サメに喰われた人魚

猫パンダ

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第1章 銀色のサメ

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 空が闇に覆われ、太陽の代わりに淡く輝く月が空のてっぺんを陣取り、星達が宝石のようなきらめきを放つ。

 セレニティは夕食をとるために、広間へと足を運んでいた。その足取りは、重い。淡い金色の眉が、頼りなく垂れ下がり、ぽってりとした唇からは、小さなため息が幾度となく零れる。朝や昼は自由に食べてもいいが、夜だけは家族でとるのだと、昔から決まっていた。自分を嫌っているらしい義理の母と生意気な腹違いの妹。そんな人達との食事が、はたして楽しいだろうか。否である。

 ーー今日は、一体どんな嫌味を言われるかしら。

 父オスカーが、セレニティの味方をしてくれる訳でもない。ベリルのチクチクとした嫌味に、男の人は気付かないらしい。海を禁じてセレニティを監視するより、ベリルのしたたかさに気付いてくれと、何度思ったことか。

 控えていた執事が、豪華な扉をゆっくりと開ける。中に入ると豪勢な長テーブルに、赤い髪の少女がちょこんと座っていた。どうやら、父と義母はまだ来ていないようだ。少女は振り向くと、吊り上がり気味の緑の瞳をゆるりと細める。

 「あら、お姉様。ごきげんよう」

 「ごきげんよう、アンナ」
 
 腹違いの妹であるアンナは、ごっさり、もっさりとした、少々しつこいレースのドレスに身を包んでいた。赤い生地に真っ白なレースは、真っ赤な苺にたっぷりと乗っかった生クリームのようで、お腹が空いている筈なのに、胸焼けを起こしそうだとセレニティは思った。

 「嫌だわ、お姉様ったら……。そのドレス、ついこの間も着ていたじゃない」

 唇の端だけをくいっと持ち上げて、アンナは嫌らしくセレニティを見つめた。オシャレの最先端を行くと自称しているアンナは、身に付けるドレスが毎日違う。一度着たものは二度と着ないと豪語する彼女である。

 セレニティは呆れながら、彼女の隣の席に腰掛けた。膝の上に、執事が素早くナプキンを置く。グラスを立てて、水を注いでくれる執事を尻目に、お返しとばかりにアンナに微笑んだ。

 「私はあなたとちがって、物を大切にする主義なの」

 「まぁ、貧乏じみた思想ですこと。一国の王女とは思えませんわ!」

 「そういうアンナこそ、民の税を使って無駄遣いするなんて……一国の王女とは思えない事をするのね」

 ほほほ、うふふと笑いながらも、目から火花を散らす二人の王女に、執事はそそくさと壁際に避難した。飛び火から逃れるために必死な彼など、眼中にないアンナは、頭の中で様々な嫌味のパターンを展開させる。どうしたら、目の前の憎たらしい姉を、ギャフンと言わせる事が出来るだろう。ギリギリと唇を噛み締め、考えを巡らせーーやがて、アンナは思い付いたかのように、意地悪く笑った。

 「そういえば、お姉様。私、またお友達と一緒に海で遊ぶ約束をしましたの」

 自慢げに顎を上げ、意気揚々とアンナは声を弾ませる。

 「今度は砂浜ではなく、モレーナ小島モツまで船で移動して、ピクニックを楽しんだり、泳いだりしますの。最新の水着も新調しましたのよ。とっても、楽しみですわ……ああ、でも……私の白い肌も、日焼けで、小麦色になってしまうかもしれませんわね」

 肌を焼くつもりなどないくせに、アンナはわざと、そのような言い方をした。滅多に外に出ることの出来ないセレニティは、日焼けなどとは無縁だからだ。セレニティの瞳が、羨ましそうに揺らいだのを見て、アンナの胸の内に薄暗い喜びが湧き上がる。

 「知っていますか、お姉様。海の水って、とってもしょっぱいんですの。一生知ることの出来ないお姉様に、教えて差し上げますわ」

 目を丸くしたセレニティに、アンナは笑みを深めた。
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