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(第5話)証書と鋼鉄
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霞が関の朝は、無機質な石の色を際立たせるほどに晴れ渡っていた。
スーツに身を包んだ若い女性が、一歩一歩、ゆるやかな階段を登っていく。手には厚みのある封筒。右腕は機械の骨組みがむき出しになった義手で、左脚もまた、光沢のある義足が膝下から鋭利に伸びている。
ヒールが義足のソケットにぴたりと嵌まり、乾いた音を響かせるたび、彼女の姿勢はかえって安定して見えた。書類を渡し終えた係員が、ふとその義手に目をやり、次いで視線を逸らす。よくある反応だった。
「有馬沙都子さん、本日はよろしくお願いいたします」
うっすらと微笑んで一礼しながらも、彼女の眼差しは油断なく相手の表情を観察していた。驚き、困惑、あるいは興味本位。それらを内心で受け止めながら、彼女はすでに何百回と同じ場所に立ってきた。
彼女の職業は、福祉工学研究者。自らが設計に関与した義肢を装着し、自らの身体で試す生活はもう5年目に入っていた。ここへ来たのは、厚労省の委託で作成された新しい義肢支給制度案を説明するためだった。過去、書類の不備を理由に何度も却下され、自ら法改正を目指す立場になった。
国会参考人としての証言は初めてではない。けれど、今回は違った。制度の枠を設計したのも、名称を提案したのも、実証データを出したのも、すべて彼女自身だった。
つまり今日は、自分が誰かに定義される日ではなく、他者に「定義を示す日」だった。
会議室に入る直前、ガラスに映る自分の姿が視界に入った。黒のジャケット、膝上のスカート、フォーマルなパンプス。そして、機械の右腕と左脚。その対比は、奇妙なほど整っていた。
「見られることは、慣れますか?」
控室で同席した議員の一人が、ふと漏らすように言った。
「慣れることはありません。でも、慣れさせることはできます」
彼女はそう答え、背筋を伸ばす。
義肢の駆動音が小さく唸った。
やがて、名前が呼ばれた。彼女は立ち上がり、封筒を持ち直す。義足の膝がしなやかに動き、静かに歩き出す。
議場に響くのは、硬質なヒールの音。けれどそれは、拒絶でも主張でもない。ただ、前に進むための音だった。
スーツに身を包んだ若い女性が、一歩一歩、ゆるやかな階段を登っていく。手には厚みのある封筒。右腕は機械の骨組みがむき出しになった義手で、左脚もまた、光沢のある義足が膝下から鋭利に伸びている。
ヒールが義足のソケットにぴたりと嵌まり、乾いた音を響かせるたび、彼女の姿勢はかえって安定して見えた。書類を渡し終えた係員が、ふとその義手に目をやり、次いで視線を逸らす。よくある反応だった。
「有馬沙都子さん、本日はよろしくお願いいたします」
うっすらと微笑んで一礼しながらも、彼女の眼差しは油断なく相手の表情を観察していた。驚き、困惑、あるいは興味本位。それらを内心で受け止めながら、彼女はすでに何百回と同じ場所に立ってきた。
彼女の職業は、福祉工学研究者。自らが設計に関与した義肢を装着し、自らの身体で試す生活はもう5年目に入っていた。ここへ来たのは、厚労省の委託で作成された新しい義肢支給制度案を説明するためだった。過去、書類の不備を理由に何度も却下され、自ら法改正を目指す立場になった。
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「慣れることはありません。でも、慣れさせることはできます」
彼女はそう答え、背筋を伸ばす。
義肢の駆動音が小さく唸った。
やがて、名前が呼ばれた。彼女は立ち上がり、封筒を持ち直す。義足の膝がしなやかに動き、静かに歩き出す。
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