烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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一章 遺跡の魔獣

Ⅴ 違和感の正体

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 奥に進むと拓けた場所へ出て二人は足を止める。けして休憩でも光景に魅了されたのでもない。足を止めてしまうほど、眼前に広がる光景は恐怖を抱かせる有様であった。へし折られた数本の大樹、その残骸はあちこちに散らかり、あちこちに真っ赤な血が飛び散っている。総量から見ても人間なら十人は優に超える。しかし野獣か人間かの区別はつかない。
 惨状からかなり凶暴で巨大な化け物が潜んでいると思わせる。

「……まさかとは思うが、お前さんの槍で大木倒したとかじゃねぇよな」
「んな事出来る力ありゃ、こんな苦労しねぇよ」
 二人が周囲を警戒するも、魔獣が潜んでいる気配も物音もしない。
「なあ、ちょっとした世間話してもいいか?」バルドが訊いてきた。
「んだよ。こんなとこで随分余裕だな」
「気晴らしも必要だろ。絶対危険な魔獣がいつ来るかってビビりながら気ぃ張りっぱなしじゃ疲れるだろ」
 ジェイクは内心で納得して一呼吸吐いた。
「ジェイクはどうしてこんな事して金稼いでんだ?」

 神力集めのために転生者を狩る転生者が存在するなら、素性をさらけ出すのは危険とジェイクは判断した。バルドの雰囲気から転生者を狙う者だと疑いたくない気持ちはあるが、どうしても警戒心が働いてしまい真実を語る事を拒んでしまう。
「家族養うのに金が要るんでな。そんで、俺の性に合う金稼ぎを考えたら賞金稼ぎしかねぇんだわ。農業、漁業なんてのは気が乗らねぇし、商人や役所勤めなんか頭が痛くなるわ」親指で頭をつついた。「こっち・・・がついて行かねぇからな」
「兵士とか騎士とか目指せばいいだろ。体格とか見ると合いそうだぞ」
「規則だ、決定事項だ、なんだかんだと面倒くせぇし固すぎるだろ。いくら俺に実力あっても、馬鹿な上官の”命令に従え”とか、人間同士の無益で無駄な殺し合いに駆り出されるとか。考えるだけで嫌気がさしちまう」
 妙に生々しい表現が発せられる。
(やってたくせに)
(うるせぇ、黙ってろ)
 ベルメアに茶化されて言い返すも、発言に歯止めをかけた。あまり細かく言い過ぎると怪しまれかねない。
 反省しながらも話題を変えた。

「お前はどうなんだバルド、さっきの一撃も見事なもんだったじゃねぇか。そっちこそ兵士とかが向いてそうだぞ。なんで魔獣狩りに?」
「あれは木の上から飛び降りたようなもんで、実力なんてそんなに備わってないぞ。それに、上には上がいるってついこの前思い知らされてな」
「なんだそれ」
 雑談の最中、物音に反応して武器を構える二人は警戒した。すると、倒木を跳び渡って一人の女性が現れた。
「リズ! 無事だったか!」
 女性は男性の上腕程の長さがある短刀を二本、両手に構えていた。
「バルド、あんた無事だったんだ。……で?」
 視線でジェイクが誰かを訊かれた。
「こっちはジェイク。仲間探しを手伝ってもらってる。さっき、一人魔獣にされたのを仕留めた所だ」
 リズは舌打ちして悔しがる。
「あたしも二人喰われたのを見た。逃げるのに必死で……」
「やられたぜ。”転生者”を味方に付けたからこんなとこ余裕っておごりがこんな事態を招いちまった」
(――ジェイク! やっぱり転生者が)
 興奮するベルメアに反してジェイクは冷静を保つ。
(俺が呼ぶまで姿は消したままでいろ)
(どうしてよぉ)
 理由を語ることなく、強めに止められた。

「待てバルド。その……なんだ? 転生者ってのは」
 さも知らない風を装ってみせると、バルドとリズは顔を見合って驚いた。
「あんた、何処の田舎もんだい? 転生者様を知らないのか」
「そうだぜ。俺らだって死後、神様に見初められたら転生者になれるかもしれねぇんだぞ」
「すまん。『そういうの興味ない』って言い張って生きてこの歳になったんだわ。だから詳しくは……」苦笑いを浮かべる。
 バルドもリズも呆れてため息を漏らした。
「転生者は並外れた魔力を備え持ってる人間だよ。詳しくは知らねぇが何かしらの試練? ってのを達成するために現れてんだとか」バルドが大雑把に説明した。
「でもよ、お前さんらが知る転生者様ってのは、どうして転生者って分かんだ? 何か証明するような特別な力とか技でも使われたのか?」
「力も何も、術がやたらと強力だわ、武術が人間離れしてるわ。闘気っつーのか? 俺、初めて見た時感激したんだぜ」
 妙な違和感をベルメアは覚えた。

「けどそんな奴、長年武術やら術の修業に励んだ奴でもなれるだろ。それに、そいつと仲間になったってんなら、もっと他に何か見えたとかしねぇのか?」
 バルドとリズは真顔で向かい合い、見つめ合った。その様子に、ジェイクは何かを見た。
「ジェイクお前……常識だぞ大丈夫か? 転生者様と仲間になったら、転生者様の傍を飛ぶ神様が見える・・・・・・ようになるんだぞ」
 ベルメアは確信した。
(ジェイク、あの二人嘘ついてる! 転生者と仲間になっても普通の人間に守護神は見えないのに!)
 ベルメアの反応より先に、ジェイクは剣を抜いた。
「嘘どころの騒ぎじゃねぇぞベル。上から誰かいないか見てくれ」
 ジェイクに頼まれ、すぐにベルメアは飛んだ。
「おいおいどうしたジェイク?! 俺ら」
「やかましい!」

 ジェイクは力強く二人を睨みつけていた。

「てめぇら何者だ? 仲間探しなんてのぁ嘘だろ!」
 リズが焦った顔で両手を前に出して止めた。
「ちょ、待ちなよ! あたしらあんたとやり合う気なんてサラサラないんだから」
「てめぇら知らねぇようだから言っとくが、転生者と仲間になっても守護神は見えねぇんだぞ」
「ジェイク、お前どうしてそんな事を?」
「不本意だが俺も転生者でな。お前らの知る転生者ってのが、硝子みてぇに壊れやすい板を出したなんて言わねぇし、妙に武術や魔力の強さだけを誇張するのは不自然だ。それに、危険な魔獣が出る森の中でお前らの装備はボロボロなのに傷が浅くて余裕がありすぎる。まったく凶暴な魔獣に怯えている様子じゃねぇしな」
「待て待て! 上手く立ち回って逃げたから――」
 問答無用でジェイクは不審に思った説明を続けた。
「一番疑わしいのはお前らの感情だ」
 二人は黙って聞いた。
「必死に仲間探してる割に、最初の蜘蛛魔獣を倒した後に、泣きも嘆きも後悔もねぇ。淡々としすぎだ。生きてる奴の話をしても同様。いつ凶暴な化け物が飛び出してくるかも分からねぇのに警戒や緊張、不安や焦り、恐怖さえも乏しすぎる。人間ですらねぇ感じだ。やるならもっと感情表現と演技を磨いて出直しやがれ!」

 バルドもリズも、まるで糸の切れた操り人形の如く、崩れて地面に倒れた。そして、首筋に糸が巻き付いている様に上へ引っ張られ、身体、手足、頭は力なく垂れて揺れている。
(ジェイク! 上よ!)
 急降下でジェイクの中に戻ったベルメアが念話で告げた。
 見上げると、いつの間にか上空に網の様なものが張り巡らされていた。
(さっきまでは細すぎて見えにくかったけど、ジェイクが二人の正体を見破った時、急に太くなった!)
「いよいよ本命がお出ましみてぇだな」
 釣り上げられた二人を警戒しつつ周囲を探ると、何処からともなく女性の声が聞こえた。
「貴方も転生者だったのね。だったら運が良いわ。この十日で三人も食べれるなんてねぇ」
 声は倒木地帯の中心から聞こえた。
 ベルメアに示された場所を見ると、液体のようなものが蠢いて盛り上がり人間の形を象った。
「初めまして、三人目」

 陶酔した表情で見つめる長髪の女が現れた。
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