烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

文字の大きさ
74 / 80
一章 フェンリル

Ⅶ 前世の苦い記憶

しおりを挟む
 会議室では転生者三名をレイデル王国にて保護する作戦の最終確認であった。
 フェンリル戦後、着々と準備を整えており、ジェイクが眠っている間に召喚の妨害工作はレイデル王国内で出来ていた。
 既に国境を越えた平地では有力な術師達が陣を敷いて構えている。
 時間配分として午前九時に出発し、午前十一時に妨害部隊の陣地へ到着とされている。
 現在午前七時。二時間は国境で時間を潰す事になっている。
 グレミアも妨害役に参加するとあり、この二時間は別室にて術の準備に励んでいる。
 何もする事が無いジェイク達は準備時間となる。
 サラは妨害術がどういったものか興味を持ち、グレミアの後をついていき、朝食を済ませたジェイクは砦の屋上で景観を眺めようと向かった。

「ん?」
 屋上には既にトウマがおり、手すりに凭れ、呆然と風景を眺めていた。
「よう。無事か?」
「……ジェイクさん、大丈夫ですか?」
 一目で元気がなく、気遣いも無理があるのは分かる。理由は明白であった。
「元気ねぇな。あの野郎の事だろ」
 誰一人として敵わなかった男の存在を出すと、トウマの眉根が少し動いた。
「……分かります、よね」
「まさかだけどよ、お前一人でどうにかしようなんて考えんなよ」
「そう見えます?」
 無理に笑うも、ビィトラが現われた。
「嘘つき。ずっとどうやって倒そうか考えてたじゃん」
「ビィ!」
 ビィトラはそっぽを向いてどこかへ飛んでいった。

 ジェイクは静かに大きくため息を吐いた。

「ビィトラの気持ちも分かるぜ」
「ジェイクさん!」
「まあ落ちついて聞け」
 悔しく燻る思いを抑え、トウマは黙った。
「お前は血なまぐさい戦とは無縁の世界にいたんだろ。戦場で思い通りにいかん事を経験するのは全てが初めてのはずだ」
「でも、だからってああいう奴がいるんだったら、また会いますよ!」怒りが滲みでて語気が強い。「その時は確実に殺されます。どうにかしようって考えて何が悪いんですか!」
 ジェイクはトウマと向き合った。
「奴はお前の大事な者を奪った敵か?」
「違いますよ」
「じゃあ、ボコボコにされた腹いせか?」
 少し返答に間が開く。
「……違います」
 とはいえ、様子からもそれが原因の一端を担っているのは窺える。

「……ちょっとした昔話だ……俺が二十歳になる前のな」
 ジェイクは風景に視線を向けた。
「喧嘩は昔から強かった。剣術もまあまあ出来て、故郷の村じゃ俺に敵う奴はいなかった」
「自慢ですか」
「だったらどれだけいいか。まあ黙って聞けよ」
 トウマは大人しく黙った。
「十八の時、国兵選抜試験があった。母国の雰囲気は、旅で見てきたのと遜色ないから想像しやすいだろ」
「……まあ」
「若造がド田舎でイキがってただけで、本場の真剣勝負では明らかに雲泥の差だった。あっさり落選したよ。それに”田舎でどれだけ強かろうが意味はねぇ”って馬鹿にもされたな。……今思っても、それで泣いて田舎へ逃げりゃ良かったんだ」
 どこか寂しげな雰囲気が漂った。
「何があったんですか?」

 続きには少し間が開いた。

「……国兵に選ばれるには他にも方法がある。それが”武勲を挙げる”だ。国に害をなす化け物討伐や戦争の相手国兵を多く殺すとかな。化け物ってのは、この世界で言うところの魔獣ぐらいを想像してくれ。で、馬鹿にされたままじゃ悔しい、俺の実力はこんなもんじゃねぇって躍起になっちまった。完全に馬鹿にした連中を見返したい一色に染まってた。俺はうってつけの有名な巨大化け物が徘徊する谷へ向かったんだ」
 トウマは何も言わず、黙って聞いた。
「仲間は俺を含めて五人。腕の立つ喧嘩仲間だった。……全員、気の良い奴だった。嫁さんや子供の為への稼ぎって考えてるヤツもいたなぁ」
 次の話まで、一呼吸ほどの間が空いた。
「……化け物退治はやたら苦戦した。デカいわ強いわ、剣もなかなか通らんわで悪戦苦闘。けど、五人揃って満身創痍でようやく倒せた」
「武勇伝じゃないですか。五人で兵士になれたってオチでしょ?」

 吹き付ける風が、ジェイクの心情に呼応しているようであった。
 即答されず、少し間が開く。

「……ジェイクさん?」
「兵士にはなれなかった。……生き残ったのは俺だけだ」
「え、でも……」
「倒した奴が化け物の親玉で、これで一安心と思ったのが間違いだ。連中の習性には仲間を殺されたら殺し返すってのがあったんだろうよ。疲れ切った俺らの前に、倒した化け物より一回り小さい化け物が八体現われやがった。まともに対峙なんて出来ねぇってんで、五人揃って逃げて戦って、逃げて戦っての繰り返しで安全圏まで向かったよ。けど、仲間が次々に死んでいった。爪で切り裂かれたり、捕まれて岩壁にぶつけられ、喰われ、ひでぇ殺され方だったぞ。人間の死に方じゃなかった」
 そんな獰猛な化け物八体からどのように逃げ切れたかが気になる。
「どうして逃げ切れたんですか?」
「アレは逃げ切れたと言えねぇな。俺もいよいよ瀕死で動けなくなって、化け物が群がって一巻の終わりを悟った時だった。俺らが谷へ入った報告を聞いて国兵が現われた。それで助けられて俺は気を失った。目覚めたら軍基地の医務室だ。けどこれで終わりじゃねぇ、地獄はまだ続いたんだ」
「何があったんですか?」
「死んだ仲間の親族が泣き叫び、俺を助けた国兵の何人かが重傷だ。あんとき、俺も死んどけば良かったと強く思ったよ。……母国じゃ俺は完全に死神扱い、居場所がなくなって別の国に逃げちまった」
「じゃあ、第三騎士とかになったってのは?」
「丸一年ほど逃げて行き着いた国で、奇しくも巨大化け物退治の依頼があってな。路銀も尽きかけだからそれに飛びついたのがきっかけだ。まあ、そっから先も別の地獄だからここまでだな」

 再び、真剣な顔で向き合った。

「俺が言いてぇのはな、くだらねぇ挑発ぐらいで感情任せに暴走すんな。怒り任せに憤る気持ちは俺が痛いほど分かる。しかもその性根が全然治りゃしねぇ。それで転生者にもなっちまったようなもんだしな。けどな、怒り任せで敵と自分の実力差が見えねぇまま突っ込んで無駄死にするな。本気で勝ちたきゃ仲間を頼れ、冷静に全体を見ろ。あとは次会うときまで強くなれ。俺より頭良いお前なら出来る。そんで、俺らにもお前を頼らせろ、強ぇんだからな」
 トウマは背中を少し強めに叩かれ軽く咳き込む。
「けどお前、凄い術使えるようになったな。あのでかい矢、なんってぇんだ?」
「無我夢中で出来ただけですよ。名前はまだ無いですけど、一応……鳥を想像してたんですけど……」
 形がまるで出来ていなかった事をようやく知り、少し気まづい。
「形がどうあれ、あの術に助けられたのは確かだ。これからも頼りにしてるぞ大将」
 今度は胸を拳で軽く突かれた。
 自分が弱者であることを痛感したトウマだが、ジェイクの励ましにより気を取り直せた。
「はい!」

 ようやく、憑きものが払われたように吹っ切れた。

 ◇◇◇◇◇

 正午前、転生者三名は馬車に乗り、総勢二十名の騎乗した術師や兵士に囲まれ、大所帯でレイデル王国の目的地へ到着した。
「……なんか……あたし達、凄い貴族みたいですね」
 サラが小声でジェイクとトウマに訊く。
「なんか、ちょと恥ずかしいですね」
「目立ちすぎだろ。王様の賓客じゃねぇんだからよ」
 多くの術師や兵に歓迎される様子を恥ずかしく思い、三人は馬車を降りたい気持ちが強まる。
 三人の元へゼノアが寄って来た。 
「もうすぐ正午になります。これから召喚阻止の術を発動させますのでよろしくお願いします」
「ああ。こっちはいつでも大丈夫だぞ」

 代表してジェイクが答えると、懐中時計を見たゼノアは、兵達に向かって合図する。

「全員、配置に点け!」
 指揮する声を聞いた三人も、いよいよ緊張が増した。
「どうなるんでしょうね」トウマが訊いた。
「分からん。こればっかりは起こってからでないとどうにもな」
 召喚阻止作戦はレイデル王国側で二重の構えをしている。

 一つはゼノア率いる召喚阻止組が、正午に召喚を妨害する作戦。もう一つは、レイデル王国側で召喚術を発動させる作戦。
 どちらも有能な術師達を配置し、万全の阻止作戦を決行していた。
(ジェイク来たわよ)
 守護神三柱が、それぞれの転生者達に念話で報せた。
 どうやら守護神達のほうが異質な魔力を感じる機能が備わっているのだと分かるも、ジェイク達は何も出来ず、全身に力が入る。

 間もなく、体中に纏わり付く生暖かい空気を感じた。そして、全身に重しがかかったように感じると、召喚阻止の詠唱が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処理中です...