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六章 あの子をお願いします
10 エメリアの光
しおりを挟む戦況は一変した。
モルドが斬りかかると、一新した威圧とギドの防衛本能を刺激するほどに脅威な奇文が剣から発した。
ギドは剣で受け止めずに跳び退くことで回避。そしてモルドの追撃も躱し続けた。
これでは埒が明かないとばかりにモルドは剣を杖に変え、黒紫色の球体を飛ばした。まるで幻想小説のような攻撃だが、その技は使い勝手が良かった。
一つの球体を直進に発射。
球体を砕いて散弾のように発射。
躱された球体を操作して軌道変更。
上空に飛ばして弾けさせ、雨のように降らせて攻撃。
多種に渡る機能を備えているが、それでもギドはうまくあしらっている。無傷ではないが、致命傷にも至らない。
本当に強い敵と理解しつつ、時間も持たないことを実感したモルドは次なる手に出た。
両手を地面に当て、これから行おうとしている事を念じると、ギドを中心にあちこちの地面が黒紫色の円が出現した。その数二十。
(これじゃ足りない)
モルドはギドへの警戒心から、更に円を増やした。合計四十。
(どうするね。加減を損なえば不利になるのは君だよ)
(うるさい黙ってろ!)
ハーネックの横槍もあしらい、更に出現させた。合計で七十。
モルドは次の命令を円に下すと、その一つ一つから黒紫色の縄がギド目掛けて伸びた。
捕縛されると判断したギドは、迫ってくる一本一本の縄を剣で斬り続けた。
一本ずつ、二本や三本同時。
上空に跳んで迫る無数の縄に自らの奇文をぶつけて弾き飛ばす。
地面に着地しても迫る縄を走って躱し、時に斬る。
モルドは呼吸を乱し、捕縛しきれないもどかしさに焦りの色が見えた。
(手間取りすぎだ。経験の差は埋めれないようだ)
ハーネックは痺れをきらせ、モルドの身体から外れた。すると、まるで糸の切れた操り人形の如く、モルドは足に力が入らず、崩れて倒れた。
「……な、に……を」
モルドの声を聞かず、ハーネックは地面溶けるように消えた。
事態の急変。
ハーネックの別行動。
ギドへの不安と恐怖。
モルドは操作した縄がどうなったか、上体と頭を動かして事態を確認した。なぜか、縄はまだ動いている。
(あれはハーネックの仕業よ)
エメリアの声が聞こえた。
彼女の入った環具をポケットに入れていたことで、更にはハーネックが居なくなったことで再びモルドの身体へ憑いた。
(モルド君、大事なお願いがあるの、しっかりと覚えててね)
満身創痍のモルドは、ギドとハーネックを他所に、エメリアの言葉に集中した。
◇◇◇◇◇
着々と縄をあしらい続けるギドは、序盤よりも勢いの治まった縄の様子から、勝利を確信した。
「所詮、この程度か」
疲弊はしているが、残りの縄を斬り終える体力は残っている。
少し距離をとって呼吸を整えている時だった。
(――甘いよ)
ハーネックの声が後ろから聞こえた。
咄嗟にギドは剣でハーネックの胴を貫いた。
「これで幕だ。ハーネック」
「ああ、そうさせてもらうよ」
ハーネックを貫いた剣が抜けず、すかさず両手で右手を握られて剣も手放せない。
縄全てがハーネックごとギドに纏わりついた。
「これで勝ったと思うなよハーネック」
「勝たせてもらおう。ここからが私の真骨頂なのだから」
ギドも奇文を発生させて抵抗した。
赤黒い奇文と黒紫色の奇文。双方が混ざり合ってどちらかを貪り合っている様に見える奇文同士の競り合いの最中、モルドがいる方から青い光が輝いた。
◇◇◇◇◇
(エメリアさん……何を)もう、声を出すのも疲れていた。
(私の奇文を戒詩同様の秘術に変えます)
(かいし?)
(浄化作用のある秘術の事。これから何が起こるか分からない。巨大な奇文同士がぶつかり合い、双方に反する秘術の性質となった私の奇文をぶつける。恐らく三人共無事では済まない)
(そんな……それじゃ、師匠やシャイナさんは……)
(もう、私に戻る身体は無いから。どの道、助かっても意味がないわ)
(でも、奇文の力はハーネックより……)
弱い。と言わずとも、エメリアは気づいた。
(あいつの言葉を肯定するようで嫌だけど、どうやらモルド君の傍に居て私の奇文が活性化されて強くなった。もっと早く気づけばよかった。ギドの強力な攻撃を何度も受け止めれたのだから、強くなってた証拠よね。ハーネックが今まで憑いていた時、君の力と相殺されていくハーネック力が中和して、私は取り入れることが出来た。後、あの二人は余裕ぶってるけど消耗が激しい。一か八かだけど今なら二人を倒すことが出来る筈よ)
モルドは、周囲が眩しく青白い光に満ちた時、自分の前に跪いて頭を撫でる女性を見た。
穏やかな、シャイナに似たエメリアの姿。
「モルド君、デビッドとシャイナの事、よろしくね」
告げると、エメリアは立ち上がり、ハーネックとギドの所へ向かった。
「……ま、……まっ……て」
周囲の光が眩しく発光し、モルドは目を閉じた。続けて暴風により彼方へ飛ばされた。
◇◇◇◇◇
光を確認したギドとハーネックは、迫ってくる光の波に抵抗しようと奇文を向けた。
「くっ、エメリア=ホークスか!」
「小癪な女だ」
ギドとハーネックは迫る光に抗った。
「私と共に消えてもらうわよ」
迫る光の波は、二人諸共飲み込み、三色が混ざった光がこの世界全土に、瞬く間に広がった。
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