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第1話 アメリス、追放
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「アメリス、あなたは我が家から出て行ってもらいます」
お母様からそう言われたのはつい今朝の出来事だった。現在、絶賛路頭に迷い中である。
私、アメリス=ロナデシアはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の次女だ。三姉妹の真ん中である。本来ならば今頃は、月に一度行われる八大領主たちのお茶会に出席している予定であったが、私が今座っているのは綺麗な装飾が施された椅子の上などではなく道端にあった大きめの石の上であり、手に持っているのはティーカップではなく渡された手切れ金の入ったふくろである。
私はもう一度考える。どうして私が追放されなければならないのか。確かに出来の良い娘ではなかった。三姉妹の中で一番器量が悪く、勉学も運動もからっきしだった。姉のように計算高く物事を掌握する能力もなく、妹のように愛想を振り撒き男を虜にする能力だってない。
だけど少なくとも家の名前に恥じぬよう頑張ってきたじゃない。
さんさんと照りつける太陽の下で、私は歯噛みする。私には頭も愛嬌もない。だからせめて領民に好かれようと、民を大切にしようと一生懸命慈善事業に勤しんだのに。炊き出しや病人の介護、そういった活動に力を入れてせめて役立とうとした。だがその努力も無駄だ。目に見える形で成果を出さないものは捨てられてしまうのだ。
もちろん追放される時にお母様に理由を尋ねたが、それは自分の心に聞きなさいと冷たくあしらわれてしまい、取り合ってくれなかった。お父様はあいにく隣のナゲル連邦に国境の小競り合いの調停のために派遣されているため不在だ。お母様は目に見えて成果を上げる姉や妹を可愛がるのに対し、お父様は私たち姉妹を平等に愛してくれた。そしてもちろん領民のことも大切にしていた。何もない私が慈善事業をしようと思ったのもお父様の影響かもしれない。お父様が不在でなければ、私のことを庇ってくれたかもしれないのに。
そこまで考えて私は思った。いや、どっちみち私は追放されていたな、と。なぜならお父様は婿養子であり、お母様には頭が上がらない。それにあの気弱で優しい性格だ、お母様の勢いに押し切られてしまうだろう。
結局私みたいな役立たず、追放される運命なのか。せめて政略結婚の手駒にでもしてくれればいいものを。いやあのお母様のことだ、こんな器量の悪い娘をよそに出すことも恥ずかしいと思ったのかもしれない。
私は石に手をつき、ぼんやりと空を眺める。今日は快晴だ、私の心とは大違い。
お母様は去り際にこのマハス公国ロナデシア領から出て行けと言った。要するに領民たちにも不様な娘を晒したくないということだ。そこまで私を追い込んでお母様は何がしたいのか。
しかしどうしたものか。あてなど全くない。そもそもここはどこなのだろう、家を出る時に目隠しをして馬車に乗せられ、よくわからない道の途中で降ろされた。基本屋敷で過ごしている私にとって、あまりに未知の世界であり、慈善事業に行く農村や街ならまだしも、街や村をつなぐのであろう整備されていない道で降ろされてしまってはどうすることもできないのだ。このままでは確実に野垂れ死んでしまう。
それもいっそのこと悪くないか、そう思った時だった。遠くから馬車が近づく音が聞こえる。知り合いだったらいいのに、そんな希望的観測を抱きながら私は相変わらず空を見ていた。
「アメリス様、こんなところで何をしているのですか」
馬車の音が私に最も近づいたのと同時にそんな声が聞こえた。空を見上げるのをやめて声のする方を向くと、馬の上に座る人物には見覚えがあった。
「ヨーデル! あなたヨーデルじゃない! どうしてここに?」
彼は私が以前関わりを持った農村の青年である。きっかけは彼の村で老若男女問わず体調不良を訴える事件が起きたことだ。お母様は気味が悪いから放っておけと見捨てようとした。だがそんな酷いことはできないと思い、私が独断で様子を見に行ったことから交流が始まった。
側近の兵士(今は姉の画策により私の周りから引き離されてしまった)に原因を調べさせると、それは彼らの育てている作物があまりにも偏ったものばかりで、食事はとっているのにも関わらず栄養失調になってしまっていたためであった。なので私は彼らに食事の知識を与えたり、栄養のあるものを配給したりして事なきことを得た。あの時は大層感謝されたが、領主の一族としては当然の行いであると私は自負している。
「それはこちらの言葉です。ここナゲル連邦の領土ですよ、様子を見るに公務でもなさそうですし、どうしてこんなところに?」
ヨーデルの言葉を聞き、ただただ驚くことしかできない。せめてマハス公国の他の領主の土地に捨てられたかと思ったが、まさかいくらロナデシア領がナゲル連邦と接しているからといって普通隣国に捨てるだろうか。いや普通なら娘を追い出さないか。私は手短にロナデシア家から追放されたことを語った。
「そんな、アメリス様ほど心のお優しい方を追放するなんて信じられません。俺たちの村はあなたに救われたのです」
ヨーデルは手に持っていた袋を落とした。中からは数枚の金貨が溢れた。
「それよりヨーデルはなんでここに? 許可のない国境の移動は禁止されていなかった?」
私の事情もよんどころないものであるが、それよりも私には疑問があった。どうしてヨーデルがここナゲル連邦にいるのかということである。
「それは……」
だがすぐには話してくれなかった。ヨーデルは話しずらそうに口をもごもごさせる。もしかして私が立場のある人間だから話しづらいのであろうか。
「もしかして私が領主の娘だから何か隠したいことでもあるの? だったら心配しなくていいわ、私もう追放されてロナデシア一家とは一切関わりがないもの」
私がそう言うと、予想は当たったらしく、ヨーデルはポツポツと事情を語り始めた。実は彼の住む農村では最近収穫量が少ないのにも関わらず年貢の取り立てが厳しいので、食うのに困るものが大勢いるらしい。
そこで彼らが思いついた対抗策が極秘に商品作物を年貢の分とは別に栽培して、市場に売って財を蓄えることである。しかしマハス公国内で商品を売ってしまえばすぐにバレてしまい、全て取り上げられてしまう。だからナゲル連邦に隣接している立地を生かし、国境を越えると言う危険を冒してまで商品を売りに来ているということだった。
「国の法を犯すのは申し訳ないと思っているんですが、こうしないと生きられないんです。申し訳ありません」
ヨーデルが謝罪の言葉を述べるが謝らなければならないのはこちらの方だ。私の目の届かないところでこんなにも苦しんでいる領民がいるなんて!
「いいえ、謝るのは私の方よ。私が不甲斐ないばっかりに……ごめんなさい」
領民にこんな苦痛を強いて何が統治者だ。お母様の顔が浮かび、一層腹が立つ。
「とんでもない、悪いのはアメリス様ではありません」
ヨーデルはそう言ってくれるが、私の心臓にはずしりと錘がつけられたような感触があった。自分が追放された時にも似たような鈍い痛みがあった気がするが、今の方が苦しかった。
「とりあえずここで話すのもなんですし、ナゲル連邦の街に行きませんか。それにその服じゃどこに行っても目立つでしょう。適当に庶民の服を調達しますよ」
ヨーデルは商品作物をナゲル連邦に売りに行く途中で私を見つけたらしい。ここにきて彼に頼るのは申し訳なかったが、私は他に頼るあてもないし、服も屋敷で着ているドレスのままであったので動きずらくて仕方がないのも事実である。私は後ろめたさを感じながらも、ヨーデルに頼ることにした。
お母様からそう言われたのはつい今朝の出来事だった。現在、絶賛路頭に迷い中である。
私、アメリス=ロナデシアはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の次女だ。三姉妹の真ん中である。本来ならば今頃は、月に一度行われる八大領主たちのお茶会に出席している予定であったが、私が今座っているのは綺麗な装飾が施された椅子の上などではなく道端にあった大きめの石の上であり、手に持っているのはティーカップではなく渡された手切れ金の入ったふくろである。
私はもう一度考える。どうして私が追放されなければならないのか。確かに出来の良い娘ではなかった。三姉妹の中で一番器量が悪く、勉学も運動もからっきしだった。姉のように計算高く物事を掌握する能力もなく、妹のように愛想を振り撒き男を虜にする能力だってない。
だけど少なくとも家の名前に恥じぬよう頑張ってきたじゃない。
さんさんと照りつける太陽の下で、私は歯噛みする。私には頭も愛嬌もない。だからせめて領民に好かれようと、民を大切にしようと一生懸命慈善事業に勤しんだのに。炊き出しや病人の介護、そういった活動に力を入れてせめて役立とうとした。だがその努力も無駄だ。目に見える形で成果を出さないものは捨てられてしまうのだ。
もちろん追放される時にお母様に理由を尋ねたが、それは自分の心に聞きなさいと冷たくあしらわれてしまい、取り合ってくれなかった。お父様はあいにく隣のナゲル連邦に国境の小競り合いの調停のために派遣されているため不在だ。お母様は目に見えて成果を上げる姉や妹を可愛がるのに対し、お父様は私たち姉妹を平等に愛してくれた。そしてもちろん領民のことも大切にしていた。何もない私が慈善事業をしようと思ったのもお父様の影響かもしれない。お父様が不在でなければ、私のことを庇ってくれたかもしれないのに。
そこまで考えて私は思った。いや、どっちみち私は追放されていたな、と。なぜならお父様は婿養子であり、お母様には頭が上がらない。それにあの気弱で優しい性格だ、お母様の勢いに押し切られてしまうだろう。
結局私みたいな役立たず、追放される運命なのか。せめて政略結婚の手駒にでもしてくれればいいものを。いやあのお母様のことだ、こんな器量の悪い娘をよそに出すことも恥ずかしいと思ったのかもしれない。
私は石に手をつき、ぼんやりと空を眺める。今日は快晴だ、私の心とは大違い。
お母様は去り際にこのマハス公国ロナデシア領から出て行けと言った。要するに領民たちにも不様な娘を晒したくないということだ。そこまで私を追い込んでお母様は何がしたいのか。
しかしどうしたものか。あてなど全くない。そもそもここはどこなのだろう、家を出る時に目隠しをして馬車に乗せられ、よくわからない道の途中で降ろされた。基本屋敷で過ごしている私にとって、あまりに未知の世界であり、慈善事業に行く農村や街ならまだしも、街や村をつなぐのであろう整備されていない道で降ろされてしまってはどうすることもできないのだ。このままでは確実に野垂れ死んでしまう。
それもいっそのこと悪くないか、そう思った時だった。遠くから馬車が近づく音が聞こえる。知り合いだったらいいのに、そんな希望的観測を抱きながら私は相変わらず空を見ていた。
「アメリス様、こんなところで何をしているのですか」
馬車の音が私に最も近づいたのと同時にそんな声が聞こえた。空を見上げるのをやめて声のする方を向くと、馬の上に座る人物には見覚えがあった。
「ヨーデル! あなたヨーデルじゃない! どうしてここに?」
彼は私が以前関わりを持った農村の青年である。きっかけは彼の村で老若男女問わず体調不良を訴える事件が起きたことだ。お母様は気味が悪いから放っておけと見捨てようとした。だがそんな酷いことはできないと思い、私が独断で様子を見に行ったことから交流が始まった。
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「そんな、アメリス様ほど心のお優しい方を追放するなんて信じられません。俺たちの村はあなたに救われたのです」
ヨーデルは手に持っていた袋を落とした。中からは数枚の金貨が溢れた。
「それよりヨーデルはなんでここに? 許可のない国境の移動は禁止されていなかった?」
私の事情もよんどころないものであるが、それよりも私には疑問があった。どうしてヨーデルがここナゲル連邦にいるのかということである。
「それは……」
だがすぐには話してくれなかった。ヨーデルは話しずらそうに口をもごもごさせる。もしかして私が立場のある人間だから話しづらいのであろうか。
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