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第一章 愛と家族
3.信者と心者 The Believer und Die Herzer
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――太陽が憎い。明るさが嫌い。木漏れ日がこわい。陽だまりが嫌い。
◇◆◇
あいは生まれてこのかた太陽に追い詰められてきました。太陽はいつも私とその他の全ての人々との差を浮き彫りにするのです。
私だけが普通の人々のように生きていけないということを。普通の人が誰に教えられずともわかることを、私だけが知らないということを。
そして何より、私が、私だけが、家族の誰とも髪の色も顔の形も似通っていないということを。太陽の光で際立つ黒い髪と自分の顔が嫌いだった。
私だって、みんなと一緒に。私だって、闇の中でまどろんでいたいのに。だのに太陽の眩しさはすべてを暴いて去っていく。その場に留まりさえしない。ただ私の醜さを白日の下に晒し消えていく。穢れた私だけを残して。清廉な人々の只中に置き去りにしていく。
だけど、ほんとは嫌いなんじゃない。ただ、ただ、こわいのです。恐ろしいのです。幸福が。しあわせが。“ほんとうのさいわい”が。夜の闇の中では私を抱きしめてくれるそれが。それが太陽の下では私のそばにはいてくれないと知っているから。刹那のうちに逃げ去ってしまうと知っているから。ただ独りの私を残して。
幸福を恐れる人間もいるのです。しあわせに首を絞められる人間もいるのです。真綿で窒息してしまうのです。その軽やかな重さに溺死してしまうことがあるのです。
◇◆◇
――私は太陽がこわい。明るさがこわい。木漏れ日がこわい。陽だまりががこわい。――他人がこわい。そしてなによりも、人間が――。
◇◆◇
シュベスターはときどき、アイにWhite Lieを吐くことがあった。White Lieというのは地獄の言葉で、直訳すると白い嘘だが、意味としてはやさしい嘘である。ある人をのことを思って、その人のために吐く嘘のことを言う。
真実はいつも人を傷つける。シュベスターはアイが真実によって傷つけられそうなときは、決まってWhite Lieをついた。いつも真実によってではなく、嘘によって弟を守ろうとしたのである。
例えば、家族の中でアイだけがクリスマスプレゼントや誕生日プレゼントを貰えなかったとき。いつもエレクトラはアイとエゴペー以外にプレゼントを用意して、お祝いもする。そしてオイディプスは娘達だけにプレゼントをあげる。だからアイだけが毎年プレゼントを貰えないのである。
アイ自身はこれを自分だけが両親にとって“いい子”ではないからだと考えていた。いつの頃からか、シュベスターがプレゼントを用意して、これはお母さまからだと嘘をついて、アイに渡すようになった。
アイはそれが嘘だと最初は分からなかったが、自分の誕生日に毎年母の機嫌が悪くなり、父と喧嘩をする声に耳を塞いでいるうちに、真実に気づいた。その白い嘘の後ろの黒い真実をみたときは、初めて自分だけプレゼントを貰えなかったときよりも深く心を抉られたが、決してシュベスターを恨むことはなかった。むしろ、姉の愛を感じそれを慈しむようになった。だからアイはずっと騙されたふりをしている。
◇◆◇
あいが4さいになって少し経ったころ、シュベスターがエレクトラに言われて戦う術を教えることになった。
「あい、今日はお母様に言われてお前に戦い方を教えることになった。まぁ戦い方といっても身体を使ったものというよりは、心を使ったもの……心のことだ。」
「Herz……心ですか?」
「あぁ、地獄語で心という意味がある。この文学界には感情をコントロールする術がある。コントロールするといっても精神的に、怒りを抑える、かなしみを受け入れる、といった類のものではない。物理的に感情を操るのだ。」
「物理的に……感情とはその元来、形而上のものですよね……?」
「うん、その認識で間違いない、感情とは精神的なものだ。だが我々はそれを形而下に、つまり物質世界に引きずり下ろす術がある。」
「それが……心。つまりあいたちは、みんな唯物論的な世界観の下で生きているということですか?」
「すまない。アイ……私はお前ほど地獄学問に明るくないんだ。唯物論とはなんだ?」
子供がたまに親に頼られると喜び勇んで役に立とうとするように、子供らしい無邪気さと少しの得意気を含んで、一所懸命に説明した。自分にも人の役に立てるところはある、存在する価値があると確かめるように。
「えぇっと……唯物論というのは、物質こそが世界を構成する根源的なものとみなす哲学上の立場です。心の実在を否定するもしくは、物質によって心が生み出されたものだと考えます。
その対となるのが唯心論です。えっと、えっと、こちらは世界の本質や根源を心と捉えます。物質的なものは仮のものと見なし、心を至上原理とします。」
「なるほど……ふむ……面白いな……。だがアイ、私が思うに、心を使うものたち……心者のほとんどはそのようなことは気にしていない。心者はただ心を使うのだ。そこに疑問や意思は必要ない。ただ、使うんだ。……そうだな、道具のようなもだと思ってもらってかまわない。」
「こころが……道具……?……。」
「そのほうがこれから教えることがやりやすいだろう。まず第一に感情を具現化する。こうやって――」
シュベスターの掌がきらきらと光り輝き、その上にローズピンク色をした結晶が現れる。
「わぁあ……!」
「これは私の感情を顕現させたものだ。このように感情を現して、感情を表すことができる。これは今、私の中にある幸福感を結晶化したものだ。」
「……?……おねえさまは今しあわせを感じていらっしゃるのですか?」
「ぐっ……そ、そうだ。」
今感じている幸福の理由そのものからの問いに、シュベスターはすこし照れたように返す。
「その時に感じている感情しか具現化させられないのですか?」
「いや……強者や技巧に富んだものは、何十年も前の感情を引き出して戦うこともできる。訓練すれば形も様々に変化させられるし、一度に大量の感情を使役することもできるようになる。早速お前にもやってもらおうと思うのだが……いいか?」
「なるほど……。やってみたいです!」
「……意外だな。お前は普段から言葉を大切にしているし、先ほどの話からも心や精神というものに敬意を払っているように見える……いいのか?」
姉がアイを慮ったように言う。
「たしかにあいは地獄本の影響で、言葉やこころというものが好きです。言の葉を愛しています。崇拝しているといってもいいです。この世界は『はじめに言葉ありき』という言語決定論の立場を取っています。
しかしながら、どうしても言葉では表せないものがこの世には存するのです。確かに存するのです。それは形のないものたちです。目に見えないものです。思想、精神、感情もそうです。ことばを信奉しているあいですら、御言葉如きでは語れないものの存在を確かに感じるのです。
だからこころなどといった、言葉以外のものたち……言葉以上のものたちには、より一層敬意を表したくなるのです。彼らに対して敬意を払いすぎるということがあるでしょうか?……いいえ、ありえません。」
「ふむ、それを聞いて尚一層不思議に思われるのだが……心は、お前が信奉する目に見えない形而上のものを、ある種強引に物質世界にひきずり下ろすことを含む。いやむしろそれこそが心だ。言葉の信者であるとすらいえる、お前の主義に反することだ……なのになぜ二つ返事で引き受ける。」
「それがおかあさまの言いつけだからです。先ほどおねえさまは、おかあさまに言われてあいに戦い方を教えてくださるとおっしゃいました。
ならばあいの主張など唾棄すべきです。そこに何の疑問をさしはさむことがありましょう。おかあさまの意思とあれば、あいは頭を使う必要はありません。思考を差し挟むべきではありません。それがどんな命令であっても、ただ盲目的にそれを遂行するのみです。」
シュベスターは少しの恐怖を感じた。あいと同等かそれ以上にエレクトラを敬愛するシュベスターが、である。
これではまるであいは言葉の信者というよりはむしろ――と、ここまで考えてシュベスターはそれでなにも問題がないことに思い至った。
「そうか、いい心がけだな。まぁお母様の言うことに間違いはないし、それでいいか。……では早速やってみるか。」
「はい!」
「よし……じゃあ、身体に触るぞ……。」
シュベスターはアイの後ろにまわり、その小さな体躯を抱きすくめるような恰好をとった。そして両手でみえない球体を支えるような形をつくる。
「ごほん……では私のこの手の内側に手を重ねてくれ。」
「は、はい」
「よし……今何を感じている。」
「おねえさまの体温があたたかくて……心地いいなと」
「げふっ……そうだなお前の抱き心地も匂いもいい……じゃなくて、感情のことだ。」
「あっ……すっすみません……。」
アイとシュベスターはお互い顔を赤くして目を泳がせる。
「そうですね……これは……このあたたかさは、ここちよさは……これが、しあわせというものでしょうか……?」
アイがはにかみと共に感情を言葉にする。
「っ……よし、まずは一番簡単な、その時感じている感情をありのまま形にするんだ。」
シュベスターは一瞬驚いたがその鉄仮面を保ったまま指導する。
「高いところから下に感情を降ろしてくるイメージだ。頭の上から幸福が降ってくるような感じで……。」
最初天国からしあわせが落ちてくるようなイメージをしていたアイだったが、それでもたらされるのは得も言われぬ苦しさだけだった。身体がぶるりとふるえて、どこかに逃げ出したくなる。アイは考えた。
――くるしい。
「帰りたい……。」
帰りたい……?どこに?あいのおうちはミルヒシュトラーセ家なのに。
「アイ?大丈夫か?」
姉の声が深く沈んでいたアイの思考を現実に引き戻す。
「は、はい。すみません……なんだかうまくできなくて……。」
なにかをとても恐れているという震えた声音だった。
「……?……謝るな……何も悪いことをしていないだろう。それに最初からうまくできるやつは稀だ。ゲアーターだってそれはひどいもんだったらしいぞ。」
安心させようとおどけた口調で言う。
「そうなんですか……?」
「あぁ……今度聞いてみろ、毎回アイツに嫌な顔をさせられるからな。」
「ふふっ、だめですよ?いじわるは。」
「仕返しだよ、アイツもよく揶揄ってくるからな。そうだな、どんなイメージをしている?」
「高いところと聞いてイメージしたのが天国だったので、天球の上の天国を考えました。」
「ふむ……そうだな……すこし現実味に欠けるのかもな。天国には行ったことがないだろう?在るのかもわからない。」
「はい……多分行ったことはないです。」
「多分?恐ろしいことをいうな、私が保証してやる、お前は生まれたときからずっと兄姉といっしょだっただろう?」
「そうですね……そうです。」
「心を具現化するといってもな。なにもお伽話の不思議な力を使うんじゃない。感情とは元々確かに現実に存在するだろう?イメージをもう少し現実的にしてみろ。」
「は、はい。」
高いところ……頭の上、屋根、雲の上、空、快晴の青い空……空……空……そこから朝が降ってくる……あいの頭の上に……!
ふわりとアイの手の中でやわらかな何かが踊っている、レモンイエローのそれは、儚く、揺蕩う、今にも消えてしまいそうなそれは――。
「……これがあいのしあわせ……。」
「そうだ!よくやったなアイ!」
感極まったようにシュベスターがアイの頭を撫でる。
「わっわっ。あっありがとうございます……でもこれはおねえさまのしあわせとは色も形も違います。おねえさまのはもっとピンクで硬そうで……。」
「しあわせのかたちは人によって違うからな。何をしあわせと呼ぶのかすら。だろう?」
「つまり同じ感情でも生み出す人によっていろいろな色や姿がある……?」
「そうだ。あいのしあわせは、確かに不安定で儚げで……でも綺麗だ。」
「あっありがとうございます……あ、あの!おねえさまのしあわせも!……きれいでした。」
「ふふっ、そうか?ありがとう。感情の姿は人によってさまざまだ。炎のような怒りもあれば、燃えるような愛情もある。涙のようなかなしみもあれば、海のような喜びだってある。
液体だったり気体だったり、固体だったり……波の形……つまり光や音なんてのもあるらしい。本当に人それぞれだ。使いようも自分の感情の表れ方に合わせたものになる。」
「そうでした……使うんでしたね、これを……。」
アイは自分のしあわせを愛おしそうに抱きしめる。
「あぁ、お前には気乗りしないかもしれないが。感情はそれが好感情か悪感情かによって使い方を大別される。
なぜなら、怒りや憎しみはそれに触れた者を傷つけ、愛情は癒すからだ。つまり、心者は敵に怒りをぶつけ、憎しみを与える。そして、輩に愛情を捧げ、喜びを与える。そうして戦うんだ。」
「他人に自分の感情をぶつける……そんなことをして、恐ろしくはならないのでしょうか?」
「最初はな、だが皆戦ううちに慣れて感情を使うことを厭わなくなる。感情を他者にぶつけているうちに、誰も彼も感情に敬意を払うことをしなくなるんだ、いちいちそんなことをしていたら先に他人の感情に殺されてしまうからな。」
アイのしあわせはいつのまにか、どこかに消えていた。まるでそのちいさな手のひらには大きすぎたかのように。
「でも……。」
アイの悲しそうな顔を見て、姉はすこし――他人が見ればわからないだろうがアイだけにはわかる――すこし、微笑んだ。
「そんな顔をするな……アイ。」
膝をつき目線を合わせ、あいの頬をやわらかく撫でる。
「感情を思うままに表現できるようになれば、お母様ももう少しお前を認めてくれるかもしれんぞ?」
「おかあさまに……!わかりました!」
“お母様”という魔法の言葉で、あいのそれまでの逡巡や感情を他人にぶつけることへの躊躇が吹き飛ばされた。
突然、シュベスターがナイフを取り出し、唐突に自らの手を切りつけた。
「おねえさま!なにを!」
「覚えておけ、心者は自分の感情で自分を回復させることはできても、傷つけることができない。だからナイフを使ったんだ。」
「そうではなくて!お怪我を!」
「あぁ、お前の感情で癒してくれるか?お前は怒りをぶつけるのが苦手だろうからな。よい感情からはじめよう。」
そうこうしているうちにも手のひらから血が滴り落ちる。アイはますます焦る。
「どうすれば……!」
「さっきと同じように感情を現して、それを傷口に触れさせてくれればいい。」
「はい!」
おねえさま、おねえさま、いつもやさしくしてくれて、守ってくれて、あいをみてくれる、おねえさま――!
あいのシュベスターへの愛情が手の中に表れる。桜色をしてふわふわした、あたたかなそれを傷口に触れさせる。するとみるみるうちに傷口は塞がり、血は止まる。
「ほう……!お前の愛情は心地いいな。それに傷の治りも早く、普通はある不快感もない。お前はいい愛するものになるな。」
「Lieber……」
「そうだ、心者の中でも特に愛情を使い自分や他人を癒すことに長けたものをそう呼ぶ。
どの感情表現が得意かはほとんど生まれと環境によるものだ。訓練である程度は伸ばせてもな。
例えば、誰にも愛されたことがない者は誰も愛することができない。そもそも貰ったことがないものは人に与えられないだろう?」
「それはなんだか……かなしいことですね……。……?……ということは……あいも誰かに愛されたことがある……?」
シュベスターがぎょっとして言う。
「何をいっている!ゲアーターもエゴぺーも……それにお父様……お母様だって!お前を愛してくれているだろう!そ、それに……わたしも……おまえを……」
はにかみからほとんど音を発しなかった最後の言葉は、かなしいかなアイには届かなかった。
「……お父さまとお母さまが……?そんなことがあるのでしょうか?いつもアイのせいで怒らせてばかりですし……なによりも本当はなかよしな、お父さまとお母さまの喧嘩の理由はいつも、いつもアイです……。どうしてこんな人間を愛して下さるでしょうか……?」
「そんなことはない、アイという名だってきっと、お前を愛しているから付けたんだろう。今度聞いてみるといい。これは決してお前を安心させようとWhite Lieを吐いているんじゃないぞ。」
◇◆◇
お父さまとお母さまがほんとうにお互いを愛し合っていることは、あいが一番よく知っていた。この世でいちばんうつくしいそれを誰よりも渇望しているからだ。それを眺めるのが好きだった。あいは両親にいつまでも、いつでもなかよしでいて欲しかった。
でもそんな慈しみ合う二人の喧嘩の原因はいつもアイだった。両親の期待に沿えなくて、怒らせてしまう。してはいけないことと分からないままやってしまって、怒らせてしまう。アイのやることなすこと、すべてが。でも何よりもアイのしないこと、できないことが、2人を苛つかせる。
アイは叱責されるたびに、自分は自分がこの世で最も幸せでいて欲しい人たちを、不幸にするために生まれてきたのかと思う。なんでこんなに幸せな家庭に、恵まれた環境に、やさしい親の元に、完璧なきょうだいたちの後に、自分のようなゴミ屑が生まれてしまったのか。
アイはいつでもそのことが不思議だった。やるせなかった。許せなかった、自分が生まれてきたことが。自分が嫌いだった。憎んでいた。愛すべき人たちの幸せを貪り、彼らのお金で生活をする穀潰し。そんな奴が嫌いだった。そんな自分が憎かった。許せなかった。生きていることが。愛しい人々の生活を壊しながらものうのうと飯を食っていることが。
でも……しぬのはこわかった。ほんとにこわかった。こわくてたまらなかった。こんなことを考えていながらも皆のために一番いいことができないのが嫌だった。愛する人々を幸せにする唯一の方法が、それがわかっているのに、こわいだなんて自分勝手な理由で、それをしない自分が嫌いだった。自殺できない自分が恥ずかしかった。こんなことを考えていても、家族の幸せを破壊するよりもっとこわいことがある自分が憎かった。
そうだ。アイはこわかったのだ。おこらせることよりもにくまれることよりも。ただ見放されるのがこわかった。それがいちばんこわかった。おまえはもういらないと。おまえ、なんでここにいるんだ?と聞かれることがこわかった。
友達に当然誘われたと思って行ったのに、お前なんで来たの?と言われるような孤独。同種の孤独、しかし絶望はその比ではない。家族に望まれて生まれてきたと思ったのに、おまえなんで生まれてきたの?と言われるのは。
理由が、恩恵がなくてもいっしょにいたかった。おかあさまといっしょに。おまえがいても嫌な気分にはならないと。とるに足らないものだと。そういってほしかった。あいしてほしいなんておこがましい。でもせめて、そばにいたかった。役に立ちたかった。
なのにおかあさんをなかせるのはいつもあいだった。ほかのみんなはできるのに。あたりまえにできるのに。教えられなくてもわかるのに。なんであいにはわからない?いっぱいかんがえたのに、たくさん本をよんだのに。それがしりたくてよんだのに。生きてるだけで人を嫌な気分にさせられるのに、どんなにがんばっても人をしあわせにはできないんだ。
なんで。なんで……。おかしいじゃないか、ゆるせない。なにがゆるせないのかもわからない。ゆるしてほしい。だれにゆるしてほしいのさえわからない。なにもわからないんだ。でもゆるしてほしいことはあるんだ。ただ、生きていてもいいよって、そばにいてもいいよって。あなたが生きていてくれるとうれしいよなんて望まない。ただ、あなたが生きていても嫌な気分にはならないよって。自分の人生を後悔しないよって、あなたを生んだことは正解じゃあなかったけど、大きな間違いでもなかったって。もう手をあげたからってだきしめてもらおうなんて図々しいことは望まないから。みているだけでしあわせだから、だから――。
◇◆◇
「アイ!」
姉の声で泥の中から目を覚ます。
「おねえ……さま。」
「大丈夫か?ぼーっとしていたぞ。顔もなんだか蒼いようにみえる。生まれて初めて感情を顕わにしたから疲れているのかもしれん、ここまでにしておこう。」
「あっ、ご……ごめ――」
言いかけた唇を姉の人差し指が塞ぐ。
「あやまるな、おまえは何も悪いことをしていないだろう?休もう。離れまで送っていく。ほら、背中に乗れ。」
「い、いえ、少しお庭をお散歩してから帰ります。すこし独りで考えたいことがあって。」
「そうか……?分かった。じゃあ気を付けて帰れよ。」
去り際にあいがシュベスターに尋ねる。
「おねえさま。先ほどのお話を聞いて思ったのですが……愛情は自分を癒すこともできるのですね……?」
「?……あぁ、愛情は攻撃には使えない、人を傷つけることはできない。その代わりに他者を、自分を癒すんだ。自分を癒せる程度は人によって異なるが、誰もが自分の愛情で自分を癒せるし、自分を癒してすぐに戦線に復帰できるものさえいる。
生まれと環境と才能がそろったものなら自分を常に癒しながら戦うものもいると聞く、これは噂程度だが。そんなやつがいるとすれば、よっぽど自分のことが好きなんだろうな。」
最後はすこしお道化て、アイを元気づけるように言う。
「……そうですか。ありがとうございます。」
自分より随分と背が低いのにいつも一生懸命見上げてきて、眼を見て話すアイが、シュベスターは好きだった。だが今はこちらを見ようともせずにお礼を言う。不思議に思ったが初めての自身の感情を形にしたことで疲れているのだろうと、素直に見送った。
◇◆◇
アイは茫然自失だった。働かない頭で何かを必死に考えながら。或いは考えないようにしながら、無心で中庭のほうへ歩いていく。
それがよくなかった。お母さまやお父さまにあったらいつも叱らせてしまうので、普段は細心の注意を払いながら、物音を気にして、両親に会わないように、家の中を歩いていた。顔と髪を隠すための、アイには大きすぎる外套と仮面も忘れてしまっていた。
「……アイ……てめぇ……なにしてんだ?」
すべてを切り裂くような声で呼ばれ、アイの身体がびくりと震える。恐ろしくて後ろを振り向けない。
「あ……あ……あの、お母さま、わたくしは」
「黙れ。耳障りな声をたてるな。今すぐ執務室にこい。」
返事をするとまた不快な気分にさせてしまうので、黙って頷いて母を追いかける。
◇◆◇
部屋に入った途端エレクトラに顔を殴り飛ばされて、床を転がる。震えながら小さな体躯をさらに縮こまられて横たわるアイの顔に、母の蹴りが何度も飛ばされる。声を出すとお母さまの気分を害してより手酷いしつけが待っているので、アイは口を両手で塞いで決して悲鳴を上げないようにする。
それはそれで苛つかされたエレクトラがより酷くアイを嫐る。暫くそのような時間が続き、アイの腹に仕上げとばかりに、一番大きな蹴りをいれたエレクトラが、今度はアイの長く美しい黒髪を掴んで無理やり顔を引き上げて、目を合わせる。
「テメェのそのクソみてぇな面と髪見せんなって何度も言ってるよなァ?あぁ?おい。外套も仮面も付けずによぉ……舐めてんのか?あぁ!?」
「もうしわけ……ありません、エレクトラさま……ゲホッ……。はじめて感情を表す術をならって……すこし……。」
「言い訳すんな、気色わりぃ。……あぁー、そういやぁシュヴェスターにオマエに心を教えろって言ったんだったなぁ……。……やってみろ。」
アイはここで上手くできたら生まれて初めて、母に産んでよかったと思ってもらえるかもしれないと思って、悲鳴を上げる身体にムチを打ちなんとか上半身だけ起こして座り込む。そして、手の中にありのままの感情を表す。
アメジスト色の粘っこく肌にこびりつき離れないそれは――
「……恐怖か。」
普段は暴力を振るう時にしかアイに触ろうとしない母が、アイの手のひらにねばりつくそれを触って言う。
アイは初めてお母さまが自分に触れてくださったと、さっきの暴力も忘れてうれしい気持ちでいっぱいだった。もう二度と訪れないかもしれない、親の肌に触れるというその僥倖を、決して逸することはないように、必死で母の体温を感じようとする。
そのためにそっと殆ど触れているかも分からないような具合で、母の手に触れた。あたたかい、これが、ぬくもり、これが。
「当てつけか?テメェ……。わざわざ恐怖なんて不快で気持ちわりぃモンを擦り付けてきやがって!しかもオマエの感情を!!」
「ち、ちがいま――」
「言い訳すんなつってんだろうがぁ!あぁ?!」
容赦のない拳がアイの顔面を襲う。そしてアイの華奢な体躯を簡単に入り口のドアまで飛ばし、叩きつける。
「きゃあ!」
咄嗟のことでいつものように口を押さえることもできず、全身の痛みから悲鳴をあげてしまう。
「苛つく悲鳴を聞かせやがって。ここまで来たらわざと俺を苛つかせようとしてんだよなぁ?!じゃあ望み通りにしてやるよ!」
「ゲホッゴホッ、け、穢れた声を聞かせてしまったのはわざとではないんです!けっして!エレクトラさまを怒らせようなどとは!けっして……ゲホッ」
エレクトラが感情を顕現させる。
黒い太陽のような激しく燃え盛るそれは、部屋中の全てのものを黒い光で照らし出して色を変えさせるそれは。アイの穢れた髪の色と顔の形を天の太陽の様に暴き出すそれは――。
「ぁ……いじょう……?」
一見憤怒の炎に見えるそれは、しかし誰よりも母を愛しているアイには分かった。分かってしまった。それが“母の愛”だと。でも。
「なんで……?」
いやおねえさまは、いっていた。愛は人を癒やすと。傷つけることはできないと。
――おかあさまはきっとあいをあいしてくださっていると。だからあいと名付けたんだと――。
「ぉああざま……」
泪を見せると余計に苛立たせてしまうと気づいた幼い時から、どんなにつらくとも決して泣かないと決めていた。もう何年も人の前でだけは泣いていない。
そんなアイの袖が濡れる。ぽろぽろと。殴られすぎてまともに声がだせない。でも、アイは歓喜していた。歓喜の調べが自分のもたれかかっているドアから聴こえてきていた。運命が後ろのドアを叩いてアイを急かす。
はやく運命を見ろと!お母さまはその愛をアイに与えて下さろうとしている。あいを、怪我をしたあいを、あいを癒やすために――!!
「オマエに愛を与えてやろう……。」
エレクトラが燃えさかる愛をアイに向けて放つ。
――ああ、おかあさま――。あぁ!……生まれて初めて……。
――?――!!!
いたいいたいいたいあついいたいいたい――!!
「きゃあああぁああ?!」
しかしアイが全身に感じたのはぬくもりや癒しなどではなく、痛みだった、それも並々ならぬ激痛が全身に染み込んでくる。その華奢で矮小な体躯には、おおよそ大きすぎる痛みが与えられる。
どうにかしてそれを逃がそうと暴れまわるが、傷めつけられた手足は上手く動かない。なのに刺すような痛みと鈍痛が両方とも、どんどん身体の、心の内側にまで侵食してくる。喉が焼けて息が苦しい。
「な……なん……で……ぇ。」
「なんで?……あぁ、シュベスターから聞いてねぇのか。愛情も他人を傷つけることができる。」
ニタニタと笑いながらアイの母親は続ける。
「相手を憎んでいる場合はな。それもただ憎んでいるんじゃあない、それだと精々憎しみを具現化して傷を付けるのが関の山だ。……この憎悪は違う。
相手のことを心の底から殺したいと思って、死んでほしいと願って、姿形・心根・生き方っつう相手の存在の全てに黒い憎悪を抱いていないと顕現させられない。そういう心底テメェを憎んでいるという、その気持ちを表したのがこの、黒い太陽だ。
俺からこんなに思われて、うれしいだろう?なぁ!!サクラァ!!この……人間野郎が!」
彼女をここまでの凶行に走らせたのは、“人間的な、あまりに人間的な”……感情であった。
◇◆◇
黒い光がアイの前に横たわる全生涯を一瞬のうちに照らし出した。それをアイはただ見ていた。見えてしまった。だから、気がついてしまった。きっと一生涯このままなんだと。
どんなに頑張っても、泣いても、喚いても、足掻いても、おかあさまは生涯あいをあいしてくれるようにはならないと。痛みの激しさと満身創痍身体のおかげで、幸いにもアイは殆ど母の言うことが聞き取れなかった。
しかし悲しいかな、アイを包む黒い太陽の全てが声を大にして伝えてくる。“オマエが憎い”と。それは言葉より遥かに雄弁だった。それは言葉より確かにアイの心の最奥を貫いた。
アイが聴いていた歓喜の調べは夢幻のものだったと。アイを急かしていた運命はこれだったと。これこそがアイの運命だと。アイの信仰する言葉では表せないものを、言葉以上のものを、おかあさまは確かに表してみせた。それはアイに理解させるには充分だった。
ずっと聞こえていたのに、ずっと見えていたのに、生まれたときからずっと知っていたのに、目を逸らし続けてきたことを。それは何よりも確かにアイに理解させた、アイがこの世で一番知りたくないと思っていたことを。
つまり、“自分は母親に愛されていない”ということを。
◇◆◇
怪我と涙で目障りだからと、執務室を文字通り叩き出されたアイはトボトボとびっこを引きながら歩いていた。片足が上手く動かなくなったからだ。殆ど身体を引き摺るように歩いていたアイは、家族の誰かの御目を汚してしまう前に、自分の感情で怪我を治療しようと考えた。
誰にも見つからないようにしながら離れまで歩いてくには、体力も気力ももう残されていなかったからだ。そうして中庭の小さな池の前に倒れ込んだ。
「はぁ……ゲホッ……はぁはぁ……」
息も絶え絶えになりながら、愛することを考えた。自分を癒やすために、自分に対する愛情を。酷く漫然とした速度で手の中に桜色の柔らかな膜のようなものが現れる。見るからに人を愛し、癒し慈しむ為に生まれてきたというような様相である。
「……おああさまは……アイ……を……」
でも、自分ぐらいは、じぶんのことを――
それを自分の左足にそっと触れさせる。それがもたらしたのは、安寧でも泥濘でもなかった。ただ、激痛が走る。エレクトラに愛情をぶつけられた時よりも、鋭く、深く、それでいて鈍い。
例えるならば、鋭い槍で串刺しにされながら、えたいの知れない不吉な塊がアイの心を始終圧おさえつけているような感覚であった。
予想外の激痛にも、鈍痛にも、もうアイは驚きも叫びもしなかった。ただ、時として一瞬の激しい痛みよりも、永く続くやわい鈍痛の方が人を死に至らしむるのではないか、などと考えていた。得心がいったからだ。
つまり、なぜ子を傷つけるはずのない、母の愛がアイを傷つけ、なぜ自身を癒すはずの、自分への愛がアイを痛めつけるのかを。
――おかあさまは、心の底からアイを憎んでいる、だからおかあさまのあいはアイを焼く。
そうであるならば、答えは自ずとわかる。
――アイの愛は、アイを痛めつける、ということはきっとアイ自身がこんなアイのことが嫌いなのだろう。
◇◆◇
そうか、アイはアイのことが嫌いだったんだ。憎かったんだ。殺してやりたいんだ。なんだかしっくりきてしまった。こんな塵屑好きになるやつはいない。アイだってこんなやつは嫌いだ。
じゃあ、殺してしまおう、こんな自分は。だってそうしたらみんな幸せなのだから。おかあさまのもおとうさまも、お兄さまもエゴペーお姉さまも、アイ自身も……みんなみんなみんな……。
……なんで、やさしくしてくれるお兄さまやエゴペーお姉さまを信じられない?やさしい人たちを疑うということが、この世でもっとも嫌悪すべき悪徳であるということを知っているのに?
……たぶんきっと、お兄さまはお母さまに、エゴペーお姉さまはお父さまに愛されているからだ。ありありとそれを見せつけられるからだ。あいがどれだけ渇望しても手に入らない愛を、なみなみと有り余るほど注がれているのを目の当たりにするからだ。
余ってるならくれたっていいじゃないか。少しくらいくれたって。一滴だっていいのに……。それで幸せなのに。だから信じられない?どうして?お二人は何も悪くないのに。それが自分を惨めにするというだけで、二人を信じきれない。そんな自分がいちばん嫌いだ。いちばん醜い。
ならはやくしんでしまおう。これ以上1秒でも永く大好きな人たちを傷つけ続ける前に。愛する人をアイが生きてるせいで不幸にする前に。
……でも。でもシュベスターは?おねえさまは……もしアイが死んだら。もし完璧な家族から唯一の汚点が消え去ったら。それでもかなしんで下さるたろうか……?もしアイがしんだら。お姉さまは……。かなしんで下さる?人を悲しませて喜ぶなんてとことんゴミクズだな……アイは。
でも……もしかなしんで下さるなら。いや、おねえさまはきっとかなしんで下さる。おねえさまだけはきっと。ならしねない……ゆいいつ信じられる人をかなしませるなんて。いくらアイでもそんなことはできない。そして、おねえさまがかなしんで下さるなら、もしかしたら、万が一にも、お兄さまとエゴペーおねえさまも……?もしかしたら。
ならば生きていよう。きはすすまないけど、できるだけしずかに、あいするひとたちの視界にはいらぬように。ただおねえさまの……家族の幸せを願っていよう。そして願わくば……これ以上誰も。きずすけなくない。なんだかなみだがでてきた。なきたくなんかないのに。
死にたいわけじゃない。そんなわけない。死ぬのはこわい。ほんとにこわい。こわくてしかたがない。しにたくない。しにたいわけじゃないんだ。ただ……生きていたくないんだ。
でもたったひとり、ひとりだけでも、アイがしんだなら、かなしんでくれる、かなしんでくれるひとがいると、そう、こころでかんじられるうちは、そのうちだけは、いきていよう、とおもった。
アイが愛されているというのは、お姉さまの“白い嘘”だ。やさしい嘘が白いと言うのならば……きっと“残酷な真実”は黒く光るのだろう。アイを灼いた、おかあさまの愛のように。
だから……おかあさまに愛されていないということだけが、確かに黒く光る……真実である。
この日は苦雨が降った。
◇◆◇
エレクトラは窓から左手を出す。
決して留まらず、手を滑っては消える夜来の雨に触れながら、こう考えた。
顔を見れば腹が立つ。情に棹させばつけあがる。意思をみせると業腹だ。
とにかく塵屑とは相容れない。
相容れなさが高じると、遠くへ追いやりたくなる。
どこへ追いやっても憎らしいと悟ったとき、不俱戴天となって、殺意が目覚める。
しかし、音もなく降り積もる残雨に手を晒しているうちに、或ることがなんとなく思われる。
そして其れはこころの内で確かな形を持ち始める。思考が転じ1つの思想と迄なったとき、母は独りごちた。
「まだ、アイには利用価値があるかもしれない……。」
その言葉は、小糠雨の中で確かに黒く光っていた。
◇◆◇
あいは生まれてこのかた太陽に追い詰められてきました。太陽はいつも私とその他の全ての人々との差を浮き彫りにするのです。
私だけが普通の人々のように生きていけないということを。普通の人が誰に教えられずともわかることを、私だけが知らないということを。
そして何より、私が、私だけが、家族の誰とも髪の色も顔の形も似通っていないということを。太陽の光で際立つ黒い髪と自分の顔が嫌いだった。
私だって、みんなと一緒に。私だって、闇の中でまどろんでいたいのに。だのに太陽の眩しさはすべてを暴いて去っていく。その場に留まりさえしない。ただ私の醜さを白日の下に晒し消えていく。穢れた私だけを残して。清廉な人々の只中に置き去りにしていく。
だけど、ほんとは嫌いなんじゃない。ただ、ただ、こわいのです。恐ろしいのです。幸福が。しあわせが。“ほんとうのさいわい”が。夜の闇の中では私を抱きしめてくれるそれが。それが太陽の下では私のそばにはいてくれないと知っているから。刹那のうちに逃げ去ってしまうと知っているから。ただ独りの私を残して。
幸福を恐れる人間もいるのです。しあわせに首を絞められる人間もいるのです。真綿で窒息してしまうのです。その軽やかな重さに溺死してしまうことがあるのです。
◇◆◇
――私は太陽がこわい。明るさがこわい。木漏れ日がこわい。陽だまりががこわい。――他人がこわい。そしてなによりも、人間が――。
◇◆◇
シュベスターはときどき、アイにWhite Lieを吐くことがあった。White Lieというのは地獄の言葉で、直訳すると白い嘘だが、意味としてはやさしい嘘である。ある人をのことを思って、その人のために吐く嘘のことを言う。
真実はいつも人を傷つける。シュベスターはアイが真実によって傷つけられそうなときは、決まってWhite Lieをついた。いつも真実によってではなく、嘘によって弟を守ろうとしたのである。
例えば、家族の中でアイだけがクリスマスプレゼントや誕生日プレゼントを貰えなかったとき。いつもエレクトラはアイとエゴペー以外にプレゼントを用意して、お祝いもする。そしてオイディプスは娘達だけにプレゼントをあげる。だからアイだけが毎年プレゼントを貰えないのである。
アイ自身はこれを自分だけが両親にとって“いい子”ではないからだと考えていた。いつの頃からか、シュベスターがプレゼントを用意して、これはお母さまからだと嘘をついて、アイに渡すようになった。
アイはそれが嘘だと最初は分からなかったが、自分の誕生日に毎年母の機嫌が悪くなり、父と喧嘩をする声に耳を塞いでいるうちに、真実に気づいた。その白い嘘の後ろの黒い真実をみたときは、初めて自分だけプレゼントを貰えなかったときよりも深く心を抉られたが、決してシュベスターを恨むことはなかった。むしろ、姉の愛を感じそれを慈しむようになった。だからアイはずっと騙されたふりをしている。
◇◆◇
あいが4さいになって少し経ったころ、シュベスターがエレクトラに言われて戦う術を教えることになった。
「あい、今日はお母様に言われてお前に戦い方を教えることになった。まぁ戦い方といっても身体を使ったものというよりは、心を使ったもの……心のことだ。」
「Herz……心ですか?」
「あぁ、地獄語で心という意味がある。この文学界には感情をコントロールする術がある。コントロールするといっても精神的に、怒りを抑える、かなしみを受け入れる、といった類のものではない。物理的に感情を操るのだ。」
「物理的に……感情とはその元来、形而上のものですよね……?」
「うん、その認識で間違いない、感情とは精神的なものだ。だが我々はそれを形而下に、つまり物質世界に引きずり下ろす術がある。」
「それが……心。つまりあいたちは、みんな唯物論的な世界観の下で生きているということですか?」
「すまない。アイ……私はお前ほど地獄学問に明るくないんだ。唯物論とはなんだ?」
子供がたまに親に頼られると喜び勇んで役に立とうとするように、子供らしい無邪気さと少しの得意気を含んで、一所懸命に説明した。自分にも人の役に立てるところはある、存在する価値があると確かめるように。
「えぇっと……唯物論というのは、物質こそが世界を構成する根源的なものとみなす哲学上の立場です。心の実在を否定するもしくは、物質によって心が生み出されたものだと考えます。
その対となるのが唯心論です。えっと、えっと、こちらは世界の本質や根源を心と捉えます。物質的なものは仮のものと見なし、心を至上原理とします。」
「なるほど……ふむ……面白いな……。だがアイ、私が思うに、心を使うものたち……心者のほとんどはそのようなことは気にしていない。心者はただ心を使うのだ。そこに疑問や意思は必要ない。ただ、使うんだ。……そうだな、道具のようなもだと思ってもらってかまわない。」
「こころが……道具……?……。」
「そのほうがこれから教えることがやりやすいだろう。まず第一に感情を具現化する。こうやって――」
シュベスターの掌がきらきらと光り輝き、その上にローズピンク色をした結晶が現れる。
「わぁあ……!」
「これは私の感情を顕現させたものだ。このように感情を現して、感情を表すことができる。これは今、私の中にある幸福感を結晶化したものだ。」
「……?……おねえさまは今しあわせを感じていらっしゃるのですか?」
「ぐっ……そ、そうだ。」
今感じている幸福の理由そのものからの問いに、シュベスターはすこし照れたように返す。
「その時に感じている感情しか具現化させられないのですか?」
「いや……強者や技巧に富んだものは、何十年も前の感情を引き出して戦うこともできる。訓練すれば形も様々に変化させられるし、一度に大量の感情を使役することもできるようになる。早速お前にもやってもらおうと思うのだが……いいか?」
「なるほど……。やってみたいです!」
「……意外だな。お前は普段から言葉を大切にしているし、先ほどの話からも心や精神というものに敬意を払っているように見える……いいのか?」
姉がアイを慮ったように言う。
「たしかにあいは地獄本の影響で、言葉やこころというものが好きです。言の葉を愛しています。崇拝しているといってもいいです。この世界は『はじめに言葉ありき』という言語決定論の立場を取っています。
しかしながら、どうしても言葉では表せないものがこの世には存するのです。確かに存するのです。それは形のないものたちです。目に見えないものです。思想、精神、感情もそうです。ことばを信奉しているあいですら、御言葉如きでは語れないものの存在を確かに感じるのです。
だからこころなどといった、言葉以外のものたち……言葉以上のものたちには、より一層敬意を表したくなるのです。彼らに対して敬意を払いすぎるということがあるでしょうか?……いいえ、ありえません。」
「ふむ、それを聞いて尚一層不思議に思われるのだが……心は、お前が信奉する目に見えない形而上のものを、ある種強引に物質世界にひきずり下ろすことを含む。いやむしろそれこそが心だ。言葉の信者であるとすらいえる、お前の主義に反することだ……なのになぜ二つ返事で引き受ける。」
「それがおかあさまの言いつけだからです。先ほどおねえさまは、おかあさまに言われてあいに戦い方を教えてくださるとおっしゃいました。
ならばあいの主張など唾棄すべきです。そこに何の疑問をさしはさむことがありましょう。おかあさまの意思とあれば、あいは頭を使う必要はありません。思考を差し挟むべきではありません。それがどんな命令であっても、ただ盲目的にそれを遂行するのみです。」
シュベスターは少しの恐怖を感じた。あいと同等かそれ以上にエレクトラを敬愛するシュベスターが、である。
これではまるであいは言葉の信者というよりはむしろ――と、ここまで考えてシュベスターはそれでなにも問題がないことに思い至った。
「そうか、いい心がけだな。まぁお母様の言うことに間違いはないし、それでいいか。……では早速やってみるか。」
「はい!」
「よし……じゃあ、身体に触るぞ……。」
シュベスターはアイの後ろにまわり、その小さな体躯を抱きすくめるような恰好をとった。そして両手でみえない球体を支えるような形をつくる。
「ごほん……では私のこの手の内側に手を重ねてくれ。」
「は、はい」
「よし……今何を感じている。」
「おねえさまの体温があたたかくて……心地いいなと」
「げふっ……そうだなお前の抱き心地も匂いもいい……じゃなくて、感情のことだ。」
「あっ……すっすみません……。」
アイとシュベスターはお互い顔を赤くして目を泳がせる。
「そうですね……これは……このあたたかさは、ここちよさは……これが、しあわせというものでしょうか……?」
アイがはにかみと共に感情を言葉にする。
「っ……よし、まずは一番簡単な、その時感じている感情をありのまま形にするんだ。」
シュベスターは一瞬驚いたがその鉄仮面を保ったまま指導する。
「高いところから下に感情を降ろしてくるイメージだ。頭の上から幸福が降ってくるような感じで……。」
最初天国からしあわせが落ちてくるようなイメージをしていたアイだったが、それでもたらされるのは得も言われぬ苦しさだけだった。身体がぶるりとふるえて、どこかに逃げ出したくなる。アイは考えた。
――くるしい。
「帰りたい……。」
帰りたい……?どこに?あいのおうちはミルヒシュトラーセ家なのに。
「アイ?大丈夫か?」
姉の声が深く沈んでいたアイの思考を現実に引き戻す。
「は、はい。すみません……なんだかうまくできなくて……。」
なにかをとても恐れているという震えた声音だった。
「……?……謝るな……何も悪いことをしていないだろう。それに最初からうまくできるやつは稀だ。ゲアーターだってそれはひどいもんだったらしいぞ。」
安心させようとおどけた口調で言う。
「そうなんですか……?」
「あぁ……今度聞いてみろ、毎回アイツに嫌な顔をさせられるからな。」
「ふふっ、だめですよ?いじわるは。」
「仕返しだよ、アイツもよく揶揄ってくるからな。そうだな、どんなイメージをしている?」
「高いところと聞いてイメージしたのが天国だったので、天球の上の天国を考えました。」
「ふむ……そうだな……すこし現実味に欠けるのかもな。天国には行ったことがないだろう?在るのかもわからない。」
「はい……多分行ったことはないです。」
「多分?恐ろしいことをいうな、私が保証してやる、お前は生まれたときからずっと兄姉といっしょだっただろう?」
「そうですね……そうです。」
「心を具現化するといってもな。なにもお伽話の不思議な力を使うんじゃない。感情とは元々確かに現実に存在するだろう?イメージをもう少し現実的にしてみろ。」
「は、はい。」
高いところ……頭の上、屋根、雲の上、空、快晴の青い空……空……空……そこから朝が降ってくる……あいの頭の上に……!
ふわりとアイの手の中でやわらかな何かが踊っている、レモンイエローのそれは、儚く、揺蕩う、今にも消えてしまいそうなそれは――。
「……これがあいのしあわせ……。」
「そうだ!よくやったなアイ!」
感極まったようにシュベスターがアイの頭を撫でる。
「わっわっ。あっありがとうございます……でもこれはおねえさまのしあわせとは色も形も違います。おねえさまのはもっとピンクで硬そうで……。」
「しあわせのかたちは人によって違うからな。何をしあわせと呼ぶのかすら。だろう?」
「つまり同じ感情でも生み出す人によっていろいろな色や姿がある……?」
「そうだ。あいのしあわせは、確かに不安定で儚げで……でも綺麗だ。」
「あっありがとうございます……あ、あの!おねえさまのしあわせも!……きれいでした。」
「ふふっ、そうか?ありがとう。感情の姿は人によってさまざまだ。炎のような怒りもあれば、燃えるような愛情もある。涙のようなかなしみもあれば、海のような喜びだってある。
液体だったり気体だったり、固体だったり……波の形……つまり光や音なんてのもあるらしい。本当に人それぞれだ。使いようも自分の感情の表れ方に合わせたものになる。」
「そうでした……使うんでしたね、これを……。」
アイは自分のしあわせを愛おしそうに抱きしめる。
「あぁ、お前には気乗りしないかもしれないが。感情はそれが好感情か悪感情かによって使い方を大別される。
なぜなら、怒りや憎しみはそれに触れた者を傷つけ、愛情は癒すからだ。つまり、心者は敵に怒りをぶつけ、憎しみを与える。そして、輩に愛情を捧げ、喜びを与える。そうして戦うんだ。」
「他人に自分の感情をぶつける……そんなことをして、恐ろしくはならないのでしょうか?」
「最初はな、だが皆戦ううちに慣れて感情を使うことを厭わなくなる。感情を他者にぶつけているうちに、誰も彼も感情に敬意を払うことをしなくなるんだ、いちいちそんなことをしていたら先に他人の感情に殺されてしまうからな。」
アイのしあわせはいつのまにか、どこかに消えていた。まるでそのちいさな手のひらには大きすぎたかのように。
「でも……。」
アイの悲しそうな顔を見て、姉はすこし――他人が見ればわからないだろうがアイだけにはわかる――すこし、微笑んだ。
「そんな顔をするな……アイ。」
膝をつき目線を合わせ、あいの頬をやわらかく撫でる。
「感情を思うままに表現できるようになれば、お母様ももう少しお前を認めてくれるかもしれんぞ?」
「おかあさまに……!わかりました!」
“お母様”という魔法の言葉で、あいのそれまでの逡巡や感情を他人にぶつけることへの躊躇が吹き飛ばされた。
突然、シュベスターがナイフを取り出し、唐突に自らの手を切りつけた。
「おねえさま!なにを!」
「覚えておけ、心者は自分の感情で自分を回復させることはできても、傷つけることができない。だからナイフを使ったんだ。」
「そうではなくて!お怪我を!」
「あぁ、お前の感情で癒してくれるか?お前は怒りをぶつけるのが苦手だろうからな。よい感情からはじめよう。」
そうこうしているうちにも手のひらから血が滴り落ちる。アイはますます焦る。
「どうすれば……!」
「さっきと同じように感情を現して、それを傷口に触れさせてくれればいい。」
「はい!」
おねえさま、おねえさま、いつもやさしくしてくれて、守ってくれて、あいをみてくれる、おねえさま――!
あいのシュベスターへの愛情が手の中に表れる。桜色をしてふわふわした、あたたかなそれを傷口に触れさせる。するとみるみるうちに傷口は塞がり、血は止まる。
「ほう……!お前の愛情は心地いいな。それに傷の治りも早く、普通はある不快感もない。お前はいい愛するものになるな。」
「Lieber……」
「そうだ、心者の中でも特に愛情を使い自分や他人を癒すことに長けたものをそう呼ぶ。
どの感情表現が得意かはほとんど生まれと環境によるものだ。訓練である程度は伸ばせてもな。
例えば、誰にも愛されたことがない者は誰も愛することができない。そもそも貰ったことがないものは人に与えられないだろう?」
「それはなんだか……かなしいことですね……。……?……ということは……あいも誰かに愛されたことがある……?」
シュベスターがぎょっとして言う。
「何をいっている!ゲアーターもエゴぺーも……それにお父様……お母様だって!お前を愛してくれているだろう!そ、それに……わたしも……おまえを……」
はにかみからほとんど音を発しなかった最後の言葉は、かなしいかなアイには届かなかった。
「……お父さまとお母さまが……?そんなことがあるのでしょうか?いつもアイのせいで怒らせてばかりですし……なによりも本当はなかよしな、お父さまとお母さまの喧嘩の理由はいつも、いつもアイです……。どうしてこんな人間を愛して下さるでしょうか……?」
「そんなことはない、アイという名だってきっと、お前を愛しているから付けたんだろう。今度聞いてみるといい。これは決してお前を安心させようとWhite Lieを吐いているんじゃないぞ。」
◇◆◇
お父さまとお母さまがほんとうにお互いを愛し合っていることは、あいが一番よく知っていた。この世でいちばんうつくしいそれを誰よりも渇望しているからだ。それを眺めるのが好きだった。あいは両親にいつまでも、いつでもなかよしでいて欲しかった。
でもそんな慈しみ合う二人の喧嘩の原因はいつもアイだった。両親の期待に沿えなくて、怒らせてしまう。してはいけないことと分からないままやってしまって、怒らせてしまう。アイのやることなすこと、すべてが。でも何よりもアイのしないこと、できないことが、2人を苛つかせる。
アイは叱責されるたびに、自分は自分がこの世で最も幸せでいて欲しい人たちを、不幸にするために生まれてきたのかと思う。なんでこんなに幸せな家庭に、恵まれた環境に、やさしい親の元に、完璧なきょうだいたちの後に、自分のようなゴミ屑が生まれてしまったのか。
アイはいつでもそのことが不思議だった。やるせなかった。許せなかった、自分が生まれてきたことが。自分が嫌いだった。憎んでいた。愛すべき人たちの幸せを貪り、彼らのお金で生活をする穀潰し。そんな奴が嫌いだった。そんな自分が憎かった。許せなかった。生きていることが。愛しい人々の生活を壊しながらものうのうと飯を食っていることが。
でも……しぬのはこわかった。ほんとにこわかった。こわくてたまらなかった。こんなことを考えていながらも皆のために一番いいことができないのが嫌だった。愛する人々を幸せにする唯一の方法が、それがわかっているのに、こわいだなんて自分勝手な理由で、それをしない自分が嫌いだった。自殺できない自分が恥ずかしかった。こんなことを考えていても、家族の幸せを破壊するよりもっとこわいことがある自分が憎かった。
そうだ。アイはこわかったのだ。おこらせることよりもにくまれることよりも。ただ見放されるのがこわかった。それがいちばんこわかった。おまえはもういらないと。おまえ、なんでここにいるんだ?と聞かれることがこわかった。
友達に当然誘われたと思って行ったのに、お前なんで来たの?と言われるような孤独。同種の孤独、しかし絶望はその比ではない。家族に望まれて生まれてきたと思ったのに、おまえなんで生まれてきたの?と言われるのは。
理由が、恩恵がなくてもいっしょにいたかった。おかあさまといっしょに。おまえがいても嫌な気分にはならないと。とるに足らないものだと。そういってほしかった。あいしてほしいなんておこがましい。でもせめて、そばにいたかった。役に立ちたかった。
なのにおかあさんをなかせるのはいつもあいだった。ほかのみんなはできるのに。あたりまえにできるのに。教えられなくてもわかるのに。なんであいにはわからない?いっぱいかんがえたのに、たくさん本をよんだのに。それがしりたくてよんだのに。生きてるだけで人を嫌な気分にさせられるのに、どんなにがんばっても人をしあわせにはできないんだ。
なんで。なんで……。おかしいじゃないか、ゆるせない。なにがゆるせないのかもわからない。ゆるしてほしい。だれにゆるしてほしいのさえわからない。なにもわからないんだ。でもゆるしてほしいことはあるんだ。ただ、生きていてもいいよって、そばにいてもいいよって。あなたが生きていてくれるとうれしいよなんて望まない。ただ、あなたが生きていても嫌な気分にはならないよって。自分の人生を後悔しないよって、あなたを生んだことは正解じゃあなかったけど、大きな間違いでもなかったって。もう手をあげたからってだきしめてもらおうなんて図々しいことは望まないから。みているだけでしあわせだから、だから――。
◇◆◇
「アイ!」
姉の声で泥の中から目を覚ます。
「おねえ……さま。」
「大丈夫か?ぼーっとしていたぞ。顔もなんだか蒼いようにみえる。生まれて初めて感情を顕わにしたから疲れているのかもしれん、ここまでにしておこう。」
「あっ、ご……ごめ――」
言いかけた唇を姉の人差し指が塞ぐ。
「あやまるな、おまえは何も悪いことをしていないだろう?休もう。離れまで送っていく。ほら、背中に乗れ。」
「い、いえ、少しお庭をお散歩してから帰ります。すこし独りで考えたいことがあって。」
「そうか……?分かった。じゃあ気を付けて帰れよ。」
去り際にあいがシュベスターに尋ねる。
「おねえさま。先ほどのお話を聞いて思ったのですが……愛情は自分を癒すこともできるのですね……?」
「?……あぁ、愛情は攻撃には使えない、人を傷つけることはできない。その代わりに他者を、自分を癒すんだ。自分を癒せる程度は人によって異なるが、誰もが自分の愛情で自分を癒せるし、自分を癒してすぐに戦線に復帰できるものさえいる。
生まれと環境と才能がそろったものなら自分を常に癒しながら戦うものもいると聞く、これは噂程度だが。そんなやつがいるとすれば、よっぽど自分のことが好きなんだろうな。」
最後はすこしお道化て、アイを元気づけるように言う。
「……そうですか。ありがとうございます。」
自分より随分と背が低いのにいつも一生懸命見上げてきて、眼を見て話すアイが、シュベスターは好きだった。だが今はこちらを見ようともせずにお礼を言う。不思議に思ったが初めての自身の感情を形にしたことで疲れているのだろうと、素直に見送った。
◇◆◇
アイは茫然自失だった。働かない頭で何かを必死に考えながら。或いは考えないようにしながら、無心で中庭のほうへ歩いていく。
それがよくなかった。お母さまやお父さまにあったらいつも叱らせてしまうので、普段は細心の注意を払いながら、物音を気にして、両親に会わないように、家の中を歩いていた。顔と髪を隠すための、アイには大きすぎる外套と仮面も忘れてしまっていた。
「……アイ……てめぇ……なにしてんだ?」
すべてを切り裂くような声で呼ばれ、アイの身体がびくりと震える。恐ろしくて後ろを振り向けない。
「あ……あ……あの、お母さま、わたくしは」
「黙れ。耳障りな声をたてるな。今すぐ執務室にこい。」
返事をするとまた不快な気分にさせてしまうので、黙って頷いて母を追いかける。
◇◆◇
部屋に入った途端エレクトラに顔を殴り飛ばされて、床を転がる。震えながら小さな体躯をさらに縮こまられて横たわるアイの顔に、母の蹴りが何度も飛ばされる。声を出すとお母さまの気分を害してより手酷いしつけが待っているので、アイは口を両手で塞いで決して悲鳴を上げないようにする。
それはそれで苛つかされたエレクトラがより酷くアイを嫐る。暫くそのような時間が続き、アイの腹に仕上げとばかりに、一番大きな蹴りをいれたエレクトラが、今度はアイの長く美しい黒髪を掴んで無理やり顔を引き上げて、目を合わせる。
「テメェのそのクソみてぇな面と髪見せんなって何度も言ってるよなァ?あぁ?おい。外套も仮面も付けずによぉ……舐めてんのか?あぁ!?」
「もうしわけ……ありません、エレクトラさま……ゲホッ……。はじめて感情を表す術をならって……すこし……。」
「言い訳すんな、気色わりぃ。……あぁー、そういやぁシュヴェスターにオマエに心を教えろって言ったんだったなぁ……。……やってみろ。」
アイはここで上手くできたら生まれて初めて、母に産んでよかったと思ってもらえるかもしれないと思って、悲鳴を上げる身体にムチを打ちなんとか上半身だけ起こして座り込む。そして、手の中にありのままの感情を表す。
アメジスト色の粘っこく肌にこびりつき離れないそれは――
「……恐怖か。」
普段は暴力を振るう時にしかアイに触ろうとしない母が、アイの手のひらにねばりつくそれを触って言う。
アイは初めてお母さまが自分に触れてくださったと、さっきの暴力も忘れてうれしい気持ちでいっぱいだった。もう二度と訪れないかもしれない、親の肌に触れるというその僥倖を、決して逸することはないように、必死で母の体温を感じようとする。
そのためにそっと殆ど触れているかも分からないような具合で、母の手に触れた。あたたかい、これが、ぬくもり、これが。
「当てつけか?テメェ……。わざわざ恐怖なんて不快で気持ちわりぃモンを擦り付けてきやがって!しかもオマエの感情を!!」
「ち、ちがいま――」
「言い訳すんなつってんだろうがぁ!あぁ?!」
容赦のない拳がアイの顔面を襲う。そしてアイの華奢な体躯を簡単に入り口のドアまで飛ばし、叩きつける。
「きゃあ!」
咄嗟のことでいつものように口を押さえることもできず、全身の痛みから悲鳴をあげてしまう。
「苛つく悲鳴を聞かせやがって。ここまで来たらわざと俺を苛つかせようとしてんだよなぁ?!じゃあ望み通りにしてやるよ!」
「ゲホッゴホッ、け、穢れた声を聞かせてしまったのはわざとではないんです!けっして!エレクトラさまを怒らせようなどとは!けっして……ゲホッ」
エレクトラが感情を顕現させる。
黒い太陽のような激しく燃え盛るそれは、部屋中の全てのものを黒い光で照らし出して色を変えさせるそれは。アイの穢れた髪の色と顔の形を天の太陽の様に暴き出すそれは――。
「ぁ……いじょう……?」
一見憤怒の炎に見えるそれは、しかし誰よりも母を愛しているアイには分かった。分かってしまった。それが“母の愛”だと。でも。
「なんで……?」
いやおねえさまは、いっていた。愛は人を癒やすと。傷つけることはできないと。
――おかあさまはきっとあいをあいしてくださっていると。だからあいと名付けたんだと――。
「ぉああざま……」
泪を見せると余計に苛立たせてしまうと気づいた幼い時から、どんなにつらくとも決して泣かないと決めていた。もう何年も人の前でだけは泣いていない。
そんなアイの袖が濡れる。ぽろぽろと。殴られすぎてまともに声がだせない。でも、アイは歓喜していた。歓喜の調べが自分のもたれかかっているドアから聴こえてきていた。運命が後ろのドアを叩いてアイを急かす。
はやく運命を見ろと!お母さまはその愛をアイに与えて下さろうとしている。あいを、怪我をしたあいを、あいを癒やすために――!!
「オマエに愛を与えてやろう……。」
エレクトラが燃えさかる愛をアイに向けて放つ。
――ああ、おかあさま――。あぁ!……生まれて初めて……。
――?――!!!
いたいいたいいたいあついいたいいたい――!!
「きゃあああぁああ?!」
しかしアイが全身に感じたのはぬくもりや癒しなどではなく、痛みだった、それも並々ならぬ激痛が全身に染み込んでくる。その華奢で矮小な体躯には、おおよそ大きすぎる痛みが与えられる。
どうにかしてそれを逃がそうと暴れまわるが、傷めつけられた手足は上手く動かない。なのに刺すような痛みと鈍痛が両方とも、どんどん身体の、心の内側にまで侵食してくる。喉が焼けて息が苦しい。
「な……なん……で……ぇ。」
「なんで?……あぁ、シュベスターから聞いてねぇのか。愛情も他人を傷つけることができる。」
ニタニタと笑いながらアイの母親は続ける。
「相手を憎んでいる場合はな。それもただ憎んでいるんじゃあない、それだと精々憎しみを具現化して傷を付けるのが関の山だ。……この憎悪は違う。
相手のことを心の底から殺したいと思って、死んでほしいと願って、姿形・心根・生き方っつう相手の存在の全てに黒い憎悪を抱いていないと顕現させられない。そういう心底テメェを憎んでいるという、その気持ちを表したのがこの、黒い太陽だ。
俺からこんなに思われて、うれしいだろう?なぁ!!サクラァ!!この……人間野郎が!」
彼女をここまでの凶行に走らせたのは、“人間的な、あまりに人間的な”……感情であった。
◇◆◇
黒い光がアイの前に横たわる全生涯を一瞬のうちに照らし出した。それをアイはただ見ていた。見えてしまった。だから、気がついてしまった。きっと一生涯このままなんだと。
どんなに頑張っても、泣いても、喚いても、足掻いても、おかあさまは生涯あいをあいしてくれるようにはならないと。痛みの激しさと満身創痍身体のおかげで、幸いにもアイは殆ど母の言うことが聞き取れなかった。
しかし悲しいかな、アイを包む黒い太陽の全てが声を大にして伝えてくる。“オマエが憎い”と。それは言葉より遥かに雄弁だった。それは言葉より確かにアイの心の最奥を貫いた。
アイが聴いていた歓喜の調べは夢幻のものだったと。アイを急かしていた運命はこれだったと。これこそがアイの運命だと。アイの信仰する言葉では表せないものを、言葉以上のものを、おかあさまは確かに表してみせた。それはアイに理解させるには充分だった。
ずっと聞こえていたのに、ずっと見えていたのに、生まれたときからずっと知っていたのに、目を逸らし続けてきたことを。それは何よりも確かにアイに理解させた、アイがこの世で一番知りたくないと思っていたことを。
つまり、“自分は母親に愛されていない”ということを。
◇◆◇
怪我と涙で目障りだからと、執務室を文字通り叩き出されたアイはトボトボとびっこを引きながら歩いていた。片足が上手く動かなくなったからだ。殆ど身体を引き摺るように歩いていたアイは、家族の誰かの御目を汚してしまう前に、自分の感情で怪我を治療しようと考えた。
誰にも見つからないようにしながら離れまで歩いてくには、体力も気力ももう残されていなかったからだ。そうして中庭の小さな池の前に倒れ込んだ。
「はぁ……ゲホッ……はぁはぁ……」
息も絶え絶えになりながら、愛することを考えた。自分を癒やすために、自分に対する愛情を。酷く漫然とした速度で手の中に桜色の柔らかな膜のようなものが現れる。見るからに人を愛し、癒し慈しむ為に生まれてきたというような様相である。
「……おああさまは……アイ……を……」
でも、自分ぐらいは、じぶんのことを――
それを自分の左足にそっと触れさせる。それがもたらしたのは、安寧でも泥濘でもなかった。ただ、激痛が走る。エレクトラに愛情をぶつけられた時よりも、鋭く、深く、それでいて鈍い。
例えるならば、鋭い槍で串刺しにされながら、えたいの知れない不吉な塊がアイの心を始終圧おさえつけているような感覚であった。
予想外の激痛にも、鈍痛にも、もうアイは驚きも叫びもしなかった。ただ、時として一瞬の激しい痛みよりも、永く続くやわい鈍痛の方が人を死に至らしむるのではないか、などと考えていた。得心がいったからだ。
つまり、なぜ子を傷つけるはずのない、母の愛がアイを傷つけ、なぜ自身を癒すはずの、自分への愛がアイを痛めつけるのかを。
――おかあさまは、心の底からアイを憎んでいる、だからおかあさまのあいはアイを焼く。
そうであるならば、答えは自ずとわかる。
――アイの愛は、アイを痛めつける、ということはきっとアイ自身がこんなアイのことが嫌いなのだろう。
◇◆◇
そうか、アイはアイのことが嫌いだったんだ。憎かったんだ。殺してやりたいんだ。なんだかしっくりきてしまった。こんな塵屑好きになるやつはいない。アイだってこんなやつは嫌いだ。
じゃあ、殺してしまおう、こんな自分は。だってそうしたらみんな幸せなのだから。おかあさまのもおとうさまも、お兄さまもエゴペーお姉さまも、アイ自身も……みんなみんなみんな……。
……なんで、やさしくしてくれるお兄さまやエゴペーお姉さまを信じられない?やさしい人たちを疑うということが、この世でもっとも嫌悪すべき悪徳であるということを知っているのに?
……たぶんきっと、お兄さまはお母さまに、エゴペーお姉さまはお父さまに愛されているからだ。ありありとそれを見せつけられるからだ。あいがどれだけ渇望しても手に入らない愛を、なみなみと有り余るほど注がれているのを目の当たりにするからだ。
余ってるならくれたっていいじゃないか。少しくらいくれたって。一滴だっていいのに……。それで幸せなのに。だから信じられない?どうして?お二人は何も悪くないのに。それが自分を惨めにするというだけで、二人を信じきれない。そんな自分がいちばん嫌いだ。いちばん醜い。
ならはやくしんでしまおう。これ以上1秒でも永く大好きな人たちを傷つけ続ける前に。愛する人をアイが生きてるせいで不幸にする前に。
……でも。でもシュベスターは?おねえさまは……もしアイが死んだら。もし完璧な家族から唯一の汚点が消え去ったら。それでもかなしんで下さるたろうか……?もしアイがしんだら。お姉さまは……。かなしんで下さる?人を悲しませて喜ぶなんてとことんゴミクズだな……アイは。
でも……もしかなしんで下さるなら。いや、おねえさまはきっとかなしんで下さる。おねえさまだけはきっと。ならしねない……ゆいいつ信じられる人をかなしませるなんて。いくらアイでもそんなことはできない。そして、おねえさまがかなしんで下さるなら、もしかしたら、万が一にも、お兄さまとエゴペーおねえさまも……?もしかしたら。
ならば生きていよう。きはすすまないけど、できるだけしずかに、あいするひとたちの視界にはいらぬように。ただおねえさまの……家族の幸せを願っていよう。そして願わくば……これ以上誰も。きずすけなくない。なんだかなみだがでてきた。なきたくなんかないのに。
死にたいわけじゃない。そんなわけない。死ぬのはこわい。ほんとにこわい。こわくてしかたがない。しにたくない。しにたいわけじゃないんだ。ただ……生きていたくないんだ。
でもたったひとり、ひとりだけでも、アイがしんだなら、かなしんでくれる、かなしんでくれるひとがいると、そう、こころでかんじられるうちは、そのうちだけは、いきていよう、とおもった。
アイが愛されているというのは、お姉さまの“白い嘘”だ。やさしい嘘が白いと言うのならば……きっと“残酷な真実”は黒く光るのだろう。アイを灼いた、おかあさまの愛のように。
だから……おかあさまに愛されていないということだけが、確かに黒く光る……真実である。
この日は苦雨が降った。
◇◆◇
エレクトラは窓から左手を出す。
決して留まらず、手を滑っては消える夜来の雨に触れながら、こう考えた。
顔を見れば腹が立つ。情に棹させばつけあがる。意思をみせると業腹だ。
とにかく塵屑とは相容れない。
相容れなさが高じると、遠くへ追いやりたくなる。
どこへ追いやっても憎らしいと悟ったとき、不俱戴天となって、殺意が目覚める。
しかし、音もなく降り積もる残雨に手を晒しているうちに、或ることがなんとなく思われる。
そして其れはこころの内で確かな形を持ち始める。思考が転じ1つの思想と迄なったとき、母は独りごちた。
「まだ、アイには利用価値があるかもしれない……。」
その言葉は、小糠雨の中で確かに黒く光っていた。
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