転生者なんて負け組だ

荒野旅人

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第二章 逃避行編

ドワーフ諸王の決断

「ところで、ドワーフ諸国におかれては当然、我々にお味方いただけるのでしょうな?」
議論を遮ってアルベリッヒ上級王が鋭く言った。
ドワーフ諸王のようなどすの利いた声でもない。
どちらかというと歌うような美しい声だ。
偏見かもしれないが少し冷たい感じがする。
しかし、彼が声を発するとそれは広間を圧し、一瞬で静寂に包まれた。
流石、最長老の人物だ。
エルフ諸侯の視線がドワーフ達に集中する。
特使とノーム爺さんは俯いている。
まぁ、彼らは単なるお供だからな。
諸王で一番若いロフト王はエルフ諸侯の方を見回し少し居心地が悪そうだ。
ビュール三世王は流石にロフト王よりは落ち着いている。
何事もなかったかのようにアルベリッヒ上級王を見返した。
スリン王は穏やかな顔立ちに似合わず強心臓らしい。
足を組んで、ひじ置きにもたれるように頬杖を突いてリラックスした姿勢でよそ見をしている。
しかし、視線が最も集中しているのはグンナル七世王だ。
彼がドワーフ諸王家を統べる宗家の当主だ。
相変わらず、不満そうな顔と大柄な態度でドカリと座っている。
グンナル七世王はアルベリッヒ上級王の視線を真正面からしっかりと受け止めている。
エルフの親分とドワーフの親分の睨み合いだ。
めっちゃ迫力がある。
広間は緊迫した。
「我々は軍には参加せぬ。」
グンナル七世王が短く答えた。
予想外の返答で広間がざわめいた。
アルベリッヒ上級王の顔がかすかに引き攣った。
完璧な美しい顔に微かな歪みが浮かび、一瞬醜く見えた。
しかし、すぐに美しい顔になった。
もっとも不機嫌そうだ。
流石はハイエルフ様、不機嫌な顔ですら美しく見える。
「どういう事ですかな?」
アルベリッヒ上級王も短く答えた。
「裏切りだ!」
「ドワーフ族は『古い同盟』を破るのか?」
「恥知らずめっ!」
エルフ諸侯の叫び声が上級王の言葉を補足してくれる。
そういう事だよな。
『古い同盟』が結ばれている以上、エルフが開戦すればドワーフは加勢するしかないんだよな。
先日のドワーフ諸王との謁見でも、そう言ってたしな…
って、でもグンナル七世王は『参加しない』と言ったんだ。
それって…
「無礼な!我々ドワーフは何よりも名誉を重んじる種族だ。一度結んだ同盟を理由なく反故にすることはない!」
ロフト王が立ち上がって、大音声を上げた。
横から見ていると少しビビっているように見えるのは偏見かもしれない。
一番若いからな。
こうやって突撃役なんだろう。
俺は何だかこの王様が好きになってきた。
ビュール三世王も立ち上がった。
「『裏切り』と聞こえたように思えたが…我らを愚弄するつもりか?」
こちらはグンナル七世王ばりにどすの利いた声だ。
エルフ諸侯がざわめく。
ヒト族の一行も困惑した様子で、男爵は大使にしきりに何かを耳打ちし、大使はかぶりを振っている。
俺にもわからない。
『軍に加わらない』と堂々と宣言しておいて裏切り者と言われると逆切れとかさ。
スリン王は座ったまま片手を上げた。
「我らの王の広間には『古い同盟』を結んだ時の記述が刻まれた石が置かれている。『互いが危機にある時は必ず助けに参じ、共通の敵が現れれば共に軍を進めこれを屠る』とな。今、アルフハイムが危機にあるとは思えませんな。平和そのものだ。実に美しい森だ。是非これからもそうであってほしいものですな。」
スリン王の話し方は穏やかだが、皮肉っぽくどこかヒヤリとさせるような冷たさがある。
「確か、傲慢の時代、ヒト族のベレニア王国の大軍が我らドワーフのワルドラントに侵攻した際、ハイエルフ族の軍は援軍を出してはくれませんでしたな?ワルドラントは破れ、ドワーフ族は地表に領土を持つ最後の王国を失いました。」
「ベレニア王国は我がアルフハイムの隣国で第二次暗黒大戦で我らの国を身を挺して守ってくれたヒト族の一派の末裔だ。故に我らと深い交わりを結んでいた。同盟に記されている『共通の敵』には当たらん!」
「さようですな。」
スリン王がニッコリと微笑んだ。
なんだかあの笑顔は『王手(チェックメイト)』と言っているようだ。
「我らもしかり。我らはジャン王の呼びかけに応じてオーク、ゴブリン諸族と講和し、実に有意義な関係を結んでおります。かつての貴殿らのベレニア王国と同じく。」
「だから、軍に加わらぬと申すかっ!?」
興奮したのかエルフ諸侯の一人が嚙みついた。
エルフ達の認識がどうであるかはともかく、ドワーフ的にはドワーフ諸王はアルベリッヒ上級王と同格だ。
諸侯の一人がドワーフ王に嚙みつくなど無礼に当たるだろう。
エルフの諸侯にしてみれば、自分達も各々がアルフハイムの各地にある小国の主だから、ドワーフ王と同格みたいな感覚なんだろうな。
「馬鹿なことを申すな!」
「詭弁だ!」
「相手はオークやゴブリンだぞ!?」
後に続くものが絶えないところ、彼は皆そんな認識なんだろう。
とにかく、ただでさえ緊迫した状況が更に悪化した。

「中立の立場をとると仰られるのかな?」
アルベリッヒ上級王もスリン王に負けじと穏やかだが怖いくらい冷たい声で静かに問いかけた。
「さようですな。」
スリン王が答える。
エルフの諸侯達が再びざわめきだした。
エルフのお偉いさんは何れも歴史の大家だ。
『古い同盟』締結時の決め事などを諳んじ始めて、議論しているんだろう。

最後にグンナル七世王が引き取った。
「スリンの言った通りだ。我々ドワーフ族はいずれにも軍勢を出さぬ。」
つまり、ドワーフ諸国はライオスエルフの軍にもテルデサード王国の軍にも参加しないということだ。
同時にヴァラキアにも援軍は出さないという事だろう。
「我々は事の理非を見極めさせていただく。」
これはまた…
なかなか激しい表現だ。
ライオスエルフ達は激怒するだろう。

「なんだと!我々に非があるとでも言うのか?」
「ドワーフ風情が!」
「狂ったか?」
「チビで醜い地底を這いずる矮人共が!」
「冒涜だ!これは冒涜だ!神々も御赦しにならぬだろう。」
エルフ諸侯が叫びだした。
本音が出まくりだな。
それだけ興奮しているんだろう。
魔王が復活すれば、オークやゴブリン相手に同盟が発動して共に戦うと言う固定観念が彼らにはこびりついているから、ドワーフ諸王の宣言に納得できないんだろう。
それどころか、ひどい裏切り行為というようにしか思えないんだろうな。
俺もびっくりしたけどな。
でも、ドワーフ諸王の言っていることは筋が通っている。
実際に過去にエルフ達も同じ理屈でドワーフ族に援軍を出さなかったことがあるんだ。
文句を言う方がおかしいわけだ。

「安心されよ。」
グンナル七世王の低い声が響いた。
低いがよく通る声だ。
そして、この広い広間中に聞こえるような大きな声だ。
もっとも本人が無理して声を張り上げた様子はない。
どれだけの肺活量があるんだよ?
「『互いが危機にある時は必ず助けに参じ』か。良い言葉だ。儂は、我が先祖が貴殿らとこの同盟を結んだことを誇りに思っておる。約束しよう。我々ドワーフ族はそなたらが本当に危機を迎えた時、我が身を擲ち助けに参じよう。もっとも、貴殿らが望むやり方になるかはわからぬがな…」
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