妹がいじめられて自殺したので復讐にそのクラス全員でデスゲームをして分からせてやることにした

駆威命(元・駆逐ライフ)

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前章 妹がいじめられて自殺したので復讐に罰されない教師たちでデスゲームをして分からせてやることにした

第4話 ゲームスタート

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「……それはあまりに失礼じゃないかね?」

 意外にも――恐らくは自分が言外に責められていることを自覚していたのだろう――まず抗議の言葉を口にしたのは校長であった。

「私は他の可能性を考えていただけだ。職務としての責任全てを放り出そうと思っていたわけではない。ただ、私にだって妻も居れば子どもも居る。安易に全てを投げ出せないだけだ」

「私にだって家族は居ますよ! でも命と天秤にかけたら仕方がないから――」

「私はそう簡単に諦められんだけだ!」

 彩乃が望んでいるのは、全てを差し出すことだ。

 そこまでは出来なくとも、人生の一部であるのならば差し出すことだってやぶさかでない。

 校長の言によれば今までの足掻きはそういう理由から来るものであるらしかった。

「とにかく、どちらがマシかと聞かれれば生きて償う方がマシだと答える。死ぬよりは数倍マシだ」

「はぁ」

 先ほどまでとは打って変わってやる気を示す校長へ、教頭は胡散臭いとばかりに胡乱気な視線を向ける。

 しかし出来ることはそれだけで、結局は校長が償うという選択肢に印をつけることを信じるしかないのだ。

「それよりも私としては斎藤先生の方がきちんと選ぶか心配なのだが」

「はぁぁっ!? だからアンタじゃないんだからそんなことするわけないだろっ!!」

 矛先を向けられた学年主任の斎藤が、よほど心外であったのかまなじりを吊り上げて激怒する。

 もはや彼の中で校長の株は下がりに下がっているのか、敬語すら使おうとしなかった。

「早合点するんじゃない。君はついこの前子どもが産まれたばかりだろう」

「ぐっ」

「選びうるだけの理由があると言っているだけだ」

 校長が心配していたのは心情や理念からではない。

 金銭面からである。

 自分の赤貧は耐えられても、血のつながった子どもが苦しむところは見たくない。

 そう考えた学年主任が裏切る可能性は十分にあるのだ。

 だから、その心配を取り除くための言葉を校長は用意していた。

「斎藤先生、それから福田先生いいか?」

「なんですか……」

 声を低く、小さくしてマイクに拾われないようにボソッと囁く。

「どうせ今後、一生涯に渡って私たちを強制し続けることなんて出来はしないんだ」

 殺人までやらかしたのだから、彩乃が罪に問われることは間違いない。

 彩乃自身が校長たちに直接かかわるのは不可能だろう。

 だから一応、彩乃には仲間がいる。

 インターネットを介して校長たちの動向を監視してもらえる算段だってついている。

 しかし、校長たちが人生を終えるまでそれを続けてくれるかというと、確かに疑問だ。

 人の怒りはそうそう長くは続かない。

 他人の大切な人が死んだなんていう義憤の感情が、どれだけ保つだろうか。

 よくて数年。短ければ数か月で興味を失うのは確実だった。

「とりあえず話を合わせてやって今だけしのげればいい。なに、多少は痛むかもしれんが、致命傷にはならんだろうよ」

 実に校長らしい、小狡い意見である。

 つまるところ校長は本当の意味で反省はしていないのだ。

 しかし、言葉だけならなんとでも言える。

 心の内は、さしもの彩乃であろうと見抜けるわけではないのだから。

「私は裏切らない。約束通り、償いの道を選ぶ」

 上辺だけなら称賛しかされないであろう内容の言葉を、校長は自信たっぷりに言い切った。

 声を大にしたのは、彩乃に聞かせるためのものであろう。

「まあ、それなら……」

「う……む……」

 教頭と学年主任のふたりは目配せを行い、小さく頷き合う。

 校長のことを本当の意味では信用できなくとも、そういう論理で校長が動いていると納得は出来る。

 ふたりの中で不信はくすぶり続けてはいたが、別の手段がない以上校長の言葉を信じるほかなかった。

『決まったのなら早くした方がいいと思うんだけど? ペナルティで時間を使いきって全員死亡なんて嫌でしょう』

「――――っ」

 校長はなにか言いたげな様子ではあったが、反抗してまた制限時間を下げられてはたまらないとでも考えたのか、下唇を噛んでぐっと反論を呑みこんでいた。

『もう一度言う。命をもって償うか、全ての責任を放り出して逃げるかを選べ。私がその通りの結末にしてやる。ただし、全員が逃走を選べば全員殺す。全員が償いを選べば、命こそ助けるけれどそいつの人生全てをこれから生まれるであろう被害者たちに捧げてもらう』

 死ぬか。

 誰かを犠牲にして生きるか。

 償いのために生きるか。

 3人の結末は、その3つだけしか許されていない。

「……やりましょう。始めは誰が提出しますか?」

 教頭が校長、学年主任と順番に視線を移していく。

 全員が同じ選択肢を選ぶと信じているのであれば、順番を決める意味はない。

 しかし、心変わりをするかもしれない相手が居る場合は、多少の牽制にはなるだろう。

「私が先にやれ、とでも言いたげだな」

「い、いえそんなことは……」

「構わん、早く終わらせるぞ」

 校長は鼻息荒くドスドスと足音を立てて部屋を横切ると、指示されたドアの前に立った。

 そのままポケットのカードを掴み出して――。

『は~い、ふたりはなに見てるのかなぁ? ルール違反で死にたいのかなぁ?』

 言い方こそ柔らかいものの威圧的な語調に身を打ち据えられ、慌てて背を向ける。

 そうしてものの十数秒と経たないうちに、校長はふたりの下へと帰って来た。

「次はどっちだ。早くしろ」

「えーっと……」

「あー……」

「自分たちのことも考えられんのか!? そんな程度でよくもああ生意気な口を利けたものだな……!」

 校長の怒声に弾かれるようにして教頭が振り向く。

「選考試験の時は覚えておけよ」

 教頭が校長になるためには試験や面接を受けなければならない。

 その試験官となるのは現役の校長たちであり、校長というだけである程度評価に介入できたりもする。

 校長は教頭の将来を盾に取っていた。

「それ、は……」

「いいから行けっ」

 本気かどうかを教頭に判別する術はない。

 迷っている時間も、余裕もなかった。

「分かりましたっ」

 教頭、学年主任とカードの提出を終わらせる。

 これで、三人の命運は決まった。

 憮然とした面持ちで、全員がスピーカーを見上げる。

「終わったぞ。さあ、我々を早く解放しろっ」

「もうやりたいことはやっただろう! 我々だって約束は守る! ならお前だって守れ!!」

 口火を切ったのは、相変わらず傲慢さを隠しもしない校長だった。

 その勢いに追従するかのごとく、学年主任も拳を突き上げる。

 そうだそうだと言いたげに、教頭は腕組みをして大きくうなずいた。

 解放を目前にして感情を抑えきれないのだろう。

『ご苦労様。じゃあ償いをしてもらう――』

 ただともに忘れていた。

『と、言いたいところだけど……』

 解放は、順調に事が進んだ時のみに訪れるのだということを。

『ひとり、裏切り者が居る』
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