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一幕 天邪鬼を憑かせた男
六 それぞれの目的
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「あの大木の所で話そう」
ススキノが指差したのは落雷か土砂崩れで折れた大木横たわっている場所である。
ススキノは懐から折り畳んだ風呂敷のような布を広げて座る。
志誠は、腐敗や崩れた部分の目立つ大木の、座れそうな所へ昇って腰掛けた。
永最は距離をとってススキノと向かい合う位置に、丁度平たく大きな岩がありそこへ腰かけた。
「はい」
手を挙げた志誠に視線を向けると、赤い髪が黒髪へと戻っていた。
「先に永最様の質問から解決しないと話が進まないと思います」
突然戻った幸之助の姿に、二人は唖然として声が出なかった。
「……あ~、天邪鬼ですか? あいつは寝ました」
唐突な様変わり。無邪気に答える幸之助の姿。
この変化に二人は驚いた。
「いやいや、突然すぎです幸之助殿! 私はともかく、ススキノ殿は混乱します。あ、それよりずっと聞きたいと思っていました! なぜ妖怪を憑かせているのですか!」
「あ、天邪鬼が何か言いました? でも、全く悪い奴じゃないんですよ。悪く思わないでください」
「――そうでは無くて!」
やり取りを中断させるように、ススキノが呆れ顔を露わに、パンッパンッと手を叩いた。音は大きめである。
「まったく、自分にも分かるようにとおっしゃって、今度は私を除け者に話を進めるとはどういった了見で?」
「あ、す、すいません。つい取り乱してしまいました」
「まあ、そこそこの事情は理解いたしました」視線を幸之助に向けた。「貴方様は幸之助様。少し前まで表に出ていらっしゃったのが天邪鬼であり志誠と言う者。永最様の口ぶりから、妖怪・天邪鬼の志誠様と言ったところでしょうか」
永最はススキノの推察に感心した。
「よく今のやり取りでお分かりに……」
「あの竹藪で遭遇したモノども。ああいったのを相手にしている生業をしてますと、幸之助様のように憑かれているというのは理解できます。それが自然か人為かで憑いたのは別としてですが……」
人為的。そこが気に罹ったが、永最が訊くより先に幸之助が話を切り出した。
「大当たりです。ある時急に天邪鬼が憑いて、交互に表に出るんですよ。俺より天邪鬼のほうが長く出るんですけど、結構便利ですよ。気怠い時は気づいた時は家に着いてたり、面倒な方々に遭遇したら助けてくれますし」
無邪気で能天気。印象通りだと思われる。
「よい訳ないでしょう! 然る所で祓ってもらうべきでは!」
妖怪嫌いも関係しているが、あまりに軽率な意見に、声も大きくなる。
「安心してください。名のある鳳力使いの方に見てもらいました。そしたら別に害はなく、無理に剥がそうとすると、それこそ害が及ぶ可能性があると」
「その者が詐欺師ではないのですか!?」
「桜城創源様と言う御方です」
「その者なら知っています」答えたのはススキノである。「私の師に教えてもらった有名な鳳力使いの中にいた者。正式名は桜城創源時次とか……。鳳力使いは住職や神主の紹介で会えるのが主です。幸之助様もそう言った修験者か導師の方に紹介されたのであれば確かな人物の筈」
幸之助は紹介してくれた神主名と神社名を答え、ススキノが納得し、保証した。
その場所があるかは不明なまま、永最は納得するほかなかった。
「さて、色々と話は逸れましたが、永最様に我々の行っている事と、目の当たりにした奇妙なモノについてご説明いたします」
「宜しく御願い致します」
畏まった永最と、呑気に体を揺らして聞く幸之助。
「まず先に私の事から、衣装や顔立ちから気になっているとは思いますが、私は【宮爛】という国の出身です」
「クーラン? ってどこの国ですか?」
訊いたのは幸之助であり、永最が答える。
「宮爛は海を渡らなければ行けぬ国です。兄弟子に教わりましたし、共に外交を行う港にも行ったことがあります。しかし、なぜ大陸を渡ってまでこちらに来たのですか? 言葉だって違う筈です」
軽はずみに訊いた質問の答えに、ススキノは迷わず答えた。
「奴隷です」
まさかの理由に、二人は言葉を失って驚愕した。
「宮爛のある港町がこの大陸の一国に占領され、そこの民の何人かはこの国へ売られました。奴隷は過剰労働や神事の人柱、女性に至っては娼婦というのも御座います。今でも他大陸の奴隷制は続いたままですが、たまたま私には鳳力を使用できる素質があったため優遇され、このような召し物も戴いた次第。そして、今の生活を絶やさない為にあの竹藪での奇妙な生物の退治を」
「奇妙って、妖怪ではないのですか?」
その返答に冷静な反論が返ってきた。
「永最様、貴方はその辺の根本そのものが間違っておられます」
幸之助も笑顔で加えた。
「あ、聞きましたよ。永最様は天邪鬼を祓おうとして何度も経文唱えたとか」
「経文ではありません。妖魔祓いの文章です」
それで合っている。そう信じて反論したが、もはや何があっているかが不明である。
「そこです。永最様は天邪鬼・志誠の正体を妖怪と断定しております」ススキノが答えた。
「何か違うのですか? 妖怪・天邪鬼は実際に妖怪譚などの書物にも記載されてますし、私も幼いころにしっかり確認しました」
「いえ、天邪鬼をどうこう言うつもりではなく。妖怪そのものの解釈が間違っているのです」
「解釈?」もう、反論よりも興味が先んじた。
「この世界は、我々人間や大小さまざまな動物が住む世界と、人々の信仰や畏怖、恐怖の象徴たる生物。永最様が妖怪と銘打つ存在のいる世界。我々は【亜界】と呼んでおります。その亜界に住む、天邪鬼の様な意志を持って行動する者達を、我々祓い事を生業にする者達は、【祈想幻体】と呼んでおります」
「キソウゲンタイ……ですか」
「『人の祈り想い、体現せし幻也』先人の教えより、祈想幻体と称されております。天邪鬼に訊けば早いのだが、どうやら今はそういかないらしい」
視線を向けると幸之助は、無駄という意思表示とばかりに手を振った。
「今は無理です。さっきの技で気功と鳳力使いきって寝てます。もうしばらくしないと」
仕方なくススキノが説明役を担った。
「奴らの世界はこの世界と全く一緒。いや、この場合”この世界で共存している”というのが適している」
「共存って……言われましても……」
「見えているのでしょう。常人には見えないモノが」
「ええ。では私が今まで見ていた妖怪たちが……」
「そう。それが祈想幻体。妖怪と言いたければそれでも。しかしそれが通用する者としない者がいるので悪しからず。尚、幻体と、略して呼ぶ者もおります」
「では、あの炎人間も……」
「奴らは別です。天邪鬼のような存在を幻体とするなら、あの炎の人間や白風は幻体ではなく霊や念というモノに近い」
その存在の代名詞たる言葉が浮かんだ。
「では、悪霊や怨霊ですか?」
「表現が違います。幻体達は人間達と共存はせよ、あらゆる感覚が双方の干渉を拒み生活している、思念の具現化した生物といえる存在。一方竹藪で見た連中は霊体と言いましたが、念の残骸と言えば分かりやすいかと」
「念の残骸って……」
今でも分からない話に新たな存在を出され、さらに混乱してきた。
「念とは人間の想いからなるもの。幻体達も祈りや想いから成るが、奴らは恨み妬み怒りなど、攻撃的な負の感情・想いの具現化したものであり、形が明確化すれば禍の元となります。人間には見えない分、そいつらが現れると必ず不幸が起きる。流行り病や災害、人災などが特に多く、幻体達とは似て非なる存在。人にも自然界にも干渉し、荒事を引き起こす存在なのです」
似て非なると聞き、長屋で志誠を祓えなかったことを思い出した。
「では、その念で出来た存在は……」
「【異念体】。幽霊と言いたければ私はそれに合わせます」
と言いつつも、どう見ても幽霊とは印象が違いすぎたため、本名でいう事にした。
「異念体ですか? 妖魔祓いや悪霊祓いが通用するのですか?」
「通用と言うのが正しいかは断言出来んが、時と場合により何かしらの影響は及ぼします。私もそちらの事情が疎い為何とも言えないが、異念体を祓うという事で、彼らは妖魔や悪霊などと銘打って祓っております」
「え? …では、ススキノ殿や志誠はああいった連中を祓っているのではないのですか?」
幸之助が口を出した。
「祓うっていうのはああいったのを分散させ、他所で復活したのを又祓って、次第に弱ったのを祓って存在そのものを消す方法だよ。俺と天邪鬼がやってるのは還してるんだ」
意味が分からずススキノに説明を視線で訴えた。
「祓うというのは、突き詰めると存在の消滅を意味する行動。しかし、どのような祓い手であれ、一度で消すことは出来ない。幸之助殿が言った通り、何度も祓って消滅させます。天邪鬼や幸之助殿は別の方法、又聞き程度の知識ではありますが、奴らを亜界へ送り、亜界の大気に還すと理解してます」
永最が何かを訊こうとしたが、その前にススキノが続けた。
「永最様、私も祓い手の技術を持ち合わせ、生業も祓い事。つまり異念体、時に祈想幻体を祓って消滅させます。死に誘う事をしていますが、祓うという事に軽蔑の視線を向けますか?」
この話をすると神仏に仕える者達はいい顔をせず、命の尊さを説かれることもある。永最もその類と思いススキノは構えたが、そうはならなかった。
「いえ、むしろ妖怪を祓う方法を教えてもらいたい位でございます」
この国でも他国でも、一部の地域では他人に見えないモノを見える者は嫌われる風習を知っているススキノは、その心境を否定できなかった。
一方、二人には気づかれていないが、幸之助は妖怪の存在を拒んでいる意見に心を痛め、仄かに虚しい思いが表情に滲む。
「では、全てではありませんが祓い手の初歩ぐらいなら御教えします。その代りと言ってはなんですが……目指す村へ同行してもらいます。幸之助殿はどうします?」
「いや、天邪鬼の意見を聞いてないから、ここは遠慮します」
「幸之助殿、あいつは貴方に憑いてる存在です。意見など、聞く必要はないのでは?」声に力が籠る。
「恩人で友だ。素性は何であれ無下にも邪険にもしない。という訳で、俺は同行出来ない」
それでも何とか勧誘したが、言っても無駄となった。
「ススキノさんの説明にあったように、祓い手は祈想幻体も消滅出来る。つまり、天邪鬼も祓われる危険がある。お気を悪くしないでください。別に同行が嫌いなのではなく、祓いによる変化が恐ろしく、天邪鬼を失うのが怖いのです。”むやみやたらと祓い手を信用するな”天邪鬼を失いたくないならその点は肝に銘じておかなければならないと、桜城様に教えられたので」
昔、祈想幻体、異念体、その存在を見つけ次第、祓う輩が存在した。
今現在では、それをすることで別の災いが生じるなど、自然界と亜界の住人達との因果関係が注視され、そういった輩が減りはした。
しかし”怪しい祓い手は警戒”という猜疑心は、祈想幻体を良しと思う者達の間では根付いている。
「現に俺は一日の内、長くて昼から夕方までしか表に出てこれません。しっかりした天邪鬼の存在は大きいのです」
これ以上は幸之助の問題。
妖怪嫌いの永最が出る幕ではないと察し、無理強いは控えた。
ススキノが指差したのは落雷か土砂崩れで折れた大木横たわっている場所である。
ススキノは懐から折り畳んだ風呂敷のような布を広げて座る。
志誠は、腐敗や崩れた部分の目立つ大木の、座れそうな所へ昇って腰掛けた。
永最は距離をとってススキノと向かい合う位置に、丁度平たく大きな岩がありそこへ腰かけた。
「はい」
手を挙げた志誠に視線を向けると、赤い髪が黒髪へと戻っていた。
「先に永最様の質問から解決しないと話が進まないと思います」
突然戻った幸之助の姿に、二人は唖然として声が出なかった。
「……あ~、天邪鬼ですか? あいつは寝ました」
唐突な様変わり。無邪気に答える幸之助の姿。
この変化に二人は驚いた。
「いやいや、突然すぎです幸之助殿! 私はともかく、ススキノ殿は混乱します。あ、それよりずっと聞きたいと思っていました! なぜ妖怪を憑かせているのですか!」
「あ、天邪鬼が何か言いました? でも、全く悪い奴じゃないんですよ。悪く思わないでください」
「――そうでは無くて!」
やり取りを中断させるように、ススキノが呆れ顔を露わに、パンッパンッと手を叩いた。音は大きめである。
「まったく、自分にも分かるようにとおっしゃって、今度は私を除け者に話を進めるとはどういった了見で?」
「あ、す、すいません。つい取り乱してしまいました」
「まあ、そこそこの事情は理解いたしました」視線を幸之助に向けた。「貴方様は幸之助様。少し前まで表に出ていらっしゃったのが天邪鬼であり志誠と言う者。永最様の口ぶりから、妖怪・天邪鬼の志誠様と言ったところでしょうか」
永最はススキノの推察に感心した。
「よく今のやり取りでお分かりに……」
「あの竹藪で遭遇したモノども。ああいったのを相手にしている生業をしてますと、幸之助様のように憑かれているというのは理解できます。それが自然か人為かで憑いたのは別としてですが……」
人為的。そこが気に罹ったが、永最が訊くより先に幸之助が話を切り出した。
「大当たりです。ある時急に天邪鬼が憑いて、交互に表に出るんですよ。俺より天邪鬼のほうが長く出るんですけど、結構便利ですよ。気怠い時は気づいた時は家に着いてたり、面倒な方々に遭遇したら助けてくれますし」
無邪気で能天気。印象通りだと思われる。
「よい訳ないでしょう! 然る所で祓ってもらうべきでは!」
妖怪嫌いも関係しているが、あまりに軽率な意見に、声も大きくなる。
「安心してください。名のある鳳力使いの方に見てもらいました。そしたら別に害はなく、無理に剥がそうとすると、それこそ害が及ぶ可能性があると」
「その者が詐欺師ではないのですか!?」
「桜城創源様と言う御方です」
「その者なら知っています」答えたのはススキノである。「私の師に教えてもらった有名な鳳力使いの中にいた者。正式名は桜城創源時次とか……。鳳力使いは住職や神主の紹介で会えるのが主です。幸之助様もそう言った修験者か導師の方に紹介されたのであれば確かな人物の筈」
幸之助は紹介してくれた神主名と神社名を答え、ススキノが納得し、保証した。
その場所があるかは不明なまま、永最は納得するほかなかった。
「さて、色々と話は逸れましたが、永最様に我々の行っている事と、目の当たりにした奇妙なモノについてご説明いたします」
「宜しく御願い致します」
畏まった永最と、呑気に体を揺らして聞く幸之助。
「まず先に私の事から、衣装や顔立ちから気になっているとは思いますが、私は【宮爛】という国の出身です」
「クーラン? ってどこの国ですか?」
訊いたのは幸之助であり、永最が答える。
「宮爛は海を渡らなければ行けぬ国です。兄弟子に教わりましたし、共に外交を行う港にも行ったことがあります。しかし、なぜ大陸を渡ってまでこちらに来たのですか? 言葉だって違う筈です」
軽はずみに訊いた質問の答えに、ススキノは迷わず答えた。
「奴隷です」
まさかの理由に、二人は言葉を失って驚愕した。
「宮爛のある港町がこの大陸の一国に占領され、そこの民の何人かはこの国へ売られました。奴隷は過剰労働や神事の人柱、女性に至っては娼婦というのも御座います。今でも他大陸の奴隷制は続いたままですが、たまたま私には鳳力を使用できる素質があったため優遇され、このような召し物も戴いた次第。そして、今の生活を絶やさない為にあの竹藪での奇妙な生物の退治を」
「奇妙って、妖怪ではないのですか?」
その返答に冷静な反論が返ってきた。
「永最様、貴方はその辺の根本そのものが間違っておられます」
幸之助も笑顔で加えた。
「あ、聞きましたよ。永最様は天邪鬼を祓おうとして何度も経文唱えたとか」
「経文ではありません。妖魔祓いの文章です」
それで合っている。そう信じて反論したが、もはや何があっているかが不明である。
「そこです。永最様は天邪鬼・志誠の正体を妖怪と断定しております」ススキノが答えた。
「何か違うのですか? 妖怪・天邪鬼は実際に妖怪譚などの書物にも記載されてますし、私も幼いころにしっかり確認しました」
「いえ、天邪鬼をどうこう言うつもりではなく。妖怪そのものの解釈が間違っているのです」
「解釈?」もう、反論よりも興味が先んじた。
「この世界は、我々人間や大小さまざまな動物が住む世界と、人々の信仰や畏怖、恐怖の象徴たる生物。永最様が妖怪と銘打つ存在のいる世界。我々は【亜界】と呼んでおります。その亜界に住む、天邪鬼の様な意志を持って行動する者達を、我々祓い事を生業にする者達は、【祈想幻体】と呼んでおります」
「キソウゲンタイ……ですか」
「『人の祈り想い、体現せし幻也』先人の教えより、祈想幻体と称されております。天邪鬼に訊けば早いのだが、どうやら今はそういかないらしい」
視線を向けると幸之助は、無駄という意思表示とばかりに手を振った。
「今は無理です。さっきの技で気功と鳳力使いきって寝てます。もうしばらくしないと」
仕方なくススキノが説明役を担った。
「奴らの世界はこの世界と全く一緒。いや、この場合”この世界で共存している”というのが適している」
「共存って……言われましても……」
「見えているのでしょう。常人には見えないモノが」
「ええ。では私が今まで見ていた妖怪たちが……」
「そう。それが祈想幻体。妖怪と言いたければそれでも。しかしそれが通用する者としない者がいるので悪しからず。尚、幻体と、略して呼ぶ者もおります」
「では、あの炎人間も……」
「奴らは別です。天邪鬼のような存在を幻体とするなら、あの炎の人間や白風は幻体ではなく霊や念というモノに近い」
その存在の代名詞たる言葉が浮かんだ。
「では、悪霊や怨霊ですか?」
「表現が違います。幻体達は人間達と共存はせよ、あらゆる感覚が双方の干渉を拒み生活している、思念の具現化した生物といえる存在。一方竹藪で見た連中は霊体と言いましたが、念の残骸と言えば分かりやすいかと」
「念の残骸って……」
今でも分からない話に新たな存在を出され、さらに混乱してきた。
「念とは人間の想いからなるもの。幻体達も祈りや想いから成るが、奴らは恨み妬み怒りなど、攻撃的な負の感情・想いの具現化したものであり、形が明確化すれば禍の元となります。人間には見えない分、そいつらが現れると必ず不幸が起きる。流行り病や災害、人災などが特に多く、幻体達とは似て非なる存在。人にも自然界にも干渉し、荒事を引き起こす存在なのです」
似て非なると聞き、長屋で志誠を祓えなかったことを思い出した。
「では、その念で出来た存在は……」
「【異念体】。幽霊と言いたければ私はそれに合わせます」
と言いつつも、どう見ても幽霊とは印象が違いすぎたため、本名でいう事にした。
「異念体ですか? 妖魔祓いや悪霊祓いが通用するのですか?」
「通用と言うのが正しいかは断言出来んが、時と場合により何かしらの影響は及ぼします。私もそちらの事情が疎い為何とも言えないが、異念体を祓うという事で、彼らは妖魔や悪霊などと銘打って祓っております」
「え? …では、ススキノ殿や志誠はああいった連中を祓っているのではないのですか?」
幸之助が口を出した。
「祓うっていうのはああいったのを分散させ、他所で復活したのを又祓って、次第に弱ったのを祓って存在そのものを消す方法だよ。俺と天邪鬼がやってるのは還してるんだ」
意味が分からずススキノに説明を視線で訴えた。
「祓うというのは、突き詰めると存在の消滅を意味する行動。しかし、どのような祓い手であれ、一度で消すことは出来ない。幸之助殿が言った通り、何度も祓って消滅させます。天邪鬼や幸之助殿は別の方法、又聞き程度の知識ではありますが、奴らを亜界へ送り、亜界の大気に還すと理解してます」
永最が何かを訊こうとしたが、その前にススキノが続けた。
「永最様、私も祓い手の技術を持ち合わせ、生業も祓い事。つまり異念体、時に祈想幻体を祓って消滅させます。死に誘う事をしていますが、祓うという事に軽蔑の視線を向けますか?」
この話をすると神仏に仕える者達はいい顔をせず、命の尊さを説かれることもある。永最もその類と思いススキノは構えたが、そうはならなかった。
「いえ、むしろ妖怪を祓う方法を教えてもらいたい位でございます」
この国でも他国でも、一部の地域では他人に見えないモノを見える者は嫌われる風習を知っているススキノは、その心境を否定できなかった。
一方、二人には気づかれていないが、幸之助は妖怪の存在を拒んでいる意見に心を痛め、仄かに虚しい思いが表情に滲む。
「では、全てではありませんが祓い手の初歩ぐらいなら御教えします。その代りと言ってはなんですが……目指す村へ同行してもらいます。幸之助殿はどうします?」
「いや、天邪鬼の意見を聞いてないから、ここは遠慮します」
「幸之助殿、あいつは貴方に憑いてる存在です。意見など、聞く必要はないのでは?」声に力が籠る。
「恩人で友だ。素性は何であれ無下にも邪険にもしない。という訳で、俺は同行出来ない」
それでも何とか勧誘したが、言っても無駄となった。
「ススキノさんの説明にあったように、祓い手は祈想幻体も消滅出来る。つまり、天邪鬼も祓われる危険がある。お気を悪くしないでください。別に同行が嫌いなのではなく、祓いによる変化が恐ろしく、天邪鬼を失うのが怖いのです。”むやみやたらと祓い手を信用するな”天邪鬼を失いたくないならその点は肝に銘じておかなければならないと、桜城様に教えられたので」
昔、祈想幻体、異念体、その存在を見つけ次第、祓う輩が存在した。
今現在では、それをすることで別の災いが生じるなど、自然界と亜界の住人達との因果関係が注視され、そういった輩が減りはした。
しかし”怪しい祓い手は警戒”という猜疑心は、祈想幻体を良しと思う者達の間では根付いている。
「現に俺は一日の内、長くて昼から夕方までしか表に出てこれません。しっかりした天邪鬼の存在は大きいのです」
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