15 / 47
第1章 銀色のサメ
15
しおりを挟むあんなに眩しくて暑かった太陽が沈み、空が暗く染まり始める。ぽつぽつと星が光り出し、淡く輝く月がうっすらと顔を出した。
波は徐々に荒くなり、セレニティのいる岩に容赦なく打ち当たる。潮が満ちてきているのか、彼女のお尻まで海水が浸り、綺麗だったドレスはぐちゃぐちゃに汚れてしまっていた。ちょこんと三角座りをして、腕の中に顔を埋めていた彼女は、そっと顔を上げる。その顔は、憔悴しきっており、目元は赤い。
「私……死ぬのかな」
このまま、波が岩場を呑み込み、海の奥深くへと沈んでいってしまうのだろうか。
パシャンと海水に手を入れ、水飛沫を飛ばした。昼ならば陽の光が、その飛沫を宝石の粒のように照らしただろう。
「海は、綺麗ね。怖い筈なのに……怖くない。どうしてかしら」
今も、こうして海に浸かっていると、不安なはずなのに、暖かい。
「死にそうになって、感覚が麻痺してるのかも……」
ボソボソと呟く独り言に答えるかのように、バシャンと海水が跳ねた。
「君、死にそうなの?死ぬの?」
甲高い、子供のような声が、無邪気に話しかけてきて、セレニティはビクリと肩を揺らす。
「な、何?誰なの?」
周りを見渡しても誰もいない。いるはずがない。だってここは、大海原のど真ん中。もしや、この声の正体は幽霊なのでは?
「おったまげー、君、オラの言葉がわかるんだねぇ」
「ひゃあ!?」
ぴょこっと現れた黒い影に、思わず情けない悲鳴を上げてしまう。恐る恐る見つめれば、ようやく慣れてきた視界に、色鮮やかな魚の姿が映った。暗くて見えにくいが、恐らく赤いボディに白と黒い模様の入った小さな魚だ。その魚が、海面から顔を出し、何やらセレニティのことを見つめているような気がするのだが……?
「まさかね……」
魚が喋るわけない。きっと、一人で寂しいから幻聴を聞いたのだ。そうに違いない。セレニティはそう自己完結させた。
「オラ、カクレクマノミのマノミーっていうんだ」
何やら、魚が自己紹介を始めたような気もするが……。セレニティは青ざめた顔で、魚を覗き込んだ。魚は、セレニティの様子を気にすることなく、口をパクパクと動かして、その口から甲高い声を発している。
「オラのパパは、イソギンチャクのパトロール隊隊長。ママは、主婦なんだ。ちなみに、十三人兄弟の末っ子さ。だからか、兄貴達やパパ達も、めちゃくちゃ過保護で……!」
気のせいではない。やはりこの魚、人間の言葉を話している。もしや、セレニティが知らないだけで、海の魚達は、人間の言葉を話せるものなのだろうか。
「あの……」
おしゃべりな魚……マノミーに、セレニティはぎこちなく微笑んだ。
「私は、セレニティ。えっと……マノミーだったかしら?あなた、人間の言葉を話せるの?」
セレニティが言葉を返したからなのか、マノミーは嬉しそうに海面を飛び跳ねた。魚特有の満面の笑みというやつなのか、丸い口が僅かに弧を描いている……ようにも見える。
「オラが話せるんじゃないよ!君が話してるんだ。オラ達、海の生き物の言葉をさ!」
「え……」
目を丸くして固まるセレニティに、マノミーは小さなヒレをピチピチと動かしてみせた。
「君ってニンゲンっていう生き物なんだろう?なるほど、本当にヒレがないや!尾も真っ二つに割れてる!パパが言ってた通りだ!」
マノミーは、体は小さい癖に、声がでかい。元気よくハキハキと話すマノミーの言葉は、どう聞いても人の言葉にしか聞こえない。まさか、自分は本当に、海の生き物の言葉が理解出来るというのだろうか。
「何はしゃいでんだよ、カクレクマノミの坊や」
「あ、ウミガメのおじさん!」
海面からぬっと顔を出したのは、つぶらな瞳を持つウミガメだった。
0
あなたにおすすめの小説
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」
みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。
というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。
なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。
そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。
何か裏がある――
相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。
でも、非力なリコリスには何も手段がない。
しかし、そんな彼女にも救いの手が……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる