烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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一章 遺跡の魔獣

Ⅵ 怒りの太刀

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 液体のように揺らめく女は一瞬で沈み、ジェイクの近くにある倒木に座った状態で出現した。剣術が通用するとは思えない敵に、ジェイクは冷や汗をかきつつも睨みつけて強気を保った。
「水になって移動。死体の操り人形、しかも人間らしくみせる演技。随分と芸達者だな。バルドとリズはいつ殺したんだ!」
「あら、死んでる事に気付いてたの。さすがは転生者様かしら? 良い目を持ってるのねぇ、早く私の『操り人間』にしたいわぁ。きっと身体機能は他とは比べ物にならないだろうし調べ甲斐があるわ」
「黙れ! てめぇ、村人の話にはいない存在だ。どっからどうやって現れた?」
 数日中に現れたと考えられる。そうでなければ、村人はもっと森や遺跡を警戒するだろう。容易に想像がつく。
「あら、さといのね。いいわ教えてあげる」
 女は組足をして人間らしい素振りをした。
「この先の遺跡にはとっても大事な宝石が供えられたままだったのよ。それを護る巨大な魔獣がいたのだけど、いつしかそいつが賞金首になったのよ」

 宝石を求めて奥へ進む者を巨大な魔獣が襲ったが、それ以外森を徘徊しなかった。森内部と遺跡周辺での被害に差が出た理由が判明した。

「つい先日、転生者の男が魔獣を倒してしまってね。どういう噂を聞いたのか、自己の判断からか、魔獣が護っていた宝石を砕いてしまったのよ。その宝石が変貌したのが私よ。まだ十日程しかいないけど、村から森へ入った者や、他所から迷い込んだ者、大勢食べさせてもらったわ。そしたら死体を操り人間なんて出来るようになるんだから」
 上空に張り巡らせた網から、人間の形をした液体が十二個垂れて来た。
 女はバルドとリズを傍に降ろした。
「運が良いのは最初に捕食出来たのが転生者だったの。丸呑みしたらあっという間に力がみなぎるわ技が増えるわで至れり尽くせりよ。けど遊びは程々にって学んだわ。二人目の転生者を捕食すると頭まで冴えちゃって、急に人間を調べたいと思っちゃったのよ。けど殆ど食べちゃったり潰しちゃって、これぐらいしか人間が残ってないのよ。この二人も転生者みたいに潜在的な力がもうちょっと強ければ、調べ甲斐があったんでしょうけど、残骸の人間と同じようなものだったわよ」
 ここでジェイクが喰われでもすれば、女はさらに知力と力を付け強力な魔獣と化してしまう。憶測だが急激に変異した理由は、転生者を二人食べたのが大きいだろう。
「けど、どうして貴方がこの二人に気付けたか気になるわね。警戒させてもらうわ」

 女は、バルドとリズを人間らしく立たせ、ジェイク目掛けて襲わせた。
 ジェイクがバルドの突き攻撃を躱すと、リズが斬りに迫って来た。それを何度も剣で受け、跳び退いて距離をおくと、再びバルドが斬りかかってくる。

「ジェイク血迷ったか!? あの人は転生者様だぞ!」
 まるで生きていると思わせる言動と表情、そして女を転生者と言わせる卑劣さ。ジェイクは怒り心頭となり舌打ちした。
「女ぁ!」
 女は卑しい笑顔を浮かべ、ジェイクの反応を堪能して喜んでいる。
 このままでは精神面が耐えかねない所まで追いつめられる危険がある。意を決したジェイクは腹を括った。”バルドとリズはどう足掻いても戻ってこない死体”であると。悲痛な反応を示しても動じないように、意思を固めてバルドの槍を掴み腕の関節を斬り落とす。しかし、バルドが激痛に悶え苦しんでいる姿に僅かでも感情が動じてしまう。
 ジェイクは女を憎悪の籠った目で睨みつけた。

「覚えてろ! ただじゃ済まねぇからなぁ!」
 しかしなす術の無い現状は変わらない。
(落ち着いてジェイク! これは挑発よ)
 ベルメアも現状打破の手が思いつかずにもどかしくある。
 バルドの状態を見て驚きと怒りがこみ上げるリズが叫びながら攻めて来た。
「どうして! どうしてバルドを!」
 ジェイクは体術でリズをあしらいバルドへぶつけるように投げ飛ばした。それは、二人を完全に止める戦術である。
「これで仕留める」
 剣に烙印を纏わせ、まだ起き上がらない二人目がけて大振りで斬り放った。すると、赤紫色の薄く縦長の風が、二人を切り裂いた。
 寸断された二人の傍に烙印が出現する。気が滅入りそうなだが、急いで傍へ寄り烙印に触れて備えた。
(ベル、人間でも烙印が?)
(分からない。そもそも生きているように操れる死体って、あの女の力で魔獣のようになったのかも)

 女はジェイクの妙な動きに考えを巡らせた。 
「成程ね。貴方には先の転生者達とは違った別の力があるみたいね。益々調べたいし食べたいわ」
 女から、死体の傍に現れる烙印が見えていない様子である。
「その口ぶり。てめぇ、喰った奴の力を使えるのか」
「ええ、まさしく」
 断言され、ますます負けるわけにはいかない。女が烙印の力を使え、死体を意のままに操れるとなればどれ程凶悪な魔獣へ進化するか。想像するだけで悍ましい。
 緊張高まる中、女は人差指を立てた右手を上げた。
「雑談も飽きたわ。今度はこの子達全てを相手に出来るかしらねぇぇ!!」
 上空の網には、敷き詰められるように人間の形をした液体が並んでいた。
(逃げて! あんな数相手に出来ない!)
 ベルメアが止めようとするも、女は容赦なく攻めの指示を下し、液体人間達は一同に飛びかかって来た。
「くたばりなさい転生者ぁぁ!」

 一か八か、ジェイクは剣に烙印を込めた。

「氷と風の複合魔術。……【冷撃】」
 突如、女と液体人間の群れ目掛けて真っ白い暴風が吹きつけた。
「――何だ?!」
 ジェイクが跳び退くと、風を逃れた三体の液体人間がぎこちない動きで攻めてきた。白い暴風の中から出てきたせいか『バキン、バキン』と連続して音が続き動きがかなり鈍くなる。
 烙印の力を解いたジェイクはただの剣の状態で斬りつけた。すると、切った感触が液体ではなく物体を斬る感触。見た目から氷を斬る感覚であった。
 斬られた液体人間は地面に落ちると粉々に砕けた。
「……どうなってんだ」

 やがて暴風が止み惨状を見ると、地面に落ちた氷漬けの液体人間達が数体と、身体が凍って震える女がいた。あの勢いで凍りきってないのは力強さの表れかと思われた。液体人間の多くは近くの木々へと打ち付けられて砕け、残骸が積もっていた。
(あれ、魔術よ。かなり強力な……まさか!?)
 ベルメアが何かを察するのを他所に、ジェイクはコレを起こした人物を見て驚いた。その人物は、ひ弱そうに見えた、怪我人を町医者へ預けるのを手伝ってくれた青年であった。

 女魔獣は怒りで身体を震わせ、強引に氷漬けの部分を溶かして元に戻った。
「おのれぇぇ……よくもぉぉ!!」
 怒り任せに青年目掛けて飛びかかった。地面に溶けて移動する技は、どうやら先の攻撃で地面が凍ってしまったために出来なくなっている。
「相乗火炎魔術。【焔】」
 青年は、両手を突き出し、女目掛けて炎を発した。
 激しく燃え盛る炎は、女を焼き飛ばし地面ごと燃やした。
 優勢に見えた魔術だったが、どうやら魔力消費が激しい攻撃だったらしく、青年は呼吸を乱してしゃがみ込んだ。

「させるか、やられてたまるものかぁぁ!!」
 女は、炎の中から小刻みに震えながらも意地で立ち上がろうとしていた。
「今です!」ジェイクに向かって叫んだ。「トドメを!」
 ジェイクは剣に烙印の力を込め、女目掛けて突進した。
「なんで!?」
(何やってんの?!)
 青年とベルメアは、空気の刃を飛ばすものとばかり思っていた。

「こいつは、直に斬る!」
 バルドとリズに対する怒りが治まっていない。その手で斬らなければ気が済まない心境であった。女を斬り殺せても、火傷を負う算段は付けているが、それぐらいの負傷は覚悟している。
 激情に任せての無謀な突進。未だ前世の肉体感覚で突き進んでいるとベルメアは思って焦った。しかし、この行動が一つの成果をもたらした。女の周りで燃え盛る炎が、烙印の力が籠る剣へ纏わりついたのだ。まさしく予想だにしない事態であった。

「……まさか」
(――これって!?)
 青年もベルメアも、ジェイクの力が炎を剣に纏わせる効果があるものだと直感した。
 一方でジェイクは何かを感じ取り、その焦りから急いで女を斬りつけた。
 咄嗟に身を躱した女であったが、深々と傷を負い、炎が切り口に纏わりついてすぐに燃えさかる。
「ギャアアアアアアアア―――!!!」
 よほどの激痛が窺える。
 続けざま、ジェイクは残り一つの烙印を剣に込めて振り上げると、渾身の一撃で女の首を切断した。

 女の頭は飛び、地面を転がり燃え盛る火の中へ。そして胴体は纏わりついた火が広がり、形が消えるまで燃えさかった。
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