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裏山とその学校について
間違えた岐路
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―昔の記憶― 東雲 峰
「なぁ、峰、兄ちゃんな、お前がほしがってたやつ買ってきたぞ」
僕は嬉しかった。
「えっ?本当、兄ちゃん!」
「ああ、これ欲しがってたろ?」
兄さんはかわいい柄にラッピングされていたものを、小脇に抱えている。
「ほら、開けてみろ」
兄さんはそれを僕に手渡した。開けてみると、そこには僕の欲しかった本が入っていた。それを手に取ると、僕は見とれるように、その本を眺めた。
「ありがとう兄ちゃん。これ大切にするよ!」
兄さんは笑顔になる。
──なつかしい記憶
「そうか、気に入ってくれたか」
兄さんとそうしていると、一階から母さんの声がしてきた。
「峰~、陽~、ご飯よ~」
料理のおいしい匂いがする。
「よし!峰、行くぞっ!」
僕はうんとうなづいた。
──家族にもう一度会いたいなぁ。
眼の前に闇が広がる。
──兄さんはどこにいるのだろうか。世界でたった一人の僕の兄さん。
視界が変わった。
「………峰……ごめんな……親父も母さんも……兄ちゃんが不甲斐ないせいで………本当に……本当に………」
──兄さん、僕は。
力いっぱい抱きしめてくれた。
──そんなに泣かないでよ。
「………峰……お前はここにいろ……絶対に動くんじゃないぞ………兄ちゃんは少し確かめておきたいことがある。兄ちゃんが戻ってくるまで動いちゃだめだからな」
僕は不安でたまらなかった。
「なに心配そうな顔してんだよ。必ず戻るから………」
兄さんの目には、まだ涙が浮かんでいる。
──兄さん。待ってくれよ、置いていかないで、僕は一人なんて嫌だよ。
気づけば勝手に足が動いていた。兄さんの言いつけも守らずに、ただひたすら僕は歩き続けていた。
どこにいるの。
すると突然。誰かの声が聞こえてきた。
「………兄ちゃん?………兄ちゃんの声だ!」
僕は嬉しくなり、歩くスピードを速めた。
だが、僕はすぐに足を止めた。誰かが兄さんと話している。
僕は物陰に隠れた。
「お前が……お前がこれをやったのか?」
兄さんの声だった。そしてもうひとり女の声がした。
「ええそうよ。やったのは私じゃないけど、あいつらは加減を知らないのよね。まぁ、私に刃向かってきたから当然のことだけど」
僕は怖くて見れなかった。なぜかとても怖かった。
「くそっ!お前らのせいで俺は親父と母さんを失った。だけど、あいつだけは生きていてくれた。俺はなんとしてでも、家族を守る!」
兄さんは必死にそう言う。
「あなた、現実を見なさい。守るべきものは、まだ他にいるでしょ?たとえば………仲間とか?」
女の人はフフッと笑っていた。
「何を言ってる?笑わせるな。俺の仲間はお前らが思っているほど弱くはない。俺は信じてる。お前たちに何をされようとも、生きてみせるってな」
兄さんも軽く笑う。
「そう………貴方は仲間を信じているのね。今、私の部下があなたのお仲間さんたちに会っている頃だわ。数時間後、どちらがこの地に立っているかしら?楽しみね」
女の人はそう言った。
「俺は、絶対生きて帰る。あいつと約束したからな。今日。お前ノ命をもっテ………」
「お前を………どうするの?」
「お前ヲ………………倒すッ!」
次の瞬間、僕はガバッ!!と布団から飛び起きた。
息がまともにできない。
「………ハァ………ハァ………なんだ……夢かよ」
目覚まし時計がけたたましく鳴っている。額の汗が垂れてきた。それを拭うと、僕は目覚まし時計を止める。
なんで………よりによって……あの記憶が………。
「………はぁ………僕……疲れてるのかな」
毛布を体からどかすと、僕は深呼吸をした。
落ち着け、落ち着くんだ。
呼吸を整えると。ふと過去のことを思い出す。
あの日、兄さんはいなくなった。
僕は完全に心を落ち着かせるために窓を開けた。山に隠れ、まだしっかりと出てない朝日を眺める。
あのとき、僕は怖くて動けなかった。ずっと物陰に隠れてうずくまっていた。体はガタガタと震え、目は半泣きの状態だった。耳を両手で押さえて、何も聞こえないようにした。
そして、どのくらいだったかはわからないけど、辺りはいつの間にか静かになっていた。僕は勇気を出して物陰から出てみたんだ。
でも、そこには誰もいなかった。兄さんも、女の人も。
「………兄ちゃん?」
僕はそんなはずはないと思い、周りを見渡していた。
しかし、いくら捜しても兄さんは見つからなかった。代わりに、少しの血溜まりと変なものが見つかった。
──刀──
だった。黒い鞘に収まっていた。
僕はそれを手に取り、眺める。やはり刀だったのですごく重かった。また、なにか別の重みも感じた。僕はなんとなく背中に背負ってみた。
手放すのはやだ……わかんないけど………。
その時の僕は、もう怖さなどなくなっていた。それよりも、早く兄さんを見つけないとだめだと思っていた。
「………僕の……兄ちゃん………」
ふとあることが頭によぎった。
もしかしたら、兄さんはあの人に連れ去られた?
僕の感情は突然と切り替わる。怒りという感情に。
「………兄ちゃんを………返せよ」
僕は手をギュッと握った。
その日から僕は兄さんを見つけるべく、なにか関係するものはないかとずっと探し続けた。分かっていることは。
・あの日、村は地震が起きていたこと。
・兄さん以外にも人が消えているということ
・落ちていた刀は兄さんのものということ
情報はまったくなかった。捜索届も出したが、見つからなかった。それは不自然すぎるほどに。
僕は深くため息をし、布団を畳むと押し入れの中に入れた。入れ終わると、壁にかけてある制服を取る。慣れた手付きで制服に着替え、僕は一階に行くため階段を降りる。
あの日から、二年の月日が流れていた。
僕は、高校生になっていた。
「なぁ、峰、兄ちゃんな、お前がほしがってたやつ買ってきたぞ」
僕は嬉しかった。
「えっ?本当、兄ちゃん!」
「ああ、これ欲しがってたろ?」
兄さんはかわいい柄にラッピングされていたものを、小脇に抱えている。
「ほら、開けてみろ」
兄さんはそれを僕に手渡した。開けてみると、そこには僕の欲しかった本が入っていた。それを手に取ると、僕は見とれるように、その本を眺めた。
「ありがとう兄ちゃん。これ大切にするよ!」
兄さんは笑顔になる。
──なつかしい記憶
「そうか、気に入ってくれたか」
兄さんとそうしていると、一階から母さんの声がしてきた。
「峰~、陽~、ご飯よ~」
料理のおいしい匂いがする。
「よし!峰、行くぞっ!」
僕はうんとうなづいた。
──家族にもう一度会いたいなぁ。
眼の前に闇が広がる。
──兄さんはどこにいるのだろうか。世界でたった一人の僕の兄さん。
視界が変わった。
「………峰……ごめんな……親父も母さんも……兄ちゃんが不甲斐ないせいで………本当に……本当に………」
──兄さん、僕は。
力いっぱい抱きしめてくれた。
──そんなに泣かないでよ。
「………峰……お前はここにいろ……絶対に動くんじゃないぞ………兄ちゃんは少し確かめておきたいことがある。兄ちゃんが戻ってくるまで動いちゃだめだからな」
僕は不安でたまらなかった。
「なに心配そうな顔してんだよ。必ず戻るから………」
兄さんの目には、まだ涙が浮かんでいる。
──兄さん。待ってくれよ、置いていかないで、僕は一人なんて嫌だよ。
気づけば勝手に足が動いていた。兄さんの言いつけも守らずに、ただひたすら僕は歩き続けていた。
どこにいるの。
すると突然。誰かの声が聞こえてきた。
「………兄ちゃん?………兄ちゃんの声だ!」
僕は嬉しくなり、歩くスピードを速めた。
だが、僕はすぐに足を止めた。誰かが兄さんと話している。
僕は物陰に隠れた。
「お前が……お前がこれをやったのか?」
兄さんの声だった。そしてもうひとり女の声がした。
「ええそうよ。やったのは私じゃないけど、あいつらは加減を知らないのよね。まぁ、私に刃向かってきたから当然のことだけど」
僕は怖くて見れなかった。なぜかとても怖かった。
「くそっ!お前らのせいで俺は親父と母さんを失った。だけど、あいつだけは生きていてくれた。俺はなんとしてでも、家族を守る!」
兄さんは必死にそう言う。
「あなた、現実を見なさい。守るべきものは、まだ他にいるでしょ?たとえば………仲間とか?」
女の人はフフッと笑っていた。
「何を言ってる?笑わせるな。俺の仲間はお前らが思っているほど弱くはない。俺は信じてる。お前たちに何をされようとも、生きてみせるってな」
兄さんも軽く笑う。
「そう………貴方は仲間を信じているのね。今、私の部下があなたのお仲間さんたちに会っている頃だわ。数時間後、どちらがこの地に立っているかしら?楽しみね」
女の人はそう言った。
「俺は、絶対生きて帰る。あいつと約束したからな。今日。お前ノ命をもっテ………」
「お前を………どうするの?」
「お前ヲ………………倒すッ!」
次の瞬間、僕はガバッ!!と布団から飛び起きた。
息がまともにできない。
「………ハァ………ハァ………なんだ……夢かよ」
目覚まし時計がけたたましく鳴っている。額の汗が垂れてきた。それを拭うと、僕は目覚まし時計を止める。
なんで………よりによって……あの記憶が………。
「………はぁ………僕……疲れてるのかな」
毛布を体からどかすと、僕は深呼吸をした。
落ち着け、落ち着くんだ。
呼吸を整えると。ふと過去のことを思い出す。
あの日、兄さんはいなくなった。
僕は完全に心を落ち着かせるために窓を開けた。山に隠れ、まだしっかりと出てない朝日を眺める。
あのとき、僕は怖くて動けなかった。ずっと物陰に隠れてうずくまっていた。体はガタガタと震え、目は半泣きの状態だった。耳を両手で押さえて、何も聞こえないようにした。
そして、どのくらいだったかはわからないけど、辺りはいつの間にか静かになっていた。僕は勇気を出して物陰から出てみたんだ。
でも、そこには誰もいなかった。兄さんも、女の人も。
「………兄ちゃん?」
僕はそんなはずはないと思い、周りを見渡していた。
しかし、いくら捜しても兄さんは見つからなかった。代わりに、少しの血溜まりと変なものが見つかった。
──刀──
だった。黒い鞘に収まっていた。
僕はそれを手に取り、眺める。やはり刀だったのですごく重かった。また、なにか別の重みも感じた。僕はなんとなく背中に背負ってみた。
手放すのはやだ……わかんないけど………。
その時の僕は、もう怖さなどなくなっていた。それよりも、早く兄さんを見つけないとだめだと思っていた。
「………僕の……兄ちゃん………」
ふとあることが頭によぎった。
もしかしたら、兄さんはあの人に連れ去られた?
僕の感情は突然と切り替わる。怒りという感情に。
「………兄ちゃんを………返せよ」
僕は手をギュッと握った。
その日から僕は兄さんを見つけるべく、なにか関係するものはないかとずっと探し続けた。分かっていることは。
・あの日、村は地震が起きていたこと。
・兄さん以外にも人が消えているということ
・落ちていた刀は兄さんのものということ
情報はまったくなかった。捜索届も出したが、見つからなかった。それは不自然すぎるほどに。
僕は深くため息をし、布団を畳むと押し入れの中に入れた。入れ終わると、壁にかけてある制服を取る。慣れた手付きで制服に着替え、僕は一階に行くため階段を降りる。
あの日から、二年の月日が流れていた。
僕は、高校生になっていた。
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