若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

ささゆき細雪

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chapter,6 Pulau Bali

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 オーストラリアを発って以来、ハゴロモのプライベートスイートでカナトと必要以上に一緒にいることを避けていたマツリカは航海中に彼が何をしていたか知らなかった。仕事の書類と格闘しているものだと思っていたのに、どうやら彼はそれだけではなく、マツリカ個人についても独自に調査をしていたらしい。

「どうすれば貴女が俺の求婚を受け入れてくれるのか、ずっと悩んでいた。船内からのネットワーク回線は会社経由でつかえるから、外部との連絡をとりながら考えたんだ。そこで俺はナガタニが生前所属していた鳥海のシンガポール現地法人に指示を出した。過去から現代までを洗わせるために」
「バパのことを?」
「シンガポールで俺たちが出逢ったとき、伊瀬は貴女の父親とふたりきりで会話をしている。この指輪は、海で溺れた娘を助けてくれたお礼にと、彼が渡してくれたものだ」
「……えっ」
「あのとき俺は十歳だったから、伊瀬は大人になるまで預かっていたんだ。このおおきさのサファイアだと時価二十万くらいが妥当かな」
「ひぃ」

 なんてものを父親は渡しているんだ、と顔色を変えるマツリカを面白がりながら、カナトはつづける。

「伊瀬は俺に十五年ものあいだこの真実を隠していた。マツリカが航海士ナガタニの娘であることをはじめから知っていた彼は、俺が彼女を執拗に求める姿に危惧を抱いていたからだ」
「でも、それは仕方がないことじゃ」
「貴女の母親が城崎清一郎と再婚したから? たしかに彼女には申し訳ないことをしたと思っている。それゆえ父親も多額の慰謝料を差し出して和解に応じたはずだ」
「でも、それは結果でしかない……そうよね?」
「ああ。だから俺は、今夜マツリカにすべてを明かす。なぜ貴女の父親が船舶事故で犠牲になったのか。なぜ当初は彼の名前がなかったものとされていたのか――」


   * * *


 伊瀬がカナトに伝えた真実をマツリカに説明すると、彼女は泣き笑いの表情を浮かべて頷いた。

「……なあんだ。拍子抜けしちゃった」
「けど、怒っていた貴女の母親を説得させることを怠ってお金で無理矢理解決したのは事実だ。申し訳ないと思う」
「カナトが謝る必要はないよ。ちょっとしたミスって、誰にでも起こることじゃない」
「プロとして失格だ。マツリカだってそう思わないか?」

 しょんぼりしてしまったカナトを慰めるように、マツリカは彼の黒髪に手を伸ばす。

「あのね、カナト。航海士だったバパはいつも海にでるとき、死んでもおかしくないって覚悟してたって西島さんが言ってたよ。あたしが父親の死の真相を知りたいって彼に伝えたときも、笑わないで訊いてくれたの。そのうえで、今回のハゴロモクルーズのコンシェルジュに選抜してくれたの」
「西島さん?」
「鳥海本社の陸上職を経て退職後、アメリカ法人からBPWのCOOになったあたしの上司」
「そうだったのか……あはは、はは!」
「カナト?」

 顔をくしゃくしゃにしながら笑いはじめるカナトを不気味そうに見つめるマツリカに、彼はごめんごめんと慌てて言葉を紡ぐ。

「鳥海本社にいる人間は、俺の初恋を知ってるのが大半だ。ナガタニの娘が海上コンシェルジュとしてアメリカ勤務していることを知った西島が父親の代わりにハゴロモクルーズの視察に俺を推したのも、マツリカと再会させるためだったのか……!」
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