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第13話 朝の目覚めに
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私は久しぶりに柔らかい鳥の歌声で目を覚ました。
「んっ……」
頭がぼぅっとする。目もしょぼしょぼして瞼が重く、まだ眠い。
ころんと寝返りを打ってみたら手の先は温かい布団に抱きしめられたままだ。このふわふわな感覚に包まれながら、もう一度二度寝したい、なんて鈍い頭で考えてしまう。
……でも、起きなきゃ。私達は旅の途中で……ってそうか、安全な場所にまでついたんだっけ。それでお食事して、お風呂じゃないけど久しぶりに体を拭いて……あれ? それから何したんだっけ?
……そうだった。グラジオスの部屋に行って……あ。
昨夜の自分の失態を思い出し、ちょっとだけ恥ずかしくなる。まさか自分でもあれほど泣いちゃうくらい自分が追い詰められていたなんて思いもしなかった。
そして……その先の記憶は全くなかった。私はどうやらあのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。という事は、私はグラジオスの部屋で寝てしまったってことで……。
「わっ!」
大変な事に気付いた私は、慌ててその場から起き上がった。
とりあえず体と寝巻きを確認してみるが、どこにもそういう事をされた形跡は見当たらなかった。
「……良かった」
ほっと胸を撫で下ろして一息つくと、今度は別の事に気が向くものだ。
私は慌てて周囲を見回し……ソファからはみ出ているグラジオスの足を発見した。多分、グラジオスは私をベッドに寝かせた後、自分は狭いソファで眠ったのだろう。
一応、ああ見えて紳士なのだとちょっと感心する。
……私が子どもにしか見えなくて、本当にそういう対象に見られなかった可能性は考えないでおこう。私にも女としてのプライドがあるのだ。
「……起きよ」
朝、とはいっても日差しは結構な強さで窓から差し込んでいる。お腹の方も、昨夜あれほど食べたというのにだいぶ減っていた。結構な時間寝ていたに違いない。
私は大きく伸びをすると、キングサイズのベッドから降りる。
そのまま王子さまからもらったブーツを履くことなく、裸足のままペタペタとグラジオスの傍まで歩いて行き、顔のあたりでしゃがみこんだ。
グラジオスは腕で目を覆うようにして寝ており、その寝顔を確認することは出来ない。
どうやって起こそうかと悩み、私は辺りに頭を巡らせる。すると、机の上に置かれたコップと水差しを発見した。
「あ、そういえばこぼしちゃったんだっけ」
慌てて床を確認するが、どうやらグラジオスが拭いてくれたのか跡すら残っていなかった。
……何から何まで迷惑かけちゃったな。
私はちょっと反省をして、それで……良い事を思いついた。
「うん、それが私らしいよね」
やっぱり私は歌が好きだし、グラジオスも歌が好きだ。というか音楽が。
「ん~、何にしようかな……」
目覚めにふさわしい曲……となると柔らかい曲とか? それともいきなりテンションマックスになれる様な熱い曲?
それとも変化球で、Stand Up! EDなんて面白ソングを歌ってみようかな。……ううん。別にグラジオスがそうだって疑ってるわけじゃないのよ。私がこの曲がふさわしいかなって考えたのは、起き上がるとStand Upをかけただけだから。……なんて誰に言い訳してるんだろう。
いつか、こういう面白ソングを目の前で歌ってみようかな……その後意味を説明したら……駄目だ。変態って思われちゃう。
なんて余計な事に思考の半分以上を割きながら、私はとうとう歌う曲を決めた。
――My Dearest――
この曲を歌う女の子と主人公が出会ったことで、運命は始まった。
だからきっと、これが私たちの始まりの朝にふさわしいと思う。
「じゃあ、行くよ……」
私は息を大きく吸って――歌い出した。
最初は運命を告げる様に大きく。それからはゆっくりと、囁く様に、揺蕩う様に……。
朝の静けさに私の歌が溶け込んでいく。
そして、私の贈り物が終わった。きちんとグラジオスには届いたはずだ。
「…………ねえ」
私はグラジオスに話しかけた。
まだ彼は身じろぎすらしていない。でも、私はグラジオスが目を覚ましている事を、何となく感づいていた。
「寝たふりしてないで起きたら?」
「……どこかの誰かが耳元で騒ぐから目が覚めただけだ」
相変わらずグラジオスは素直じゃなかった。でも、寝起きだからかキレは悪い。
……私に付け込む隙を与えるなんてね。
「グラジオスは目が覚めても起きないんだ。起きずに私の歌を聴いてたいんだ」
「…………さっき起きたばっかりだ」
「嘘ばっかり」
くすくす笑う私を他所に、グラジオスは体を起こしてソファに座り直す。その顔は変な場所で寝たのにも関わらず、とても落ち着いているように見えた。
「ごめんね、ソファ、寝苦しくなかった?」
「別に。柔らかくて寝づらかったくらいだ」
「またまた~。…………ありがとね」
小さな声で言ったお礼は、きっとグラジオスの耳に届いているはずだ。でもグラジオスは聞こえなかった振りをして大きく欠伸をした。
もしかしたら照れ臭かったのかもしれない。
「もう」
私は感謝を込めて、グラジオスの頭についた寝癖を撫でつけてあげたのだが、本人と同じく寝癖もへそ曲がりで頑固だった。何度撫でてもぴょんこぴょんこ立ち上がる。
「撫でるな」
「寝癖が付いてるの」
「ふんっ」
グラジオスは不服そうに鼻を鳴らしたが、私の手を振り払うようなことはせず、されるがままになっていた。
「もうっ頑固な寝癖だなぁ。グラジオスみたい」
「俺は別に頑固じゃない」
なんて説得力の無い言葉。
「じゃあ歌好き?」
「……好きじゃない」
いつも通りの私の問いに、一拍遅れていつも通りの答えを返してくる。これが頑固じゃなくてなんなのだ。
「グラジオスは頑固だな~」
「ふんっ」
グラジオスはすねてそっぽを向いてしまった。とはいえ、どこかに移動する気はないみたいだ。素直に撫でられ続けている。
……これも素直じゃないんだろうなぁ。
「ふふっ、頑固だなぁ」
「頑固じゃない」
「寝癖の事だよ」
「…………」
「ねえ、ちょっと頭下げて」
グラジオスは言われた通り俯いてくれたのだが、そもそも身長差がかなりあるため、私の目的を達成するのにはまだまだ高い。だから私は膝立ちになって、グラジオスの頭を両手で挟むと、もっと下げさせた。
「はぁ~~っ、はぁ~~っ……」
私はグラジオスの寝癖に何度か息を吐きかけて髪を柔らかくすると、そのまま手で抑え込む。要はブローブラシの代わりだ。
このまましばらくすれば寝癖も観念すると思う。
「ちょっとこのままね」
「…………」
少し苦しい体勢だろうに、グラジオスは文句も言わずにじっとしていた。
「ねえ、私昨日泣いちゃったよね」
「……そうだったか?」
嘘ばっかり。本当にグラジオスはひねくれ者だ。
「迷惑かけちゃったからさ。今度は私が何かグラジオスにしてあげるね。して欲しいこと言って」
「……雲母には命を救われた。何かするべきなのは俺の方だ」
「私もグラジオスに道教えてもらわなかったら死んでたよ。だからおあいこ」
「……とにかく必要ない」
何を言っても聞きいれる気はないらしい。
……なら。
「じゃあねえ。私はグラジオスが歌えるようにしてあげる」
グラジオスが息を飲む気配が伝わって来た。
絶対、これがグラジオスの望みなはずだ。
……まあ、一緒に歌ったり、伴奏を弾いてくれる仲間が欲しいって私の思惑もあるけど。
「方法は分かんないけどさ。いつか、大勢の前で一緒に歌お。顔を上げて、大声で歌が好きだって言お」
グラジオスは何も言わない。否定も肯定もしなかった。
でも私はこれがグラジオスの一番の望みなんだって、識っていた。
「んっ……」
頭がぼぅっとする。目もしょぼしょぼして瞼が重く、まだ眠い。
ころんと寝返りを打ってみたら手の先は温かい布団に抱きしめられたままだ。このふわふわな感覚に包まれながら、もう一度二度寝したい、なんて鈍い頭で考えてしまう。
……でも、起きなきゃ。私達は旅の途中で……ってそうか、安全な場所にまでついたんだっけ。それでお食事して、お風呂じゃないけど久しぶりに体を拭いて……あれ? それから何したんだっけ?
……そうだった。グラジオスの部屋に行って……あ。
昨夜の自分の失態を思い出し、ちょっとだけ恥ずかしくなる。まさか自分でもあれほど泣いちゃうくらい自分が追い詰められていたなんて思いもしなかった。
そして……その先の記憶は全くなかった。私はどうやらあのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。という事は、私はグラジオスの部屋で寝てしまったってことで……。
「わっ!」
大変な事に気付いた私は、慌ててその場から起き上がった。
とりあえず体と寝巻きを確認してみるが、どこにもそういう事をされた形跡は見当たらなかった。
「……良かった」
ほっと胸を撫で下ろして一息つくと、今度は別の事に気が向くものだ。
私は慌てて周囲を見回し……ソファからはみ出ているグラジオスの足を発見した。多分、グラジオスは私をベッドに寝かせた後、自分は狭いソファで眠ったのだろう。
一応、ああ見えて紳士なのだとちょっと感心する。
……私が子どもにしか見えなくて、本当にそういう対象に見られなかった可能性は考えないでおこう。私にも女としてのプライドがあるのだ。
「……起きよ」
朝、とはいっても日差しは結構な強さで窓から差し込んでいる。お腹の方も、昨夜あれほど食べたというのにだいぶ減っていた。結構な時間寝ていたに違いない。
私は大きく伸びをすると、キングサイズのベッドから降りる。
そのまま王子さまからもらったブーツを履くことなく、裸足のままペタペタとグラジオスの傍まで歩いて行き、顔のあたりでしゃがみこんだ。
グラジオスは腕で目を覆うようにして寝ており、その寝顔を確認することは出来ない。
どうやって起こそうかと悩み、私は辺りに頭を巡らせる。すると、机の上に置かれたコップと水差しを発見した。
「あ、そういえばこぼしちゃったんだっけ」
慌てて床を確認するが、どうやらグラジオスが拭いてくれたのか跡すら残っていなかった。
……何から何まで迷惑かけちゃったな。
私はちょっと反省をして、それで……良い事を思いついた。
「うん、それが私らしいよね」
やっぱり私は歌が好きだし、グラジオスも歌が好きだ。というか音楽が。
「ん~、何にしようかな……」
目覚めにふさわしい曲……となると柔らかい曲とか? それともいきなりテンションマックスになれる様な熱い曲?
それとも変化球で、Stand Up! EDなんて面白ソングを歌ってみようかな。……ううん。別にグラジオスがそうだって疑ってるわけじゃないのよ。私がこの曲がふさわしいかなって考えたのは、起き上がるとStand Upをかけただけだから。……なんて誰に言い訳してるんだろう。
いつか、こういう面白ソングを目の前で歌ってみようかな……その後意味を説明したら……駄目だ。変態って思われちゃう。
なんて余計な事に思考の半分以上を割きながら、私はとうとう歌う曲を決めた。
――My Dearest――
この曲を歌う女の子と主人公が出会ったことで、運命は始まった。
だからきっと、これが私たちの始まりの朝にふさわしいと思う。
「じゃあ、行くよ……」
私は息を大きく吸って――歌い出した。
最初は運命を告げる様に大きく。それからはゆっくりと、囁く様に、揺蕩う様に……。
朝の静けさに私の歌が溶け込んでいく。
そして、私の贈り物が終わった。きちんとグラジオスには届いたはずだ。
「…………ねえ」
私はグラジオスに話しかけた。
まだ彼は身じろぎすらしていない。でも、私はグラジオスが目を覚ましている事を、何となく感づいていた。
「寝たふりしてないで起きたら?」
「……どこかの誰かが耳元で騒ぐから目が覚めただけだ」
相変わらずグラジオスは素直じゃなかった。でも、寝起きだからかキレは悪い。
……私に付け込む隙を与えるなんてね。
「グラジオスは目が覚めても起きないんだ。起きずに私の歌を聴いてたいんだ」
「…………さっき起きたばっかりだ」
「嘘ばっかり」
くすくす笑う私を他所に、グラジオスは体を起こしてソファに座り直す。その顔は変な場所で寝たのにも関わらず、とても落ち着いているように見えた。
「ごめんね、ソファ、寝苦しくなかった?」
「別に。柔らかくて寝づらかったくらいだ」
「またまた~。…………ありがとね」
小さな声で言ったお礼は、きっとグラジオスの耳に届いているはずだ。でもグラジオスは聞こえなかった振りをして大きく欠伸をした。
もしかしたら照れ臭かったのかもしれない。
「もう」
私は感謝を込めて、グラジオスの頭についた寝癖を撫でつけてあげたのだが、本人と同じく寝癖もへそ曲がりで頑固だった。何度撫でてもぴょんこぴょんこ立ち上がる。
「撫でるな」
「寝癖が付いてるの」
「ふんっ」
グラジオスは不服そうに鼻を鳴らしたが、私の手を振り払うようなことはせず、されるがままになっていた。
「もうっ頑固な寝癖だなぁ。グラジオスみたい」
「俺は別に頑固じゃない」
なんて説得力の無い言葉。
「じゃあ歌好き?」
「……好きじゃない」
いつも通りの私の問いに、一拍遅れていつも通りの答えを返してくる。これが頑固じゃなくてなんなのだ。
「グラジオスは頑固だな~」
「ふんっ」
グラジオスはすねてそっぽを向いてしまった。とはいえ、どこかに移動する気はないみたいだ。素直に撫でられ続けている。
……これも素直じゃないんだろうなぁ。
「ふふっ、頑固だなぁ」
「頑固じゃない」
「寝癖の事だよ」
「…………」
「ねえ、ちょっと頭下げて」
グラジオスは言われた通り俯いてくれたのだが、そもそも身長差がかなりあるため、私の目的を達成するのにはまだまだ高い。だから私は膝立ちになって、グラジオスの頭を両手で挟むと、もっと下げさせた。
「はぁ~~っ、はぁ~~っ……」
私はグラジオスの寝癖に何度か息を吐きかけて髪を柔らかくすると、そのまま手で抑え込む。要はブローブラシの代わりだ。
このまましばらくすれば寝癖も観念すると思う。
「ちょっとこのままね」
「…………」
少し苦しい体勢だろうに、グラジオスは文句も言わずにじっとしていた。
「ねえ、私昨日泣いちゃったよね」
「……そうだったか?」
嘘ばっかり。本当にグラジオスはひねくれ者だ。
「迷惑かけちゃったからさ。今度は私が何かグラジオスにしてあげるね。して欲しいこと言って」
「……雲母には命を救われた。何かするべきなのは俺の方だ」
「私もグラジオスに道教えてもらわなかったら死んでたよ。だからおあいこ」
「……とにかく必要ない」
何を言っても聞きいれる気はないらしい。
……なら。
「じゃあねえ。私はグラジオスが歌えるようにしてあげる」
グラジオスが息を飲む気配が伝わって来た。
絶対、これがグラジオスの望みなはずだ。
……まあ、一緒に歌ったり、伴奏を弾いてくれる仲間が欲しいって私の思惑もあるけど。
「方法は分かんないけどさ。いつか、大勢の前で一緒に歌お。顔を上げて、大声で歌が好きだって言お」
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