烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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三章 暒空魔術への想い

Ⅳ 英雄の術師

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 ミルシェビス北西に位置する山岳街・ビスト。
 元は街を築くのが困難な険しい山岳であった。しかし百年ほど前、地震と長引く豪雨の影響で土砂崩れが起きたために建物を築くことが可能となった。隣国との国境に近い街である。

 昼過ぎにビストへ到着したジェイク達は、通路が斜面ばかりで驚きを隠せなかった。
「すげーな。やたらと坂や階段が多い」
 急斜面、緩やかな斜面、四角に加工した巨大な石段、階段と、一直線の道路があまりない。
「曲がった道が多い緩やかな斜面は上り下りしやすいためでしょうね。ここに住んだら足腰強い人が多そう……」
 トウマの呟きを証明するかのように、老人の多くがしっかりと歩き、急な階段も平然と上り下りしていた。
「今から馬を借りてでもミライザさんが行こうとしてる町には行けるんじゃないでしょうか」
「焦らなくても大丈夫よ。ここをあなた達の修業場と決めてるし、なにより私も魔力の業を安定させるにはもってこいの場所だから。馬を借りられるかも分からないし、魔力の業も度々調整していかないといけないのよ」
「この街って術師の修業場みたいなとこなのか?」
 術とは無関係のジェイクは、まるで他人事のように訊く。
「山頂や神聖な森や水場となる場所、滝や泉とかは自然の気が落ち着いてて強力なの。そういった地で修業すると魔力に負荷がかかるから鍛錬に最適よ。貴方で例えるなら、烙印を身体に宿して維持するのに消費する体力が増す、みたいなものかしら」
 躍起になったベルメアが現れた。
「あんたも修業よジェイク! やってみたらレベルが上がるかもしれない!」
『レベルが上がる』=『レベルに20に到達する』=『受肉出来る』
 単純な公式が出来上がると、ジェイクのやる気に火が付いた。
「気持ちは分かるけど、こんな街中で変な事しないで下さいよ。食料や装備を整えてからですよ」
 堅実なトウマに忠告され、渋々ジェイクは従った。


 空が微かに茜色に染まる頃、街一番標高が高い広場へ四人は訪れた。
 地上より空気が薄く、さらに何かの感覚が違う気がする。しかし苦しくはない。
 ジェイクは早速烙印の力を纏わせる修業に取り掛かった。ベルメアの協力を得て時間が伸びているのを実感するも、負荷がかかっているようには感じれなかった。
「ジェイクしっかり! ここで止めたら……いえ、諦めたらそこで終了よ!」
「わーってる! 何だろうと俺は受肉してやるぜ!」

 トウマとサラはどこかで聞いたような言葉を耳にした。至って真剣なのだが、修行風景が茶番劇にしか見えない。
 気にも留めないミライザは魔力の説明を始める。
「あっちは無視して、二人には魔力を感知する修業を行ってもらいます」
 トウマが手を上げた。
「魔力を凝縮するのはしなくていいんですか?」
「あれはいつでもどこでも出来るし、出来てもらわなければ強くならないわ。日常生活で、手や指に小さな魔力玉を気にせず出し続けれれば合格。そうなれば色んな形に変えれるし、腕や肘、頭や肩とか、出せる場所も自在になる」
 今度はサラが手を上げた。
「魔力の感知修業は必要ですか? 魔力の反応には敏感だと思うんですけど」
 ミライザは、目当ての質問がきたので笑みを零した。
「じゃあ今、私が結界を張っているかどうか分かる?」

 二人は僅かに驚いた。ここへ来るまで何一つ魔力が変化した印象も、不穏な空気も感じていないからだ。
 強いて何か感じるというなら、ジェイクが烙印の力を使用した際に発せられる僅かな圧迫感ぐらい。
 二人が何も感じてないと言うと、ミライザは差し出した両手に触れるように指示した。手を握った二人は一瞬にして気付く。現在、かなり高度な結界を張っていると。それは、手を握ってる間は見える結界に、複雑な文字を書き記した帯のようなものが巡っているからである。
 手を離すと結界が見えなくなった。

「術師が修業であろうと魔力を放出すると術師を狙う輩に襲われかねないから。特にジェイクの様な特殊な人間の修業なんて、どんな奴が来るか分からないわ。この結界内なら、よほど強大な魔力が出ない限り安全よ。話を戻すけど、内側からこの結界を感知できなかった時点で感知能力が低い証拠。強力な術師相手だと何をされたか分からない内に死ぬことだってあるのよ」

 二人は焦りが生じた。
 前世で知り得る転生の世界では、モンスターやボスを倒し続けてレベルを上げれば、それに応じて強くなると思っていた。スキルと呼ばれる特技や体質を得るものばかりと。
 しかしこの世界は違う。レベルを上げるのも重要だが、もっと身近に、魔力を鍛える修業が必要である。
 レベルや数値をあてにしてはいけない世界。
 戦略、戦術、考察。思考力や経験が生き残るに必要な世界。
 この世界は、時間をかけて単純作業を延々行えばいずれクリアできるゲームの世界と同等に考えてはならない。そう痛感した。

「魔力の修業は大きく分けて四つ。精度、蓄積量、感知力、凝縮力。凝縮はさっきしたけど、アレを続ければ体内で負荷がかかり蓄積量と精度も上がるわ。他にもそれらを上げる方法はあるけど、私がいる間はとにかく感知力向上に専念したい」
「あの、結界の張り方はどうするんですか?」
「感知力を向上させれば結界術の複写が可能よ。この程度の結界なら二人にはすぐ出来るでしょうね」
 プレッシャーを与えられているようで、二人はさらに緊張した。
「感知力を上げる方法は主に瞑想。だけど普通の瞑想ではなく、魔力を眉間に集中させる事。小さな点の様な魔力を想像して、そこから自然界の気を吸い込んで吐く、を想像する。やってみて」

 二人は指示通り行うも、出来てるのかどうかが分からない。
 手本とばかりにミライザが姿勢正しく胡坐をかき、瞑想すると、途端に周囲の空気が変わった。
 とても清々しく、まるで秋の気配を感じるような印象である。

「今、二人が感じた雰囲気を瞑想中に感じる事が出来れば格段に感知力は上がる」
 目標が見えた二人に、やる気の炎が漲った。
 一方でジェイクは、烙印の力を込めては切れ、込めては切れを繰り返している。
 体力が限界に達すると、準備した食料にがっつき、再び修業に励む。

 三人の修業は、陽が完全に暮れ、準備した食料が底を尽きるまで続いた。


 修業を終え、早めの夕食を済ませたジェイク達は、いつもより早くベッドへ潜り、深い水底へ沈むかの如く寝入った。

 午前四時。
 サラは何かを感じ取り目覚めかけたが、本格的に目を覚ましたのは、不快音でしかないジェイクとトウマの鼾によってであった。
 ベッドから起き上がると、夢うつつで感じた”何か”を探るべくテラスへと出た。
 空は薄っすらと夜空から藍色のように明るくなりはじめ、街の建造物の輪郭が分かる程の明るさであった。空気は仄かに冷たく、呼吸すると清々しい。
 サラは修業の成果を知るべく、街の異変を感知してみた。すると、何かボールのようなものが額に当たる感覚を得た。
(カレリナ、今の……何?)
(私にも分からない。けど、今のサラならステータスボードで分かる筈よ)
 サラがステータスボードを出現させると、自らが望む情報をボードは記した。
 感知したものは、魔力と自然界の気を融合させたものではあるが、性質上一番近いのは魔力の業と記されていた。
 咄嗟にミライザが気になり、急いで宿を出た。
 ミライザが前もって告げていた居場所は宿近くの広場。そこは教会に近く、神聖な気の余波も流れているのでいるのに適している。
 サラが到着すると、妙な焦りを覚えた。

(――うそ、いない)
 呼吸を乱しながらもカレリナに訊くと、感知の力で探るよう提案された。
 サラが集中すると、広場の一角に備えられた長椅子に、妙な魔力の歪みを感じとった。
 その場へ向かい歪みに触れようとすると、見えない何かに触れられて驚いた。

「フフフ、成長してるわね。けどこの行動はよろしくないわ」
 姿を現したミライザに手を掴まれていると分かるや、サラは安堵の溜息を洩らした。
「……脅かさないでくださいよ」
「一応死者だから、こんな所で姿を出したまま夜を迎えると色々と疑りを掛けられるでしょ。けど、今の行動をするなら、離れた所からこの結界を解く術を知る必要があるわね」
 足元に魔力を集中させ、地面に淡い白色の筋を通した。
 およそ二メートル付近で線は止まると、先端から魔力の塊が現れて弾けた。
「今のは分かりやすく弾けさせたけど、本当なら触れた時点で結界を破れるわ。感知力が増せばああいった類の術は容易に熟せるから」
「簡単に言われても……昨日の修業もまだまだ身に付いてないし」
「でもサラの感知力はトウマ君よりも上よ。私の結界を見破ったのが良い証拠。今日明日中にでも貴女は感知の才能が向上する筈よ」

 戦闘における術ではトウマより劣っていたので、サラは少しでも優成である事を喜ばしくあった。

「ところで、どうしてこんな朝早く? 昨日はぐっすりだったのに」
「えっとぉ……。男衆の鼾が五月蠅くて」
 申し訳ないように呟くと、ミライザも納得してくれた。
「それとは別に、街で妙な魔力を感知したんです。ステータスボードで調べると、魔力の業らしきものって出て」
「あら便利ね。サラはあの人たちの旅で肝心要の人物になるわ」
 褒められて嬉しくなった。
「街での事は私も来た時から何か感じていました。それが何なのかまるで分からないけどね。ジェイクの烙印の力にこの地独特の気が反応したとも思ったけどそうでもないみたい。少し調べる必要がありそうね」
「でも、目的の町へ行かなくていいんですか?」
「馬を借りれるのは明日か明後日よ。かといって歩いて行くには疲弊しすぎて到着前にあの世行きよ。それまでは二人の修業って決めてたけど……」

 広場の一角、目当ての木を睨みつけた。

「盗み聞きかしら? それとも女性を覗き見る趣味でも? 姿を現しなさい」
 ミライザに呼ばれて、一人の女性が木の後ろから姿を現した。
 女性を見てサラは咄嗟に術師と分かった。感知するまでも無く魔力の質が穏やかであり滑らか、それでいて妙な圧力がある。
「どなた? 名乗って頂けるかしら」
 女性は一呼吸おいて答えた。
「私はグレミア=キーラン。貴女こそ何者? どうして魔力の業を宿してるの?」
 ミライザは心当たりのある名前に警戒し、魔力を構えた。
「驚きね。レイデル王国十英雄の一人であり【ネイブラス式唱術】の天才と、こんな所でお会い出来るなんて。私はミライザ=エイフマンよ」

 グレミアは自身の情報とミライザの名前の矛盾に驚いた。

「どうして……暒空魔術の賢師・ミライザ=エイフマンは死んだと聞きましたよ!」
「あまりこの言葉に頼りたくはないのだけれど、“ひょんなことから”生き返ったのよ。貴女も見て分かる通り、余命幾何いくばくも無い状態だから、大人しくさせてほしいのだけれど」

 互いににらみ合い、魔力を感じ合い、実力差と出方を伺う。
 均衡が崩れたら魔術戦が起こるかに思われた時だった。

「――ちょっと待ってください!」
 サラが間に入って二人を止めた。
「あの、グレミアさん……ですよね。どなたかは知らないけど、話を聞いてください!」
 止められたグレミアは、サラの行動やミライザの反応ではなく、もっと別のモノを見て驚いた。
「サラ、何を!」
「ミライザさんもストップです!」
 カレリナもサラ同様にミライザの前に立ちはだかって妨害した。
「それでグレミアさん」

 言おうとした矢先、グレミアは臨戦態勢の魔力を絶ち、胸に手を当て御辞儀した。
 何が何か分からないサラは戸惑った。

「貴女様は、『ガーディアン』なのですね」

 もう、理解が追いつかずにサラは混乱した。
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