「無」の魔王

エルド

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第2章「統治」

第五話-③「無の魔王との対面」

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 それからハフセフさんの案内を従い、ついて行くこと約30分ほどが経過しただろうか。

部屋に着いて緊張を胸に中に入ったら誰もいなかった。

するとハフセフさんが訳の分からない本棚のギミックが解かれたと思ったら、その本棚の後ろに階段が続いていた。

それかずっとらせん階段を下っていた。

(そろそろ脚がキツくなってきた。今までのデスク仕事が祟ったか)

 なんて考えていると前の方からハフセフさんが声をかけてきた。

「着きました。こちらに魔王様がいらっしゃいます」

 そう言われてハフセフさんに視線を向けるとそこには一つの扉があった。

ボクは深く深呼吸した。

(この人と顔を合わせるってことは自分の命を預けることになる。でも見ず知らずの相手に命を預けられるわけが……うっまた緊張と腹痛、さらには頭痛まで)

 なんて葛藤を一人でしているとハフセフさんが扉を勢いよくバンと開けた。

まだ心の準備をしていなかったのにいきなり自分の都合を考えずに行動したハフセフさんに驚きを隠せなかった。

「ちょ、何やっているんです……」

 しかしボクは扉の先にある光景を見てハフセフさんに言おうとしていた言葉が詰まってしまった。

そこには書庫と見られる場所で色んな本が宙を舞っていた。

そして机の方に視線を向けると一人の男性が本をパラパラと本を速読して閉じてはまた新たな本をパラパラと読むの繰り返しをしていた。

そして読み終わった宙を舞う本たちはきちんと元のあった場所に戻っていた。

その動作にかかる時間はわずか3秒だった。

すると読み終えたのか先程の読む体制から一遍して綺麗なお手本のような体制に切り替わった。

そんな一部始終を見惚れていたボクをそっちのけにハフセフさんはその男性に声をかけた。

「無の魔王様、読書の方は済みましたでしょうか?」

 ハフセフさんの言葉に男性はゆっくりとこちら方に向き話をした。

「はい。大魔王様の言われた通りにこの書庫の全ての書籍を読み終えました」

 その言葉を聞いたボクは驚きを隠せなかった。

何故なら軽く見渡しただけでも本の数は約10本はあってもおかしくないくらいだった。

それだというのに男性は疲れた様子もなく無感情といった態度を見せていた。

するとボクが色々と気になっているとハフセフさんはボクの自己紹介を始めた。

「無の魔王様、こちらが貴方の直属の部下であり秘書するアーデリアス・フューバーさんです」

 そうボクの自己紹介をするとボクもつい反射的に仕事モードに切り替わった。

「は、初めまして、私はアーデリアス・フューバーと申します。何分至らないところもあるでしょうが、どうかよろしくお願いします!」

 ボクが仕事モードになりつつも不自然になっていないくらいに顕著な姿勢を見せた。

それを見た男性は全く顔色を変えることなく自分の自己紹介を始めた。

「始めまして、私はこの度大魔王様から魔王の任を受けました。ムイカと申します。こちらも至らないところがあるでしょうがよろしくお願いします」

 そして男性ことムイカ様はボクに深々とお辞儀をした。

ボクはそれを見て少し唖然としてしまった。

何故なら母親から逃げる前の仕事場である地元の魔王は放任主義なのか仕事は自分で見つけてこいといった感じでまったく仕事をしているという実感がなかった。

だが母親から逃げた後の紅蓮の魔王の仕事は前の場所と比べて超が付くほどのブラックだった。

仕事は湯水のごとく湧いてくるので休みなんて一か月に3~5日取れれば良い方だった。

なのにムイカ様からはそんな他の魔王たちから感じられる無責任な態度を感じられなかった。

それを分かったからかボクは喜びに思わず涙が流れそうになった。

そんなボクの心情を後目にハフセフさんは話を進めた。

「今日貴方がたお二人をお呼びしたのは他でもありません。現在、無の魔王となったムイカ様に今お渡しできる領土がありません」

 そう今この魔物領内に新しく就任した魔王に渡すための領地が無い。

かといって他の魔王の領地を削って領地にすれば、間違いなくこのアビスに非難の言葉が飛び交うのは言うまでもないだろう。

そんな難しいことを考えていると、ハフセフさんが衝撃の言葉にボクは驚きがむしろ城の外に飛び出してしまいそうだった。

「なので魔王らしく近くの人間領を制圧して自分の領土にしてください」

 その言葉を聞いたボクは開いた口が塞がらなかった。

こんな無謀ににも等しい作戦を誰が賛同すると思うのだろう。

しかしムイカ様はボクの考えを覆す方だった。

「分かりました」

 まさかのムイカ様の言葉に思わずさらに口が塞がらず、声も漏れてしまった。

「な、何で了承するんですかー!」

 そんなボクの言葉もむなしくその作戦は着々と進められた。
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