奇文修復師の弟子

赤星 治

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五章 混迷する弟子達

10 師と兄弟弟子

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 モルドはおよそ百メートルほど離れた所で白い光が発生しているのを発見した。
 警戒して見ていると、そこに現れたのは見知らぬ男性とデビッドだった。

「……え、師匠?」
 ダイクも、……先生。と呟いた。
 一方のデビッドも二人に気づくと警戒した。
「モルド、ダイク、どうしてここにいる!」
「師匠こそどうして!? それに」ギドの方を見た。

 ダイクは殆ど消えたが、ある程度思い出せている記憶によりギドの事は覚えているが、モルドは全くの初対面。
 デビッドはモルドの発言と雰囲気から偽物とは思えなかった。そして警戒心むき出しで見てくるダイクも恐らくは本物だと感じた。
「……一体どういう事……」
 言いつつ、その存在に気づいた。
「――お前等離れろぉ!!!!」

 怒鳴るデビッドの指し示すものが不明な二人は、一瞬、疑問を抱いた。しかしすぐに自分達の後ろからただならぬ気配を発し、全身に悪寒を走らせる存在に気づいた。
 二人が後ろを向くと、台座に立ちあがるエメリアの姿を目の当たりにした。
 音も無く立ちあがった点が気がかりではあるのだが、その疑問も彼女の次の動作で判明された。
 項垂れた頭を左斜め上へ起こそうとすると、まるで映画の画像がブレるように輪郭などを崩し、やがて元に戻ると、エメリアの頭は起こされた。
 胸元の高さまで上げた両手の指先を揃えて合わせ、一同に視線を向ける。

 この変化を見てデビッドが異変を感じたのも当然だった。

「ようやく……」
 呟く声は、三人共聞いたことがある。紛れもないシャイナの声であった。
「ようやく皆揃った」

 満面の笑みに、モルド、ダイク、デビッドは驚愕した。
 エメリアの顔が再度、輪郭がぶれる現象を起こし、シャイナの顔に変わった。
 シャイナの目は、赤黒く、奇文の涙を流している様子を表していた。

「シャイナさん……どうして……」
 ダイクとシャイナの目が合うと、モルドは本能的に動いた。
 ダイクの手を引いてその場から離した。
「お、おい! 何を!」
「正気ですか!! あんなのがシャイナさんだと思いますか!」
 逃げるモルドへ向かって、シャイナは不気味な笑顔を絶やすことなく首を傾げた。
「酷いわモルド君――」
 離れているのに直に響くシャイナの声。

 気をしっかりと引き締め、あれはシャイナではないと言い聞かせ逃げるも、次の瞬間、驚きのあまり立ち止まり、思考が停止し、恐怖が全身を包んだ。

「――私の事、忘れた?」
 いきなり目の前に現れたシャイナと目が合った。そして間もなく、シャイナの身体から奇文が放出し、二人を包むように広がった。

『彼の地より差し伸べたる光の加護、我が身、憑代と猛る狂気祓いて壁と成せ!』
 ダイクが環具を、戦士が使う剣のように形を変え、シャイナの方へ翳して唱えた。すると、ダイクを中心に、半円形の光の壁が出来上がり、シャイナから放出される奇文を阻止した。

「これは……」
「これが秘術だ。けど長持ちはしない。……奴の力が……強い」
 ダイクは何かに押されている様に後退り、剣を翳している両手も小刻みに震えだした。
 もう、限界を感じた途端、ゴォォォ――と、暴風が荒ぶ音を聞き、同時に抑える力も治まって来た。
「二人共こっちへ来い!」それはデビッドの声であった。

 二人は後ろに出来た風で護られた通路を通ってデビッドの元まで走った。
 途中、ダイクはこの機を逃すまいと、深紅の墨壺の蓋を外し、シャイナの方へ投げつけた。

 二人がデビッドの方を辿り着くと、暴風が威力を増した。

「お前等どうしてこんな所へ来た!」
 デビッドはシャイナの方を向いたまま訊いた。
「どうしてって、シャイナさんが攫われて街が奇文塗れになったんですよ! 師匠も戻ってこないし。僕らでハーネックからシャイナさんを救出するしかないじゃないですか!」
「話はモルド=ルーカスに聞きました。どうせ一人で背負込んでシャイナさんを救出しようとか考えてたんでしょうが、俺だって前回から何も考えなしではありませんよ」
「なに?」
「ハーネックは俺が止めます。そしてシャ……イ……」

 ダイクは眼前の光景に驚愕した。

 ハーネックがシャイナに憑いていると思い、墨壺を投げ、混乱の最中に覚えたての強力な秘術をぶつける予定であった。これは、ダイクと相談していた作戦が無理だと判断した時、自己判断で事に当たると踏んだ策であった。
 ダイクの予想では、蔓延する奇文が弱まると思っていた。しかし、デビッドが起こしたと思われる暴風を更に増強させ、竜巻を起こし、周囲に奇文を広めている。

「寂しいじゃない。皆」
 シャイナの声は直に三人に聞こえた。
「せっかく再会出来たのに、私を救出しなくていいの? そっちへ連れて行かなくていいの?」
 蔓延する奇文が目に映る世界全てに広がると、竜巻は止み、全身に黒く揺らめく、幾重にも重なった衣を纏ったシャイナの姿があった。

「……強くなってるって感じですよね……なんで?」モルドは二人に訊いた。
 デビッドは秘術で風を起こして二人を救出しただけで、それ以外の行動をとっていない。その行為がシャイナに憑いた奇文に刺激を与えたとは考えずらかった。そしてモルドは特殊な行動を知らない。
 なら、原因となるのは一人しか考えられない。

「ダイク、何をした」
 ダイクは自らの行いがこの事態を招いたと確信した。しかし、それを口にするのが怖く、デビッドの質問に答えれなかった。
「……俺は…………俺が」

「俺の渡した奇文を使い、隙を作ろうとしたのだろ?」
 シャイナのすぐ傍に落ちている、深紅の墨壺を手に取る人物が言って来た。
「――……え?」
 その光景は、ダイクに衝撃と絶望を与えた。
「……黒幕はお前だったんだな。ギド」
 デビッドは二人の前に立ち、ギドと向かい合った。
「そこの一番弟子程の驚きが無いという事は、気づいていたな。デビッド」

 事態は、ダイクとモルドの及ばない所へ移っていた。
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