不思議系 精神科医Dr.Friday〜ひきこもり、日本を救う〜(ひきこもりの人達のしていたことは？想像のつかないスケールの五話目完結)

第五話(1)

鈴木医師あて不思議な「問い合わせ」

金曜日の朝。鈴木医師はいつものとおり「とちの実病院」に出勤してきた。

「とちの実病院」は、最寄りの駅から離れた場所にあるので、駅から病院までは、タクシーを使う。

いつもと同じように、病院の正面入口に停めてもらい、タクシーを降り、院内に入った。

診察室で白衣に着替え、佐藤看護師が用意して机に置いてくれている、今日の予約患者のカルテに目を通す。

「あのう～、先生。」

カルテに集中していたところへ、突然、佐藤看護師の声が背後から聞こえ、鈴木医師は少しビクッとして振り向いた。

そこには、困惑した表情の佐藤看護師が、1枚の紙を手に持ち、立っていた。

佐藤看護師が話しだした。

「病院のホームぺージの「お問い合わせフォーム」に、こんな内容が書き込まれて届いたんです。」
そう言いながら、手にした紙を、鈴木医師の机に置く。

「お問い合わせフォーム」の部分を佐藤看護師がプリントしてくれたようだ。

「とちの実病院」は、ひとりひとりの患者さんにじっくり向き合う診療体制のため、多くの患者さんを一度に受け入れることは出来ない。そのため広告などは出しておらず、病状が良くなった患者さん達の口コミで、次の患者さんが来るということが多い。

病院のホームぺージも、いまどきホームぺージさえないのでは、病院の存在を信用してもらえないので、一応、簡単なものを出しているだけだ。これまで「お問い合わせフォーム」に、まったくの見ず知らずの人から、問い合わせが届いたことはなかった。

しかも、佐藤看護師がプリントしてくれた内容の書き出しは、鈴木医師の名前あてになっていた。月曜から木曜は、他の医師が担当しているのだが、どの医師でもよいというわけではないらしい。

佐藤看護師が去ってから、鈴木医師は「問い合わせ」を読んだ。


『鈴木　恵　先生へ

突然失礼します。私は、半年ほど前に、鈴木先生が、集合的無意識の中を泳いでおられるのを目撃した者です。偶然目撃し、白衣を着ておられたのと、集合的無意識まで降りて来ることができるのは、精神科医の先生であろうと推察し、どちらの先生か、私の記憶と我々のネットワークを駆使して捜索したところ、何年か前に先生の診療を受けたことがあるという我々の仲間のひとりと、私が目撃した先生の容姿が一致したため、鈴木　恵　先生だと目星をつけ、こちらの病院あてにメールをさせてもらいます。

我々の用件は、近々、我々が総力をあげて取り組んできた、ある出来事が成就するので、精神科医である先生に、目撃の証人になっていただけないかという希望から、問い合わせをするものです。鈴木先生が、我々のことに関心を寄せてくださるなら、私宛に返信のメールをいただきたいです。よろしくお願いします。

全日本ひきこもり当事者の会
会長　中光　正希　』



不思議な内容のメールだと、鈴木医師は思った。集合的無意識の中を泳いだのは、セフティホームの内村氏のところへ行った時のことだろう。あの時の自分の姿を見られていたのか。ひきこもりの人達が、総力をあげて取り組んできた出来事とは何だろう？「全日本ひきこもり当事者の会」という組織ができていることは、初めて知った。おそらくインターネットでつながっている組織なのだろうが、いつの間に作ったのだろう？



そろそろ診察開始の時刻だ。鈴木医師は、このメールのことは、今日の診察が終わってから考えることにして、今は目の前の患者に集中することにした。