3 / 190
第一章 愛と家族
2.てをあげたのに、どうしてだきしめてくれないんだろう? Братья Карамазовы Млечный путь
しおりを挟む
わたくし、アイ・ミルヒシュトラーセが子供の時分からいつも感じていたのは、ある不思議だった。その疑問は、
――てをあげたのに、どうしてだきしめてくれないんだろう?
というものだった。それはいつも感ぜられる、例えば食卓で、居間でお庭でお外で。家族で集まっていると、よくシュヴェスターやエゴペーおねえさま、ゲアーターおにいさまが、お母様やお父様にだっこをせがんでいた。皆小さいので腰の近くまで行って両手を上に向かって伸ばす。そうすると、優しい笑みで、若しくは呆れ笑いと共に抱き上げてくれるらしいのだった。
それをみて、3才の私も愛する人の温もりを肌で感じたくて、
――ああすればだきしめてもらえるんだ!あいも!あいも!
と思って小さい歩幅でお母様の膝の方に駆けていった、そして両手を広げて、期待に満ち満ちた表情で待っていた。
――だがその瞬間は永遠に訪れなかった――。
お母様は忌々し気にわたくしを一瞥したのち他のきょうだいのほうへいってしまった。その時かもしれない、わたくしは彼らの形式上の家族の一員ではあるけれども、わたくしは彼らの家族ではないのだ、ということに気が付いたのは。あまりに遅く、気が付いてしまったのは。
◇◆◇
この時空には上から天国・煉獄・文学界・地獄という順に世界が存在している。リテラチュアと呼ばれる現世には、広大な大地と大海が広がっている。
その西の果て、極西は、早々に地獄資源の活用に乗り出し、長い歴史を誇るファンタジア王国が支配していた。
そのさらに西にあるパンドラ公国、ファンタジア王国の現王の子が君臨する公国ではあるが、統治する実権はミルヒシュトラーセ辺境伯爵家が握っている。この国は西の蛮族に対抗する為の緩衝国家として、ファンタジア王国の国王が自らの第二子を王に据え、ミルヒシュトラーセ辺境伯爵家をその武力として与え、作った国である。
当然その権威と権力は辺境伯爵よりも公国の王が優越する――はずだった。辺境伯が地獄から賢者の贈り物を見つけるまでは。
◇◆◇
それが見つかったのはミルヒシュトラーセ家邸宅の庭だった。見つけたのは、当時の名でアイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシネュトラーセ、当代のミルヒシュトラーセ家当主エレクトラの夫オイディプスと公妾サクラ・マグダレーナとの間にできた子だった。この醜聞は厳重に秘匿されたので、それを知るのはミルヒシュトラーセ家と近しい有力者に限られ、当人のアイですらそれを知らない。
まだ歩けもしないアイが庭で乳母からもエレクトラからも捨て置かれていた時、地獄語で「おー〇、○て○ーい!」という声が聞こえた。勿論アイにはその意味など介さぬところであったが、音がする方に這っていった。するとそこにはちいさな小石が落ちてあった。ふと上を見上げると、穴が開いている。地面に、ではなく空に、だ。
そこから一冊の本が落ちてきた。其処にはおおよそこの世のものではない言葉で、フランツ・カフカ著『The Judgment』と書いてあったが、もちろんアイにはわからない。ただ古い本のいい匂いに惹かれて身体いっぱいで抱きしめた。
これをきっかけにミルヒシュトラーセ家邸宅に、不定期に地獄からものが落ちてくるようになった。後にfalls from the skiesと名付けられるこの恵みを独占することによって、ミルヒシュトラーセ家は文化的・軍事的に発展し、自らの王を傀儡にし、国号をパンドラ公国に変えさせるまでになった。そしてエレクトラはこれを巧みに利用し、世界でも有数の地獄先進国を創り上げたのである。
この地獄利権の獲得に寄与したことから、妾の子であったアイ・サクラサクラーノヴナ・フォン・ミルヒシネュトラーセはその地位を回復し、正式に現当主であるエレクトラの名を親性に冠することを許された、こうしてアイは、アイ・エレクトラーヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセになった。
こうしてアイは、エレクトラの子に、なったのである。
◇◆◇
高官たちからの評価は回復したが、エレクトラからの心証は甚だ悪かった。アイの容姿が良くなかった。
いや、彼の容姿は悪くなく、むしろ世界でも無比の可愛らしさであったが、それが良くなかった。アイは生みの親からそれぞれ容姿を受け継いでいた。
つまり瞳の色はエレクトラの夫である、実の父オイディプスから受け継いだ、太陽の輝きを宿した蒼空の色をしたサファイアの眼を携えていた。そしてそれ以外はすべて実母から、オイディプスの公妾サクラ・マグダレーネから受け継いでいた。
漆のようなぬばたまの黒髪、華奢な体躯、新雪の如く輝く白い肌、くりくりと大きな目の形、かなしいほどにうつくしい花の顔も、瞳の色以外のそのすべてがサクラと瓜二つであった。
それが良くなかった。サクラとその美しさを嫌悪しているエレクトラからすれば、アイと相対するときは常に、もっとも愛する夫ともっとも憎んでいる女が交わった証を突き付けられることに他ならない。故にその姿を認めるたびに、アイに対する憎悪の念は膨らんでいくばかりであった。
しかもアイが地獄《パンドラ》から賢者の贈り物を見つけた功績によって、サクラまでもが大手を振って肩で風を切り、貴族のサロンを歩くようになった。そのこともアイへの憎しみを雪のように静かに降り積もらせるのだった。
◇◆◇
そして父であるオイディプスもアイにはとても厳しくあたるのだった。アイの性別が良くなかった。アイは男児として生まれてきた。オイディプスは自身の娘たちは目に入れても痛くないほどかわいがり、わがままも喜んで聞き入れ、少しでもつらいことがあれば親身になってその原因を万難を排して潰した。そしてなにより、とても、とてもやさしく愛情をもって接したのである。
しかし、息子であるアイには真逆の接し方をした。つまり厳格な態度で扱い、少しでもわがままを言えば、それがどんなにかわいいものでも、教育のために殴った。そしてつらい目に遭っていると、
「男なんだから、自分の力でたたかってどうにかしろ!」
「男は泣くんじゃない!」
と叱責したのであった。生来争いを嫌いやさしい子であったアイには全く合わない方法であった。加えてなにより、とても、とても厳しく愛情を表に出さずに接したのである。
これにより母には憎まれ父からは愛情を感じられず、ますますアイは家族の中で息をすることが苦しくなった。もっともこれは父なりの愛情でもあった。実はオイディプスも男だからという理由で父に厳しく、時には殴られて育った。つまり彼は自分がまともに育ったこの方法こそ正しいものであり、息子のためになると信じていた。なにより、彼は父からされたこの方法しか、息子との接し方を知らなかったのである。
◇◆◇
現当主であり、今では母でもあるエレクトラに蛇蝎のごとく嫌われていても、実父であるオイディプスから愛情を感じられなくても、使用人たちから妾の子として嫌がらせを受けていても、アイをあいしてくれる人がいないわけではなかった。
◇◆◇
まず一番上の兄である、アイと居てくれるゲアーターおにいさま。
「よう、アイ」
「おにいさま!」
「こんなところで何してんだ?地獄本大好きなお前が、書庫にもいかず庭の隅っこで日向ぼっこ?……ぷっ、ついに本みてぇーに紙魚が涌いたから天日干しされてんのか。」
「ちがいますよ!もうっ!確かにあいは本の虫ですけど、本に湧く紙魚じゃありません!」
「じゃー書庫にいる母上にビビッて逃げてきたか?」
「うっ……ううぅ……」
「はぁ……しゃーねぇーなぁ。おら、いくぞ!」
「え?どこにですか?」
「文学書と哲学書ばっかよんでる不健康な弟に、お兄様が外での遊びを教えてやるっつってんだ!まずは乗馬だ!」
「えっ!……遊んでくれるのはうれしいけど、お馬さんはまだ、あいはこわいのですが……」
「うるせぇ!つべこべゆうな!無理やり連れいくぞ!」
「あの!おにいさま!むりやり抱えないでください!」
「……!……かるいな!?ちゃんと飯食わせてもらってんのか!?また飯になんかされたらお兄様に言えよ!使用人共ぶっとばしてやるから!」
「いや、あの……離し……話を聞いてくださいぃ……」
「大丈夫だ!馬に乗ってる間は俺にしがみ付いてろ!それなら安心だろ!なんせお兄様は最強だからな!な!」
「もうっ……ふふっ……でもそれなら、あんしん、ですね。」
「よかったなァ……パンドラ最強のオニイサマが傍にいてよォ……?ほら、最強!」
「はい!さいきょー!」
「「さいきょー!!」」
◇◆◇
また一番上の姉である、アイに与えてくれるエゴペーお姉さま。
「エゴおねえさま!お部屋にいらっしゃらないとは……体調はよろしいのですか?」
「あらあら、書庫に籠りきりのアイちゃんに言われたらおしまいねぇ。わたしだって何時でも床に臥せっているわけではないのよ?アイちゃんこそ、紙魚が涌いたから珍しく天日干しかしら~?」
「……それ流行ってるんですかぁ……?」
「ふふっ……こうやってからかうと面白いってゲアーターがね~」
「やっぱりぃ~!んぅ~!」
「ふくれちゃってかわいいわね~。よしよし~なでなで~」
「そっそんなことできげんがなおったりしません!もうこどもじゃ……」
「じゃぁ~やめちゃおうかしら~」
「えっ……」
「冗談よ~よしよし~」
「えへへ……しょうがないからゆるしてあげます!」
「あいちゃんはいいこね~?そうだ!折角2人とも珍しく外にいるんだし、なにかしましょうよ。なにがいい?」
「あいとあそんでくれるんですか!えっと……!えっとえっと……」
「……ふふっ、おねえちゃんはいなくなったりしないから、ゆっくりでいいのよ~」
「うん!じゃあね……!あのね……!」
「一緒にお昼寝でもしながらゆっくり考えましょ~」
◇◆◇
そして二番目の姉である、アイをみてくれるシュヴェスターお姉さま。
ゲアーターとエゴペーがティールームで談笑していると、シュヴェスターが通りかかった。
「おっ、シュヴェスターいんじゃん……じゃあ、まぁ……からかうか」
「そうね、からかわないと失礼よね」
姉と兄が真剣な顔で顔を突き合わせる。
「おーい!シュヴァちゃーん!」
シュヴェスターが2人に歩み寄る。
「その呼び方はやめろと何度もいっているだろう、エゴペー」
「よぉ、シュヴェスター」
「ゲアーター、なにをニヤニヤしている……用がないのならば行くぞ、じゃあな」
2人の妹が興味なさげに、足早に立ち去ろうとする。そこで兄は一番妹が興味があるであろうことを話題に出す。
「いやぁ……アイがなぁ」
ピクリ、とシュヴェスターの足が止まる
「……アイ、だと?アイがどうした?アイになにかあったのか?」
息もつかずまくし立てる。それにゆっくりと勿体ぶってゲアーターが答える。
「いやぁ……?べっつにぃ~……ただ初めて馬にあいつを乗せたんだが――」
「アイを!馬に!?あの子にはまだ早いだろう!なにを考えている!」
「いやいや、ちゃんと俺の膝にのせてたし――」
「アイを!膝に!?しかもアイの初めての乗馬をお前にぃ!」
ギリギリと歯を食いしばる妹に今度は姉が追撃する。
「この前アイちゃんとばったり会ってね~」
「アイと!ばったり!?」
「いや、まだ何もいってないけど……。アイちゃんを抱っこして、一緒に日向ぼっこしながらお昼寝しちゃった~」
「くそっ!ここにも敵が!」
楽しそうに笑う上の子2人を、頭を抱えて睨めつける妹が1人。
「いや、敵ってなぁ、オニイサマはかなしいな~」
「昔は、こーんなにちっちゃかったのにね~」
エゴペーがかがみ込んで床スレスレまで手のひらを近づける。
「蟻か!わたしは!……それよりもだ!」
「そんなに怒ってるとまたアイちゃんに怖がられちゃうわよ~?」
「アイの前でのしっかり者の姉のキャラ作りすごいもんな、ブラコン隠して騙せてんのアイだけだろ」
「私はブラコンじゃない!今はアイがいないからいいんだ!」
「あっアイちゃん、どうしたの?」
姉が妹の後ろに目をやって声を掛ける。
「アイ!?……コホンっ……どうした?アイ?こんなところで……」
「声作ってるとこ悪いけど~アイちゃんいないよ~?」
振り返るが人っ子ひとりいない……。
「おい……オマエラァ……」
わなわなとシュヴェスターが震える。
「分かるだろう?アイは世界でいちばん可愛らしく……世界でいちばんうつくしい……だから……心配なんだ……。」
「それには同意するわ~」
「別にいーじゃぁねーか、ブランコでもよ」
「私はブランコじゃない!ブラコンだ!」
シュヴェスターが胸に手を当て高らかに宣言する。
「いや、ブラコンでもな――」
「おっアイ、どーしたんだ?」
ゲアーターがニヤニヤしながら白々しく宣う。
「その手には乗らんぞ!貴様らはまったく!」
「お……おねえさま……?」
「…………。」
ギギギと振り返ると怯えたアイが胸の前で手をぎゅうっとにぎって立っている。
「ア……アイ」
「おねえさま!……お怒りですか?……どうかなされましたか……?」
後ろで膝を叩いて大笑いしている奴らに、必ず思い知らせてやると心に決めながら、シュヴェスターは答える。
「いや、なんでもない、いたって冷静だ私は、いたく落ち着いている、心が凪いでいる、完全に、ああ――」
「――ぶらこん?ってなんですか?ブランコのおともだちですか?」
アイが無邪気に疑問を口にする。
「「ぶふぉっ」」
お互いの身体を叩きあいながらゲアーターとエゴぺーが笑い転げる。
「ブラコン……というのはだな……」
シュヴェスターが答えに窮していると、エゴぺーが助け舟?を出す。
「ブラザー・コンプレックス、男の子の兄弟のことが大好きでたまらない人って意味よ~」
「おまっ、だ、黙れ!」
妹が姉の口を両手で塞ぎにかかる。
「……なるほど……そういうことですか!」
アイが得心がいったような顔になる。
「あ……アイ……?」
おっかなびっくりといった様相でシュヴェスターが尋ねる。
「つまりおねえさまはゲアーターお兄様の事が大好きということですね!」
すてきです!と幸せそなアイ、そしてまた吹き出す兄と姉。
「ちが、違うぞ!お前は勘違いしている!」
「でも……じゃあ、どういう……?」
「私はオマ、お前のことが……くっ。あぁ、そうだ……ワタシはゲアーターのコトがダイスキナンダ…………おえっ」
「ぷぷっ、そうだな、愛しい妹よ!オニイサマもスキだぞ!……ぷっ」
「貴様ぁ……いつかぶっ飛ばしてやる……」
「わぁー!なかよしさんですね!」
コホンっとシュヴェスターが大仰に咳払いをし、話題を変えることで、致命傷を避けようとする。
「こんなよしなし事より、アイ……聞いたぞ、ゲアーターとエゴペーと遊んだそうだな……」
「??……はい!」
「どうだった?」
「すっごくたのしかったです!」
「だろうな……こいつら散々自慢してきやがったからな……」
「……???」
「アイ……どうだ……その……わたしも……今は時間があるのだが……」
「????……そうなんですか……?」
「つまり、私は今暇で……お前も暇……暇だよな……?」
「はい……ひまですけど……??」
「「……」」
ぶふぉっと失笑する声が後ろから2つ聞こえた。
「笑いすぎて……しっ……死ぬぅ……」
「助けてぇ……もう……い、いじめないで~」
コイツラァ……。
「つまりだな……わたしと」
「おねえさまと?」
「おまえで」
「あいで?」
「あそ……何かしようと、思って……だな。」
自分とアイをぎこちなく指差してシュヴェスターが話す。パアァッとアイの表情が日が指したように色づく。
「あいとあそんでくださるのですか!」
「うっ……あ……ああそうだな」
その輝きに胸を押さえながら姉が答える。
「もしかして、おにいさまもエゴおねえさまも!?」
「え……い……いやコイツラはやることがあって」
「そうなんですか……」
しゅんとアイがちいさくなる。
「わ……わたしだけでは不満か……?」
ショックを受けたようにシュヴェスターがかすれた声で言う。
「い、いえ、まさか!うれしいです!」
「そうだよなそうだよな!」
シュヴェスターが勝ち誇ったように姉と兄を振り返った。しかし其処にはもう2人の姿はなかった。
「お兄様もバカみてぇに暇だそ!」
「お姉様もアホみたいに暇よ~」
「わぁーい!」
アイが喜んでいる、喜んでいる……が。
「き、貴様らァ~そこになおれ!」
「おねえさま!?」
「こわいぞ、おねえさま」
「きゃ~おねーさまこわ~い」
「お前らの姉になったつもりはない!」
ワァー!っと兄と姉が逃げ、手を引かれたアイも一緒に駆けていく。
「まて!アイは置いていけーー!!」
ワァー!ワァー!
継母に疎まれ、父に厳しく扱われても、使用人から軽んじられていても。
――忌み子であっても、アイにはやさしいきょうだいがいた。
そう、いたのだ、今となってはもう……。
◇◆◇
――わたくしはいつもいちばん後ろを歩く。世界でいちばんうつくしいものがみたいから――
家族で用事に出かけたとき、遊びで出かけたとき、ピクニックに行った帰り道。夕焼けに照らされたいつもの小道を、歩いて帰っているとき。私は必ずいちばん後ろを歩く。
先頭はいつも、おかあさまだ。自身がこの世界には必要であるという自信に満ちた足取りで、確かに大地を踏みしめ歩いていく。よくシュヴェスターと手をつなぎ談笑しながら歩いている。
その次はゲアーターお兄さま。頭の後ろで手を組み、小石を蹴りながら気ままに歩いている。不安などこの世のどこにも存じてないといった様子で。
そして、最後におとうさまとエゴペーお姉さま。おとうさまは、わが娘への愛情が身体の外に出ていくことを引き留められない様子で、いつもおねえさまがたを愛で、愛し、愛を囁いている。エゴペーお姉さまがそれに応えて、幸せそうに風の中を2人で歩いている。
あいは、いつもいちばんうしろ。夕凪の中をただ独り歩いている。けっしてはぐれないように、でもけっしてみんなの間に入らぬように。長く伸びたみんなの影さえも決して踏み犯してしまわぬように。磁石の様につかずはなれず追いかける。いちばんちいさい歩幅で、いちばんたくさんの足跡で。だってみられるから。夕焼けがてらして、きらきらとみえるから。
――この世界でいちばんうつくしいものが。しあわせなかぞくがそこにはある。みんなを愛する母、実直な妹、朗らかな兄、温和な姉、そして慈愛の父。しあわせなかぞくがここにはいる――
だからあいはその愛と幸せに満ち満ちた5人家族に決して立ち入らぬよう、いちばんいしろをちいさく歩く。だって、そこに不純物は必要ない。そこに穢れは必要ない。弟などいらない。
こわしたくない、よごしたくない、かなしませくない。たといその中のひとりになれなくとも、みているだけでしあわせだから。この世でもっともとうといものを。この世でもっともうつくしいひとたちを。夕日がそれを輝かせるその、永遠の瞬間を。太陽が照らしだすその、けしきを。だから。だから。
――だから、あいはいつもいちばん後ろを歩く。世界でいちばんうつくしいものがみたいから――
――てをあげたのに、どうしてだきしめてくれないんだろう?
というものだった。それはいつも感ぜられる、例えば食卓で、居間でお庭でお外で。家族で集まっていると、よくシュヴェスターやエゴペーおねえさま、ゲアーターおにいさまが、お母様やお父様にだっこをせがんでいた。皆小さいので腰の近くまで行って両手を上に向かって伸ばす。そうすると、優しい笑みで、若しくは呆れ笑いと共に抱き上げてくれるらしいのだった。
それをみて、3才の私も愛する人の温もりを肌で感じたくて、
――ああすればだきしめてもらえるんだ!あいも!あいも!
と思って小さい歩幅でお母様の膝の方に駆けていった、そして両手を広げて、期待に満ち満ちた表情で待っていた。
――だがその瞬間は永遠に訪れなかった――。
お母様は忌々し気にわたくしを一瞥したのち他のきょうだいのほうへいってしまった。その時かもしれない、わたくしは彼らの形式上の家族の一員ではあるけれども、わたくしは彼らの家族ではないのだ、ということに気が付いたのは。あまりに遅く、気が付いてしまったのは。
◇◆◇
この時空には上から天国・煉獄・文学界・地獄という順に世界が存在している。リテラチュアと呼ばれる現世には、広大な大地と大海が広がっている。
その西の果て、極西は、早々に地獄資源の活用に乗り出し、長い歴史を誇るファンタジア王国が支配していた。
そのさらに西にあるパンドラ公国、ファンタジア王国の現王の子が君臨する公国ではあるが、統治する実権はミルヒシュトラーセ辺境伯爵家が握っている。この国は西の蛮族に対抗する為の緩衝国家として、ファンタジア王国の国王が自らの第二子を王に据え、ミルヒシュトラーセ辺境伯爵家をその武力として与え、作った国である。
当然その権威と権力は辺境伯爵よりも公国の王が優越する――はずだった。辺境伯が地獄から賢者の贈り物を見つけるまでは。
◇◆◇
それが見つかったのはミルヒシュトラーセ家邸宅の庭だった。見つけたのは、当時の名でアイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシネュトラーセ、当代のミルヒシュトラーセ家当主エレクトラの夫オイディプスと公妾サクラ・マグダレーナとの間にできた子だった。この醜聞は厳重に秘匿されたので、それを知るのはミルヒシュトラーセ家と近しい有力者に限られ、当人のアイですらそれを知らない。
まだ歩けもしないアイが庭で乳母からもエレクトラからも捨て置かれていた時、地獄語で「おー〇、○て○ーい!」という声が聞こえた。勿論アイにはその意味など介さぬところであったが、音がする方に這っていった。するとそこにはちいさな小石が落ちてあった。ふと上を見上げると、穴が開いている。地面に、ではなく空に、だ。
そこから一冊の本が落ちてきた。其処にはおおよそこの世のものではない言葉で、フランツ・カフカ著『The Judgment』と書いてあったが、もちろんアイにはわからない。ただ古い本のいい匂いに惹かれて身体いっぱいで抱きしめた。
これをきっかけにミルヒシュトラーセ家邸宅に、不定期に地獄からものが落ちてくるようになった。後にfalls from the skiesと名付けられるこの恵みを独占することによって、ミルヒシュトラーセ家は文化的・軍事的に発展し、自らの王を傀儡にし、国号をパンドラ公国に変えさせるまでになった。そしてエレクトラはこれを巧みに利用し、世界でも有数の地獄先進国を創り上げたのである。
この地獄利権の獲得に寄与したことから、妾の子であったアイ・サクラサクラーノヴナ・フォン・ミルヒシネュトラーセはその地位を回復し、正式に現当主であるエレクトラの名を親性に冠することを許された、こうしてアイは、アイ・エレクトラーヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセになった。
こうしてアイは、エレクトラの子に、なったのである。
◇◆◇
高官たちからの評価は回復したが、エレクトラからの心証は甚だ悪かった。アイの容姿が良くなかった。
いや、彼の容姿は悪くなく、むしろ世界でも無比の可愛らしさであったが、それが良くなかった。アイは生みの親からそれぞれ容姿を受け継いでいた。
つまり瞳の色はエレクトラの夫である、実の父オイディプスから受け継いだ、太陽の輝きを宿した蒼空の色をしたサファイアの眼を携えていた。そしてそれ以外はすべて実母から、オイディプスの公妾サクラ・マグダレーネから受け継いでいた。
漆のようなぬばたまの黒髪、華奢な体躯、新雪の如く輝く白い肌、くりくりと大きな目の形、かなしいほどにうつくしい花の顔も、瞳の色以外のそのすべてがサクラと瓜二つであった。
それが良くなかった。サクラとその美しさを嫌悪しているエレクトラからすれば、アイと相対するときは常に、もっとも愛する夫ともっとも憎んでいる女が交わった証を突き付けられることに他ならない。故にその姿を認めるたびに、アイに対する憎悪の念は膨らんでいくばかりであった。
しかもアイが地獄《パンドラ》から賢者の贈り物を見つけた功績によって、サクラまでもが大手を振って肩で風を切り、貴族のサロンを歩くようになった。そのこともアイへの憎しみを雪のように静かに降り積もらせるのだった。
◇◆◇
そして父であるオイディプスもアイにはとても厳しくあたるのだった。アイの性別が良くなかった。アイは男児として生まれてきた。オイディプスは自身の娘たちは目に入れても痛くないほどかわいがり、わがままも喜んで聞き入れ、少しでもつらいことがあれば親身になってその原因を万難を排して潰した。そしてなにより、とても、とてもやさしく愛情をもって接したのである。
しかし、息子であるアイには真逆の接し方をした。つまり厳格な態度で扱い、少しでもわがままを言えば、それがどんなにかわいいものでも、教育のために殴った。そしてつらい目に遭っていると、
「男なんだから、自分の力でたたかってどうにかしろ!」
「男は泣くんじゃない!」
と叱責したのであった。生来争いを嫌いやさしい子であったアイには全く合わない方法であった。加えてなにより、とても、とても厳しく愛情を表に出さずに接したのである。
これにより母には憎まれ父からは愛情を感じられず、ますますアイは家族の中で息をすることが苦しくなった。もっともこれは父なりの愛情でもあった。実はオイディプスも男だからという理由で父に厳しく、時には殴られて育った。つまり彼は自分がまともに育ったこの方法こそ正しいものであり、息子のためになると信じていた。なにより、彼は父からされたこの方法しか、息子との接し方を知らなかったのである。
◇◆◇
現当主であり、今では母でもあるエレクトラに蛇蝎のごとく嫌われていても、実父であるオイディプスから愛情を感じられなくても、使用人たちから妾の子として嫌がらせを受けていても、アイをあいしてくれる人がいないわけではなかった。
◇◆◇
まず一番上の兄である、アイと居てくれるゲアーターおにいさま。
「よう、アイ」
「おにいさま!」
「こんなところで何してんだ?地獄本大好きなお前が、書庫にもいかず庭の隅っこで日向ぼっこ?……ぷっ、ついに本みてぇーに紙魚が涌いたから天日干しされてんのか。」
「ちがいますよ!もうっ!確かにあいは本の虫ですけど、本に湧く紙魚じゃありません!」
「じゃー書庫にいる母上にビビッて逃げてきたか?」
「うっ……ううぅ……」
「はぁ……しゃーねぇーなぁ。おら、いくぞ!」
「え?どこにですか?」
「文学書と哲学書ばっかよんでる不健康な弟に、お兄様が外での遊びを教えてやるっつってんだ!まずは乗馬だ!」
「えっ!……遊んでくれるのはうれしいけど、お馬さんはまだ、あいはこわいのですが……」
「うるせぇ!つべこべゆうな!無理やり連れいくぞ!」
「あの!おにいさま!むりやり抱えないでください!」
「……!……かるいな!?ちゃんと飯食わせてもらってんのか!?また飯になんかされたらお兄様に言えよ!使用人共ぶっとばしてやるから!」
「いや、あの……離し……話を聞いてくださいぃ……」
「大丈夫だ!馬に乗ってる間は俺にしがみ付いてろ!それなら安心だろ!なんせお兄様は最強だからな!な!」
「もうっ……ふふっ……でもそれなら、あんしん、ですね。」
「よかったなァ……パンドラ最強のオニイサマが傍にいてよォ……?ほら、最強!」
「はい!さいきょー!」
「「さいきょー!!」」
◇◆◇
また一番上の姉である、アイに与えてくれるエゴペーお姉さま。
「エゴおねえさま!お部屋にいらっしゃらないとは……体調はよろしいのですか?」
「あらあら、書庫に籠りきりのアイちゃんに言われたらおしまいねぇ。わたしだって何時でも床に臥せっているわけではないのよ?アイちゃんこそ、紙魚が涌いたから珍しく天日干しかしら~?」
「……それ流行ってるんですかぁ……?」
「ふふっ……こうやってからかうと面白いってゲアーターがね~」
「やっぱりぃ~!んぅ~!」
「ふくれちゃってかわいいわね~。よしよし~なでなで~」
「そっそんなことできげんがなおったりしません!もうこどもじゃ……」
「じゃぁ~やめちゃおうかしら~」
「えっ……」
「冗談よ~よしよし~」
「えへへ……しょうがないからゆるしてあげます!」
「あいちゃんはいいこね~?そうだ!折角2人とも珍しく外にいるんだし、なにかしましょうよ。なにがいい?」
「あいとあそんでくれるんですか!えっと……!えっとえっと……」
「……ふふっ、おねえちゃんはいなくなったりしないから、ゆっくりでいいのよ~」
「うん!じゃあね……!あのね……!」
「一緒にお昼寝でもしながらゆっくり考えましょ~」
◇◆◇
そして二番目の姉である、アイをみてくれるシュヴェスターお姉さま。
ゲアーターとエゴペーがティールームで談笑していると、シュヴェスターが通りかかった。
「おっ、シュヴェスターいんじゃん……じゃあ、まぁ……からかうか」
「そうね、からかわないと失礼よね」
姉と兄が真剣な顔で顔を突き合わせる。
「おーい!シュヴァちゃーん!」
シュヴェスターが2人に歩み寄る。
「その呼び方はやめろと何度もいっているだろう、エゴペー」
「よぉ、シュヴェスター」
「ゲアーター、なにをニヤニヤしている……用がないのならば行くぞ、じゃあな」
2人の妹が興味なさげに、足早に立ち去ろうとする。そこで兄は一番妹が興味があるであろうことを話題に出す。
「いやぁ……アイがなぁ」
ピクリ、とシュヴェスターの足が止まる
「……アイ、だと?アイがどうした?アイになにかあったのか?」
息もつかずまくし立てる。それにゆっくりと勿体ぶってゲアーターが答える。
「いやぁ……?べっつにぃ~……ただ初めて馬にあいつを乗せたんだが――」
「アイを!馬に!?あの子にはまだ早いだろう!なにを考えている!」
「いやいや、ちゃんと俺の膝にのせてたし――」
「アイを!膝に!?しかもアイの初めての乗馬をお前にぃ!」
ギリギリと歯を食いしばる妹に今度は姉が追撃する。
「この前アイちゃんとばったり会ってね~」
「アイと!ばったり!?」
「いや、まだ何もいってないけど……。アイちゃんを抱っこして、一緒に日向ぼっこしながらお昼寝しちゃった~」
「くそっ!ここにも敵が!」
楽しそうに笑う上の子2人を、頭を抱えて睨めつける妹が1人。
「いや、敵ってなぁ、オニイサマはかなしいな~」
「昔は、こーんなにちっちゃかったのにね~」
エゴペーがかがみ込んで床スレスレまで手のひらを近づける。
「蟻か!わたしは!……それよりもだ!」
「そんなに怒ってるとまたアイちゃんに怖がられちゃうわよ~?」
「アイの前でのしっかり者の姉のキャラ作りすごいもんな、ブラコン隠して騙せてんのアイだけだろ」
「私はブラコンじゃない!今はアイがいないからいいんだ!」
「あっアイちゃん、どうしたの?」
姉が妹の後ろに目をやって声を掛ける。
「アイ!?……コホンっ……どうした?アイ?こんなところで……」
「声作ってるとこ悪いけど~アイちゃんいないよ~?」
振り返るが人っ子ひとりいない……。
「おい……オマエラァ……」
わなわなとシュヴェスターが震える。
「分かるだろう?アイは世界でいちばん可愛らしく……世界でいちばんうつくしい……だから……心配なんだ……。」
「それには同意するわ~」
「別にいーじゃぁねーか、ブランコでもよ」
「私はブランコじゃない!ブラコンだ!」
シュヴェスターが胸に手を当て高らかに宣言する。
「いや、ブラコンでもな――」
「おっアイ、どーしたんだ?」
ゲアーターがニヤニヤしながら白々しく宣う。
「その手には乗らんぞ!貴様らはまったく!」
「お……おねえさま……?」
「…………。」
ギギギと振り返ると怯えたアイが胸の前で手をぎゅうっとにぎって立っている。
「ア……アイ」
「おねえさま!……お怒りですか?……どうかなされましたか……?」
後ろで膝を叩いて大笑いしている奴らに、必ず思い知らせてやると心に決めながら、シュヴェスターは答える。
「いや、なんでもない、いたって冷静だ私は、いたく落ち着いている、心が凪いでいる、完全に、ああ――」
「――ぶらこん?ってなんですか?ブランコのおともだちですか?」
アイが無邪気に疑問を口にする。
「「ぶふぉっ」」
お互いの身体を叩きあいながらゲアーターとエゴぺーが笑い転げる。
「ブラコン……というのはだな……」
シュヴェスターが答えに窮していると、エゴぺーが助け舟?を出す。
「ブラザー・コンプレックス、男の子の兄弟のことが大好きでたまらない人って意味よ~」
「おまっ、だ、黙れ!」
妹が姉の口を両手で塞ぎにかかる。
「……なるほど……そういうことですか!」
アイが得心がいったような顔になる。
「あ……アイ……?」
おっかなびっくりといった様相でシュヴェスターが尋ねる。
「つまりおねえさまはゲアーターお兄様の事が大好きということですね!」
すてきです!と幸せそなアイ、そしてまた吹き出す兄と姉。
「ちが、違うぞ!お前は勘違いしている!」
「でも……じゃあ、どういう……?」
「私はオマ、お前のことが……くっ。あぁ、そうだ……ワタシはゲアーターのコトがダイスキナンダ…………おえっ」
「ぷぷっ、そうだな、愛しい妹よ!オニイサマもスキだぞ!……ぷっ」
「貴様ぁ……いつかぶっ飛ばしてやる……」
「わぁー!なかよしさんですね!」
コホンっとシュヴェスターが大仰に咳払いをし、話題を変えることで、致命傷を避けようとする。
「こんなよしなし事より、アイ……聞いたぞ、ゲアーターとエゴペーと遊んだそうだな……」
「??……はい!」
「どうだった?」
「すっごくたのしかったです!」
「だろうな……こいつら散々自慢してきやがったからな……」
「……???」
「アイ……どうだ……その……わたしも……今は時間があるのだが……」
「????……そうなんですか……?」
「つまり、私は今暇で……お前も暇……暇だよな……?」
「はい……ひまですけど……??」
「「……」」
ぶふぉっと失笑する声が後ろから2つ聞こえた。
「笑いすぎて……しっ……死ぬぅ……」
「助けてぇ……もう……い、いじめないで~」
コイツラァ……。
「つまりだな……わたしと」
「おねえさまと?」
「おまえで」
「あいで?」
「あそ……何かしようと、思って……だな。」
自分とアイをぎこちなく指差してシュヴェスターが話す。パアァッとアイの表情が日が指したように色づく。
「あいとあそんでくださるのですか!」
「うっ……あ……ああそうだな」
その輝きに胸を押さえながら姉が答える。
「もしかして、おにいさまもエゴおねえさまも!?」
「え……い……いやコイツラはやることがあって」
「そうなんですか……」
しゅんとアイがちいさくなる。
「わ……わたしだけでは不満か……?」
ショックを受けたようにシュヴェスターがかすれた声で言う。
「い、いえ、まさか!うれしいです!」
「そうだよなそうだよな!」
シュヴェスターが勝ち誇ったように姉と兄を振り返った。しかし其処にはもう2人の姿はなかった。
「お兄様もバカみてぇに暇だそ!」
「お姉様もアホみたいに暇よ~」
「わぁーい!」
アイが喜んでいる、喜んでいる……が。
「き、貴様らァ~そこになおれ!」
「おねえさま!?」
「こわいぞ、おねえさま」
「きゃ~おねーさまこわ~い」
「お前らの姉になったつもりはない!」
ワァー!っと兄と姉が逃げ、手を引かれたアイも一緒に駆けていく。
「まて!アイは置いていけーー!!」
ワァー!ワァー!
継母に疎まれ、父に厳しく扱われても、使用人から軽んじられていても。
――忌み子であっても、アイにはやさしいきょうだいがいた。
そう、いたのだ、今となってはもう……。
◇◆◇
――わたくしはいつもいちばん後ろを歩く。世界でいちばんうつくしいものがみたいから――
家族で用事に出かけたとき、遊びで出かけたとき、ピクニックに行った帰り道。夕焼けに照らされたいつもの小道を、歩いて帰っているとき。私は必ずいちばん後ろを歩く。
先頭はいつも、おかあさまだ。自身がこの世界には必要であるという自信に満ちた足取りで、確かに大地を踏みしめ歩いていく。よくシュヴェスターと手をつなぎ談笑しながら歩いている。
その次はゲアーターお兄さま。頭の後ろで手を組み、小石を蹴りながら気ままに歩いている。不安などこの世のどこにも存じてないといった様子で。
そして、最後におとうさまとエゴペーお姉さま。おとうさまは、わが娘への愛情が身体の外に出ていくことを引き留められない様子で、いつもおねえさまがたを愛で、愛し、愛を囁いている。エゴペーお姉さまがそれに応えて、幸せそうに風の中を2人で歩いている。
あいは、いつもいちばんうしろ。夕凪の中をただ独り歩いている。けっしてはぐれないように、でもけっしてみんなの間に入らぬように。長く伸びたみんなの影さえも決して踏み犯してしまわぬように。磁石の様につかずはなれず追いかける。いちばんちいさい歩幅で、いちばんたくさんの足跡で。だってみられるから。夕焼けがてらして、きらきらとみえるから。
――この世界でいちばんうつくしいものが。しあわせなかぞくがそこにはある。みんなを愛する母、実直な妹、朗らかな兄、温和な姉、そして慈愛の父。しあわせなかぞくがここにはいる――
だからあいはその愛と幸せに満ち満ちた5人家族に決して立ち入らぬよう、いちばんいしろをちいさく歩く。だって、そこに不純物は必要ない。そこに穢れは必要ない。弟などいらない。
こわしたくない、よごしたくない、かなしませくない。たといその中のひとりになれなくとも、みているだけでしあわせだから。この世でもっともとうといものを。この世でもっともうつくしいひとたちを。夕日がそれを輝かせるその、永遠の瞬間を。太陽が照らしだすその、けしきを。だから。だから。
――だから、あいはいつもいちばん後ろを歩く。世界でいちばんうつくしいものがみたいから――
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる












