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chapter,6
~神謡に舞姫は開花を願う~ 4
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「あんの莫迦!」
道花が檻のなかでちからを暴発させるのを待っていたかのように、神殿が炎に包まれる。狗飼一族は仙哉を幽鬼にされたことで誰もが身動きを取れなくなっていた。
バルトの『天』の血をひく悠凛だけは自力で動けるようだが、鬼神を無視して動くオリヴィエを彼らだけで止めることができるかは難しい状況だ。
「神殿のことはボクに任せて」
「慈流どの……」
カイジールは至高神と取引をしたことで女性になり、自由の身になったという。詳細はわからないが、カイジールの選択は九十九に希望を与えた。彼が五代目オリヴィエを襲名すれば、いまの女王の『海』のちからは完全に消滅する。
「ボクは女王陛下も道花も救う。たとえキミが女王陛下を許せないと言ってもね」
「だが、鬼神と手を組んだ央浬絵どのはもはや人魚というよりも異形に近い存在だ」
「このまま珊瑚蓮の黒花を咲かせようとしている鬼神に従って命を散らすより、桜色の花を咲かせて女王の意志で未来を選ばせた方がマシだ……たとえその先にあるのが死でしかないとしても」
珊瑚蓮の花が咲くと、女王は死ぬ。
その前にオリヴィエの名を継ぎ、カイジールは身代わりになろうとしている。
このまま黒い珊瑚蓮が花開けば、いまのオリヴィエは海神の加護を持ったまま消え、世界を混沌に陥らせてしまう。それでは鬼神の思うつぼだ。
だから至高神はカイジールを唆したのか。自分ではなく。九十九は神殿へ走って行ったカイジールの後ろ姿を見送ってから、道花の囚われた大樹の檻を睨みつける。彼女はいまも自分が傷つくのを構うことなくちからを使いつづけている。
「……もうやめてくれ」
銀色の閃光が周囲を灼きつくすたびに響く彼女の悲鳴が、九十九を襲う。自分のなかに潜む闇鬼を浄化しようと自分自身に術を放つ彼女の姿は自殺行為だ。樹上の玉登は焦る表情の九十九を嬉しそうに見つめている。
「珊瑚蓮の精霊もずいぶんしぶといですね。あのまま闇に堕ちてしまえば楽だったでしょうに、このままだとほんとうに死んじゃいますよ?」
「……何が望みだ」
「御身を差し出して彼女を救うつもりで? そんなことをしても彼女は喜びませんよ」
「知ってる。だからそれ以外でだ」
「では、あなたが持っている天青石をください」
人魚の女王オリヴィエが持っていたちからの半分とナターシャ神の本性を封じた核。玉登はオリヴィエから耳にしたのだろう、そしてそれを彼女のためではなく、自分のために使おうと考えている。
「……あいにくだが、ここにはない」
九十九は険しい表情のままそう言って、視線を天へ投げつける。そこには気配を消した神が、場違いな微笑を浮かべている。
「そうなると、珊瑚蓮の精霊はずっとこのままですね。彼女が力尽きるのが先か、帝都が崩壊するのが先か……どうします?」
「その前に、あんたをとっちめてあげるわ!」
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