「無」の魔王

エルド

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第1章「誕生」

第四話-④「大魔王VS〇〇〇」

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 大魔王は右腕をムイカの方に向けて魔法の詠唱を始めた。

「『雷帝の憤怒』」

 その瞬間、掌から魔法陣が展開した。

 そしてそこから無数の雷がムイカの方に襲い掛かった。

 その猛攻にムイカは最初は回避出来ていたが、先程の命令の影響か何度が攻撃を受けていた。

 その攻撃を受けている姿はまるで本当に見えるはずのない骨の姿が見えてしまいそうだった。

 そして電気の応酬が続く中、しばらくして雷が収まった。

 ムイカは何度も食らったことから服は黒焦げになり髪には電量が流れたエフェクトのような現象が起きていた。

 しかし大魔王はそんなムイカの姿に違和感と恐怖を感じていた。

(こ、この男……立っている! あの魔法を約千回ほどは食らったはずなのにまったく変わらない表情で立っている。それだけじゃない。奴の服は確かに黒焦げだが、下半身の衣服は焦げた跡はあれど上半身の衣服ほどの被害を受けていない。それに服が焦げたということは奴の身体には何一つ焦げた跡が一つない)

 そう普通なら雷を食らったらまず服も身体は全て丸焦げになり、死に至ってしまう。

 先程の『雷帝の憤怒』は通常の雷の数千倍の威力している。

 なので何度も食らって、身体が焦げることもなく平然として立っていられるムイカの姿に命令をした本人であるラリルはドン引きしていた。

 しかし大魔王はそれに怯むことなく次の攻撃を始めようとしていた。

「『魔法球マジックスフィア』」

 その瞬間、また掌からサッカーボールと同じくらいの大きさの魔法の球が現れた。

 魔法球とは一見魔力を丸い形にしただけのものだと思うだろう。

 だがこの魔法は使用者の技量次第でちょこッと触れるだけでダイヤモンドや最大強度の魔力凝晶の防具すらも木っ端微塵にするほどの威力を引き出すことの出来る大変恐ろしい魔法なのだ。

 大魔王は魔法球を三つも出現させ、一斉にムイカに攻撃した。

 最初は三方向からの同時攻撃だったが、ムイカそれを難なく回避した。

 そこから一球ずつからの連続攻撃を仕掛けた。

 もちろん何度か回避を成功させたが、やはり命令通りに攻撃を受けています。

 その間にも大魔王は何か違和感を持ち続けていた。

(我の魔法球をあれだけ当たっているというのに痛がる素振りすら見せない。あの男何かある?)

 そんなことを考えていた大魔王は魔法球を全て消し、次の攻撃の準備を始めました。

「『我が怒りの炎よ! 忌々しい記憶を再熱させ、この現世へ具現せよ!』」

 その詠唱の最中だというのに大魔王の周囲には炎の渦がまるで台風のように包み込みその場にいる者たちの命の灯が揺さ振られる気持ちにさせる。

 すると先程まで大魔王を包み込むように燃え上がっていた炎の渦が大魔王の目の前に集約されていた。

「『憤怒の業火フューリー・バーン』」

 すると大きな火球になりムイカに放った。

 その大きさは人間の平均身長の人間が縦に5人くらい入りそうなくらい大きさだった。

 こんなものが飛んできてしまったら、おそらく逃げるか、降参を選んでしまう瞬間だった。

 しかしムイカは違った。

 ムイカ一旦しゃがみました。するとムイカは脚に魔力の流れを早め、血行の流れの流れも早くした。

 なんと驚くことに力んでいる足元を確認すると、もうつま先も埋められてしまうほどの深さまで沈んでいた。

 そして火球がもう目と鼻の先にまで近づいたところで先程から溜めていた力を一気に空の方へ飛びました。

 それは火球が身体を振れるすれすれを回避して、取り過ぎたところで綺麗に着地した。

 その後火球は城の壁に当たることなく鎮火した。

 次はどんな攻撃を仕掛けるのかと思っていると、急にムイカに向かって盛大な拍手を送りました。

「いやー恐れ入った。まさかそなたに我の渾身の魔法をかわされてしまうとは予想だにしていなかった。見事な回避とジャンプはまるで剥製のようだった」

 大魔王はまさかの戦いの最中に相手を褒め始めたのだ。

 ムイカはお褒めの言葉を受け取ったのか、戦いの最中だというのに「ありがとうございます」とお礼を言う始末である。

 しかし大魔王はそれを自ら水を差すように会話の雰囲気を変えた。「だがしかしそれゆえに我は納得出来ていないことがある!」

 そう言うと大魔王はムイカの人差し指を向けた。

 そしてムイカ向かってこう言った。

「そなたは何故避けれるはずだった攻撃があったにも関わらず、わざと攻撃を受ける行為が数々見受けられた。そなたは何故そのような我の理解の出来ない行動をした? それどころか何故避けてばかりで我に攻撃を仕掛けようとしない?」

 すると大魔王が予想外のことが口走ったことでラリルは自らの身の危険を感じて冷や汗をかいていた。

(ま、まずい! もし彼が私が命令したということがバレてしまったら秘書の件も含めて怒られる!)

 そんなことをしている内にも大魔王はムイカに問い出していた。

「応えよ、そなたは何故相手を甘くみる行動をした!」

 皆さんならこの状況ならどう行動するだろう。

 相手のことを考えて黙っていますか。それとも保身のために正直に話しますか。

 ラリルはその言葉を聞いた後、こんなことを心で思っていた。

(お願いします! 神様! 仏様! どうか私目をお助けください!)

 しかしそんなラリルの思いとは裏腹にムイカはある意味予想通りの返答をした。

「それはラリルさんから『一切大魔王様に攻撃はしない』と『攻撃を避けて』と言われたので私はそれを行動に移しただけです」

 どうやらムイカは少し違うが後者の返答だった。

 それを聞いてからかラリルは『お前何バラしてんだ!』という表情を手で隠しながらムイカの方を睨んでいた。

 大魔王は真実知った後、すぐさまラリルの方を睨んだ。

 するとラリルはそれに怖気づいてガラゴロの後ろに隠れてしまった。

 それを確認すると大魔王はムイカの向き直した。

「そうか済まなかった。そのような事情も知らずに怒鳴ってしまった」

 そうして大魔王は深々と頭を下げた。するとムイカが軽くなだめ始めた。

「いえ私は気にしていないのでお気になさらず」

 その言葉を聞くと大魔王はお礼のついでにこんなことをムイカに質問した。

「それは有難い、それで謝罪した後で申し訳ないのだが、ラリルの言ったことを取り消すことは可能だろうか?」

 なんと大魔王はムイカの命令に関して第三者であるにも関わらず命令の取り消しをお願いしてきた。

 だが本来ならありえないことである。

 本来は当事者同士で合意した命令を第三者が反故にしていい合理がない。

 そんなことを承知の上で大魔王はムイカに頼んでいた。

 ムイカはその言葉を聞いた後、「分かりました」とあっさりした発言をした。

 その発言に一同は唖然の空気になったのは言うまでもない。

 するといち早く言葉を発したのは大魔王だった。

「それはありがとうなら我が代わりの命令を下そう」

 そして大魔王はラリルの命令の代わりになることを話そうとしていた。

 しかしのその命令はその場にいる魔物たちを驚愕させるないようだった。

「今から我の身体に一発、パンチを全力で打ち込むといい!」

 その言葉にラリルは思わず反発の言葉を上げた。

「それはなりません!」

 ラリルの反発する声に大魔王は理由を尋ねた。

「ラリルよ。何故邪魔をする? 別にお前に攻撃しろと命令している訳ではなかろう」

 ラリルは先程の縮こまっていた態度とは打って変わってその理由について説明を始めた。

「それは先日、森の方から魔獣たちの悲鳴が鳴り響いたという情報を耳にしました。その数は種類問わず、およそ約200体ほどだと聞いています」

 そうあの森は中位から上位の魔獣たちが生息が確認がされていて、例え魔物であっても魔王軍の精鋭レベルでもなければ安全に進むことが出来なかった。

 現に今だ出向に向かった部隊が森で生涯を終えた事例が後を絶たない。

 それを聞いた大魔王は疑問に思うところがあったためラリルに質問した。

「ではこの男がその報告に上がった張本人ということか?」

 大魔王がラリルに聞くと、ラリルは早い動きで縦に頷きました。

 その理由を聞くと大魔王は先程までの戦闘を思い出して納得する部分があった。

 だが大魔王はその決断を覆ることはなかった。

「ならば、それ本当にこの男なのか、我が自ら調べてやろう!」

 そう意気込み大魔王を後目にムイカは疑問に思っていたことを口にした。

「申し訳ありませんが、全力というのは"どのくらい"の力を出せばですか?」

 ムイカの予想外の発言に大魔王は呆気に取られてしまった。

 するとすぐに大きな高笑いを始めた。

「アハハ! まさか全力を出せと言ったのにどれほどの力を出せと聞くとは思いもしなかった。でもそうだな、この我を気絶させれるほどの威力を出してもらおう」

 その瞬間、ムイカの「分かりました」という一言と同時に拳が大魔王の方に向けられた。

 本来なら少し心の準備というものをするものなのだが、ムイカは一切躊躇のなく振りかぶった。

 その拳には何かが具現化されているようだった。

 それはまるで猛獣だなんて生易しいものではない生き物なのかという恐怖の根源のように見えた。

 それを見た大魔王は一瞬で委縮してしまい、体が動かなかった。

 その光景に魔物たちも動けずにその場を見ることしか出来なかった。

 しかしその間にもムイカの拳は止まることはない。

 そしてムイカの拳は大魔王の鎧に触れた。

 ムイカが鎧に触れるまでにわずか1秒も満たなかった。

 全員が触れたことに意識が向こうした瞬間、鎧にひびが入った。

 さらに次の瞬間にひびが鎧全体に広がった。

 それと同時に大きな轟音と共に大魔王の後ろに向かって衝撃によって地表が割れ、宙を舞う。

 そしてその勢いは城の壁を破壊するほどだった。

 その光景を目の前で起きて魔物たちは混乱していた。

 すると大魔王が付けていた鎧がポロポロと落ちた。

 そして大魔王は口を開いた。

「いや~これは驚いた! まさか我の来訪用の鎧が破壊させるとは思わなかった」

 なんと大魔王の鎧の中身は少年だった。

 いや少年のような見た目だと言っていいだろう。

 この見た目なので先程砕けた鎧のことを考えると約6割ほど空洞があったまま動いていたことになる。

 その事実を知ると魔物たちはさらに混乱して頭が痛がっていた。

 そうこうしていると鎧が崩れたことで地上に降りた後、ムイカの方に歩み寄ってこんなことを話し始めた。

「そなた、『ギフター』か?」

 ギフターとは、神の加護・祝福、または継承を行った生物に該当する者に呼ばれる名称だ。

 その説明を聞くとムイカは確かに神の加護と祝福を受けているため該当する。

なのでムイカの回答は決まり切っていた。

「はい」

 その一言は大魔王の思いに何か刺さったようだ。

 すると大魔王は続けてこんな質問をした。

「ではそなたは我の保有する力を"全て"扱うことは可能か?」

 その質問にムイカは何の躊躇いもなく、「はい」と返事をした。

 それを確認すると少し息を飲み込んだ後、すぐに高笑いをした。

「アハハ! これは恐れ入った! まさか500年生きて来た我をもう越してしまう者が現れてしまうとはな」

 そんな大魔王の笑う姿にその場いた魔物たちも終始状況を掴めずにいた。

 すると大魔王はムイカの脚にポンポンと叩いた。

「こんな夜中にこのような申し出をして申し訳なかった。その謝罪を込めてこの城を借りてティータイムを楽しもう」

 そんな大魔王からの申し出にムイカは迷うことなく「はい」と返事した。

 するとハッと現状の理解が出来たラリルは大魔王に声をかける。

「だ、大魔王様! なりませんそんな勝手をなさることは。それにこの城は私の所有しているものです。ですから……」

 すると先程まで穏やかな雰囲気で話していた大魔王が前までの貫禄のある口調でラリルに向かった話した。

「ラリルよ。そなたには後に秘書の件で話がある。それを忘れるな」

 その一言を聞くとラリルは「忘れてたー!」と心の中で言い、そう思わせる表情もした。

 さらに大魔王は続けてこんなことを言った。

「それにお前にはこの後の処理を頼んだぞ」

 そんな訳の分からないことを言うと大魔王はムイカを引っ張って城の中へ入った。

 すると城下町から大声が響いた。

「おい何だ今の音は!」

「こっちは気持ちよく寝てたのよ!」

「またいつもの研究かー!」

 と次々と苦情の嵐が飛び交った。

 ラリルはその惨状を聞いてため息をついた。

 そして急にラリルが叫んでしまった。

「これなら説教食らった方がマシじゃない!」

 そんなラリルの言葉は誰にも届くことはなかった。
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