時間停止の少女、魔法学校に入学する。

エスパトローネ

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3 カエデ市長

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 まばゆい光に瞼の裏を焼かれる。

 私はギュッと目をつむり、毛布を頭の上まで引き上げた――しかししばらくして朝が来たということを悟り、ゆっくりと体を起こした。

 私はいつものように部屋を出て、他の子供たちとともに洗顔をし、歯を磨いた。
 そしていつも通り食卓について、質素な朝食を朝のお祈りと同時に食べ始める。
 何もつけられていないパンを牛乳で流し込む朝食を終え、普段通りそのまま自分の部屋へ帰った。

「さて、入校までは特に授業もないわけだし、ちびっ子たちと追いかけっこでもしようかしら」

 私は寝間着から普段着に着替え、スリッパから運動靴へと履き替える。
 部屋に置いてある鏡で金色の髪の毛を整え、寝ぐせがないことを念入りに確認した。

「エリカおねえちゃーん!」

 部屋の外からちびっ子たちの声が聞こえてくる。
 私は身支度を整えると、彼らの期待に答えるため、丁寧に扉を開けた。

「エリカおねえちゃんにおきゃくさーん!」

 部屋を出た私を出迎えたのは、数人のちびっこたちに囲まれたアリシアだった。

「ご案内ありがとうございます」

 アリシアは優しい笑顔をちびっ子たちに向けると、走り去るちびっ子たちに小さく手を振る。
 意外な一面を見た――と思ったが、次の瞬間には昨日見た表情に戻っていた。

「……夢じゃなかったのね」

 私がため息をつくと、アリシアは昨日よりは優しげな表情で言った。

「何をおかしなことを……準備万端ではありませんか。それでは向かいますよ」

 アリシアは私の手を取ると、そのまま玄関の方へと私を引っ張る。
 そして、そのまま私を外に連れ出した。

 ▽ ▽ ▽

「あの、アリシア……さん? 私そんなにランドールには詳しくないんですけど、魔法の教科書なんてランドールで手に入るんです?」

 私は歩くのが早いアリシアに、少々歩調を合わせながら聞く。

「むしろランドール以外のどこで揃えるというのです? ご安心なさい。ランタン横丁で全て揃います」

 サミュエル横丁、聞いたことのない通りだ。

 私は首を傾げつつ、アリシアについていった――

 ▽ ▽ ▽

 アリシアと私はしばらくランドールの街中を歩き、『カエデ市長メープルメイヤー』と表札が掛かっている小さな古びた酒場に入った。
 外見とは裏腹に中はそこそこ綺麗に掃除がされており、外から見るよりも店内は広く見えた。

「朝っぱらからお酒ですか?」

 私は思ったことを率直に言う。
 そもそも、酒場というものはこんな朝早くから営業しているものなのだろうか。

「この店の奥にランタン横丁の入り口があります」
「ということはここは……」

 ――魔法使いの店か。

「ええ、ここは魔法使いが営業しているパブです」

 私の予想通りのことをアリシアは言った。
 彼女はそのままカウンターへと向かうと、そこにいるバーテンダーの男性と話し始める。

「やあアリシア先生、こんな時間からお仕事かい?」

 小柄でシルクハットを被ったバーテンダーは、グラスを磨きながらアリシアに声を掛ける。
 アリシアは私の方をちらりと見ると、静かに答えた。

「いえ、私の仕事はここまでです。この後はアルバンに引き継ぐことになっています」
「アルバンに引き継ぎって……そのまま先生が案内してあげたらどうだい? 彼女も見知らぬ大男が案内じゃ怖がると思うが」

 バーテンダーは私の方を見ながら、そんなことを言っている。
 アリシアは少し考えているようだったが、やがてため息をついて話し始めた。

「案内するのが彼女一人なら私が案内をしていたかもしれません。ですが、アルバンがもう一人入校予定者を連れてきます。どうせ買うものは同じですから、そのままアルバンに案内を任せようかと」

「もう一人の入校者……それってまさか……」

 バーテンダーは何か心当たりがあるのか、目を見開いてアリシアに尋ねる。
 アリシアは一瞬たじろいだが、すぐ諦めたように口を開いた。

「……ええ、アルバンがそのうちサミー・カールトンを連れてこのパブにやってきます」
「やっぱりそうだ! 今日はいい一日になるぞ!」

 バーテンダーは手を叩いて喜び、危うくカウンターに積み上げられていたグラスを割りそうになる。
 アリシアは、だから言いたくなかったと言わんばかりに頭を抱えた。

「ですので――アルバンが来るまでの間、彼女に何か飲み物でもと思いまして」
「そういうことならサービスしますよ! お嬢ちゃん、何が飲みたいんだい?」

「えぇっと……水?」
「水ぅ? そんな遠慮しないで……チーズソーダでいいかい?」

 バーテンダーはチーズソーダと銘打たれた瓶から、ジョッキに琥珀色の液体を注いだ。

 ガン! とカウンターに置かれたジョッキを、私は両手で受け取る。
 それから、恐る恐る口をつけた。

「……甘い」

 濃厚なチーズの風味と、優しい甘さが口の中に広がる。
 炭酸が効いているため程よい清涼感もあり、非常に飲みやすかった。

「ハルフォードの学生さんに一番人気はこれさ。きっとフォードタウンでも……っと、それは三年生からだったな」

 バーテンダーはうんうんと数回頷くと、アリシアにもチーズソーダを勧めた。

「私は甘いものはそこまで……とにかく、アルバンが来るまで彼女をお願いします」

 アリシアはそう言うと、バチンという破裂音と共に姿を消した。
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