奇文修復師の弟子

赤星 治

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終章

1 明朝

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 モルドが目を覚ました時、場所は病室のベッドの上だった。
 見舞いに来たデビッドに事情を訊くと、どうやらモルドはデビッド達が戻った翌日に、管理官長室に姿を現して戻って来たのだという。

 デビッド達が戻って間もなく、街中の奇文が消失し、管理官長室の奇文が密集して残った。
 さらに黒紫色に発光したことで、ハーネックが出て来るものだと警戒されていた。
 翌日、突然発光が青白い光に変わり、光が消えると、部屋には奇文が無くモルドが気を失って現れた。

 病室で入院して二日後の今日、ようやくモルドは目を覚ました。
 医師の診察により、状態も変化なく、記憶も無事な事から、すぐ退院させてもらえた。

 別室にシャイナが入院しているとデビッドから聞き、退院前に見舞いに訪れた。
 エメリアのように寝たきりなのかと思えたが、モルドが目を覚ます一時間程前に目を覚ましたらしいが、寝て起きてを繰り返し、今し方ようやく安定して起きている。
 ずっとギドの奇文に憑かれた事、衰弱している事を踏まえ、もう二三日は様子見で入院する事になっている。

 部屋へ入ると、ダイクが見舞いに来ていた。

「あ、お父さん。来てくれたんだ」
 シャイナは父の記憶を取り戻し、母は幼い頃に亡くなっていると記憶している。
 エメリアの事を覚えているモルドには、何とも虚しく思えた。
「シャイナさん、無理しないで」
 無理にでも起き上がろうとするシャイナを、ダイクは気遣って寝かせた。
 流石は管理官長というだけあり、意識を失う程力を消費しても、現実世界へ戻ってすぐに目を覚まし、体力も早く戻した。

「シャイナさん、無事ですか?」
 モルドがシャイナの横に立ち、様子を気遣った。すると、シャイナから何気ない表情が向けられ、告げられた返事に三人は耳を疑った。

「えーっと……どちら様ですか?」

 まるで時間が止まったかのように、周りの音が、一瞬だけ消えた気がした。

 ◇◇◇◇◇

 数日後の明朝。
 モルドは少ない手荷物をもってホークス家を出た。
 静かな、まだ日も昇っていないが、薄暗く周囲の輪郭が分かる時間帯。
 入り口の鍵をかけ、家に向かい感謝の意を込めて、深々と一礼した。
 林を抜け、街が見える辺りで、まるでモルドを待っていたとばかりのダイクと出くわした。岩に腰かけている。

「行くのか?」
 モルドはポケットに入れた鍵を取り、握った。
「はい。今行かないと後悔しかしませんから」
 ダイクはモルドの決心を受け止め、一呼吸置いた。

「いつでも戻ってこい。あそこはお前の家でもあるんだぞ」
「勘弁してくださいよ。気まずいのは御免です。そっちで気を使ってください」
 鍵をダイクに手渡した。
「どういう事だ?」
「シャイナさんの事好きならちゃんと守ってあげて下さい」

 誰にも言ってないのに、モルドに気づかれている事が恥ずかしく、ダイクは顔を赤らめた。

「お前――誰から」
 モルドは呆れながら答えた。
「見てれば誰だって気づきますよ、一応僕も修復師ですので。師匠も気づいてる筈ですよ。そういうところ目敏いから」
 冗談もその辺にして、モルドは改めてダイクと向き合った。
「色々とありがとうございました」
 ダイクもため息のような呼吸を一息ついて返した。
「無理するな。俺は管理官長だから、何かあったらすぐ報告しろ」

 モルドは返事をして去っていった。
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