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目的

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 その後も何かと目移りするフィリアに振り回され続けるクロノであった。

 それでもフィリアが向かう場所に多少の趣味の違いはあるけども、基本一緒にいて退屈な気分にはならなかった。
 
「ねークロノちゃん。次はあっちのお店行かない?」
 
 フィリアが指を向けた方へ目を向けると、そこには目がチカチカするほどの装飾がされたランジェリーショップがあった。

「あの………、さすがにあのお店はちょっと抵抗が……」
 
 入ったことも無いし、見たことも無い店だが入りにくい感じがします。

「えー。平気でしょ。あ、そっか。クロノちゃんは男だったか……。でも気にしないで行きましょうか」

 どうやら、僕のことよりも興味が上の様だ。

「え、ちょっとさすがに」
「いいから、いいから。何事も勉強よ」
「そんな勉強は――――」
 
 クロノの抵抗も空しくフィリアに引っ張られて結局一緒に入店する。

                     ☆
 
 クロノは店の中に入ると外よりも明るい店内と、慣れない甘いかおりに少しクラつきながらもなんとか冷静を保っていた。

「クロノちゃん。これどうかしら?」
「に、似合うと思いますよ……………」
 
 フィリアは下着を見せて着てくるごとにクロノは狼狽するか、適当な返事をするのが精一杯だった。一応フィリアは軽い相談のつもりだが、クロノはそれどころじゃない。

「赤いのがいいけど、黒もいいわねー。さすが都市、いいものが揃っているわね」 
 
 早く終わって。と願い続けるクロノであった。

「クロノちゃんお待たせ。それじゃ買い物も済んだし、次に行くとしますか」

 なんとかこの場所での買い物が終了した。

 結局、何を買ったかは知らないけど、知ることはないと思います。

「次はどこに行きますか?」
「この都市の教会に行くわよ」
 
 歩くこと数十分その間、フィリアは先ほどまでの興味心が嘘の様に歩き続け、目的地の教会に辿り着いた。

「じゃあ、クロノちゃんはここで待っていてね。あと、荷物よろしく。すぐに戻って来るからねー」
 
 フィリアは手を振りながら、教会の中に入っていく。
 
 残されたクロノは近くの噴水に腰かけられそうな場所を見つけ、その場所で座って戻ってくるのを待ち続けた。
 
「すぐに戻って来るって言っていたけど、なかなか戻って来ないな」
 
 あまりにも暇になってしまったので、ぬいぐるみの手の部分をにぎにぎしながら遊んでいると、置かれている買い物袋が気になってしまいました。
 
 今日の買い物はいろんなお店でしており、クロノが商品を見ている間にもフィリアはどんどん買い物をしていたのだ。
 
 一体何を買ったのだろうと、気になるのだが人の物を勝手に見るのはもちろん良くない。

 そのことは充分に理解してはいました。

 でも、この時のクロノは暇になりすぎて、気持ちが緩んでしまったのか、ちょっとの出来心でその中身が気になり見てみようと思ってしまった。

 紙袋も上が折られているだけなので、元に戻すのも簡単だろう。

「いろいろ買っていたからなー。て、これは⁉」
 
 一発目、開けた袋にはさっきのランジェリーショップで買った下着が入っていた。
 
 しかも布地が少なく刺激の強い下着に、クロノの顔は真っ赤。
 
 しかもフィリアがこの下着を身にまとう姿を想像してもう蕩けてしまいそうなほどに。

「クロノちゃん、お待たせ―!」 
 
 遠くから聞えたその声がした瞬間、慌てて袋を元に戻した。

「お、遅かったね……」
「用事が済ませられるか微妙だったから待っていたけど、結局ダメそうだったから戻ってきちゃった」

 フィリアの声音はいつもの感じだが、表情は少しだけ暗いように見えた。

「そっか、それは残念だね」
「まあね。でもまた来ればいいから今日は帰りましょうか」
 
 フィリアは自分の荷物を持ち、クロノも残りの荷物を持って立ち上がろうとすると、急に
問いかけられる。

「……クロノちゃん。何か言うことはないの?」
「……何かとは?」
「本当にないの?」
 
 思い当たる点がありまくりのクロノは滝のような汗をかいて焦り始める。

「ないの? あるの? どっち?」
 
 フィリアの問いが少しずつ恐怖に感じ、その恐怖にクロノは耐え切れなくなる。

「ごめんなさい。買った下着を見てしまいました!」
 
 九十度に体を倒して全力で謝る。それはもう必死に。今までにないぐらいに。
 
 この事で、どんな言葉がかけられるのだろうと、怯えているクロノにフィリアは言う。

「なんだ、そんなこと。気にしなくていいわよ」
「……………えっいいの?」

予想外のフィリアの返事に思わず驚いてしまった。

「クロノちゃんとはこれから同じ宿で暮らすし、下着くらい見られるのは当然ことだし」
「えっ、あ、はい」

 言葉の意味がよくわかっていなかったけど、とりあえず返事をした。

「それにどうだったかしら、私が買った下着? 似合いそう?」 
「……とても。似合いそうです」
 
 この時僕は嘘をついた。本当はあの下着は似合う以前に刺激が強いというのが本音だということなのに。

 そんな僕が、フィリアの苦悩を知ることなんて出来るはずがなかった。
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