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二章 魔女の巣くう塔
Ⅷ ミゼルの戦術
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ベルゲバの塔まで目と鼻の先まで来た時、塔の異変に驚愕して二人は馬を止めた。いや、馬が不気味さのあまり勝手に止まったというのが正解である。
塔を抱きしめるように長い手足が抱きつき、丸く見開いた目の薄汚れた巨大な縦長の人の顔が覗き見るように現れた。口は口角を横一杯に広げて歯を剥き出して笑っている。
「なんだありゃ!?」
化け物が怖ろしいのだろう、馬は恐怖のあまり暴れ出す。
ジェイクとトウマは半ば飛び降りるように馬から離れると、馬は他所へと逃げていった。
「ジェイクさん……どう戦います?」
「こりゃ……塔に逃げ込む方が」
視線を入り口へ向けるも、化け物の足が入り口を塞いでいた。
どう手を打とうか考えていると、ベルメアとビィトラが後方にある人物が現れたのを教え、二人が向くと、そこにはサラがいた。
「おいおい、この局面で出てくんなよ」
「あら? ここは敵地でしょ。何処で誰が、そして何人現れようと関係ないのでは?」
サラが両手を左右に広げると、地面から人間と魔獣の死体、人骨、魔獣の骨が土を掘って次々に現れた。
塔には巨大化け物、周囲に死者の軍隊、それを指揮する転生者の術師。
ジェイクとトウマは窮地に立たされた。
(おいおいどうするよ。完全に窮地じゃねぇか)
念話でジェイクは全員に話しかけた。
(けどある意味で好機かもしれないよ。トウマ、手順は覚えてるだろ?)
(ビィ、この状況でやるって、結構至難の業じゃ……)
(つべこべ言っても仕方ない。ぶっつけ本番でやるわよ!)
ベルメアの喝でジェイクは剣を構え、呼吸を整えた。
「腹括れトウマ。何もせず死ぬより何かした方が気分いいぞ」
トウマは腰に下げた袋を握りしめた。
「死ぬ前提みたいな言い方止めてくださいよ。多分、そんなに時間はかかりません。援護はお願いしますよ」
二人は周囲を警戒しつつ、サラへ視線を向けた。
「この窮地で何ができるのでしょうか?」
サラは払うように両手を前に動かすと、周囲の死者と巨大化け物が一斉に迫った。
◇◇◇◇◇
ミライザの空間転移先は観客のいない闘技場であった。
円形の対戦場所の地面は固い土、観客席は石を積み上げただけ、壁も石積みで天井は無い。
「私も生前、このような闘技場に訪れた事はあったのだが……随分と粗雑な造りではないか? 随所に崩れが目立つ」
闘技場の中央で距離をおいて二人は向かい合っている。
「おかしな人ね。あの烙印使いは場所が変わったら驚いていたのに、貴方は平然と観察……。貴方も空間転移を使えるのかしら?」
「まさか。特別な転生者であればそれも可能なのだろうが、残念ながら私はそういった特別枠には入らなかったよ。術の強さで序列を決めるなら、あの若い転生者が一番だよ」
「フフフ。あの子が確かに凄い素質を持っているわ。けどまだまだ理解が足りない。いえ、経験かしら」
ミゼルは徐に剣を抜いた。
「あら、カットラス? 以外ね、貴方も烙印使い同様に長剣かと思ったのだけど」
「残念ながら旅先で破損してしまい、容易に入手できるのはこれくらいだったのだよ。不慣れな武器ではあるが使い勝手がいいのは幸いだ。それはさておき、この戦いは”どちらかが死ねば終わり”などとつまらん取り決めがあるのかな?」
「どちらかが死ねば終わりでいいじゃない。不満でも?」
「ああ不満だ。一方的な実力差があるなら、それは勝負ではなく単なる虐殺か嬲り殺しだ。魅力もなく面白味に欠ける。どうだろう提案なのだが、私の勝利条件は”君を殺す”ではなく”この世界から脱出するための道具の破壊”というのは」
術の本質を見抜かれた驚きと、ミライザの実力を下に見ている煽り。彼女は驚きよりも癪に障った怒りが強い。
「鼻に着く物言いですのね。私を弱いと見下したということは、本気で死ぬ覚悟が出来ていると聞こえましてよ」
声に怒りが籠っている。
「そう理解してもらわねば。もっと分かりやすい言葉を選ぶのが困難だ」
激昂したミライザは右手で何かを掬うように動かした。すると、そこら中から巨大化した真っ赤なボードルが出現した。
「一撃加えるだけで爆破する、危険域に達したボードルの群れよ。私は防壁を張れるから爆風に巻き込まれないけど、貴方はどうかしら?」
ミゼルは困った表情となる。
「出来る事なら、条件たる品を見せてほしい。私の勝利条件が成り立たんではないか」
一切怯みもしないミゼルの様子に、ミライザの怒りは頂点に達した。
「逃げ切ったら教えてあげるわ!」
右手をミゼルの方へ向けると、一斉にボードルが攻め入った。
次々に突進するボードルに対し、ミゼルは悠然と近くのボードルへ迫り、一撃入れると次のボードルへと進んだ。その動きがあまりに早く、ミライザからは腕を揺らしながら走っている様にしか見えない。
(どういう事? ボードルが爆発しない)
「不思議かい? なぜ爆発せず、私が近付いたら動きを止めるのかと」
それは、ミゼルがボードルを知っている口ぶりであった。
「貴方、ボードルをご存知ですの!?」
「いや、今日初めて見るよ」
話しながらも動きは止めない。
「私も転生者などという妙な人間となってまだ日が浅くてね」
「だったらなぜボードルが爆発しないのよ!」
「彼らが、意志のある生物ではなく、魔力で象った爆弾だからではないかね」
ミライザは驚愕した。自らの技の一つを見抜かれた事に。
ボードルという魔獣は存在する。しかし魔獣を操る行為は魔力の消費量と高度な技術が必要である。敵を襲うだけなら術師に適した環境で象ったほうが効率が良い。
「生物というのは集団心理が働き、個々に違う動きはするだろうが、全てが同一の動きではないよ。果てが爆死というなら尚更だろうさ。見事な調教か催眠とも考えられるが、それなら彼らに魔力が纏わりついているだろう。しかしここにいるボードル達はどう見ても魔力の塊だ。それはつまり、魔力の塊を操作し、必要な場面で爆発させる爆弾でしかない。なら私はボードル達の爆破作用を鎮めるに徹すればそれでいいだけの事」
「どうして!? ボードルの性質を正確に複写したのよ。些細な衝撃でも爆破する状態なのに!」
ボードルを斬って動きを止め、隙間を流れて進むミゼルはいつしかミライザの背後にいた。
「所詮は魔力を固めた傀儡では? 魔力の波長を緩めればご覧の通り。爆破のみに徹した存在は、鎮め続けると役目を失う」
斬られて沈静化したボードル達は、次々に泥団子が崩れるように崩壊していく。
慌てて距離をとるミライザは指を鳴らし、崩壊前のボードルを霧散させて魔力を回収した。
「貴方何者?! 魔力の波長を理解するなど、術師界隈でもなかなかいないわよ」
「あまり過大評価しないでくれ給え、術による大技はからっきしなのだから。生前、あらゆる秘術の研究に励む事を生業にしていてね、不可思議な現象は色々調べたくなる性格なのさ」
それを短期間で理解する探求心にミライザは感服し、溜息を洩らした。
背後に、彼女と同じ高さの赤紫色の宝石が出現した。
「魔獣といい宝石といい、何処からともなく出現させるとは……調べ甲斐のある力だ」
「いいえ、これは私の術で出現させたのではなくてよ。さっき言ったでしょ、逃げ切ったら教えてあげるって。この空間転移先は単なる借り物。条件を提示すれば縛りが生じ、私はここで力を得れるの。外に出れば並みの術師程の力しかないのよ」
「では、それを壊せば私の勝ちという訳だな」
「ええ。私が貴方を殺すが先か、貴方がこの核を壊すのが先か……」
ミライザは両手から白い光の球体を出現させ、両手共に握り拳を作ると球体が弾けて散り、小さな球体がそこかしこに浮遊した。
「これらは性質の違う術がそれぞれに込められてるわ。いくら性質を読み解こうと、一つ一つを相殺するのは貴方にも困難でしょ?」
「確かに。一つ一つに込められた魔力の総量を見る限りでも、少々威力は落ちるが……。手数の多さでゴリ押しする術かい?」
「簡単に分析してくれるけど、安易に考えない方が賢明よ。どれ程の威力か、その身で知りなさい!」
両手をミゼルへ向けると、宙に浮いた球体が一斉に目標目掛けて突進する。
「高性能は理解した。が、――」
ミゼルが突如姿を消し、ミライザが周囲を見回すと背後から声がした。
「術の根本が同じでは粗末だろ」
声は宝石の裏からであった。
瞬時にミライザは状況を理解した。
ミゼルへ当てる指示を下した球体が、自身の背後に立つ標的目掛けて動く。それはミライザを巻き込む戦略。
咄嗟にミライザは上空目掛けて跳躍した。これで球体の攻撃を躱したと安堵したのも束の間、我が身の危機に気を囚われ、真意を見抜けなかったのを痛感する。
ミゼルの目的。それは、”球体をミライザではなく宝石へぶつける”であった。
気付いた時にはすでに遅く、宝石へと次々に球体がぶつかり砕け散った。
元の荒野へ二人は戻るも、魔力消費の激しいミライザは、立っていられないほどに疲弊していた。
「……完敗。殺すなら今の内よ」
まるで何事もなかったかのような様子のミゼルに、ミライザは悔しい気持ちも抱えていた。
「私の目的は『君を殺す』ではないのでね。出来る事なら魔女に関する情報を得たい」
ベルゲバの塔へ目を向けると、数多くの死者と塔に抱き着く見覚えのある魔獣が伺えた。遠景からでもジェイク達が戦闘しているのは理解できる。
「早く行ってあげたら? 貴方の分析力ならすぐに魔女の正体に気付く筈よ」
「おやおや、君が本命ではなかったのかい?」
「白々しい。そうでないと、とうに気付いていたでしょうに。私の正体も含め」
ミゼルは剣を鞘に納めた。
「やれやれ、本心を隠していたつもりだが、君も中々の観察力をお持ちで」
「フフフ。貴方のような、探求心が強くて実力を隠す人間は何人か知っているから容易に想像出来てよ。今もそう、焦っていない所を見ると、お仲間さんの実力拝見と言った所かしら?」
「返す言葉が無いよ。サラ殿を助けたい本心はあるが、この状況、私の直感が”行くな”と告げているのだよ」
「お仲間が死んでもいいのかしら? 魔女を倒す好機なのに」
「さあ。二人が疲弊して私が看病する羽目になるか、本当に命の危険か。どうあれ、彼らは死なないと賭けている」
ミゼルの言葉に反応するかのように、巨大な竜巻が発生し、赤紫色の巨大な光が発生した。
塔を抱きしめるように長い手足が抱きつき、丸く見開いた目の薄汚れた巨大な縦長の人の顔が覗き見るように現れた。口は口角を横一杯に広げて歯を剥き出して笑っている。
「なんだありゃ!?」
化け物が怖ろしいのだろう、馬は恐怖のあまり暴れ出す。
ジェイクとトウマは半ば飛び降りるように馬から離れると、馬は他所へと逃げていった。
「ジェイクさん……どう戦います?」
「こりゃ……塔に逃げ込む方が」
視線を入り口へ向けるも、化け物の足が入り口を塞いでいた。
どう手を打とうか考えていると、ベルメアとビィトラが後方にある人物が現れたのを教え、二人が向くと、そこにはサラがいた。
「おいおい、この局面で出てくんなよ」
「あら? ここは敵地でしょ。何処で誰が、そして何人現れようと関係ないのでは?」
サラが両手を左右に広げると、地面から人間と魔獣の死体、人骨、魔獣の骨が土を掘って次々に現れた。
塔には巨大化け物、周囲に死者の軍隊、それを指揮する転生者の術師。
ジェイクとトウマは窮地に立たされた。
(おいおいどうするよ。完全に窮地じゃねぇか)
念話でジェイクは全員に話しかけた。
(けどある意味で好機かもしれないよ。トウマ、手順は覚えてるだろ?)
(ビィ、この状況でやるって、結構至難の業じゃ……)
(つべこべ言っても仕方ない。ぶっつけ本番でやるわよ!)
ベルメアの喝でジェイクは剣を構え、呼吸を整えた。
「腹括れトウマ。何もせず死ぬより何かした方が気分いいぞ」
トウマは腰に下げた袋を握りしめた。
「死ぬ前提みたいな言い方止めてくださいよ。多分、そんなに時間はかかりません。援護はお願いしますよ」
二人は周囲を警戒しつつ、サラへ視線を向けた。
「この窮地で何ができるのでしょうか?」
サラは払うように両手を前に動かすと、周囲の死者と巨大化け物が一斉に迫った。
◇◇◇◇◇
ミライザの空間転移先は観客のいない闘技場であった。
円形の対戦場所の地面は固い土、観客席は石を積み上げただけ、壁も石積みで天井は無い。
「私も生前、このような闘技場に訪れた事はあったのだが……随分と粗雑な造りではないか? 随所に崩れが目立つ」
闘技場の中央で距離をおいて二人は向かい合っている。
「おかしな人ね。あの烙印使いは場所が変わったら驚いていたのに、貴方は平然と観察……。貴方も空間転移を使えるのかしら?」
「まさか。特別な転生者であればそれも可能なのだろうが、残念ながら私はそういった特別枠には入らなかったよ。術の強さで序列を決めるなら、あの若い転生者が一番だよ」
「フフフ。あの子が確かに凄い素質を持っているわ。けどまだまだ理解が足りない。いえ、経験かしら」
ミゼルは徐に剣を抜いた。
「あら、カットラス? 以外ね、貴方も烙印使い同様に長剣かと思ったのだけど」
「残念ながら旅先で破損してしまい、容易に入手できるのはこれくらいだったのだよ。不慣れな武器ではあるが使い勝手がいいのは幸いだ。それはさておき、この戦いは”どちらかが死ねば終わり”などとつまらん取り決めがあるのかな?」
「どちらかが死ねば終わりでいいじゃない。不満でも?」
「ああ不満だ。一方的な実力差があるなら、それは勝負ではなく単なる虐殺か嬲り殺しだ。魅力もなく面白味に欠ける。どうだろう提案なのだが、私の勝利条件は”君を殺す”ではなく”この世界から脱出するための道具の破壊”というのは」
術の本質を見抜かれた驚きと、ミライザの実力を下に見ている煽り。彼女は驚きよりも癪に障った怒りが強い。
「鼻に着く物言いですのね。私を弱いと見下したということは、本気で死ぬ覚悟が出来ていると聞こえましてよ」
声に怒りが籠っている。
「そう理解してもらわねば。もっと分かりやすい言葉を選ぶのが困難だ」
激昂したミライザは右手で何かを掬うように動かした。すると、そこら中から巨大化した真っ赤なボードルが出現した。
「一撃加えるだけで爆破する、危険域に達したボードルの群れよ。私は防壁を張れるから爆風に巻き込まれないけど、貴方はどうかしら?」
ミゼルは困った表情となる。
「出来る事なら、条件たる品を見せてほしい。私の勝利条件が成り立たんではないか」
一切怯みもしないミゼルの様子に、ミライザの怒りは頂点に達した。
「逃げ切ったら教えてあげるわ!」
右手をミゼルの方へ向けると、一斉にボードルが攻め入った。
次々に突進するボードルに対し、ミゼルは悠然と近くのボードルへ迫り、一撃入れると次のボードルへと進んだ。その動きがあまりに早く、ミライザからは腕を揺らしながら走っている様にしか見えない。
(どういう事? ボードルが爆発しない)
「不思議かい? なぜ爆発せず、私が近付いたら動きを止めるのかと」
それは、ミゼルがボードルを知っている口ぶりであった。
「貴方、ボードルをご存知ですの!?」
「いや、今日初めて見るよ」
話しながらも動きは止めない。
「私も転生者などという妙な人間となってまだ日が浅くてね」
「だったらなぜボードルが爆発しないのよ!」
「彼らが、意志のある生物ではなく、魔力で象った爆弾だからではないかね」
ミライザは驚愕した。自らの技の一つを見抜かれた事に。
ボードルという魔獣は存在する。しかし魔獣を操る行為は魔力の消費量と高度な技術が必要である。敵を襲うだけなら術師に適した環境で象ったほうが効率が良い。
「生物というのは集団心理が働き、個々に違う動きはするだろうが、全てが同一の動きではないよ。果てが爆死というなら尚更だろうさ。見事な調教か催眠とも考えられるが、それなら彼らに魔力が纏わりついているだろう。しかしここにいるボードル達はどう見ても魔力の塊だ。それはつまり、魔力の塊を操作し、必要な場面で爆発させる爆弾でしかない。なら私はボードル達の爆破作用を鎮めるに徹すればそれでいいだけの事」
「どうして!? ボードルの性質を正確に複写したのよ。些細な衝撃でも爆破する状態なのに!」
ボードルを斬って動きを止め、隙間を流れて進むミゼルはいつしかミライザの背後にいた。
「所詮は魔力を固めた傀儡では? 魔力の波長を緩めればご覧の通り。爆破のみに徹した存在は、鎮め続けると役目を失う」
斬られて沈静化したボードル達は、次々に泥団子が崩れるように崩壊していく。
慌てて距離をとるミライザは指を鳴らし、崩壊前のボードルを霧散させて魔力を回収した。
「貴方何者?! 魔力の波長を理解するなど、術師界隈でもなかなかいないわよ」
「あまり過大評価しないでくれ給え、術による大技はからっきしなのだから。生前、あらゆる秘術の研究に励む事を生業にしていてね、不可思議な現象は色々調べたくなる性格なのさ」
それを短期間で理解する探求心にミライザは感服し、溜息を洩らした。
背後に、彼女と同じ高さの赤紫色の宝石が出現した。
「魔獣といい宝石といい、何処からともなく出現させるとは……調べ甲斐のある力だ」
「いいえ、これは私の術で出現させたのではなくてよ。さっき言ったでしょ、逃げ切ったら教えてあげるって。この空間転移先は単なる借り物。条件を提示すれば縛りが生じ、私はここで力を得れるの。外に出れば並みの術師程の力しかないのよ」
「では、それを壊せば私の勝ちという訳だな」
「ええ。私が貴方を殺すが先か、貴方がこの核を壊すのが先か……」
ミライザは両手から白い光の球体を出現させ、両手共に握り拳を作ると球体が弾けて散り、小さな球体がそこかしこに浮遊した。
「これらは性質の違う術がそれぞれに込められてるわ。いくら性質を読み解こうと、一つ一つを相殺するのは貴方にも困難でしょ?」
「確かに。一つ一つに込められた魔力の総量を見る限りでも、少々威力は落ちるが……。手数の多さでゴリ押しする術かい?」
「簡単に分析してくれるけど、安易に考えない方が賢明よ。どれ程の威力か、その身で知りなさい!」
両手をミゼルへ向けると、宙に浮いた球体が一斉に目標目掛けて突進する。
「高性能は理解した。が、――」
ミゼルが突如姿を消し、ミライザが周囲を見回すと背後から声がした。
「術の根本が同じでは粗末だろ」
声は宝石の裏からであった。
瞬時にミライザは状況を理解した。
ミゼルへ当てる指示を下した球体が、自身の背後に立つ標的目掛けて動く。それはミライザを巻き込む戦略。
咄嗟にミライザは上空目掛けて跳躍した。これで球体の攻撃を躱したと安堵したのも束の間、我が身の危機に気を囚われ、真意を見抜けなかったのを痛感する。
ミゼルの目的。それは、”球体をミライザではなく宝石へぶつける”であった。
気付いた時にはすでに遅く、宝石へと次々に球体がぶつかり砕け散った。
元の荒野へ二人は戻るも、魔力消費の激しいミライザは、立っていられないほどに疲弊していた。
「……完敗。殺すなら今の内よ」
まるで何事もなかったかのような様子のミゼルに、ミライザは悔しい気持ちも抱えていた。
「私の目的は『君を殺す』ではないのでね。出来る事なら魔女に関する情報を得たい」
ベルゲバの塔へ目を向けると、数多くの死者と塔に抱き着く見覚えのある魔獣が伺えた。遠景からでもジェイク達が戦闘しているのは理解できる。
「早く行ってあげたら? 貴方の分析力ならすぐに魔女の正体に気付く筈よ」
「おやおや、君が本命ではなかったのかい?」
「白々しい。そうでないと、とうに気付いていたでしょうに。私の正体も含め」
ミゼルは剣を鞘に納めた。
「やれやれ、本心を隠していたつもりだが、君も中々の観察力をお持ちで」
「フフフ。貴方のような、探求心が強くて実力を隠す人間は何人か知っているから容易に想像出来てよ。今もそう、焦っていない所を見ると、お仲間さんの実力拝見と言った所かしら?」
「返す言葉が無いよ。サラ殿を助けたい本心はあるが、この状況、私の直感が”行くな”と告げているのだよ」
「お仲間が死んでもいいのかしら? 魔女を倒す好機なのに」
「さあ。二人が疲弊して私が看病する羽目になるか、本当に命の危険か。どうあれ、彼らは死なないと賭けている」
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