烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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四章 伝説の戦士との出会い

Ⅲ 気功の剣

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 森林神殿から目的地へ向かうには岩石地帯と足場の悪い土地を通らなければならない。馬車や馬でもいける経路は遠回りとなり時間がかかってしまい、痛い出費がかさむ。ルバートは徒歩で向かうと判断した。
 徒歩で向かう経路の途中、【ベリト】の町があるので、本日はそこへの到着を目的とした。
(ルバート、どこへ向かってるんだ?)
 突然ビンセントが目覚めたので主導権を渡し、ルバートも姿を現して歩いた。
 森林神殿での事、巫女のお告げと目的地をビンセントへ話した。
「お前、スビナと喧嘩してないだろうな」
「なんの心配をしてる。勿論、何事もなく友好的な話し合いで済んだぞ。あの唱術師がいなかったから、思いのほか話が滞りなく進みすぎた程だ」

 今後、グレミアとルバートが会えば色々と面倒事が待ち構えているとビンセントは悟り、頭を痛めた。

「とにかく、仮にだが、ガーディアンが存在するとして、すぐに研究しようなどと考えて動くなよ」
「おいおい、お前さんは俺様が見境無く、手当たり次第に珍しいモノを見つけたら調べようと動く奴に見えるというのか?」
「ガーディアンなんて、極上の研究対象だろ」
「そんな……餌を見つけたからと言ってすぐに飛びつく輩は三流以下の術師か、若気の至りで見境無い駆け出し術師ぐらいなものだ」
「その言い草、機を伺いながら調べると言ってるようなものだぞ」
「倫理に反しなければ問題ないだろ。俺様を誰だと思っている」

 大いに問題があるように捉えられる発言。しかしビンセントはルバートが倫理に反しないだろうと信じた。
 雑談しつつ進んでいると、五匹の角を生やした狼のような魔獣・ブーガが現われる。
「路銀稼ぎでもするか」
 ビンセントはやる気で笑みがこぼれる。
「待て。お前さんは力が不安定だ。ここは俺様が」
 忠告の最中、ビンセントは剣を鞘から抜いて構えた。
「心配性か? 俺を誰だと思ってんだ。こいつらぐらいどうということはない」

 言った矢先、ブーガ達の元へ向かった。すると、警戒を強めたブーガ達が次々に襲いかかる。飛びかかる一匹を斬り、続く二匹目三匹目を躱し、踵返しとばかりに襲いかかる二匹目を斬って距離を置く。
 見ていて何の問題もなさそうだが、不意にビンセントが剣に気功を込めているように見受けられ、ルバートは地面を這わせて魔力をビンセントへ飛ばした。気功が異変か本人の意思によるものかを調べるため。
 ビンセントが三匹目のブーガを斬った時、気功の正体がビンセントの意思によるものだと分かり安堵し、胸をなで下ろす。すると、残り二匹のブーガが警戒している最中、ビンセントは剣を左手へ持ち替えると、右手に気功で作り上げた剣を出現させ、ためらいなくブーガへ投げつけた。

「――なあぁぁっ!?」
 ルバートの焦りが再燃し、愕然となった。
 そんな様子を知ることも無く、四匹目を気功の剣で仕留めたビンセントは、駆け寄って五匹目を斬った。
 一戦終え、今まで気功で武器を作れなかったビンセントは、今まで完成しなかった技が成功したことに喜びを隠せない。
「おい見たかルバート! 『気功剣』、初めて成功したぞ!」
「馬鹿者! 気は確かか!」
 なぜルバートが怒鳴るのかビンセントには全く分からない。
「ま、待て。俺、怒られる事はしてないぞ」
「正気か!? お前さんは現状、気功も魔力も不安定な状態なのだぞ! それなのに未完成だが気功の具現化をしようなど、一歩間違えれば状態が悪化するのだぞ!」
「す、すまん。そうとは知らず」
 とはいえ、新技が成功したのを褒めて欲しい思いが強かった。
「けど、どうだった? 俺の気功剣。初成功にしてはなかなかの出来栄えだっただろ」
 無邪気な子供のように意見を求める。呆れたルバートは、怒りが鎮まっていく。
「……あの程度の小物を倒せるなら今後も使えるだろ。まだ数日だが、魔力と気功の修行が功を奏したのだろうな」
「じゃあ、アレを続ければもっと上手くなるのか? ってか、具象術もいよいよ使えるとか?」
「魔力を扱えればいずれ出来る。が、まだ実践するなよ! 俺様が良いと言うまで気功に関する技は禁止だ!」
「俺、術師じゃねぇし」
 まるで子供のようにいじけられた。
「術師でなくともお前さんは魔力の動かし方を知った。気功剣と同じ要領で何かしらの技を使用すればそれは何かの術へと変わる。知識の有無ではない。だから、もう一度言うが使用するなよ。死にたくなければな」

 親が説教するようなルバートの忠告。ビンセントはやや拗ねた。
 魔女討伐の旅の最中、他の仲間達もこのような思いをしていたのだろうと、ルバートは感じ取った。



 ベリトへ到着した時には日も暮れていた。
 一人前の宿泊料で済むとして、ルバートはビンセントの中へ入り、会話も念話で済ませる算段をとっていた。
 部屋に入るとベッドにあぐらを掻いたビンセントは、早速気功と魔力の修行に専念する。

(熱心だな。眠気は無いのか? 三時間は歩き詰めだろ)
(不思議と眠くはない。妙にすっきりした気分が続いてる)
 この気分も異変の兆候と判断したルバートは、考察しながらもビンセントへは何一つ報せなかった。
(修行もいいが、食事やら入浴やらは済ませてからにしてくれ。そこまで面倒はみたくないからな)
 言った途端、部屋の戸をノックする音がした。

 ビル=ライセンでの一件以降、こういった突然の訪問の際はルバートが相手の魔力と気功の質を伺って警戒するかどうかを確かめる習慣が付いている。
 とりあえず外の人物に悪意は見受けられなかった。ただ、不安と恐れを示す色が窺える。
「あの、バートン様。お頼みしたい事がございまして、少し宜しいでしょうか?」
 扉を開けた先に立っていたのは、宿の主であった。
「ご宿泊のところ誠に申し訳ございません。町の異変についてお話ししたいのですが……ここでは何ですので」
 嘘を吐いていないとルバートのお墨付きを信じ、ビンセントは主の後を着いていった。

 招かれたのは宿の応接室。そこには初老とおぼしき男性が先に座っており、ビンセントと目が合うと立ち上がって深々と頭を下げた。
「初めましてバートン様。このような時間にお呼び立てして申し訳ございません。町長をしておりますエバン=グラスと申します」
「初めまして、ビンセント=バートンです。相談とはいったい、どのような?」
 客席へ座るように案内され、三人が各々の席へ腰掛けると相談が始まった。
「実は、国境からこのベリト近辺にかけて奇妙な輩が徘徊しているのです。一月ひとつきほど前からです」
 町長は思い詰めた様子で語る。
「犯罪ですか? では、国へ申請すれば国兵を回してくれるでしょう。緊急を要するので?」
 町長と宿の主は、顔を見合わせてさらに口ごもるも、町長は懐から小さな包み紙を取り出した。
「その輩は夜に徘徊し、剣や術と思われる力を使いながら何かと争っていた……と思います。そして、町の畑に入って作物を食い荒らしているのです」
(まるで野獣だな)
 ルバートと同じ事をビンセントも思った。

「先ほど剣を振り回し、術を使っていると言ってましたが、人の犠牲は……」
「いえ、直接的な被害はまだ……」
「因みに、この町にも憲兵か地域の警備組合などがあるとは思いますが、そういった方々は対処に当たられなかったのですか?」
「対処には当たろうとしました」
 気になる言い方をされた。
「当たろうと? 止めなかったという事で?」
「正確には、大勢で止めに掛かろうとしたのですが……相手が突然消えて手が打てなかったのです」

 こういった小さな町の憲兵や警備組合などにも術師が存在し、相手が術を使用するのであれば、ソレを防ぐ術を基礎の範囲だが会得している者は多い。今回も策を練って相手を止めようとしたのは想像出来る。

「突然消える? えーっと……」
 以前、別空間へ飛んだ方法を用いられたと思いだし、それがどういった術かを思い出すそぶりを見せつつルバートへ訊いた。
(暒空魔術か、その他の空間術だ)
「そうだ空間術」さも思い出したように見せた。「空間術の類いですか?」
「おそらくは。ですが魔力の痕跡が綺麗に消えているそうで、並の術師ではないと思われます」
(そんな奴が野放しなら、術で消え、捕らえに来た連中を容易に殺せる筈だが)
「どうして殺されなかったと?」

 町長は頭を左右に振り、包み紙を開いた。
「理由は分かりませんが、これが傍に落ちていたそうです」
 渡されたのは布の切れ端であり、そこにはある紋章が刺繍されていた。それを見たビンセントは目を見開いて驚く。
「これは! え、本当ですか?!」
 町長はゆっくり頷いた。
「それが輩を示す証拠か、はたまたその紋章の持ち主であられます御仁を襲った戦利品か。とにかく、『六星騎士』の誰かが関わっているのは確かかと」

 六星騎士はバルブライン王国の魔女を討伐した戦士に与えられた称号。つまりはバルブライン王国の騎士だ。
 他国の騎士がレイデル国王内で悪事を働くなら、女王はバルブライン王国へ意見を呈さなければならない。他国との折り合いが悪いバルブライン王国へ忠告するとあるなら、国同士で諍いが生じ、下手をすれば戦争に発展しかねない。
 容易にレイデル王国へ報せるのは危険を孕んでいた。

「どのようにすれば良いか分からず、十英雄であるあなた様へお知恵を賜りたいと思いまして」
 町長と宿の主は深々と頭を下げた。
「どうか、お助けくださいませ」

 ビンセントは布きれの紋章を見つめた。
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