きく見開く。
ウィリアムは、今度こそ盛大に顔を顰めた。
(しまった…つい反射で…)
仰け反ったことで緩くなった腕の拘束を逃れ、ウィリアムはエリノラから距離をとって軽く頭を下げる。
「驚かせてしまって申し訳ありません。突然体に触れられるような事態は、私達にとっては、あってはならないことですので…」
ご理解下さい、ともっともらしい理由を述べるウィリアム。
しかし先程の反応は、見るものが見ればウィリアム自身のエリノラに触れられたくないという、気持ちの現れであるが分かるものだった。
(言い訳にしては苦しすぎるか?)
そう思い恐る恐るエリノラの様子を伺うが、彼女にそんなウィリアムの心情など分かるわけもなく、また自分が拒絶される筈がないという、どこから来ているのか分からない謎の自信がある為、彼の言葉を疑うことはしなかった。
「いえいえ!お気になさらずに!仕方のないことですもの!」
「それなら良かった」
(人の言葉を簡単に信用しすぎではないのか?)
脳内がお花畑らしいこの王女に、ウィリアムはこの国の未来が心配になった。
…そして、そんなウィリアムの心情を察して笑いを堪えきれずに、後ろを向いて密かに肩を震わせているフィリップを、彼は全力で見なかったことにした。
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