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第二章 藍と学校

76. 王女と美の、愛情と友情 Of Princesses and Beauty, Love and Friendship.

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 アイは疾走はしっていた。
 
 身体能力がいちじるしく低いので、脚にヘルツを纏いながら、地面を蹴り飛ばし風すらも置き去りにする。人間体アニマも中でも特に虚弱きょじゃくなアニマ・アニマであるアイにそこまでさせるのは、友への情であった。

 ――れを

 とにかくアイはラアルをひとりにはさせたくなかった。確かにユスカリオテのイダに、“自分が狙われている”とは聞いた。しかしこのパントラ公国の公王の娘であり、覇権国家ファンタジア王国の国王の孫である、ファンタジア王女となれば、ラアルも狙われている可能性も高い。

 ――なにより“自分の”を護りたかった。

 ◇◆◇

 ラアルは焦っていた。

 その獣神体アニムスとしての強大な膂力や脚力を活用して、なによりこの国の王女として学友たちを助けながら、アイを探していた。母のようにやさしく、彼女をどうしても護りたかった。

 ――れはまぎれもなく

 何にせよラアルはアイを独りにはさせたくなかった。こんなマンソンジュ士官学校のたかが一年生しかいない合宿所が狙われたのはきっと“この国の要人ようじん”である自分を狙ってのことだろう。そしてその次に可能性狙われる可能性が高い人物を考えた。
 
 そうすると、この国の守護を一任いちにんされている、エレクトラ・アガメムノーンナ・フォン・ミルヒシュトラーセ辺境伯爵へんきょうはくしゃくの娘であり、こころをもつものプシュケーでもあるアイが一番に考えつく。
 
 しかしそんなことよりも、周りが突然爆炎に包まれたときに、ラアルの“”はアイだったのだ。自分自身の安全など考えなかった。アイにこころをめられていて、そんな些事さじを考慮する暇はなかったのだ。

 就寝用の合宿とうはクラスごとに分かれているので、アルターク・デイリーライフとアイが同室であるということは知っていた。しかし、ラアルは誰よりも、自分自身の手でアイを護りたかった。

 ――なにより“自分が”を護りたかった。

 ◇◆◇

「あなた達!!
 とにかく煙を吸い込まないようにして、口に布か何かを当てて!
 姿勢を低くして、炎と煙の広がらない風上の方へ走って!!
 そこで防御陣形を組むのよ!!」

 そうラアルが叫びながら、アイをさがしていると、みな王女を置いて我先われさきにと逃げていく、士官学生とはいえ人間の本性などこんなものだ。

「アイ!!アイ……アイ!!
 アイ・ミルヒシュトラーセ!
 聞こえる!?どこに居るの!
 聞こえたら返事をして!!
 ……お願いよぉ……!!」

「……《アイ》!!」

 思わず“心を込めた言葉”があふれる。

「……!《ラアルさま》!!」

 声が聞こえ振り返ると、アイが此方こちらに向かって走ってきていた。

 想い人を見つけて安心したのもつかの間、ラアルを見つけて安心しきったアイに突如とつじょ陽炎かげろうのようにらと揺れ姿を現した敵が、ヘルツを向けるのが見える。

「……え……!?きゃあ!?」

 アイがそれに気がついたときにはもう遅かった。完全に意識外からのヘルツを込めた飛び蹴りをかわす余裕も、ヘルツを纏って防御する余裕もなかった。とにかくラアルを護ろうと、ラアルに愛情のヘルツを向けていたからだ。

「……!!」

 アイが目をつぶって痛みにそなえる。
 
 ――そして、ヘルツで人にぶつけた時の爆音が響き渡る――!!

 しかしアイにはいつまでたっても、待ち構えていた痛みは来なかった。座り込んで恐る恐る目を開けると、男が遠くに転がっていて、ラアルがアイを護るように、仁王におう立ちしていた。その大きな背中に、いつかみたエゴおねえさまの面影おもかげを見る。

「アイ……無事……!?」

「ラアルさま!ラアルさまぁ……。」

 見たところどこも怪我をしていないと判断したラアルは、アイをぎゅううと、もう二度とはなしはしないというように抱きしめる。

「ラアルさま……。」

「あぁ……アイ……。」

 ――“エレクトラははオイディプスちち”のように、

「……!……。……ラアルさまこそほんとうに、ほんとうによかったぁ……!」

 アイを抱きしめていて、五感の全て彼女で埋め尽くしていたラアルは気づかなかったが、アイの目には殴り飛ばされた。男が立ち上がるのが見えた。

「いってぇなぁ……!!王女殿下はとみえる。その美貌びぼうを利用して、って聞くしなぁ……!」

 男が腕をラアルとアイの方へ向け、ヘルツを飛ばす姿勢にはいる。

「……ラアルさま!……お下がりください!!わたくしがお守りします……!!」

 ――“お母様”のように、

 ラアルは『わたくしがお守りします』という自分の危険もかえりみずにラアルを守ろうとするアイの言葉を聞いて、『ふふっ』と愛おしいものを見るひとみで笑う。

「大丈夫よ……アイ。アイツは先刻さっきの一撃でもう倒したから。」

「……?」

「……!?!?……ぎゃあああ!!!?」

 男が悲鳴を上げて座り込む。ラアルに殴られた顔面から毒液を浴びたように、焼けただれて朽ちていく。そのまま口から泡を吹き地にして倒れ込んだ。

 ◇◆◇ 

「……ラアルさまの……ヘルツ。」

「そうよ、アイ。私のヘルツは一発でもヘルツまとっていない箇所かしょに当たったら仕留しとめられるの。まぁ、対処法を知ってる強者には対策されちゃうこともあるけど。
 それ以外のヤツらには……文字通りの“技”よ。
 ……でね。」

 ふふんっ!とラアルが誇らしげに語る。

「確かに……ラアルさまの美とヘルツね。……もしかしたら、ラアルさまのヘルツはそののかもしれませんね?……いや、そもそものかも……?」

「ふふんっ!もっと褒めていいのよ私の“うつくしさ”をね!
 ……まぁ、貴女だけは初めて会った時も……私を一目見ても恋にちてはくれなかったけど……。教室に乗り込んだあの日に。むしろ貴女に巡りった時に、一目で“とされてしまったけどね……。」

 ラアルが最後はアイに聞こえないように、ほとんど音を発さずに、こころの中で拗ねたように溢す。

 ◇◆◇

「とにかく、無事でよかったです。ラアルさまを安全な所に……。」

「そうだ!貴女こそよ!
 どこが怪我はしてない!?
 痛いところは?
 “身体の傷”も、“ヘルツのききず”も!」

「わわ!だいじょぶですよぉ。どこも怪我をしていないですし、ラアルさまこそ……どこも怪我、してませんか……?」

「私は大丈夫よ!なんせ高貴なる私だからね!うつくしい私をどうにかできるのは、世界で……貴女だけよ……アイ。」

「ラアルさま……あの、お顔が近いと言うか……なんというか。……その!」

「へっ……?……あぁ!ごめんなさいね!危ない危ない。またまれるところだったわ……。
 あぁ、こんな状況じゃなければ……!くそぅ……!」

「……?こんな状況じゃなければ、なんなんですか……?」

「いやいや!気にしないで!とにかく今はこの命をけてアイを安全なところまで逃さないと!!」

「いやいや!わたくしのほうこそ!ラアルさまを安全なところへ!!」

「「……!」」

「「……あははっ!」」

「なんだか似たもの同士ねぇ私たち。」

「そうですね。いや!高貴でうつくしいラアルさまをわたくしなんぞと一緒にするのは申し訳ないのですが……!」

「何を言ってるのよ。高貴なる生れで、と、。こんなにお似合いな2人はいないわ!」

「……いやいや!ラアルさまのほうが――!
 ……というか……とりあえず避難、しませんか?」

「確かにっ!」

 ◇◆◇

 アルタークはあせっていた。

 傷もアイの愛情のヘルツである程度と収まって、動けるようになった。ユスカリオテのイダは『アイが狙われている。』と言っていた。

 それにそんな言葉がなくても、こんな状況で一番の親友を独りにさせたくなかった。

 ――”を護りたかった。

 だから走っていた。

 そうして……――。
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