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一章 出会いと適正
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「……モルド。この手紙を、デビッド=ホークスという者に、渡してもらおうか」
弱弱しい声で途切れ途切れに話す、布団を首まで掛け寝ている男性は、半袖服に長ズボンと、上下ともに身嗜みを整えた若者・モルドに手紙を渡した。
モルドは茶色の髪で短髪、清潔感のある見た目にあどけない顔立ち、淡々とした動きなどから真面目で快活な印象が伺える。
手紙をモルドが受け取ると、男性は素早く布団に手を引っ込めた。
モルドは手紙を拝読した後、呆れた感情を表した眼差しを男性に向けた。
「もう私は永くない。君に彼を紹介出来たこと、それが私に残された……最後の役目なのだろう」
「……先生」
男性はモルドの言葉に、聞く耳持たずとばかりに話を進めた。
「思えば、君が来た時はまだ右も左も分からず、何度も同じこと説明したもんだよ」
くだらない男性の戯言に、いよいよモルドも嫌気がさした。
「先生ただの風邪ですよね。健康面を重視した食事を僕は気に掛けてるし、三十八歳の、大して病弱じゃない先生が死ぬわけありませんよ!」
モルドが先生と呼ぶ人物・ケビン=アルバーは、骨董品の修復を生業とする人物である。
近年、骨董品修復の仕事が減り、次の仕事に手を出そうか悩んでいる折、夏風邪を拗らせてしまった。原因は突然の土砂降りに遭い、ずぶ濡れのまま帰宅した為、敢え無くの風邪である。
モルドからため息が漏れた。
「そんな事はいいとして、なぜ二日分の宿泊準備を? しかも着替えだけ。手紙を渡すだけですよね」
ケビンはモルドの反応を見て視線を背けた。
「まあ、その荷物は重要な役割を果たすだろう。私は君に様々な環境において観察と考察が出来るよう教え育てたつもりだ。後は野となれ山となれってことで」ケビンは布団に潜った。「――よろしく!」
訳の分からない謎が残った。
ケビンは仕事と私生活において性格が極端に変化する。それは、仕事や真剣な相談事においてふざけた態度を一切見せないが、それ以外は冗談やふざけ三昧といっても過言ではない。お茶目ともいえる。
モルドの長年の勘では、これ以上追及しても無駄であり、もう行くしかないと判断した。
「……では行ってきます。あ、そうそう、仕事の予約が入りましたので、予約表はこの机の上に置いてますね。もう一時間すればサニアさんが帰ってきますけど、もしお腹がすいたら、台所の棚に菓子パンがありますので食べて下さい」
モルドがケビンの元についた時から、修業の一環として日常における家事の手伝いなどの雑務を熟していた。
私生活時、ケビンの世話をしている内に、料理、掃除の出来る主婦の様な実力と癖が身に着いてしまった。
「ああ、分かったから早く行きなさい。お前は母親にでもなる気かね。それと、絶対本人と会って自分の手で渡すんだぞ」
「はーい」
玄関の扉が閉まる音と共に静寂が訪れ、ケビンは寂しい思いであった。
モルドが出て行って一時間後、ケビンの妻・サニアが帰宅した。
「ただいま。あなた風邪は大丈夫?」
「ああ、問題ないよ」
どことなく寂しそうな雰囲気が伺える。
「嫌なら何も手放さなくて良かったじゃない。モルド君、良い子だったわよ」
「それじゃ駄目だ。彼の目指すものはここじゃない。彼の人生において、今の私は足がかりでしかないよ」
「そんな言い方しないの。貴方はあの子の先生でしょ。けど、大丈夫? ホークスさんって、奇文修復師でしょ? 変わった御方って聞くし、何より奇文って危険なんじゃ」
「心配ないさ。変わり者って言っても暴力的でも異常犯罪者でもないし、モルドはどんな環境でも耐えていける真面目君だ。それに奇文関連は彼に任せる方が一番安全だ。あー、まあ、一番はモルド自身の適性が合うかどうかだけど……」
意味深な言葉をサニアは聞き流した。
弱弱しい声で途切れ途切れに話す、布団を首まで掛け寝ている男性は、半袖服に長ズボンと、上下ともに身嗜みを整えた若者・モルドに手紙を渡した。
モルドは茶色の髪で短髪、清潔感のある見た目にあどけない顔立ち、淡々とした動きなどから真面目で快活な印象が伺える。
手紙をモルドが受け取ると、男性は素早く布団に手を引っ込めた。
モルドは手紙を拝読した後、呆れた感情を表した眼差しを男性に向けた。
「もう私は永くない。君に彼を紹介出来たこと、それが私に残された……最後の役目なのだろう」
「……先生」
男性はモルドの言葉に、聞く耳持たずとばかりに話を進めた。
「思えば、君が来た時はまだ右も左も分からず、何度も同じこと説明したもんだよ」
くだらない男性の戯言に、いよいよモルドも嫌気がさした。
「先生ただの風邪ですよね。健康面を重視した食事を僕は気に掛けてるし、三十八歳の、大して病弱じゃない先生が死ぬわけありませんよ!」
モルドが先生と呼ぶ人物・ケビン=アルバーは、骨董品の修復を生業とする人物である。
近年、骨董品修復の仕事が減り、次の仕事に手を出そうか悩んでいる折、夏風邪を拗らせてしまった。原因は突然の土砂降りに遭い、ずぶ濡れのまま帰宅した為、敢え無くの風邪である。
モルドからため息が漏れた。
「そんな事はいいとして、なぜ二日分の宿泊準備を? しかも着替えだけ。手紙を渡すだけですよね」
ケビンはモルドの反応を見て視線を背けた。
「まあ、その荷物は重要な役割を果たすだろう。私は君に様々な環境において観察と考察が出来るよう教え育てたつもりだ。後は野となれ山となれってことで」ケビンは布団に潜った。「――よろしく!」
訳の分からない謎が残った。
ケビンは仕事と私生活において性格が極端に変化する。それは、仕事や真剣な相談事においてふざけた態度を一切見せないが、それ以外は冗談やふざけ三昧といっても過言ではない。お茶目ともいえる。
モルドの長年の勘では、これ以上追及しても無駄であり、もう行くしかないと判断した。
「……では行ってきます。あ、そうそう、仕事の予約が入りましたので、予約表はこの机の上に置いてますね。もう一時間すればサニアさんが帰ってきますけど、もしお腹がすいたら、台所の棚に菓子パンがありますので食べて下さい」
モルドがケビンの元についた時から、修業の一環として日常における家事の手伝いなどの雑務を熟していた。
私生活時、ケビンの世話をしている内に、料理、掃除の出来る主婦の様な実力と癖が身に着いてしまった。
「ああ、分かったから早く行きなさい。お前は母親にでもなる気かね。それと、絶対本人と会って自分の手で渡すんだぞ」
「はーい」
玄関の扉が閉まる音と共に静寂が訪れ、ケビンは寂しい思いであった。
モルドが出て行って一時間後、ケビンの妻・サニアが帰宅した。
「ただいま。あなた風邪は大丈夫?」
「ああ、問題ないよ」
どことなく寂しそうな雰囲気が伺える。
「嫌なら何も手放さなくて良かったじゃない。モルド君、良い子だったわよ」
「それじゃ駄目だ。彼の目指すものはここじゃない。彼の人生において、今の私は足がかりでしかないよ」
「そんな言い方しないの。貴方はあの子の先生でしょ。けど、大丈夫? ホークスさんって、奇文修復師でしょ? 変わった御方って聞くし、何より奇文って危険なんじゃ」
「心配ないさ。変わり者って言っても暴力的でも異常犯罪者でもないし、モルドはどんな環境でも耐えていける真面目君だ。それに奇文関連は彼に任せる方が一番安全だ。あー、まあ、一番はモルド自身の適性が合うかどうかだけど……」
意味深な言葉をサニアは聞き流した。
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