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chapter,2 Los Angeles → Hawaii
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* * *
けっきょくこの日の夜はプレミアムスイートルームに併設されている使用人控え室で過ごすことになった。カナトがマツリカのキャリーバッグを手放してくれなかったからだ。
「同じ部屋で泊まるなんて無理です、無茶です、無謀です!」
「プレミアムスイートのベッドをつかえばいい。俺はソファでも雑魚寝でも構わない」
「使用人控え室にも簡易ベッドがありますので問題ありません。キングサイズの立派なベッドはカナトさまがおひとりで悠々自適に過ごされるために必要なものだと思われます、一介の新人コンシェルジュが使用する類いのものではございません!」
「……恋人になるなら気にすることもないと思うが」
「あたしはカナトさまの恋人になるとは言ってません! クルーズのあいだ周囲を欺くための恋人役なら承っても構わないと口にしただけです」
「同じじゃないか」
「違いますっ」
カナトと対峙したことで、マツリカにとって彼の専属コンシェルジュとして残り約二ヶ月のクルーズをともに過ごすことは、父親の死の真相を知るための手段としては悪くないと考えるようになっていた。はじめのうちは自分を試すような言動でマツリカを翻弄したが彼自身は彼女をライバル企業の社長令嬢であるにもかかわらずスパイではないと信じてくれたのだ。ただ、カナトの周囲にはマツリカをスパイだと疑う人間もいると言っていた。疑いを晴らすために提示された取引の条件、それが「恋人になる」こと。
マツリカはクルーズの間だけ彼を慰める恋人役を務めればいいのだと判断し、すぐさま取引を受け入れた。
――そういえば、鳥海海運の若き海運王には心に決めた初恋の女性がいるってとある経済雑誌のインタビュー記事だかコラムで話題になって嘘か本当かわからないわねって先輩たちが騒いでたっけ。あたしはその記事読んでないけど。もしそうだとしたら、恋人のふりをしていればいいってことよね。
カナトは年老いた両親に結婚を迫られており、周囲の人間も彼に見合う女性を探すのに躍起になっているのだという。だが、そのなかに彼が求めている運命の相手はいないようだ。いつしかカナトに言い寄る女性も後をたたなくなったため、彼の側近や護衛は対象外の女性を退けるのに無駄な労力を割いているのだとか。だから豪華客船内でコンシェルジュの金髪美女を侍らせていたのはあくまで女性除けだったのだと言い訳のように説明する彼を冷めた目で見つめながら、マツリカはふん、と苦し紛れの弁解をする。
「恋人じゃなくて恋人役ですからね。あたしはあくまでクルーズのあいだの女性除けになることを受け入れただけ」
「……それでもいいよ。俺の傍にいてくれるなら」
「?」
さきほどまでの強引さとはうってかわって、しんみりとした表情になったカナトが微笑う。
「今夜はもういいよ。使用人控え室でゆっくりして、明日からの任務に備えておくれ」
「……はい」
これ以上言い争っても無駄だと諦めたのか、カナトは素直にマツリカをスイートルームの寝室の隣にある扉を開き、彼女をなかへ誘う。
「ハゴロモでのクルーズがはじまってはや十日だな」
「ええ、残り二ヶ月間よろしくお願いします」
あくまで他人行儀なマツリカを見て、寂しそうな表情を浮かべていたカナトだったが、ふと思い立ったように口をひらく。
「ずっと部屋に閉じこもって仕事をしていたが、そろそろ息抜きがしたいと考えてる。明日は寄港予定だったよな?」
「はい。ハワイのワイキキが最初の寄港地になります」
「わかった。それじゃあ服を用意しなくてはいけないな」
「服?」
きょとんとするマツリカに、カナトがくすりと笑う。
「俺の恋人役としての最初の任務は、ワイキキ観光でのデートだからだ」
けっきょくこの日の夜はプレミアムスイートルームに併設されている使用人控え室で過ごすことになった。カナトがマツリカのキャリーバッグを手放してくれなかったからだ。
「同じ部屋で泊まるなんて無理です、無茶です、無謀です!」
「プレミアムスイートのベッドをつかえばいい。俺はソファでも雑魚寝でも構わない」
「使用人控え室にも簡易ベッドがありますので問題ありません。キングサイズの立派なベッドはカナトさまがおひとりで悠々自適に過ごされるために必要なものだと思われます、一介の新人コンシェルジュが使用する類いのものではございません!」
「……恋人になるなら気にすることもないと思うが」
「あたしはカナトさまの恋人になるとは言ってません! クルーズのあいだ周囲を欺くための恋人役なら承っても構わないと口にしただけです」
「同じじゃないか」
「違いますっ」
カナトと対峙したことで、マツリカにとって彼の専属コンシェルジュとして残り約二ヶ月のクルーズをともに過ごすことは、父親の死の真相を知るための手段としては悪くないと考えるようになっていた。はじめのうちは自分を試すような言動でマツリカを翻弄したが彼自身は彼女をライバル企業の社長令嬢であるにもかかわらずスパイではないと信じてくれたのだ。ただ、カナトの周囲にはマツリカをスパイだと疑う人間もいると言っていた。疑いを晴らすために提示された取引の条件、それが「恋人になる」こと。
マツリカはクルーズの間だけ彼を慰める恋人役を務めればいいのだと判断し、すぐさま取引を受け入れた。
――そういえば、鳥海海運の若き海運王には心に決めた初恋の女性がいるってとある経済雑誌のインタビュー記事だかコラムで話題になって嘘か本当かわからないわねって先輩たちが騒いでたっけ。あたしはその記事読んでないけど。もしそうだとしたら、恋人のふりをしていればいいってことよね。
カナトは年老いた両親に結婚を迫られており、周囲の人間も彼に見合う女性を探すのに躍起になっているのだという。だが、そのなかに彼が求めている運命の相手はいないようだ。いつしかカナトに言い寄る女性も後をたたなくなったため、彼の側近や護衛は対象外の女性を退けるのに無駄な労力を割いているのだとか。だから豪華客船内でコンシェルジュの金髪美女を侍らせていたのはあくまで女性除けだったのだと言い訳のように説明する彼を冷めた目で見つめながら、マツリカはふん、と苦し紛れの弁解をする。
「恋人じゃなくて恋人役ですからね。あたしはあくまでクルーズのあいだの女性除けになることを受け入れただけ」
「……それでもいいよ。俺の傍にいてくれるなら」
「?」
さきほどまでの強引さとはうってかわって、しんみりとした表情になったカナトが微笑う。
「今夜はもういいよ。使用人控え室でゆっくりして、明日からの任務に備えておくれ」
「……はい」
これ以上言い争っても無駄だと諦めたのか、カナトは素直にマツリカをスイートルームの寝室の隣にある扉を開き、彼女をなかへ誘う。
「ハゴロモでのクルーズがはじまってはや十日だな」
「ええ、残り二ヶ月間よろしくお願いします」
あくまで他人行儀なマツリカを見て、寂しそうな表情を浮かべていたカナトだったが、ふと思い立ったように口をひらく。
「ずっと部屋に閉じこもって仕事をしていたが、そろそろ息抜きがしたいと考えてる。明日は寄港予定だったよな?」
「はい。ハワイのワイキキが最初の寄港地になります」
「わかった。それじゃあ服を用意しなくてはいけないな」
「服?」
きょとんとするマツリカに、カナトがくすりと笑う。
「俺の恋人役としての最初の任務は、ワイキキ観光でのデートだからだ」
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