烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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三章 暒空魔術への想い

Ⅰ 生きた世界の違い

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 目的地へ向かう予定は、急遽変更となった。当初の予定では山岳地帯を経由する陸路であった。大湖沿いから国境へ向かい目的地へと行くには、途中で獰猛な魔獣群生地を通らなければならない。途中を山岳越えにすれば、より安全に国境へと向えられる。懸念があるとすればよく変わる気候の変化と、運次第で遭遇する大鷲に似た巨鳥ぐらいだが、それは転生者三人と術師がいるので問題ないとされた。
 そんな予定も、旅立つ前の換金時に役所で無駄な相談となった。
 役所でベルゲバの塔に巣くう魔女(偽物)討伐の情報が瞬く間に広まっていた。その場にいた大湖を渡る大船の船長が、町代表のお礼で大湖を渡り、目当ての街に一番近い港へと送ってくれると声をかけてくれた。

 素直に一同は船長の申し出に甘えた。


あんちゃん、大丈夫かい?」
 十歳前後と思われる少年がトウマに声をかけ、小さな革の水筒を手渡した。
 トウマは個室の長椅子に寝転がっていた。いくらビィトラの加護がかかっていても、元々の船酔い体質が完全に治まるのではなく軽減されるのだと、このとき知った。
「……ごめん。船弱いんだ」
 気遣う少年の姿が大人の船乗りと同じなのが気になった。
「君……その歳で船乗り?」
「ん? ああ。うち貧乏だから、ちょい前から父ちゃんの手伝いから。元々父ちゃんが船乗りにさせる気だったし、オレも”船乗りの手伝いこれ”しか金稼げねぇから。でも将来、大湖か海かは決めてねぇ」
「大変なんだ……。同い年の子と遊びたいとか、勉強して他の仕事とかって考えないの?」
 質問におかしなところはないが、少年は変なモノでも見る表情に変わる。
「兄ちゃん、良いとこの人? ここいらの子供って、働く奴ばっかだぞ」
 反応と返答に、住む世界が違うのを痛感する。
 しばらくして、トウマの容態を看にサラが訪れた。丁度船の揺れが緩やかで、トウマの船酔いも治まりつつあった。

「あ……速水さん……ですよね。ごめんなさい、朝はどさくさ紛れで名前で呼んじゃって」
「いえ、いいです」
 サラは視線で隣に座る許可を得て、少し離れて座る。
「歳は日比谷さんの一個下ですから……」
 ”魔女もどき”に操られたサラの印象とはかなり違い威圧感は無い。
「こっちもトウマでいいよ。お互い、転生者になったの同じ時期だからタメみたいなもんでしょ」
 話し方や雰囲気がサラの緊張をほぐし、同郷の日本人と会えた事に安堵した。
 先に簡単な自己紹介をして、二人は同じ地域、別の中学校高校を卒業したと知る。そして、同じ映画館へ行き爆破事故に遭ったと分かる。
「トウマ君は、転生モノとかってよく知ってるほう?」
「よく、は知らないかな。……思ってたのと違う感じ。流行りネタだと、平然と大技かますイメージだったけど、実際はそんなことしたら体力一気に無くなるし。この世界の魔獣とか戦って生きてる人とかって戦い慣れてるから、僕が魔法使えても全然敵わない」

 二人の間では、魔術を魔法と言い換えても通じる。

「私も。ちょっとサポート系と回復系の魔法が使えても、いざって時は全然魔力切れとか、足手まといみたいになっちゃう。ミゼルさんは会ってるんだよね」
 トウマは頷く。
「仲間になったっていっても、一人旅が不安で、無理言ってついて行っただけだから、本当に足手まといでしか……。挙げ句、化け物にいいように操られる始末だから……一回死んだようなもんだよ」
「僕だって。仲間を目の前で殺されて、偶然助かったようなもんだけど、普通に死んでただろうし」

 アニメがゲームと違い、本当の命がけを経験して現実を知り、安易な転生ファンタジーの知識が打ち砕かれる。
 二人は揃って自分たち安直さと不甲斐なさをしみじみ感じた。

「……さっき、船乗り見習いの子供と話したんだ。普通だったら学校とか行って、友達と遊んだり勉強したりなんだけど……この世界じゃ全然環境が違うんだなぁって」
「私たち、本当に恵まれた環境に産まれたんだよ。親に小遣いせがむとか、学校の勉強が嫌とか。『貧しい外国だとその当たり前が出来ない』って言われても、"余所ごと"って思って家でダラダラしてるし。実際に転生者こうなったら、本当に良い世界で生きてたんだなぁって。裕福な環境で贅沢してたんだって」
「そんな天国みたいなところで、”魔法が使えれば便利だなぁ”って思ってた自分は、本当にめでたいバカだったんだ」

 二人は日本での生活と異世界暮らしの格差を痛感し、改めて神の試練が過酷であると思い直した。


 甲板にて。トウマと同じく船酔いに苦しむジェイクの元へミライザが訪れた。

「あんたも船酔いか?」
「まさか。口から出ても内臓か血よ」
 洒落として聞くも、生者でないため、笑えない冗談であった。
「一応言っとくが、船酔いがひでぇから、烙印出せっても無理だぞ」

 二日酔いで苦しむ様子に似た表情から、ミライザは気持ちを察した。

「安心して、私も何かを調べる状態ではないから」
「おいおい、本気で内臓出すなよ」
 まさかの冗談が通じていない様子に、やや呆れた。
「本気にしないでよ。今の私は、自然界の魔力の流れや気流が身体に大きく影響しているのよ。こういった水の上だと魔力がずっと揺らめき流れ続けてる状態だから、気を抜けないだけ。幸い、ここが海上だったらもっと魔力の維持に苦しみ、こうやって話すら出来てないわよ」
「おいおい……だったら陸路の方が良かったんじゃねぇのか? 戦いは俺ら任せにすりゃいいだろ」
「陸路だと時間がかかりすぎてしまう。正直なところ、目的地へ着けるかどうか五分五分だったから。本当に運が良いと思うわ。貴方たちの守護神に感謝しなくてわね」

 ベルメアは“縁結びの力が影響したのよ!”と言わんばかりに堂々と胸を張って現われたが、ジェイクは知らんふりを決め込んだ。

「話変わるが、ミライザもサラも戦った時は性格悪かっただろ。それもあの魔女もどきの影響か?」
「奴が操った理由は、”私たちの力を利用するために、記憶や人格の二割から四割を支配された”と説明するのが正しいわ。私の個性や話し方はそれほど変わりないけど、サラは弱いけど存在が特別だから人格が違うまでに支配されて力を存分に利用されたのよ」
「じゃあ、今目指してる場所の記憶も消されてたのか?」
「おぼろげに覚えてたわ。私の使用する暒空魔術せいくうまじゅつは、けっこう珍しい魔術なの。記憶を完全に支配すると使えなくなるから奴はそうしなかっただけよ」

 はっきりと思い出したのは、ミゼルに救われてから徐々に思い出し、今朝にははっきりと記憶が戻った。

「ともあれ、大湖を渡れたから時間も余るだろうし、貴方の烙印の研究とあの子達への指摘とか、色々旅の手伝いはさせてもらうつもりよ。一応、助けられた恩を返さなくちゃね」
「世話好きかよ。あんまこっちに気をとられて、一番大事な目的を果たせなくなるなんてするなよ。自分優先で考えろ」
「あら優しいのね」
「ったりめぇだ。騎士様はみんなに優しいんだよ。それより二人は何してんだ?」
 船酔いのトウマをサラが看病していると、ベルメアが告げた。
 仲間となった転生者同士の波長を理解し合えるのが守護神達の力の一つである。
「あいつら同郷で歳も近いから、うまくいきゃ、良い感じの“つがい”になれるだろ」
 一つの単語に反応し、ミライザとベルメアは情けなく思った。
「転生者同士ってそういうの、可能なのか?」

 返答はベルメアではなく、ミライザの語気強めな発言であった。

「ちょっとジェイク、その発言は失礼よ!」
 指をさされての忠告にジェイクは戸惑う。ベルメアへ視線を送り事情を求めるも、こっちはこっちで腕を組んで頷いている。
「俺、何か間違ったこと言ったかよ!?」
「つがい……つがいって。もっと言い方あるでしょ! ”恋人同士”とか”やがて夫婦になる”とか。そんな野鳥か野獣のオスメスみたいな言い方……。少しは品位ある発言というのを心がけたほうが宜しくてよ! 騎士様なんでしょ」
 気迫負けし、ジェイクは戸惑いながらも了解の意を示した。
 言い終えてミライザが一息吐くと、まるで“噂をすれば影がさす”のことわざの様に、トウマとサラが揃った近づいてきた。
 さっきの話が聞かれていないかと焦ったミライザは、無理やり表情を変える。

「え?! あら……ど、どうしたの? 二人とも」
 ややぎこちなくある笑顔。
「あの、ミライザさん。折り入ってお願いがあるんですが……」

 どうやら先ほどの話が聞かれていない事に、ミライザは安心して話を聞いた。
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