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異変
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この国の第1王子である私、アルバート・ボイドには婚約者がいる。
フラン・アークライトという公爵家の令嬢だ。
彼女との婚約は政略的なもので、我々は幼い頃から時に婚約者、時に時期国王、王妃として共に教育を受けてきた。
フランは幼い頃から聡明で、公爵令嬢としての自らの立場を理解していた。
出会った最初の頃は無邪気な愛らしい笑顔を向けられることもあった。しかし今では腹の中が読めないいかにも令嬢らしい笑みを浮かべるばかりだ。
彼女は私とは対照的な銀髪に、そこらの令嬢よりも遥かに整った顔立ちをしていた。その美貌は第1王子である私の婚約者と知りながらも男が寄ってくるほど。
昔はその美貌とおおらかな性格をしたフランに好意を抱いていたこともあったが、今ではその感情も消えてしまった。
今私が熱を上げているのは、男爵令嬢のマリア・ガーネットだ。彼女の甘い匂いと可愛らしい容姿、貴族社会のルールに囚われない姿は私の好奇心を引いてやまない。
現在私達は貴族が通う学園に通っているが、マリアとは暇さえあれば逢い引きしている。
フランは最初こそ私達の行為に苦言を呈していたが、最近は何も言わなくなった。
どうやら私たちの関係を認めてくれたようだ。
マリアは頭が良い訳では無いため王妃になることは難しいだろうが、妾ならばフランも許してくれるだろう。なんたってフランは私一筋の女なのだから。
嗚呼、そういえば最近、マリアは何者かに嫌がらせを受けていると言っていたな。
犯人の姿をちゃんと捉えてはいないが、長い銀髪の女性らしい影が見えたと。
この学園に、長い銀髪の女性は一人しかいない。
今日は婚約者であるフランとの義務的なティータイムがあるため、その時に注意しておこう。
仮にも時期王妃であるフランが私の妾を虐めたという噂が広まるのは良くないからな。
「兄上。先程フラン公爵令嬢がお見えになりました。」
ドアがノックされたと思えば、そこには私と同じ金髪にアイスブルーの瞳をした弟が立っていた。
彼と私の容姿は似ており、2人とも王族の血を引くためそれなりに整った顔立ちをしている。
しかし私が温厚で優しい印象なのに対し、弟は目付きが鋭くどこか冷たい印象を与えてしまうのだ。
実際私達の性格は見た目通り対照的であり、誰にでも友好的な私の方が王に相応しいのは明らかである。
「アーロン。わかった。」
婚約者であるフランが待っている庭園へと向かおうと席を立った時、机の隅に身に覚えのない缶が置いてあることに気づいた。
「なんだこれは。」
複雑な模様が描かれた缶を開けてみれば、そこには見たことも無い形をしたクッキーらしきものが入っていた。
「それは先日の他国との交流会で頂いた茶菓子です。」
弟のアーロンが私の独り言に答えた。
…茶菓子か。
どうせフランとの会話もつまらないのだから、甘いものでも食べてから行こう。
私はクッキーのような茶菓子を1つ口に含むと、フランが待っているという庭園へと向かった。
「アルバート殿下。ごきげんよう。」
庭園につくと、色とりどりの花々に囲まれたフランが滑らかなカーテシーをして私を出迎えた。
…嗚呼、今目の前にいる相手がマリアだったら良かったのに。
私達は向かい合うように席に着くと、二人の間にはいつものように沈黙が流れる…はずだった。
『いくら義務とはいえど、何故毎度顔だけが取り柄の無能王子に会いに行かなければならないのかしら。』
「…は?」
普段のおおらかなフランからは想像もつかない台詞が聞こえ、私は思わずフランを凝視した。
しかしフランは不思議そうな笑みでこちらの様子を伺っており、どうやら彼女が口に出した訳では無いらしい。
しかし声は明らかに彼女のものだった。
…一体どうなっている?
「どうかいたしましたか殿下。」
『いっその事、頭の病ということでこの婚約も無かったことにされないかしら。』
…やはり、彼女は口に出していない。
ではこの声は…彼女の心の声?
「い、いや。なんでもない…。」
私は彼女から目を背けると、目の前に置かれた紅茶へと視線を移した。
…これは幻聴か?
フランの声でありながら、その内容はおおらかな彼女からは想像もできないほど冷たいもの。
『ただ無言でお茶を飲むだけなんて…本当に時間の無駄ね。』
お互いに黙り込んでしまったが、幻聴のせいでいつものような静かな空間にはならない。
この聞こえる声はなんなのか…確かめなければ。
私はマリアのことを思い出し、この声が何なのかを突き止めると共にフランへ注意することにした。
「そういえばフラン。最近マリア嬢が何者かからいじめを受けているらしくてね。君は何か知らないかい?」
本来公爵令嬢が一男爵令嬢のことなど気に止めるはずもないが、フランは私たちの関係を何度も注意している。そしてさらにマリアの目撃証言…。動機はきっと、彼女への嫉妬だろう。私の隣という自分の居場所を取られるのが嫌なのだ。
けれど時期国母ともなる女性がそんなことではいけない。
フランもそれとなく注意をすれば考え直してくれるだろう。彼女は聡明だからな。
フラン・アークライトという公爵家の令嬢だ。
彼女との婚約は政略的なもので、我々は幼い頃から時に婚約者、時に時期国王、王妃として共に教育を受けてきた。
フランは幼い頃から聡明で、公爵令嬢としての自らの立場を理解していた。
出会った最初の頃は無邪気な愛らしい笑顔を向けられることもあった。しかし今では腹の中が読めないいかにも令嬢らしい笑みを浮かべるばかりだ。
彼女は私とは対照的な銀髪に、そこらの令嬢よりも遥かに整った顔立ちをしていた。その美貌は第1王子である私の婚約者と知りながらも男が寄ってくるほど。
昔はその美貌とおおらかな性格をしたフランに好意を抱いていたこともあったが、今ではその感情も消えてしまった。
今私が熱を上げているのは、男爵令嬢のマリア・ガーネットだ。彼女の甘い匂いと可愛らしい容姿、貴族社会のルールに囚われない姿は私の好奇心を引いてやまない。
現在私達は貴族が通う学園に通っているが、マリアとは暇さえあれば逢い引きしている。
フランは最初こそ私達の行為に苦言を呈していたが、最近は何も言わなくなった。
どうやら私たちの関係を認めてくれたようだ。
マリアは頭が良い訳では無いため王妃になることは難しいだろうが、妾ならばフランも許してくれるだろう。なんたってフランは私一筋の女なのだから。
嗚呼、そういえば最近、マリアは何者かに嫌がらせを受けていると言っていたな。
犯人の姿をちゃんと捉えてはいないが、長い銀髪の女性らしい影が見えたと。
この学園に、長い銀髪の女性は一人しかいない。
今日は婚約者であるフランとの義務的なティータイムがあるため、その時に注意しておこう。
仮にも時期王妃であるフランが私の妾を虐めたという噂が広まるのは良くないからな。
「兄上。先程フラン公爵令嬢がお見えになりました。」
ドアがノックされたと思えば、そこには私と同じ金髪にアイスブルーの瞳をした弟が立っていた。
彼と私の容姿は似ており、2人とも王族の血を引くためそれなりに整った顔立ちをしている。
しかし私が温厚で優しい印象なのに対し、弟は目付きが鋭くどこか冷たい印象を与えてしまうのだ。
実際私達の性格は見た目通り対照的であり、誰にでも友好的な私の方が王に相応しいのは明らかである。
「アーロン。わかった。」
婚約者であるフランが待っている庭園へと向かおうと席を立った時、机の隅に身に覚えのない缶が置いてあることに気づいた。
「なんだこれは。」
複雑な模様が描かれた缶を開けてみれば、そこには見たことも無い形をしたクッキーらしきものが入っていた。
「それは先日の他国との交流会で頂いた茶菓子です。」
弟のアーロンが私の独り言に答えた。
…茶菓子か。
どうせフランとの会話もつまらないのだから、甘いものでも食べてから行こう。
私はクッキーのような茶菓子を1つ口に含むと、フランが待っているという庭園へと向かった。
「アルバート殿下。ごきげんよう。」
庭園につくと、色とりどりの花々に囲まれたフランが滑らかなカーテシーをして私を出迎えた。
…嗚呼、今目の前にいる相手がマリアだったら良かったのに。
私達は向かい合うように席に着くと、二人の間にはいつものように沈黙が流れる…はずだった。
『いくら義務とはいえど、何故毎度顔だけが取り柄の無能王子に会いに行かなければならないのかしら。』
「…は?」
普段のおおらかなフランからは想像もつかない台詞が聞こえ、私は思わずフランを凝視した。
しかしフランは不思議そうな笑みでこちらの様子を伺っており、どうやら彼女が口に出した訳では無いらしい。
しかし声は明らかに彼女のものだった。
…一体どうなっている?
「どうかいたしましたか殿下。」
『いっその事、頭の病ということでこの婚約も無かったことにされないかしら。』
…やはり、彼女は口に出していない。
ではこの声は…彼女の心の声?
「い、いや。なんでもない…。」
私は彼女から目を背けると、目の前に置かれた紅茶へと視線を移した。
…これは幻聴か?
フランの声でありながら、その内容はおおらかな彼女からは想像もできないほど冷たいもの。
『ただ無言でお茶を飲むだけなんて…本当に時間の無駄ね。』
お互いに黙り込んでしまったが、幻聴のせいでいつものような静かな空間にはならない。
この聞こえる声はなんなのか…確かめなければ。
私はマリアのことを思い出し、この声が何なのかを突き止めると共にフランへ注意することにした。
「そういえばフラン。最近マリア嬢が何者かからいじめを受けているらしくてね。君は何か知らないかい?」
本来公爵令嬢が一男爵令嬢のことなど気に止めるはずもないが、フランは私たちの関係を何度も注意している。そしてさらにマリアの目撃証言…。動機はきっと、彼女への嫉妬だろう。私の隣という自分の居場所を取られるのが嫌なのだ。
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