サメに喰われた人魚

猫パンダ

文字の大きさ
17 / 47
第1章 銀色のサメ

17

しおりを挟む

 ピチピチと海面を跳ねながら、小魚達はひっきりなしに話しかけてくる。その無邪気な様子が可愛らしい。最初は、魚の表情があまりわからなかったセレニティだが、だんだんとわかるようになってきた。魚も、人間と同じように、笑顔や困惑、恐れといった表情をくるくると使い分けるのだ。

 「ねぇ、可愛らしい小魚さん達。聞きたいことがあるのだけれど……」

 「なぁに?何でも聞いてみてよ!」

 「この岩場は、いつまでもつの?」

 お尻まで海水で濡れてしまったセレニティ。いつ波に流されてもおかしくない状態だった。このままこの岩場にいれば、いずれ海水に呑まれてしまうだろう。

 「うーんとね、確か……もうすぐで沈んじゃうよ!」

 「そうよね……」

 元気よく答えた小魚に、セレニティはがっくりと項垂れる。どうしたら、助かるだろう。船なんて、都合よく通るわけないし、セレニティは泳げない。海のど真ん中で、溺死する確率100%である。

 「はぁ……私もあなた達のように、海の中でも呼吸ができたらよかったのに」

 考えれば考えれるほど、死亡するという道しか見えてこない。セレニティの目尻に涙が滲んだ時だった。バシャンと、今までにないほど海水が揺れ、水しぶきが立つ。まるで水のカーテンでも出来たかのように、それはセレニティの視界を一瞬だけ遮った。「きゃー!」と小魚達が悲鳴を上げる。たくさんの、白い水の粒が落ちていく中、小魚達が何やら大きな穴へと吸い込まれていったように見えた。

 「あ……」

 それは、穴ではない。口だ。大きな鋭い牙が、びっしりと生え、その奥に赤い粘膜が見える。小魚達はその口に一瞬で飲み込まれ、閉じた口からガチンと牙同士が当たる音がした。

 「サメだ!逃げるぞマノミー!!」

 焦ったようなウミガメの声が、聞こえる。だが、セレニティは逃げることが出来ない。ただの人間でしかないセレニティは、その場を動くことが出来なかった。

 海に浸かりつつあるセレニティなど、サメが身を乗り出せば、その口で簡単に咥え込み、海へとひきずり込んでしまえるだろう。

 海面に潜ったサメの背びれが、不気味に浮かんでいる。

 ああ、自分はこのままサメに食われて死ぬのだ。ロイド・ベルックリー公爵子息との、思い描いていた幸せな結婚生活も、儚く散る。頭に浮かぶのは、高らかに笑う義母と腹違いの妹だ。きっと、「それ、見たことか」と、セレニティの死体を見下ろして、満足そうに笑うに違いない。アンナは、ここぞとばかりにロイド・ベルックリー公爵子息に近付くだろう。

 ーーそんなの、嫌……。

 あの雲雀のような優しい声の貴公子が、セレニティではなく、アンナに愛を囁くだなんて。想像するだけで、不快な気持ちで一杯になる。

 ーー変よね。私ったら……。ただ、声を聞いただけなのに、あの人を好ましく思ってしまうなんて……。

 かの方の声を思い出し、ほんのりと頬を染めるも、そんな事をしている場合ではない。恋愛脳となってしまったセレニティは、命の危機であることを再び思い出し、赤らんだ頬を青ざめさせた。

 ザブンと波を揺らし、大きなサメが顔を出す。近くで見れば見るほど、ノコギリのようにギザギザとした大きな歯。セレニティの体など、ひと噛みで真っ二つになってしまいそうだ。

 「い、嫌……っ」

 岩場にしがみつきながら、セレニティの瞳はサメに釘付けになっていた。

 三角の形をしたシルエットが、淡い月の輝きに照らされる。顎がなくて、避けたように大きく切れ込んだ口。凶悪な顔付きにも関わらず、その体は美しい銀色をしていた。青の混ざった深みのある銀色と、混ざりけのない純白のグラデーションが、恐ろしいサメを、神々しい姿に変えている。

 恐ろしくてたまらないはずなのに、セレニティは、銀色のサメに見惚れていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...